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世界は、血と鉄によってのみ変わっていく。だが、世界はそれだけではないのだ。

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 航空技術をある程度確立させた後、俺は空中からの偵察で、魔族の領地を観測させるようにした。

 その空中偵察から一か月経って、纏めて入ってきた情報によると、魔族の生活は人間と似ていて、商業や農地が整備されているという報告を受けた。

 ただ、一点、問題があり、人間が食料とされている施設が各所に点在しており、そこからの救出の計画を立てねば、プロパガンダという意味においては、こちらの攻撃も難しくなるということも分かった。

 そのため、俺は更に敵国の情報を得るために、ハンブルク帝国に打診して、魔族を一人捕まえさせた。

 捕虜となった魔族との対話ができないか試みるが、やはり、言葉は分からなかったが、世界中から集めた研究者たちのうち、一人が、魔族の言葉の解読を大幅に進めたものを発表してくれた。

「どうやって解読したんです?」

「簡単なことです。適当に線を引いた紙を見せて、指さしただけですよ。そうして『それはなんだ?』という言葉を見つけて、あとは、一つ一つ質問していっただけです。一つ一つの名詞を探して、後は、絵で対話をしていって文法を見つけば解読は簡単です」

「凄いな。それで、奴らの生活について分かったか?」

「ええ。どうにも、彼らが人間を食べる理由は宗教的な理由があったようです。人間を食べることで、彼らは神を信仰して魔法を使っているようなのです。人間は、我々で言うところの供物に当たる部分でしょう。他にも昔、人間と魔族が近しい存在だったというもので、遥か昔に分かれていったという話を聞きだすことができました」

 やはり、人間と魔族は近しい存在であったようだ。

「そうか。では、あとは、人間を食べないように種族全体に言ってもらうということはできないだろうか?」

「実はそのことは、既に聞いています。どうにも彼らの文化では、宗教上の理由だけでなく、娯楽の一つとして成り立っているようです。彼もそういった行為ができると聞いて、戦争に参加したようなのです。なので、対話というのは難しいかと……」

「魔族にとって、人間はただの奴隷か……。つまり、生贄だな。そうか。なら、もっと上の階級となる魔族にお願いをしなくては、止めさせるも何もないだろう。魔族も社会秩序形成しているようだから、誰かしら管理する者はいるはずだ。あなたに権限を与えておくから、資金調達も、魔族の捕獲も自由にしてくれ。ハンブルク帝国の方には、全面的に君に協力するよう伝えて置いておくから」

「分かりました」

「それと、捕虜と言っても、拷問はしないように」

「なぜですか?」

「どのみち、人間も魔族も元は同じ存在なんだ。だから、ある程度は人間と同じ扱いはしなくてはならないんだ。それに、半永久的に魔族の領土統治しておくことなど不可能だろう。ゆくゆくは独立させるなくてはならないし、その時のために遺恨というのは残しておいてはならないのだ」

「分かりました」

 それからも、俺は何度も魔族の領土上空を偵察させているうちに、敵国の全容も掴めてくるようになっていた。ヤード単位、つまりは、身体尺で、魔族の領土は日本と同じくらいの領土を持つようだ。そして、その遥か先にも違う民族の領土があるようだが、そこと敵対はしておらず、お互いに交易を行っているらしい。

 魔族の国が緩衝地帯となっていて、その遥か先にある国と、この国は一度も戦争になったことはないようだが、隣国というものは仲が悪くなるのが歴史の決まりなので、俺が魔族の国を統治してしまえば、いずれ、戦争が起きる可能性は出てくるだろう。

 ちなみに、その遥か向こうの国というものには、獣人という獣のような姿をした二足歩行の生物が社会を成しているらしい。

 魔族の国を含め、それだけの領土を進行するにしても、大規模な通信技術が必要になってくるが、これは、比較的簡単に解決の目処が立ってきた。

 蓄音機の発明である。

 声というものは振動であるので、蝋燭などの、蝋を使った缶に針で振動を刻み、それに針を落して動かすだけで音が再現できるというものである。

 いわゆる蝋缶と言う物を持った通信員が空を飛び、中継地点で、複製し、それぞれの旅団、師団に伝えていくという手法がとれる。

 しかし、それで通信の速度が足りないとなれば、光を使った信号で簡易的な通信を取るようにした。

 当然、この技術では第二次世界大戦当時の日本の無線機には及びもしないが、これはこれで実は強みがある。

 第二次世界大戦当時のゼロ戦に積まれていた無線機が、搭載されていたにも関わらず、ノイズだらけで使い物に鳴りづらかったというのもあるが、しかし、それでも連携はとれていた。

 つまり、蝋缶であれば、比較的精度の高い声を再現できるということである。時間はかかるが、より、精度の高い連携が取れるということの証拠である。

 ちなみに、今回の通信システムにおいて俺が手本にしたのは、モンゴル帝国の手法である。

 モンゴル帝国は、専用の通信部隊を用意し、中継地点などにそれぞれ替えとなる馬を用意し、軍隊には優先して通信部隊を動かさせたのである。

 当時のモンゴル帝国は、この手法によって軍の全体を指揮して、ヨーロッパ全土を脅威に晒したのである。

―――

 軍事、経済。人、モノ、カネ、情報。必要な物が全て揃うと、俺は全軍に向けて発表を行うようにした。

 俺はわざと、権威を誇示するように荘厳な衣装とマントを着込み、皇帝らしさを演出している。

 正直に言って、この格好をして自分の権力を誇示するのは、内心、恥ずかしいものはあるが、権威というものは少なからず見た目から入るのであるから仕方がない。

 そこらの一般市民が立ちしょんべんをしていても、そこまで何も言われないように、総理大臣が立ちしょんべんをしていれば一大ニュースとして取り上げられるだろう。

 つまり、俺は、権威と責任を持って、今、演説台に立つのである。

 俺は市中から集まってくれた市民を見下ろしながら決意を口にする。

「準備は整った!! 我々は、半月後にはこの戦争を決定的に終わらせるための大規模攻勢をしかける!! 例え敵に、転生者のような強力な能力を持つ存在がいたとしても、相手の国家基盤ごとを全て破壊してしまえば、全ての知的生物は戦闘能力を失う!!
 飲まず食わずで睡眠も一切とらずに四年もの歳月を戦い続ける生物など存在できるわけが無いからだ!! 我々にはそのための貯えがある!! 蓄えの無い状態で、もし、仮に相手が、戦闘が可能だというなら、既にこちらは攻勢を受け続けて滅んでいる決まっている!! それが無いということは、敵も常識内の怪物に過ぎないのであるということである!! 市民たちよ!! この戦いは勝てる戦いだ!! 市民たちよ!! 栄光を我らの手に!! 市民たちよ!! 私に力を貸してくれ!!」

 俺がそう叫ぶと、市民が声を大にして歓声を上げた。

 市民たちの歓声を一身に受けながらも、俺は内心で、生き物を多く殺したということで俺は地獄に落ちることだろうと思っていた。

 しかし、俺がいるこの国は、確かにこの戦争で救われるのだ。これから先、戦争が無くなれば、俺も悔いなく望んで死ぬことができる。

 例え、将来がミジンコだとしても、俺は、俺なりに罪を償っていくさ。
 

 演説を終えると、俺は家に戻って椅子に座って一息ついた。緊張からくる心臓の音が、今になっても鳴りやみはしなかった。

 今回ばかりは、軍人だけでなく、多くの人を巻き込むのだから、俺も責任という立場から、全然気持ちが楽になれることは無かった。

 そんな疲れ切っている俺に、カレンさんが、ワインを注いでくれた。

「難しい顔をしていますね」

「これはただの強がりです」

「強がりですか?」

「ええ。強がりです。今は責任持つ立場だと言うのに、恐怖に駆られて、俺はいますぐ消えてしまいたいんです」

「あら、そうしたら子供を残していきます? それだったら、死んでも惜しくはないのでは?」

「俺は……、大事な子どもを残して死ぬなんて真似できやしませんよ。子どもに寂しい思いはさせたくありません。それに、市民たちにああ言った手前、俺は生きてこの戦争に勝たなくてはならないんです。死ぬつもりはありませんよ」

「だったら、なおさら――」

「正直、男の俺は、死を意識して、今にもケダモノになりそうなんです。女性には分からないかもしれませんが、一度、俺のタガが外れてしまえば、俺はきっと女性に対して無責任な行為をし続けるようになってしまうでしょう。でも、それは、ただの逃げなんです」

 俺が、今は責任のある立場で、苦しくて逃げ出したい気持ちになっているというのに、カレンさんはさほど気にした様子もなく、俺の額の汗を拭いて、微笑みを浮かべた。

「あら、いくらでも、誰とでも子どもを作っていただいても、私は構いませんよ? 私も、父に、くだらない男の妻になるよりは、優秀な男の妾になれと言われて育ってきていますから」

 そういうカレンさんは、今も煮込み料理を作ってくれていて、甘いシチューの香りを漂わせていました。

「良いんですか?」

「そうねえ……、ちゃんと、モナちゃんや、ロレーヌんちゃんも呼んで、一緒にした方が良いかしら……? その方がみんなにとって公正でしょうし……」

「それは、それは……、どこかの誰かの伊藤博文が聞いたら喜びそうなセリフですね。いえ、こんなことを言っても困らせてしまうだけですね。あの、カレンさん、俺は、本当は、弱い人間なんです……。こんな俺でも甘えても良いんですか……?」

「あら? 私からの愛は語るまでもありませんよね?」

 俺の今にも泣きそうな言葉を受けて、カレンさんは、そっと、俺の手に自身の柔らかい手を重ねてくれた。

「俺も愛してますよ。カレンさん……」

 それから、お互いにワインを飲み干して一夜を共に明かす。明日が決戦であるというのに、俺はたったの三時間の睡眠であったにもかかわらず、心身ともに充実していくのを感じた。


「では、行ってきます」

「モナちゃんとロレーヌちゃんはまだ眠っているみたい。起こしてきましょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「うん……。行ってらっしゃい。モナちゃんとロレーヌちゃんも待ってるからね」

「分かっていますよ」

 カレンさんと別れのキスをすると、俺は最前線に移動し、戦車旅団を10個を一纏めにして、師団である単位として扱い、合計で師団を60個指揮するようにした。

 俺を含めた将軍は三人で、それぞれ進行方向は三分割にして担当し、敵の重要都市である、首都ケーニクス。最大交易都市キエフ。大規模農場地帯ユーデントの攻略をそれぞれ目指していくための計画を実行に移す。

 時計の針が、朝の5時を指すと、明け方と共に戦略爆撃機が飛び立った。

 それから予定通りに、戦略爆撃機は爆弾を投下し、インフラ破壊を行い始めた。

 ろくに舗装もされていない道は、俺の抱える工兵無しでは一日にして進むこともできないほどに徹底破壊が行われ、次に、前線の敵に対して、徹底的な近接航空攻撃が開始される。

 遥か上空からの急降下爆撃に、地上の魔族はなす術なく四散し、空中に炎の弾を放って対空攻撃を行っているようだが、射程距離が圧倒的に足りず、一方的に10kg爆弾に倒されているという報告を俺は受ける。

 そんなところに、予定通りの重砲の砲撃を重ね、圧倒的なアウトレンジからによる攻撃で前線の敵を混乱させた。

 そこに俺は、戦車師団投入して突破させ、混乱した魔族を、とり囲み、退路を無くした状態で、包囲殲滅を行わせた。

 戦車は、敵をひき殺し、随伴する歩兵は魔族側の都市を徹底的に焼き払って、人間やハーフの魔族を救っていく。

 一方的な戦争など、ただの殺しに過ぎない。この戦いは、まさに下劣な行為である。

 だが、倒さねばこちらが殺されるのだ。不殺の意思など、今は犬にでも食わしてやるさ。

 俺の指揮する戦車師団は、一日で40kmも進んでいく。素早い戦車の進撃により、敵は戦線を作ることもできずに、各個撃破を受けている。対して、こちらは、順調に、ただひたすらに、駐屯軍のピストン輸送をおこなうだけで制圧を行っている。

 それから、魔族の領地の半分を一月で落したころ、こちら側の補給線が伸びきってしまい、最前線に送るための補給の速度が間に合わず、一時的に進撃を停止せざるを得ない状況に陥るという場面が起きた。

 補給線が伸びきるというのは、戦争においてはよくあることなので、こうした事態は実は仕方のないことなのである。

 しかし、そこに、空中からの光の攻撃の攻撃を受けたのである。

 一回の攻撃で戦車が100台ほど吹き飛んでしまったのだ。

 俺は再び戦略爆撃機に命令をして、敵都市の重要拠点の破壊を命じた。

 と、同時に空中からの光を観測させ、攻撃の主の位置を割り出すことにも成功させた。

 そして、ついに光の主がいる敵の都市を見つけ、そこに俺は、全ての戦略爆撃機を投入し、塵も残さない平地へと変えさせたのである。光の主がいたのは、首都ケーニクスであった。

 もし、そこに人間がいたとすれば、俺はただの人殺しでしかないが、この爆撃が無ければ余計な被害を受けてしまうところだった。

 それに、俺は、余計な被害を出させないために、戦略爆撃機には500kgの爆弾しか積ませなかった。これは、実は随分と軽い爆弾なのである。

 俺が本気を出して無差別攻撃を行う気になれば、8000kgの爆弾を抱えさせ、首都を完全に壊滅させていたところだった。しかし、それを行わないのは、確かに、俺がまだ人間である証拠なのである。

 それからしばらくして観測報告を受けると、廃墟にただ一人、魔族が立っているという情報を耳にした。

 その報告を受けたころには、既に補給線が回復したので、俺はすぐさま再進撃を開始した。

 敵の都市は全て陥落させている上に、敵に抵抗の余地は殆ど残されていない。

 一億人対一人の結果は火を見るよりも明らかだろう。

 よって俺は、これ以上の戦争継続は無意味であると判断し、魔族の言葉を使い、先に伝聞で降伏勧告を行った。

 だが、伝聞を受け取ったその魔族は、その膨大な魔力で徹底的な抵抗を行ってきたため、こちら側も、戦略爆撃機と砲撃による24時間攻撃を開始した。

 驚いたことに、敵の抵抗は一週間続き、最終的には魔族側が、栄養失調と脱水症状によって倒れたという結果になった。

 こちら側も被害は重く、たった一人の魔族に対して10万人もの犠牲者を出したのであった。

 しかし、それだけの犠牲者で勝利することができたのだから、結果としては悪くはないはずだ。

 俺が首都を陥落させると同時に、ゲクランがユーデントを落したという連絡をしてきた。

 それに、ハンブルク帝国で一緒に戦った、あの騎士が指揮する戦車師団も、キエフを落したという連絡をしてきた。ちなみにだが、その騎士の名前はオットーというのである。

 それから、唯一にして最大戦力であったあの魔族が倒されると、他の魔族たちも完全に戦力を失い、次々に武装を解除し、市民らしき魔族たちも、手を上げて、無抵抗の意思を示してきた。

 魔族側が正式に降伏を行ってきたのは、それから三日後のことであった。

 魔族の大臣と交渉し、一切の人間への危害を加えないことを宣言させ、魔族の領地を傀儡国として扱う条件を飲ませた。

 もちろん、監視は強めるが、俺は特に重税や、奴隷化などは要求しなかった。

 というのも、この戦争に、これ以上の遺恨は最後まで残してはいけないと判断しからである。

 俺は故郷に英雄として迎えられると、みんなが俺の前に跪いてこう言った。軍神と。

 その瞬間、あのちみっこい神様が再び現れたのであった。

「わしはたった今、多くの信者を抱えたのだ! 経済と軍事は表裏一体! いや、根は同じ学問である。故にわしは経済の神であると同時に軍事の神でもあるのじゃ!! 刮目してみよ、我が最強魔法の数々を!!」

 俺の中に新しく生まれた魔法が思い浮かぶ。



『軍神』

「その軍神という魔法は、自らを信頼する配下たちを呼び起こし、軍勢として駆けつけてもらうというものじゃ。その魂と肉体が滅びようとも、呼びかける声に応じて配下の者たちは永遠の時を超えて駆け付けるであろう」



『神の見えざる手』

「神は人の動きに介入する。均衡を保ち、自然と調和を保ち、全体の幸福を実現する。真に人々の幸福を実現させるスキルじゃ。どうじゃ素晴らしいじゃろ?」

 神様は嬉しそうにそう言いますが、俺としては、今になってはそんな魔法なんて要りはしませんでした。
 だって、戦いは既に終わったのですから……。

「いえ、戦いが終わった今は、魔法なんて要りませんよ。それに、俺は、多くを殺しすぎました……。後は、もう俺はとっとと地獄にでも落ちるべきです……」

「じゃあ、死んだ者たち、みな、幸福な世界に転生させれば良いということかのう?」

 神様はそう言いながら首を可愛らしく傾げます。

「……、そんなことできるんですか?」

「だってわし、神じゃし、今、最強ぞ?」

 神様が自信満々にそう言った時です。何かが空から降ってくるような、誰かの声が聞こえてきたのです。

「呼ばれてきて来ましたが、あなた! ここにいたんですね!! 探しましたよ!! さっさと転生のやり直しをして、ミジンコにでも生まれ変わってください!!」

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