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国富計画

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 それから二日後。本格的に戦争が開始され、敵が山間に入っていく姿が観測された。

 すると、俺たちは奇襲をするべく一斉に配置についた。
 そして、将軍の大砲が鳴ったのを皮切りに俺たちは一斉に攻城兵器で敵の側面を攻撃した。

 この場所は山間であるため、山に潜んでいた俺たちは敵を見下ろすように攻撃を側面から行うことができる。

 戦術においても位置エネルギーというものは存在し、高所を陣取っている方が有利なのである。

 高所からの攻撃は、その立地条件から射線が通りやすく、また、敵がこちらに向かって登ってくる際には、先に敵の疲労が始まり、スタミナのあるこちらが有利になるといった具合である。

 突然の奇襲で、あらゆるところから攻撃が飛んでくることで、敵の指揮統制は完全に乱れつつある。

 敵も、雇われたただの傭兵であるために、忠誠心など無く、自分の命欲しさに勝手に撤退を開始し始めてくれた。

 それからも敵が次々に撤退していくが、こちらも沢山の被害を受けていた。ヴィルヘルムの魔法のせいだ。

 飛んできた巨大な火炎に攻城兵器もろとも焼かれ、こちらもかなりの傭兵を失っていく。

 だが、ヴィルヘルムも大砲やバリスタの雨に耐えきれず撤退を開始し、俺たちは攻城兵器を降ろすと、敵の追撃に向かいつつ、ゲクラン将軍と合流をした。

「よくやった。作戦は成功だ。見る限り、敵は3000人以上の兵力を失っている。あとは追撃が成功すれば完璧だ」

「それでも3000人ですか。こちらも500人はやられました。攻城兵器もあと、30台です。兵力が多ければもっと、敵に致命的にダメージを与えられたのですがね」

「しかし、戦果は上々だ。完全にこちらが主導権を握っている。この戦は勝てるぞ」

 ゲクラン将軍の読み通り、俺の作戦は見事なまでに成功していた。

 敵に追いつくと、退路を塞がれた敵兵士が立往生していた。

 そこに俺たちが攻城兵器を放つと、いかにヴィルヘルムといえども、射程の違いから魔法をろくに使うこともできず、死ぬことを恐れてさらに奥の方へと逃げて行った。

 俺たちは徐々に敵を殲滅し、しばらくすると、ヴィルヘルムらしき者による魔法によって岩が爆発して飛び散った様子が見えた。

 そこを目指して一斉に敵が逃げ出すが、すぐに立往生をした。そう。俺の念入りな行動がここで功を奏したのだ。

 その奥の、更に奥まで退路を塞いでおいたのである。俺は決してヴィルヘルムの力を見誤ってなどいなかった。

「武器を捨てて降伏しろ! もう逃げ場はないぞ!」

 俺の言葉に傭兵たちが武器を捨てる。

 しかし、ゲクラン将軍が、無抵抗な彼らを殺すように兵士に命令した。

「これ以上の攻撃はこちらも持ちません。直ちに中止を!」
「ダメだ。ここで殲滅しなくては、敵に回復の隙を与えることになってしまう」
「ダメです!」

 敵もここを死地と悟って粘り強く抵抗を始めたが、とうとう白旗を上げて降伏を開始し始めてくれた。

 俺は傭兵たちに攻撃の中止を命令して、降伏を受け入れようとしたが、ゲクラン将軍は依然として、攻撃の手を緩めようとはしなかった。
 なので、兵站部隊に命令して、ゲクランに嘘をついて弾が無いと言わせた。

 それでようやく、敵の幸福を受け入れる準備ができたが、

 しかし、ヴィルヘルムがまた、岩を破壊して逃げ出そうとした。
 そして、また現れた岩に、ついには完全に戦意を失っていた。

「降伏する!」
「お前の身代金はいくらになるだろうな!」
「5000万シニーは下らないだろう!」
「そんな金、誰が払えるのだ!?」
「主が!」
「よし、足を吹き飛ばしておけ!」

 ゲクラン将軍がそう言うと、こちらの正規兵が魔法を使い、炎の弾でヴィルヘルムの両足を吹き飛ばした。

 動けなくなったヴィルヘルムの体を馬車に乗せると、俺は街に帰った。

 こちらは、800人の死者を出したが、敵は2万もの兵士を倒すことに成功した。こちらもそろそろ弾が尽きる限界ではあったが、どうにか勝つことができたのである。

 しかし、なんとも気持ちの晴れない勝利だった。本当はもっと犠牲者を少なくするつもりだったのだ。

 街に戻ると、俺は市民たちから盛大に出迎えられた。5万人の敵を打ち破った名将と呼ばれたのだ。

 まあ、俺は人殺しにまでなったが、こうして歓声で出迎えられると、自分がこの街を守ったのだという実感が湧いてきた。

 しかし、晴れない気持なのは確かなので、あまり目立たないようにしていると、今度は周りから、謙遜した人と称されるようになった。

 俺が望んだわけではないのに、俺の行動は全て、俺の人望を集める切っ掛けとなっていたのが複雑だった。

 敵の城主であるビクトリアがヴィルヘルムの身代金を支払い、和平を提示してきたが、我が城主様は更にこちらから攻撃を仕掛けると脅し、多額の賠償金を請求し始めた。

 身代金と賠償金を含めて1億2千万シニー。うち、2千万シニーが俺の報酬として入ってきた。こんな額では割に合わなかったが、伯爵は、俺を将軍として取り立てて、財務も兼任させたいと言ってきた。

 本当のところは断りたかったが、今度は戦いすらも起きないように強大な戦力を持てば戦争も未然に防げるだろう。と思い、俺は決意を持って将軍となることを受け入れた。

 帰ってきた俺を、モナちゃんが見つけて出迎えてきた。

「よく帰って来てくれました! もし、丈様が帰ってこなかったら私も一緒に死のうと思っていました!」

 本当かよ……。

「そうか。まあ、嘘もほどほどにな」

「嘘じゃありません! でしたら、私の誠意を見せます!」

 と言って、モナちゃんは突然、自身のお腹にナイフを突き立てました。なんて重い子なんでしょう……。

「ちょっと! 分かったから! 誰か! 男の人呼んで! 俺じゃ無理!!」

「分かってもらえて良かったです……。私は、父から、強い人と結婚しなさいと言われているので、私にできることなら何でもしますよ丈様……」

 ひええ……。モナちゃん、重すぎます……。

 モナちゃんを魔法で治療してもらい、家族の元に帰すと、俺は城主様から金を借りて、百貨店の出店を急ぎ、移動販売の方も乳牛を買い付けるなどして、生産規模を拡大して収入の増大を急いだ。

 モナちゃんの家族には滅茶苦茶頭を下げられたが、俺は気にしていないと返した。だが、どうやら、俺を見る目がまさに獲物を見る目だったので、娘のモナちゃんを本気で俺に嫁がせるつもりなのかもしれなかった。

 まあ、金だけあっても、この街の国力ではいずれ、滅亡してしまう可能性が大きいだろう。

 それを回避するためには、常備軍を拡大し、産業の統合も必要なのである。

 そう判断した俺は、食料の増産と技術革新、工業能力の向上。これら三つの目標に掲げ、俺は城主である伯爵に国威とするよう進言した。

「それがどれほどの効果があるか分からないが、どれほどの効果が見込める?」

「全ては産業の統合です。農業と牧畜を一か所にまとめ、肥料や餌の運送などを効率化します。そうすれば、より、少ない労力で、より、大きな区域を管理することが可能になります。これが、第一の目標である食料増産計画です」

「なるほど、数学のように論理的だな。だが、今ある農地はどうする? 潰すのか?」

「はい。徐々に移動しつつ、完全に潰します。今のうちに統合しておけば、損失も少なくて済みます」

「分かった。私も町民に命令を出そう」

「町民については、私が農地を買い上げるのと同時に新たに農地を譲渡します。なので、そこは大丈夫です」

「そうか。分かった。君は本当に有能だな。いったいどこの出だ? まさか王族だとか?」

「王族なんかではありませんよ」

「しかし、その手腕はまさに神に選ばれたものだと言える。神が王を選ぶように、君は神に選ばれたのだろうな」

「ありがたい言葉です。ありがとうございます。しかし、話は少し急を急ぎますので。次に、技術革新ですが、やはり、古びた技術で周りの敵と同じように戦ってばかりでは、兵員の数や、士官の質などでこちらが負けるでしょう。そのために、こちらは独自に装備の開発や戦闘ドクトリンを開発していくべきです」

「戦闘ドクトリン?」

「国が決定する大きな作戦のことです。戦争を個人の質に頼ってばかりでは、限界があります。しかし、全てが目標に一致して突き進めば、より、大きな課題を遂行することができます」

「本当に君は商人の出なのかね?」

「皮肉なことに商売も戦争も同じことなのです。私の国の学んだ経営経済学は、全て軍事由来のものです。だからこそ、私は管理に秀でています」

「そうか」

 そういう伯爵だが、俺の言葉を理解したという顔ではなかった。バーカバーカ!

「次に工業能力の向上です。いくら、魔法によって人々が戦えるとはいえ、武器や防具やその他の装備は、戦闘に必須の物資です。これらを軍需として大量生産を行い、与えなければなりません。そして、一方で民需というものがあります。民需とは、人々の生活が豊かになるための物資のことです。国民あってこその国です。国民をないがしろにすれば、国は必国は必ず衰退します」

「なぜだね?」

「軍隊は金がかかるものであり、それらの金を生産しているのは、国民からの税収が大半であるからです。税収をあげるためには、まず、国民が豊かでなければならないのです。しかし、台所用品や建築材料など生活に必要な物、それらを国で対応するにはまず、合理的ではありません。そんなことをしてしまえば、国が管理することで配給制となり、自由な市場が死滅し、経済が停滞し、税収だって減ってしまいます。なので、軍事としての物資を生産する軍需工場。そして、国民の物資を生産を行う民需工場を分けて、民需工場は国民に自由に扱わせます。その工場建設の投資は我々が行うことになります。これが工業能力の向上の計画です」

「分かった。先の戦争では君の能力によるところが大きかったと将軍から聞いている。君の自由にやりたまえ、しかし、何をするにしてもまず、私に話を通してからにしてくれよ」

「分かりました」

 俺は、農地や牧地を開拓し、段階的に市民を移動させていった。

 最初こそ、反抗する人が多かったが、保証があれば、そこは問題にはならなかった。
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