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オマケ

魔神様の思い出話

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「本当にいいの?君は全てを捨てる事になるよ?何もかもを捨てるほど恋って素敵なものなのかい?」

 真っ暗な一室で少年は女に問う。女は少年に向かって柔らかく微笑む。

「貴方って優しいのね。そうよ。恋って消えない炎のように熱いの。理由もなく燃え上がって私を焼き尽くすの。人を好きになるのって理由がないのよ。ただただ恋しいって想いだけでなんだってできるの」
「……僕にはわからない。だって君の駆け落ちが失敗したら君は永遠に城に幽閉される。相手の男だって死罪になる。君と彼は幸せにはきっとなれないよ」
「それは貴方が恋をしてないからわからないの。この恋に落ちないと分からないわ。でも、私もあの人もそれでいいの。私はあの人がいるだけで幸せなの。今までありがとう。私はあの人といくわ」

 女は古ぼけた布を被り、部屋を出て行く。背筋が伸び迷いなく歩いて行く姿に一切の迷いは見られない。少年は彼女の駆け落ちが上手くいきますようにと願い、見送る。
 女はとある国の姫だ。大きな国の姫である女は今まで何一つ不自由なく暮らしてきた。しかし、彼女が惚れたのは身分に天と地の差がある平民の男だった。
 その男と一緒になりたいが故に彼女は全てを捨て去ると決めた。姫としての身分、裕福な暮らし、優しい両親等全てを。
 女は燃え上がる恋心で全てを捨てて男を選んだ。
 少年はそのような燃える恋に落ちることがあるのだろうかと思いながら女の姿を見送った。

***

「昔のお話って素敵。お姫様は無事に好きな人と一緒になれたのかな?」

 万里が僕に目を合わせて問いかける。
 十歳の万里にとってこの話はお伽話のように思えるのだろう。

「わからない。あの後僕は一度も彼女に再会する事は叶わなかった」

 彼女は恋に生きた純粋な女の人だった。全てを愛おしい男のために捨てた。まだ恋を知らなかった僕はなんて勿体ないと思った。
 豊かな生活を捨ててたった一人の男と一緒になる。幸せになれる保証なんかない。
 当時は彼女の気持ちは一切わからなかった。だけれども今はわかる。
 この女の子に僕は恋をしている。だけれども燃え上がるような恋情を想いのままにぶつけてしまえばきっと万里は怯える。だからあくまでも彼女が20歳になるまでは優しいお兄さんを演じていよう。
 燃え上がる炎を隠して凪いだ海のように穏やかな愛で万里を包み込む。
 万里のためならなんだってできる。いくらでも待てる。

「そっかあ。万里はでもあの2人が幸せになれているって信じている。そっちの方がいいじゃん!魔神さんもそう思うでしょう?」
「そうだね。万里は優しいね」

 満面の微笑む万里は擦れていなくてとても可愛い。僕がこうなるように仕向けたのだけれども。
 あと十年経てば契約で万里は僕のものになる。十年後の幸せを僕は思い描きながら万里の頭を撫でた。
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