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守りに入ると、ギャグなんてできやしない

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「人は何か大切な物を手に入れた瞬間に、守りに入ってしまいます。俺は、やるべきことを見失わないために守るなどとは言い切れません。ですが、敵がいるならどうにかしましょう。俺にできることといえばそれくらいですから」

 俺がそう言ったのは、神様から言われた、罪を償うためではなく、実のところ、弱っている女性を放っておけないという男の性からのものだったのかもしれません。
 まあ、どのみち俺は何かをせずにはいられない質です。

「丈様。あの、私と子供を作ってください」

「子供ですか?」

「はい。立派に自分の子供を育て上げるのが私の夢なんです」

 そう言うカレンさんの言葉に、俺は思わずむせてしまった。

 俺の口から飛んだお酒の雫がカレンさんの胸や太ももにかかってしまいました。

 こんなことを言われたのは初めてなので、一瞬、冗談で言われているのかとも思いましたが、カレンさんの真剣な表情を見る限り、どうやらそうでもないようです。

「俺は……、まだ、守りに入るべきではありません。俺が死んだとき、残されるものを考えると、責任なんてとれませんよ」

「大丈夫ですよ! 私が頑張りますから! モナちゃんもそうよね?」
「はい!」

 そう言って、モナちゃんが朗らかに笑いました。

 子どものモナちゃんが、子どもを作りたがるだなんて、少々インモラルな状況ですが、子どもを作ること自体は決して悪いことではないと思うのです。実際に手を出した相手が子供でなければ何も問題は無いと思うのです。まあ、どのみち手は出しませんが……。何を言ってるんだ俺は……。

「では、いつか」

 俺がそう言って酒を流し込むと、二人とも俺に抱き着いてきて、何度も交互に俺の口にキスをしてきました。
 
 いきなりのキスなんて初めての経験で、俺は、混乱から素直に嬉しさが出てきませんでした。

 まあ、それからもひとしきりお酒を飲んだあと、モナちゃんを家に帰してから、カレンさんと一緒に宿に泊まったのですが、なにをしたのかは秘密です。

 俺もそれから、なぜか仕事に熱が入るようになり、自分の家も建てました。一階建てではありますが、とても広く作ったため、30部屋もあります。そのうち何部屋が使われないまま放置されるかは分かりませんが、十分に成し遂げたと思いました。

 それから、引っ越し祝いにカイセルや、俺に仕事を紹介してくれた恩人であるロレーヌをパーティーに呼びます。

 その……、招待をするためにロレーヌに会いに行ったのですが、疲れ切った顔をして牛乳の販売の仕事をしているので、俺は少し気を使って話しかけました。

「おい。大丈夫か?」
「あっ。丈さん。お疲れ様です」

 丈さん……?

「いや、顔色が悪いぞ」

「それが……、お金も足りなくなってきて、ご飯もあんまり食べられていないんです」

「仕事が減ったのか?」

「いえ。一年前に唯一の肉親である父が死んだので、一人で生活をしていたんですけど、家計費とかの計算が苦手だったり、そもそも私、生活力が無くて、料理とか洗濯とか失敗ばかりで、服も泥まみれにしてしまうことも多くて、まともにご飯が食べられてないんです。貰ったお金もそれで、すぐに底をついてしまいまして……」

 そう言うロレーヌは今にも崩れそうです。これでは仕事どころではありません。

「分かったから、今日はもう休んで。俺の家に来い。ご飯も上げるから」
「ありがとうございます……」

 そう言う、ロレーヌはとても苦しそうに笑っていました。

「君は確かもう15歳になるのか」

「はい」

「まだ子供だな。それなのに、よく頑張ったな。これから、俺が面倒みるから何も心配は要らない」

「大丈夫です。私は一人でも生きていけます」

「その顔色で何言ってやがんだ。俺にとって最初の恩人は君なんだ。あの時、俺が自殺するのを止めてくれなかったことを、俺は今になって恐ろしく感じている。だから、そのお礼なんだ」

「良かった……。人のために生きていれば必ず報われるってお父さん言ってたけど、それが今日なんだ……」

 そう言うロレーヌは、もう疲れ切って息を切らしていました。
 おそらく、栄養失調で、体力を切らしているの様子です。

 今までどうやってロレーヌが生活をしてきたかは分かりませんが、前に渡した金が無いことから察するに、相当ロレーヌちゃんは金遣いが荒い様子です。自分で料理ができないとなると、殆どは外食などに頼っていたのでしょうか?

 まあ、なんにせよ、ロレーヌにご飯をあげてしばらく、少しずつ体力も回復してきたころ。久しぶりに少女らしく体もふっくらとしてきて、ロリコンでない俺もこれには安心してきました。

 以前は、あばら骨が浮き出ていたほどだったので、ロレーヌのことが本当に可哀そうでした。

 それである日、食事をしていると、突然ロレーヌが泣きだしました。

「いつもありがとうございます……。丈さん……」

「気にしなくて良い。これから、君が大人になるまで面倒を見るから、何か欲しいものでもあったら言ってくれ」

 そう言う俺の両肩にカレンさんは手を置いて言います。

「ロレーヌちゃんも妾になる?」

「妾ですか?」

「いや、カレンさん。俺は子供に手を出すつもりはありませんって」

「あら? 別に大人になるまで待てば良いのではなくて?」

「そりゃあそういう理屈になりますけども……。これじゃあ、まるで、妾にならないと食事を与えないみたいに見えるじゃないですか。俺は本心から、ロレーヌに元気になって欲しかったんです。それに、俺はまだ妾なんて要りませんって」

「でも、女の子が女の子である年齢は短いですし、女の子が生きていくなら結婚くらいしないと。その甲斐性くらいは丈様はありますものね?」

「いや……、俺、責任とか負えるような人間じゃないんで……」

 変な空気の中、ロレーヌは考え込んだ様子だった。

 緊張して、俺も変な汗をかいてしまいます。

「考えさせてください」

 そのロレーヌの言葉に、俺はホッと心が落ち着きました。
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