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第48話
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「どうだった……?」
セオドアが聞くが、マリアスは力無く首を横に振る。それを見た彼等は一様に肩を落とした。
何とかするからとアマーリエに約束した彼等は早速行動に移していた。
パーティーで彼女が問題を起こしたのは何かの間違いか、もしくは目撃した人間が大袈裟に話しているだけだと教師に抗議をしに行ったのである。
その様子だと結果は芳しくなかったようだが。
「生徒だけじゃなくてアマーリエを止めたスタッフからも話を聞いてるって。そのスタッフの名前や容姿は教えてくれなかったけど」
マリアスは、ならばスタッフからも話を聞こうとしたのだが、スタッフに関する情報は一切教えてもらえなかった。
教師の判断は妥当で、スタッフは平民である。
もし「アマーリエは悪く無い」と色眼鏡で見ている力の強い貴族が、その気はなくとも無意識に威圧をかけていたとしたらどうだろう。
スタッフは彼等に対する恐れから証言を翻してしまうかもしれない。それを危惧して教えられなかったのである。
当時の関係者から話を聞きたければ公平な目で見ろと言われ、ちゃんとそうしていると主張しても、できていないから言っていると却下されてしまった。
「最終的には在籍させているのは最後の温情だって言われて……。退学もあり得たと言われたら引き下がるしかなかったよ……」
「そんな……」
彼女が自分達が思っていたよりもずっと首の皮1枚で繋がっている状態だと、知った彼等は言葉を無くす。
自分達がこれ以上講義を続ければ余計彼女が不利に陥ってしまう。悔しいが、今は黙って耐えているしか道は無い。
「残念ながら、彼女が無実だと証明できる日が来るまで、僕達は待っているしかない」
歯噛みする仲間にバーナードはそう告げる。
今はエリザベスの印象操作の所為で、彼女の味方は自分達しか居ない状態だ。その状態で何を言ったとしても周りは相手にしてくれないだろう。
今の自分達にできるのはエリザベスがボロを出すまで、彼女を支えながらその時を待つことだけだ。
「……俺は絶対来ると信じてるぜ……」
普段は声が大きいベンジャミンが静かに言う。それは自分に言い聞かせているようでもあった。
彼に勇気づけられるように仲間達は次々と、「そうだよね」「あぁ絶対来るさ」と互いに鼓舞をし合う。
逆境を前に、未熟な少年達は己の信じるままに正義の心を燃やした。
彼等の献身を知らないテンセイシャは、次のテスト対策をどうしようかと頭を悩ませていた。実践は意外にも普段から成績が良いのだが、問題は筆記である。
これ以上問題を起こさないとは決めてはいるが、真面目にテスト勉強をする気は彼女には毛頭無い。どうやって楽に良い成績を取るかの方法で悩んでいたのである。
一人で考えても埒が開かないと彼女が向かった先は図書館だった。完璧な一夜漬けの魔法などの本がないか、探しに来たのだ。
王立学校らしい蔵書量の多さに辟易とはするが、楽ができるのならこの程度の苦労などなんてことない。
既にこの時点で努力の仕方が間違っているが、彼女は頑張ってそれらしい本を探し始める。
しかし探せど探せどそのような類の本は見つからない。そんな都合の良い方法がある訳が無いのだが、魔法の世界だから何でもあると思っている彼女は一向に見つからない状況に段々と飽き始めていた。
(なんで魔法って便利なものがあるのに、簡単に暗記できる魔法とか載ってないのかな?こんなんじゃ魔法の意味ないじゃん)
いい加減探し続けるのも疲れたし、今日はこの辺で切り上げるかと思っていると、近くでバサリと何かが落ちる音がした。
音がした方を振り返ると床に本が開いた状態で落ちていた。更に奥の方には山積みの本を両腕で抱えた生徒の背中が見える。
「ちょっと落としたわよ」
鈍臭いなぁと思いながら声をかけるも、生徒は気付かずに行ってしまう。
テンセイシャは落ちた本を見詰める。あの生徒を追いかけるのも面倒だし、代わりに本を元の場所に戻すのもそれはそれで面倒だ。
このまま置いとけば誰かが片付けてくれるだろう。そう決めて何とはなしに眺めていると、気になる文章が目に入った。
(覗き見の魔法……?)
探し求めていたかもしれない類に俄然興味が出てきて拾い上げると、その魔法の項目に目を通す。
それは魔力で不可視の目を作り、相手に気付かれずに覗き見ができるという魔法だった。効果は10秒間だけだが、壁などで視界が遮られていなければ、どんな人間の手元も覗き込めるらしい。
(これだ!思っていたのと違うけど、これって要は絶対バレずにカンニングできるってことじゃん!)
借りようと思ったが貸し出し不可の本だったので、いそいそと開いている席に座り、鞄からノートとペンを取り出して方法を書き写す。
これで今回のテスト対策もバッチリだ。高得点が取れるし何より楽ができる。この本を見つけられてラッキーだと、あの生徒に心底感謝した。
その様子を監視していたリンブルクの部下がヘスターや当主達、本を落とした生徒へと報告する。
実は本を落とした生徒もグルであった。当主の命で学校の生徒に成りすまし、わざとあの本が彼女の目に留まるように仕組んだのである。
テンセイシャが真面目に勉強しようとしないのは容易に想像できるが、白紙での提出はもう使えない。ならば別の方法を模索しようと動き出すに違いないと踏んだのだ。
そこでまた彼女が問題行動を起こして教師や自分達の手を煩わせないよう、こうして手を打つことにしたのである。
この「覗き見の魔法」は、かつてとある詐欺師が考案し、その後広まったカードゲームでのイカサマの手段の一つである。
当時、魔法の素養のある者なら簡単に真似できると非常に横行して、各地で対策が取られた謂わば使い古された手であり、当然学校でも対策はされている。
不正防止に開発された覗き見破りの魔法は己の目にかけるタイプの魔法で、そうすると不可視だった魔力で作られた目が目視できるようになる。試験監督はそうしてカンニングを防いでいるのだ。
この世界の人間はそれを知っているからこそ、覗き見の魔法は仲間内でカードゲームをする際に、ちょっとしたズルで使われるくらいしかない。カンニングに使おうなど無謀の極みと分かっているのだ。
しかしテンセイシャはどうだろう。彼女はこの国の暗黙の了解を知らない。覗き見の魔法が時代遅れの魔法だとは知らないのだ。
彼女の無知を利用しない手はない。リンブルクや学校はそこにつけ込み、わざと使い古された魔法を利用するよう誘導したのである。
まんまと罠にハマった彼女は写し終わったノートを鞄に戻し、意気揚々と図書館を出る。これから寮で練習するつもりなのだろう。
だが学校としてはカンニングで彼女に高得点を取られようと全く構わない。
何せ彼女へのテスト自体が謂わば茶番のようなものであり、本当に成績に反映されるのは今はモニカとして通っている本物のアマーリエのテストの方なのだから。
セオドアが聞くが、マリアスは力無く首を横に振る。それを見た彼等は一様に肩を落とした。
何とかするからとアマーリエに約束した彼等は早速行動に移していた。
パーティーで彼女が問題を起こしたのは何かの間違いか、もしくは目撃した人間が大袈裟に話しているだけだと教師に抗議をしに行ったのである。
その様子だと結果は芳しくなかったようだが。
「生徒だけじゃなくてアマーリエを止めたスタッフからも話を聞いてるって。そのスタッフの名前や容姿は教えてくれなかったけど」
マリアスは、ならばスタッフからも話を聞こうとしたのだが、スタッフに関する情報は一切教えてもらえなかった。
教師の判断は妥当で、スタッフは平民である。
もし「アマーリエは悪く無い」と色眼鏡で見ている力の強い貴族が、その気はなくとも無意識に威圧をかけていたとしたらどうだろう。
スタッフは彼等に対する恐れから証言を翻してしまうかもしれない。それを危惧して教えられなかったのである。
当時の関係者から話を聞きたければ公平な目で見ろと言われ、ちゃんとそうしていると主張しても、できていないから言っていると却下されてしまった。
「最終的には在籍させているのは最後の温情だって言われて……。退学もあり得たと言われたら引き下がるしかなかったよ……」
「そんな……」
彼女が自分達が思っていたよりもずっと首の皮1枚で繋がっている状態だと、知った彼等は言葉を無くす。
自分達がこれ以上講義を続ければ余計彼女が不利に陥ってしまう。悔しいが、今は黙って耐えているしか道は無い。
「残念ながら、彼女が無実だと証明できる日が来るまで、僕達は待っているしかない」
歯噛みする仲間にバーナードはそう告げる。
今はエリザベスの印象操作の所為で、彼女の味方は自分達しか居ない状態だ。その状態で何を言ったとしても周りは相手にしてくれないだろう。
今の自分達にできるのはエリザベスがボロを出すまで、彼女を支えながらその時を待つことだけだ。
「……俺は絶対来ると信じてるぜ……」
普段は声が大きいベンジャミンが静かに言う。それは自分に言い聞かせているようでもあった。
彼に勇気づけられるように仲間達は次々と、「そうだよね」「あぁ絶対来るさ」と互いに鼓舞をし合う。
逆境を前に、未熟な少年達は己の信じるままに正義の心を燃やした。
彼等の献身を知らないテンセイシャは、次のテスト対策をどうしようかと頭を悩ませていた。実践は意外にも普段から成績が良いのだが、問題は筆記である。
これ以上問題を起こさないとは決めてはいるが、真面目にテスト勉強をする気は彼女には毛頭無い。どうやって楽に良い成績を取るかの方法で悩んでいたのである。
一人で考えても埒が開かないと彼女が向かった先は図書館だった。完璧な一夜漬けの魔法などの本がないか、探しに来たのだ。
王立学校らしい蔵書量の多さに辟易とはするが、楽ができるのならこの程度の苦労などなんてことない。
既にこの時点で努力の仕方が間違っているが、彼女は頑張ってそれらしい本を探し始める。
しかし探せど探せどそのような類の本は見つからない。そんな都合の良い方法がある訳が無いのだが、魔法の世界だから何でもあると思っている彼女は一向に見つからない状況に段々と飽き始めていた。
(なんで魔法って便利なものがあるのに、簡単に暗記できる魔法とか載ってないのかな?こんなんじゃ魔法の意味ないじゃん)
いい加減探し続けるのも疲れたし、今日はこの辺で切り上げるかと思っていると、近くでバサリと何かが落ちる音がした。
音がした方を振り返ると床に本が開いた状態で落ちていた。更に奥の方には山積みの本を両腕で抱えた生徒の背中が見える。
「ちょっと落としたわよ」
鈍臭いなぁと思いながら声をかけるも、生徒は気付かずに行ってしまう。
テンセイシャは落ちた本を見詰める。あの生徒を追いかけるのも面倒だし、代わりに本を元の場所に戻すのもそれはそれで面倒だ。
このまま置いとけば誰かが片付けてくれるだろう。そう決めて何とはなしに眺めていると、気になる文章が目に入った。
(覗き見の魔法……?)
探し求めていたかもしれない類に俄然興味が出てきて拾い上げると、その魔法の項目に目を通す。
それは魔力で不可視の目を作り、相手に気付かれずに覗き見ができるという魔法だった。効果は10秒間だけだが、壁などで視界が遮られていなければ、どんな人間の手元も覗き込めるらしい。
(これだ!思っていたのと違うけど、これって要は絶対バレずにカンニングできるってことじゃん!)
借りようと思ったが貸し出し不可の本だったので、いそいそと開いている席に座り、鞄からノートとペンを取り出して方法を書き写す。
これで今回のテスト対策もバッチリだ。高得点が取れるし何より楽ができる。この本を見つけられてラッキーだと、あの生徒に心底感謝した。
その様子を監視していたリンブルクの部下がヘスターや当主達、本を落とした生徒へと報告する。
実は本を落とした生徒もグルであった。当主の命で学校の生徒に成りすまし、わざとあの本が彼女の目に留まるように仕組んだのである。
テンセイシャが真面目に勉強しようとしないのは容易に想像できるが、白紙での提出はもう使えない。ならば別の方法を模索しようと動き出すに違いないと踏んだのだ。
そこでまた彼女が問題行動を起こして教師や自分達の手を煩わせないよう、こうして手を打つことにしたのである。
この「覗き見の魔法」は、かつてとある詐欺師が考案し、その後広まったカードゲームでのイカサマの手段の一つである。
当時、魔法の素養のある者なら簡単に真似できると非常に横行して、各地で対策が取られた謂わば使い古された手であり、当然学校でも対策はされている。
不正防止に開発された覗き見破りの魔法は己の目にかけるタイプの魔法で、そうすると不可視だった魔力で作られた目が目視できるようになる。試験監督はそうしてカンニングを防いでいるのだ。
この世界の人間はそれを知っているからこそ、覗き見の魔法は仲間内でカードゲームをする際に、ちょっとしたズルで使われるくらいしかない。カンニングに使おうなど無謀の極みと分かっているのだ。
しかしテンセイシャはどうだろう。彼女はこの国の暗黙の了解を知らない。覗き見の魔法が時代遅れの魔法だとは知らないのだ。
彼女の無知を利用しない手はない。リンブルクや学校はそこにつけ込み、わざと使い古された魔法を利用するよう誘導したのである。
まんまと罠にハマった彼女は写し終わったノートを鞄に戻し、意気揚々と図書館を出る。これから寮で練習するつもりなのだろう。
だが学校としてはカンニングで彼女に高得点を取られようと全く構わない。
何せ彼女へのテスト自体が謂わば茶番のようなものであり、本当に成績に反映されるのは今はモニカとして通っている本物のアマーリエのテストの方なのだから。
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