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6話 不可解

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「私の魔法はね、物に込めるんだよ。アクセサリーとか、普段身に着けているものが一番効果があるんだ。何かある?」

「アクセサリー……。これはどうでしょうか?」

 レイラは首に着けていたネックレスを外して、ジョアンナに見せた。
 このネックレスはレイラが幼い頃、王都の露店で偶然見つけて買ったもので、高価なものではない。侯爵令嬢が身に着けるには少し安っぽいかもしれないがとてもお気に入りで、以来ずっと身に着けている。

「……どれどれ……」

 ジョアンナはレイラからネックレスを受け取ると、まじまじと観察した。次の瞬間、レイラの顔を勢いよく見る。

「えっ……なんですか」

「ああ思い出した。何か見たことある顔だって思ってたんだよね。……貴女、前にも私に依頼にきたことあるよね。その時にもこのネックレスに魔法を込めた」

「ええ……!?」

 レイラも隣に座っているアシェルも、ジョアンナの発言にびっくりする。

(……何を言っているのかしら? ……過去に私がジョアンナさんに魔法の依頼にきた?)

「……姉上、そうなのですか?」

「い、いえ……私は知らないわ。ここを訪れるのも初めてだし……。ジョアンナさん、何か思い違いではないでしょうか?」

 ジョアンナはレイラの質問には答えず本棚にあったファイルをいくつか取り出し、机に置いた。年度ごとにまとめられたそれは、どうやら過去に受けた依頼の記録のようだった。

「えーと……確か……四年前くらい? ……あった、これだ」

 ジョアンナはパラパラとファイルを捲ると、目当てのページを見つけたようだ。

「ふむふむ。……ああ、貴女が覚えてないのはしょうがないね。それもこのネックレスに込めた魔法の一つだから」

「魔法の一つ……? 姉上は以前、ジョアンナ殿を訪ね、何の依頼をしたのですか?」

 アシェルがジョアンナのほうに身を乗り出して聞くと、ジョアンナはアシェルの顔をまじまじ見て言った。

「あなたは、彼女……レイラ・クラークさんの義理の弟アシェルくん?」

「? ……はいそうですが」

 レイラは、自分達がジョアンナに名乗っていなかったのを思い出した。しかし、今名前を呼んだということはその過去の記録にレイラとアシェルの名前が記されていたということになる。ということは、レイラが過去にジョアンナに依頼をした、という信憑性が深まってきた。

「うーん……。一応私にも守秘義務があるからなあ。勝手にレイラさんの依頼内容を、弟くんとはいえ教えるわけには……」

 ジョアンナはレイラの顔を窺うようにちらりと見た。そしてレイラを手招きし、横に座らせると、アシェルの位置から見えない角度でファイルを開いて見せた。

(えーと……『かけた魔法は三つ。まず一つ目の魔法は……』)


 ジョアンナに見せられたファイルの内容を読み進めると、レイラの顔から汗が噴き出した。

「え、なんですか姉上。どんな依頼内容だったのですか」

 アシェルがファイルを見ようとレイラの側に寄ってくるので、レイラは慌ててファイルを閉じ、ガードするように胸に抱えた。

「い、いやいやいや……ちょっと待って……」

(――何、何なのこの内容は!!)

 レイラは赤くなるやら青くなるやらで、もう顔色はほぼ紫だ。冷や汗がだらだらと流れてくるのを感じながら、アシェルがファイルを取り上げようとするのを必死に逃げ回った。

 しかし、(他人の家にいうことではないが)ここは狭い室内。もみ合っている内に机に置かれていたレイラのネックレスが床に落ち、あろうことかレイラはそれを踏んづけてしまった。

「あ……ネックレスが……」

 慌てて足をどけると、ネックレスの安物のルビーが無残に割れてしまっている。

「あ、姉上……申し訳ありません」

 自分がファイルを取り上げようとしたせいで、レイラのお気に入りのネックレスを壊してしまう結果になったと思ったのであろう、アシェルが謝りながらレイラの肩に手を置いた。

 瞬間的に、レイラはその手をバシッと振り払う。

「……姉上?」

 手を振り払われたことにびっくりしながらも、アシェルは俯いているレイラの様子を窺ってくる。

「ちょ、待って。見ないで、今私の顔、おかしいから……」

 アシェルが心配そうにしながらも、少し強引にレイラの顔を上げさせた。

「……姉上、熱でもあるのですか?」

 真っ赤になっているレイラの顔をみて、アシェルはいぶかしみながら問いかける。

「あー、ネックレスが壊れたから魔法が解けちゃったんだねえ」

 ジョアンナが煙草を吹かしながらのほほんと言った。

「…………。姉上、貸してください」

「あ、ちょっと!」

 アシェルはレイラからファイルを取り上げると、ぺらぺらと捲り先程のページを探し当てる。
 レイラはもうどうしたらいいか分からなく、俯くしかなかった。
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