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ハンバーガーで知る戦争の虚しさ

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 それから俺は、ロレーヌとモナちゃんにハンバーガーのバンズを作らせようとしました。
 けれども、イースト菌の入手がちょっと大変で、俺を雇おうとしなかったあのパン屋に行くことになり、渋々タネを分けてもらうということになったのです……。
 またしても、あのパン屋は俺を見下すような目をしてきました。あのパン屋許すまじ……。
 あとで、お前の扉の鍵穴に瞬間接着剤を流しこんでおくからな……。

 それで、オーブンに関してですが、公共の釜土があるのでそれは大丈夫だったのですが、モナちゃんのリクエストする材料が少し大変で、それを用意するのに時間がかかりました。

 卵や砂糖に塩、バターなんかも用意して準備万端です。
 
 生地を寝かす必要があるので、パンを焼くまでに一日かかってしまいましたが、時間をかけたかいもあり、モナちゃんは、ふっくらとして甘い香りのする美味しいパンを作り上げてくれました。
 食べてみればみんなに好評で、俺は既に何個も食べてしまいました。

「うわっ! なにこのもちもちふわふわ!」

「口の中でとろける~」

 カイセルも俺も、みんな、試食だったはずなのに全部食べ切ってしまっていました。残りはロレーヌのパンだけです。

 それで……、ロレーヌが作ったパンですが……、まあ……、それなりのおいしさというやつでした……。

 ロレーヌはというと……、もじもじとして恥ずかしがりながらも感想を待っている様子でした。


「ロレーヌ! これは……、普通のパンだな……!」

「あたまり前でしょ! パンなんだから!」


 ロレーヌが顔を真っ赤にしてそう叫びます。


「いや、あまりにも普通過ぎて逆に驚いた!」

「死ねええゴラァ!!」


 怒りに満ち溢れたロレーヌの飛び膝蹴りを顔面で受け止めた俺は、そのまま後ろに倒れるように回転し、見事なムーンサルトを描きました。

 いやー、これは、芸術点高いですよ。それにしても、俺、今、初めて自分がムーンサルトできるなんて知りましたよ。というか、これどうやって着地するんでしょう?

 結局、後頭部から地面に着地することになった俺は、痛みに頭を抱えて転げまわりましたとさ。


「お前! 俺! お前の雇用主だぞ! 社長だぞ! お前! クビにすんぞ!」

「やりたいならやりなさいよ! この変態! クズ!」

「くそう……! 本当のこと言いやがって……!」


 まあ、仮にもロレーヌは命の恩人みたいなところがあるのでクビにはしませんが、後で必ず復讐をしてやることに決めました。

 それからあとは、ハンバーグ作りです。

 しかし、牛肉はそのまま買うと高いので、端材過ぎて使えないようなクズ肉を掻き集めてひき肉にし、材料費を抑えることに成功しました。
 しかし、いくら材料費を抑えることに成功したといっても、量が足りないので、合わせて硬い馬肉も使用することになりました。

 大丈夫です!! 馬肉を混ぜようとも、ひき肉にすれば何も分からなくなります!

 馬肉80%牛肉20%といったところでしょうか。これで廉価ハンバーグの出来上がりです。
 ここまで色々と肉を混ぜ合わせられるとなると、ネズミの肉とかも混ぜて食肉偽装とかも簡単にできそうですね……。
 まあ、たぶん、そんなことはしない……、と……、思わない?

 ひき肉を作るための機械は、俺が工務店で身に着けた腕で作りました。所詮ミンチにするだけだったので簡単でしたし、ベルトコンベアを作るのに比べたら時間もそれほどかかりませんでした。

 ピクルスとチーズと、焼いたハンバーグを挟み、塩とスパイスを振れば、ハンバーガーの完成です。しかも、俺がジャガイモに似た野菜を見つけてしまったので、フライドポテトまで作ってしまいました。

 異世界ハンバーガー。まあ、美味しそうじゃない?


 油の香る出来立てのハンバーガーをみんなで息を飲んで見つめます。どうやら、みなさん。ハンバーガーについては初めて見るようです。

 そりゃあそうです。サンドウィッチというものの誕生が18世紀後半なので、それまで、パンと肉や魚などは、別々に食べるのが主流でした。
 なので、この世界の時代からして、パンの食べ合わせに関する研究は、それほど進んでいるはずがありませんでした。

「ハンバーガーっていうんだ。こういうの見るの初めてか?」

「いや、正直なところ、パンに、肉をはさむなんてありそうで無かった料理だわ」

「じゃあ、まあ、とりあえず試食」

「「「「いたただきます」」」」


 みんなで一斉に食べます。食べてみれば、なんと懐かしい味でしょうか。異世界に来てここまで高カロリーの爆弾を食べられるとは思いもしませんでした。

 モナちゃんもロレーヌちゃんも涙を流して喜んでいますし……、カイセルに至っては死んでいました。

「俺……、こんなに美味しい物はじめて食ったぜ……」

「おい! カイセル! しっかりしろ! 死ぬな!」

「与一……、俺の娘をよろしくな……」

 そう言って、カイセルは涙を流して力なく崩れました。
 俺を掴んでいた腕がボトリと肉のように落ちます。

「カイセルーー!! 逝くなーー!! お前に娘なんていないだろ!!」

「はっ!! そうだった!!」

「もう! カイセルったらまったくおちゃめなんだから!」

「えへへ!」


 そんな俺とカイセルが、久しぶりの高カロリーの爆弾で頭が滅茶苦茶になりながらイチャイチャしていると、そんな俺らの姿を見たロレーヌが、「うわー……」という感情を露わにしていました。

 けれども、俺とカイセルがここまで高カロリーの爆弾に頭をふわふわさせるのも無理はない話しなのです。

 なぜなら、この世界においても牛肉などの食肉はこちらの世界でもある程度食べる機会はありますが、飼育環境や飼料の未開発などから脂ののった肉というものは基本存在しません。

 なので、高カロリーの物というのは、それほどまでに食べる機会が少ないのです。

 だからロレーヌやモナちゃんも含めて俺らは炭水化物と油と肉のコラボレーションに感動しているのです。

 ちなみにですが、この時代の肉は基本的に硬いので、シチューのように煮込んで柔らかくして食べるのが一般的です。

 ひき肉にすれば、肉というものは基本なんでも柔らかくなるので、ハンバーガーというのは料理は、まさに中世やルネサンス期において、奇跡の食べ物と言えました。

 さらに余談ですが、中世の貧乏人はピクルスばっかり食べていますし、アメリカの初めての給食ってピクルスだったそうですよ。なので、中世において酢漬けの野菜があってもおかしくはないのです。ケチャップ抜きであれば、ハンバーガーは作れます。


「なあ、与一……、このフライドポテトも美味しいのか……?」

「ああ……。だが、食べたら死ぬぞ……!」

「くそっ………! 俺はまだ……、死にたくないんだ……。だけど……、一口だけなら……!」

「やめろ!! 今度こそ人間に戻れなくなるぞ!!」

「なにやってんよ二人とも。普通に料理でしょ?」


 俺とカイセルが、楽しい楽しい茶番を繰り広げていると、俺らを差し置いて、ロレーヌが勝手にフライドポテトに手を伸ばしました。

 フライドポテトを口に入れた瞬間、ロレーヌは、カッと目を見開き――。

「なにこれ!!! 凄い美味しいい!!! こんなの初めて食べた!!!」

 ロレーヌは、もう、女の子である自分すらも忘れて、本能の赴くまま高カロリーの権化であるフライドポテトを口に入れて、全てを駆逐しようとします。

 もう、この状況に、俺らも黙っていられません。
 残りのフライドポテトを賭けて大戦争の始まりです。

「やめろおおおおおおおおおお! 俺のだあああああクソガキいいいいい!!」

「与一! てめえ! 俺が出資者でもあるんだぞ!! 寄こせ!!」

 俺らは互いにいがみ合い、傷を作りながら、戦争の虚しさを知ります。そんな中、口に入ってくるポテトフライの高カロリー感は、まさに、中世におけるキリスト教のようでした。
 サクサクふわふわでとろけておいしー……。


「与一……。フライドポテトっておいしいんだな……」

「ああ……」


 俺とカイセルはボロボロになりながらもお互いの健闘を称えて涙を流していました。そんな中、モナちゃんもフライドポテトが食べたいと言ってきました。


「あの、私も食べて良いですか?」

「ん……、どうぞ……」

 俺はフライドポテトの乗った皿をモナちゃんに渡します。

 フライドポテトを口に入れると、モナちゃんも涙を流して喜んでくれました。


「これ、美味しいです!! 与一様!! すぐに商品化しましょう!!」

「そうだね……、でも……、その前に後片付けだね……」


 見れば、皿もテーブルも何もかもがぐちゃぐちゃで、俺たちは外でやり合っていたので服も泥まみれです。

 戦争は虚しさだけしかないのです……。



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