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そもそもチートなど使わなくとも、国家統一など簡単なのである
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しばらくすると、子どもたちの可愛らしかった顔つきが、徐々に変わり、目玉が増えていくのが確認できた。
危機感を覚えた俺だったが、人間を食べるような兆候は誰も見られず、おそらく、食料的な危機から人間を食べていたのだろうと俺は推測した。
それに、純粋な魔族でさえも、人間のみを攫って、それのみを食料とするには、食料事情的にも不安定な要素が大きい。ストレス下において、病気や心身の衰弱によっても家畜としての人間は死ぬし、あの魔族たちの扱い方からするに、まともに人間のみを食料と家畜化してきたとするのは、考えにくいのである。
そもそも人間との繁殖が可能であることは、染色体が近しいものであるということで、何らかの因果関係も推測できるだろう。
それ以降もハーフの子供は人間のみを狙って食べることはなく、危険も全く無かった。
だが、恋の対象と見るのが、同族だけでなく人間も対象となることに問題が出てきた。
年頃の人間でも同じことが言えるが、性の事情に困ることは誰でも多い。
俺もそうだったように、ハーフの子供たちは言いつけを無視して街に出て、その結果、差別を受けることが多くでてきた。
しかし、そんな悪いことばかりでなく。良いことも少しずつ分かってきた。ハーフの子供は、体力が多く、人間よりも遥かに労働に適した体をしていたのだ。
常にあるストレスや性欲は運動で発散させ、血気盛んな子は、軍隊に入隊させれば良い。
なんにしても、戦争には犠牲がつきもので、遺児というものは常に生まれる。
だから、俺は、戦争によって国を統一するべきでないと考えている。
血と鉄によってのみ、物事は変えられるが、銃剣によって築いた王座に長く座ることはできない。
この国の国王が崩御し、分裂したのも、先代の転生者が強さに固執したせいなのだ。
俺は、もう、人殺しもしたくない。
俺は戦争をせずに統一を目指すために、ラインラント地域一帯に、食料と金銭支援を行い、俺の影響を強めていくことにした。
そうすると、現地の人間も支援をする俺のことを無視することはできず、俺の要求を無下に断ることも無くなってきたのだ。
俺は、影響力と国費に使う予定の資金の半分を使い、ラインラント一帯に、対魔族用に城塞と、防御兵器を設置していきます。
突貫工事ではあるが問題はありません。戦争においては建設速度の方が最重要なのです。
しかし、俺は空からの奇襲を恐れて、ゲクランに戦車旅団を任せてラインラント一帯の城塞建設と防衛を任せています。
そんな俺に対して、伯爵が文句を垂れてきたのが今日でした。
「このところ、金遣いが荒いようだが、私に対する献金は、どうするつもりだ?」
「この状況においてまだそんなことを言っているのですか?」
伯爵は、その私腹を肥やした体つきで、椅子にぴったりと座りながら、蓄えた髭を引っ張ります。
ハンブルク帝国が既に瓦解しかかり、魔族の脅威が目前まで来ているというのに、どうにもこの男は自分の利益しか考えていない様子です。
今も、犠牲が生まれているというのに、この伯爵の頭の中は、長期的に物事を見ることも、改善していくことも知らないのである。
俺もそろそろ余裕がなくなりそうです。
「今やこの国は成長している。この国力を他国に使う必要など無いだろう」
「お言葉ですが伯爵。魔族は目前までせまってきているのですよ。ハンブルク帝国も陥落しかけています」
「それなら、弱ったところを攻撃して、占領すれば良い。国民の生活も豊かになったことだろうし、税率を上げるようにしてくれ」
「税金を上げれば成長率が著しく止まります。それはダメです」
「税率を上げて混乱に乗じれば、貨幣価値も上がる。今のうちに貯め込んでおけば、後になって、高く売れるだろ?」
そう言う伯爵はギラついた目をしていました。まるで、人間を食べ物として見る魔族と変わらない目をしています。
……。実際のところ、どの国においても、飢饉の際、食料が無かったという事例は殆どありません。実際には、他にも食料がありましたが、貴族が独占し、市民を見捨てたというのが本当のところなのです。
所詮、この世界においても、貴族にとって、市民は搾取するための道具でしかないようです……。
「もう一度言います。俺はやりません」
「なら、貴様から徴収しよう」
「いくらですか?」
「売上の80%を出せ。収支はつけているのであろう? 誤魔化しても分かるぞ」
「……。分かりました」
俺は条件を飲み込んだ様子を見せてから部屋を出ると、思いっきりぶん殴って壁に穴を空けた。
到底80%なんてものを払えば、俺が運営しているいくつかの物は、稼働を停止することになる。いや、俺は、この世界においては先進的な知識を持っている……。悩む前にすべきことは分かっている……。俺がこの世界をよりよく変えるのだ……。誰もが食事に困らない生活を……。なにせ俺は、餓死でこの世界に来たのだから……。
―――
俺は、誰も世話をしてくれないハーフの子供たちと熱心に顔を合わせて養育をしている。
今も、子どもたちの遊び相手をしたり、食事の準備をしたりと忙しいが、この子たちのためなら、俺は、たぶん、必要なことができるだろう……。
「丈さん。忙しいですか?」
「どうした?」
「あの、私も欲しいものがあって、働きたいんですけど、街では働けなくてこまっているんです……」
「じゃあ、仕事を手配するよ。好きな子にプレゼントかい?」
「はい!」
「がんばるんだよ」
「はい!」
ハーフの子供たちは、みんな俺のことを丈さんと呼ぶ。
みんな普通の人間と同じように、嬉しくてはしゃぐ子も、ムスッとした子もいるし、十人十色が人間と同じ感情を持っている。
本当はもっと、積極的にかかわってやる時間を作ってやりたいが、2032人もいると、全員の面倒を見るのは正直いって難しいと言える。
それに、税率が80%もかかるとなると、これからこの子たちを養っていくのは大変だろう……。
それでも、一人一人の名前もだんだんと覚えてきて、俺なりに精いっぱい愛情を注いでいる。
俺にお願いをしてきたミサというハーフの子供の羽がピクピクと動いて、結んである青色のリボンが揺れています。
けれども、俺が結んだリボンが、唯一の贈り物であるのが、少し寂しそうでした。
―――
俺は意を決して、個人的に訓練した正規軍を独立させると、伯爵を襲撃した。
「考え直せ!」
「俺は思うんですよ。なんで、異世界に転生した人たちって、力はあるのに、計画と行動が遅いのかって。それだけの力があって、個人の資質だけで成り立つ国なんて、トップが死んでしまえば、また、いずれ、分裂するのが歴史です。抗えない運命なんです。ただ、自分が強くてハーレムを築いて、じゃあ、その後に何が残るのでしょうか? 奴隷にされていたり、犯罪に巻き込まれたり、差別を受けていたり、どこかで悲しんでいる人が必ずいるのに、何も、誰も統一したシステムを作らないんです。結局は力ばかりに固執して、誰も知識が無いのです。ただ、数名が強くて、その他に与えられた役割なんて、殆ど誰も気にしないのです。伯爵、あなたに聞きます。人から搾取するのは、それが、娯楽だからですか? みんなから凄い凄い言ってもらって、それで満足ですか? はっきり言わせてもらいます。あなたみたいな貴族はいつだって物事を深く考えていないんですよ、みんな役割があって、みんな力を持てるんです。それを邪魔しているのは、いつだって権力者の都合の他なりません。どんなに強い人間であっても、一人で全てをこなすことはできません。みんな誰かに生かされてもらっているんです。強いのは、あなたたちばかりではありません。今回はあんたの負けですよ。伯爵」
伯爵が魔法を使って反撃をしようと、手をかざす。
けれども、既に毒が回ってふらふらとしている。
「くっ……!!」
「時代遅れの技術の世界で、個人の魔法ばかりが強かったら、とっくの昔にパワーバランスが崩壊して、世界はもっと混沌としていたはずです。それこそ、奴隷や差別だらけなんて当たり前です。そこまでいっていないのは、弱者と強者が対立して、秩序が保たれているからです。人間の強さは、魔法や筋力なんていう個人の資質にだけ左右はされない。人間が人間としてるのは、動物と決定的に違う、考える力があるからです。だから、人間は動物よりも強いのです」
「くそっ……!」
「俺も、猫を被るのは終わりです。俺は俺として生きます」
伯爵を更迭し、牢屋に入れる。
周辺諸国に同盟を呼びかけるが、答えは分かりきっていた。
金を送り、使節を送り、俺は既に影響力を増やしていた。
金とは、その人間の力を計る一つの方法である。
金を使い、他国の領地開発を行い、工業化を進める。この時代において、領地というものの重要性を理解していない人間ばかりで、農地や農民の重要性なんてさらに理解に乏しい。だから、簡単に、僻地であれば領地の占有権を手放す奴らばかりだった。
もし、そこで領主が拒否をしようものなら、圧倒的な数の傭兵を派遣し、俺はこう言う。
「あー、傭兵の金が払えねーな」
と。
冗談に聞こえるかもしれないが、これが凄まじい効果を持つ。
なぜなら、実在した人物で、傭兵王という人物がいるが、彼はこうした脅しを使い、世界最大の傭兵数を抱えた。
傭兵というのは、そもそも食うのに困った農民がなる職業で、金に困れば、現地を略奪し、強姦や殺人、窃盗を行うのだ。
最大兵力を抱えたハンブルク帝国のおよその兵員数が100万ほどであるので、俺はその国の十倍の人間を派遣する。
もし、それほどの数の傭兵たちが略奪を行って、現地の食料さえも無くなってしまえば、死ぬのは農民だけではない。領主は兵員を支えられるだけの食料さえも保てなくなるのだ。その結果、領主や兵士さえも飢え死にしてしまうということになる。
さらに、仮に、相手が傭兵相手に勝ったところで、得られる賠償金などどこにも無いのである。常に失うのは相手のみなのだ。
だからこそ、この脅しが簡単に成り立つし、俺は一切の血を流すことなく、相手の国に対して言うことを聞かせられるのだ。
つまり、弱者は決して、強者に搾取されるばかりではないのである。
当然、一番兵士が多くて、一番金を持つ国が単純に強いと分かるので、この地域一帯は、実質的に俺が統一したようなものである。
俺は傭兵を全員雇い入れて正規兵に仕立てると、一千万人を兵士として抱えた。これも、今まで、あらゆる貴族が国民をないがしろにしてくれたおかげでもある。
この最大戦力を動かせば、どの国も統一されることを望んでくれた。人数ふりの勝てるはずもない戦いに挑む愚か者は誰もいなかったというわけだ。
そうして、俺は一滴の血も流さずに統一を行ったのである。
当然、中には、英雄と言われるほどの強い個人が対抗してきたが、でも、所詮は中身は当然人間なわけで、俺が最大兵力で睡眠の暇なく、一年間戦うと脅迫すると、簡単に折れてくれた。
こうして俺は、膨大な工業力と、兵士を抱え、最強の完成形態である陸軍ドクトリン。大量突撃ドクトリンの完成を間近に控えたのである。
帰ってきたゲクラン将軍だが、全てを察して何も言わずに、俺の前に跪いた。
だが、俺は人を信じるのが難しい。そのままラインラント周辺の防衛を任せると命令した。
―――
「カレンさん。空中からの攻撃を行いたいのですが、何か提案などはありませんか?」
「体を空中に浮かすことはできますが、高速で動くことができないので、的になってしまうと思いますよ?」
「そうですか……。なら、やはり、航空エンジンの開発が不可欠ですね、石油の居場所は分かりましたか?」
「いえ、それが、良く分からないのです」
「であれば、単純に魔族すらも飛べないような高高度飛ぶことはできませんか?」
「それは、そううまくはいきませんでしょうね……。魔法を使った高度にも限界がありますの……」
「そうですか……。とにかく研究しかありませんね」
俺は空中における人間の飛行の研究を行い、金属で作り上げた単純な航空機体に対して重力の影響を減らす魔法と同時に、爆発魔法やプロペラファンによる推進力を航空機体に備えさせてみた。
しかし、実際に飛ばしてみると、機動力や推進力の問題で、格闘性能は低く、殆ど真っすぐにしか飛べず、また、直下攻撃を行うための爆弾を投下するためだけのモデルにしかならなかったのでした。
なので、俺は乗員に急上昇と急降下に耐える訓練を施し、いわゆる急降下爆撃の訓練を施していくことにしました。
それと同時に、高高度からの爆弾投下による地上施設の破壊に長けた戦略爆撃機も作り上げていきます。また、防御武装として、それぞれに機銃を備えさせています。
ちなみにですが、機銃の仕組みは単純で、弾の爆発を利用して次弾を装填するというものです。
銃弾を撃ち出すための雷管の仕組みは、さらに単純で、撃鉄の衝撃で爆発が起きる少量の火薬を用意しておくというものです。
俺が本気を出せば、相手の全てを焦土と化すことができます。
しかし、それは最終手段なのです。
危機感を覚えた俺だったが、人間を食べるような兆候は誰も見られず、おそらく、食料的な危機から人間を食べていたのだろうと俺は推測した。
それに、純粋な魔族でさえも、人間のみを攫って、それのみを食料とするには、食料事情的にも不安定な要素が大きい。ストレス下において、病気や心身の衰弱によっても家畜としての人間は死ぬし、あの魔族たちの扱い方からするに、まともに人間のみを食料と家畜化してきたとするのは、考えにくいのである。
そもそも人間との繁殖が可能であることは、染色体が近しいものであるということで、何らかの因果関係も推測できるだろう。
それ以降もハーフの子供は人間のみを狙って食べることはなく、危険も全く無かった。
だが、恋の対象と見るのが、同族だけでなく人間も対象となることに問題が出てきた。
年頃の人間でも同じことが言えるが、性の事情に困ることは誰でも多い。
俺もそうだったように、ハーフの子供たちは言いつけを無視して街に出て、その結果、差別を受けることが多くでてきた。
しかし、そんな悪いことばかりでなく。良いことも少しずつ分かってきた。ハーフの子供は、体力が多く、人間よりも遥かに労働に適した体をしていたのだ。
常にあるストレスや性欲は運動で発散させ、血気盛んな子は、軍隊に入隊させれば良い。
なんにしても、戦争には犠牲がつきもので、遺児というものは常に生まれる。
だから、俺は、戦争によって国を統一するべきでないと考えている。
血と鉄によってのみ、物事は変えられるが、銃剣によって築いた王座に長く座ることはできない。
この国の国王が崩御し、分裂したのも、先代の転生者が強さに固執したせいなのだ。
俺は、もう、人殺しもしたくない。
俺は戦争をせずに統一を目指すために、ラインラント地域一帯に、食料と金銭支援を行い、俺の影響を強めていくことにした。
そうすると、現地の人間も支援をする俺のことを無視することはできず、俺の要求を無下に断ることも無くなってきたのだ。
俺は、影響力と国費に使う予定の資金の半分を使い、ラインラント一帯に、対魔族用に城塞と、防御兵器を設置していきます。
突貫工事ではあるが問題はありません。戦争においては建設速度の方が最重要なのです。
しかし、俺は空からの奇襲を恐れて、ゲクランに戦車旅団を任せてラインラント一帯の城塞建設と防衛を任せています。
そんな俺に対して、伯爵が文句を垂れてきたのが今日でした。
「このところ、金遣いが荒いようだが、私に対する献金は、どうするつもりだ?」
「この状況においてまだそんなことを言っているのですか?」
伯爵は、その私腹を肥やした体つきで、椅子にぴったりと座りながら、蓄えた髭を引っ張ります。
ハンブルク帝国が既に瓦解しかかり、魔族の脅威が目前まで来ているというのに、どうにもこの男は自分の利益しか考えていない様子です。
今も、犠牲が生まれているというのに、この伯爵の頭の中は、長期的に物事を見ることも、改善していくことも知らないのである。
俺もそろそろ余裕がなくなりそうです。
「今やこの国は成長している。この国力を他国に使う必要など無いだろう」
「お言葉ですが伯爵。魔族は目前までせまってきているのですよ。ハンブルク帝国も陥落しかけています」
「それなら、弱ったところを攻撃して、占領すれば良い。国民の生活も豊かになったことだろうし、税率を上げるようにしてくれ」
「税金を上げれば成長率が著しく止まります。それはダメです」
「税率を上げて混乱に乗じれば、貨幣価値も上がる。今のうちに貯め込んでおけば、後になって、高く売れるだろ?」
そう言う伯爵はギラついた目をしていました。まるで、人間を食べ物として見る魔族と変わらない目をしています。
……。実際のところ、どの国においても、飢饉の際、食料が無かったという事例は殆どありません。実際には、他にも食料がありましたが、貴族が独占し、市民を見捨てたというのが本当のところなのです。
所詮、この世界においても、貴族にとって、市民は搾取するための道具でしかないようです……。
「もう一度言います。俺はやりません」
「なら、貴様から徴収しよう」
「いくらですか?」
「売上の80%を出せ。収支はつけているのであろう? 誤魔化しても分かるぞ」
「……。分かりました」
俺は条件を飲み込んだ様子を見せてから部屋を出ると、思いっきりぶん殴って壁に穴を空けた。
到底80%なんてものを払えば、俺が運営しているいくつかの物は、稼働を停止することになる。いや、俺は、この世界においては先進的な知識を持っている……。悩む前にすべきことは分かっている……。俺がこの世界をよりよく変えるのだ……。誰もが食事に困らない生活を……。なにせ俺は、餓死でこの世界に来たのだから……。
―――
俺は、誰も世話をしてくれないハーフの子供たちと熱心に顔を合わせて養育をしている。
今も、子どもたちの遊び相手をしたり、食事の準備をしたりと忙しいが、この子たちのためなら、俺は、たぶん、必要なことができるだろう……。
「丈さん。忙しいですか?」
「どうした?」
「あの、私も欲しいものがあって、働きたいんですけど、街では働けなくてこまっているんです……」
「じゃあ、仕事を手配するよ。好きな子にプレゼントかい?」
「はい!」
「がんばるんだよ」
「はい!」
ハーフの子供たちは、みんな俺のことを丈さんと呼ぶ。
みんな普通の人間と同じように、嬉しくてはしゃぐ子も、ムスッとした子もいるし、十人十色が人間と同じ感情を持っている。
本当はもっと、積極的にかかわってやる時間を作ってやりたいが、2032人もいると、全員の面倒を見るのは正直いって難しいと言える。
それに、税率が80%もかかるとなると、これからこの子たちを養っていくのは大変だろう……。
それでも、一人一人の名前もだんだんと覚えてきて、俺なりに精いっぱい愛情を注いでいる。
俺にお願いをしてきたミサというハーフの子供の羽がピクピクと動いて、結んである青色のリボンが揺れています。
けれども、俺が結んだリボンが、唯一の贈り物であるのが、少し寂しそうでした。
―――
俺は意を決して、個人的に訓練した正規軍を独立させると、伯爵を襲撃した。
「考え直せ!」
「俺は思うんですよ。なんで、異世界に転生した人たちって、力はあるのに、計画と行動が遅いのかって。それだけの力があって、個人の資質だけで成り立つ国なんて、トップが死んでしまえば、また、いずれ、分裂するのが歴史です。抗えない運命なんです。ただ、自分が強くてハーレムを築いて、じゃあ、その後に何が残るのでしょうか? 奴隷にされていたり、犯罪に巻き込まれたり、差別を受けていたり、どこかで悲しんでいる人が必ずいるのに、何も、誰も統一したシステムを作らないんです。結局は力ばかりに固執して、誰も知識が無いのです。ただ、数名が強くて、その他に与えられた役割なんて、殆ど誰も気にしないのです。伯爵、あなたに聞きます。人から搾取するのは、それが、娯楽だからですか? みんなから凄い凄い言ってもらって、それで満足ですか? はっきり言わせてもらいます。あなたみたいな貴族はいつだって物事を深く考えていないんですよ、みんな役割があって、みんな力を持てるんです。それを邪魔しているのは、いつだって権力者の都合の他なりません。どんなに強い人間であっても、一人で全てをこなすことはできません。みんな誰かに生かされてもらっているんです。強いのは、あなたたちばかりではありません。今回はあんたの負けですよ。伯爵」
伯爵が魔法を使って反撃をしようと、手をかざす。
けれども、既に毒が回ってふらふらとしている。
「くっ……!!」
「時代遅れの技術の世界で、個人の魔法ばかりが強かったら、とっくの昔にパワーバランスが崩壊して、世界はもっと混沌としていたはずです。それこそ、奴隷や差別だらけなんて当たり前です。そこまでいっていないのは、弱者と強者が対立して、秩序が保たれているからです。人間の強さは、魔法や筋力なんていう個人の資質にだけ左右はされない。人間が人間としてるのは、動物と決定的に違う、考える力があるからです。だから、人間は動物よりも強いのです」
「くそっ……!」
「俺も、猫を被るのは終わりです。俺は俺として生きます」
伯爵を更迭し、牢屋に入れる。
周辺諸国に同盟を呼びかけるが、答えは分かりきっていた。
金を送り、使節を送り、俺は既に影響力を増やしていた。
金とは、その人間の力を計る一つの方法である。
金を使い、他国の領地開発を行い、工業化を進める。この時代において、領地というものの重要性を理解していない人間ばかりで、農地や農民の重要性なんてさらに理解に乏しい。だから、簡単に、僻地であれば領地の占有権を手放す奴らばかりだった。
もし、そこで領主が拒否をしようものなら、圧倒的な数の傭兵を派遣し、俺はこう言う。
「あー、傭兵の金が払えねーな」
と。
冗談に聞こえるかもしれないが、これが凄まじい効果を持つ。
なぜなら、実在した人物で、傭兵王という人物がいるが、彼はこうした脅しを使い、世界最大の傭兵数を抱えた。
傭兵というのは、そもそも食うのに困った農民がなる職業で、金に困れば、現地を略奪し、強姦や殺人、窃盗を行うのだ。
最大兵力を抱えたハンブルク帝国のおよその兵員数が100万ほどであるので、俺はその国の十倍の人間を派遣する。
もし、それほどの数の傭兵たちが略奪を行って、現地の食料さえも無くなってしまえば、死ぬのは農民だけではない。領主は兵員を支えられるだけの食料さえも保てなくなるのだ。その結果、領主や兵士さえも飢え死にしてしまうということになる。
さらに、仮に、相手が傭兵相手に勝ったところで、得られる賠償金などどこにも無いのである。常に失うのは相手のみなのだ。
だからこそ、この脅しが簡単に成り立つし、俺は一切の血を流すことなく、相手の国に対して言うことを聞かせられるのだ。
つまり、弱者は決して、強者に搾取されるばかりではないのである。
当然、一番兵士が多くて、一番金を持つ国が単純に強いと分かるので、この地域一帯は、実質的に俺が統一したようなものである。
俺は傭兵を全員雇い入れて正規兵に仕立てると、一千万人を兵士として抱えた。これも、今まで、あらゆる貴族が国民をないがしろにしてくれたおかげでもある。
この最大戦力を動かせば、どの国も統一されることを望んでくれた。人数ふりの勝てるはずもない戦いに挑む愚か者は誰もいなかったというわけだ。
そうして、俺は一滴の血も流さずに統一を行ったのである。
当然、中には、英雄と言われるほどの強い個人が対抗してきたが、でも、所詮は中身は当然人間なわけで、俺が最大兵力で睡眠の暇なく、一年間戦うと脅迫すると、簡単に折れてくれた。
こうして俺は、膨大な工業力と、兵士を抱え、最強の完成形態である陸軍ドクトリン。大量突撃ドクトリンの完成を間近に控えたのである。
帰ってきたゲクラン将軍だが、全てを察して何も言わずに、俺の前に跪いた。
だが、俺は人を信じるのが難しい。そのままラインラント周辺の防衛を任せると命令した。
―――
「カレンさん。空中からの攻撃を行いたいのですが、何か提案などはありませんか?」
「体を空中に浮かすことはできますが、高速で動くことができないので、的になってしまうと思いますよ?」
「そうですか……。なら、やはり、航空エンジンの開発が不可欠ですね、石油の居場所は分かりましたか?」
「いえ、それが、良く分からないのです」
「であれば、単純に魔族すらも飛べないような高高度飛ぶことはできませんか?」
「それは、そううまくはいきませんでしょうね……。魔法を使った高度にも限界がありますの……」
「そうですか……。とにかく研究しかありませんね」
俺は空中における人間の飛行の研究を行い、金属で作り上げた単純な航空機体に対して重力の影響を減らす魔法と同時に、爆発魔法やプロペラファンによる推進力を航空機体に備えさせてみた。
しかし、実際に飛ばしてみると、機動力や推進力の問題で、格闘性能は低く、殆ど真っすぐにしか飛べず、また、直下攻撃を行うための爆弾を投下するためだけのモデルにしかならなかったのでした。
なので、俺は乗員に急上昇と急降下に耐える訓練を施し、いわゆる急降下爆撃の訓練を施していくことにしました。
それと同時に、高高度からの爆弾投下による地上施設の破壊に長けた戦略爆撃機も作り上げていきます。また、防御武装として、それぞれに機銃を備えさせています。
ちなみにですが、機銃の仕組みは単純で、弾の爆発を利用して次弾を装填するというものです。
銃弾を撃ち出すための雷管の仕組みは、さらに単純で、撃鉄の衝撃で爆発が起きる少量の火薬を用意しておくというものです。
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