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第38話
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「そうだ。みんなパートナーは決まってるの?私はもちろん婚約者に頼むわ」
友人達と魔法の訓練をしていたアマーリエは、休憩中のマーガレットの言葉に疑問符を浮かべた。
「私は、ここのOBでもあるお兄様がパートナーしてくれるって」
「私は親戚に頼みましたの。当日紹介しますわね」
クラリスとキャサリンも何を言っているのか分からず、この会話について行けないのは自分だけのようだ。
「ね、ねぇ……。パートナーって何のこと?」
不安になって恐る恐る聞いてみると、みんなが大きく目を開いて「えっ!?」という顔でアマーリエを見る。それにますます不安が増した。
「何言ってるのよ?ダンスパーティーのパートナーを誰に頼むかに決まってるでしょ?」
「……?……!ぁあーっ!そうだった!」
思い出したアマーリエは淑女の心得も忘れて叫ぶ。
この時期は学校の行事でダンスパーティがあるのだが、貴族の集まる学校らしくパートナーが必要なのである。
アマーリエには婚約者も居ないし、弟も遠い領地に居る。
なのでいずれパートナーを探さなければならなかったのだが、魔法の訓練に、勉強に、部活に、更にはテンセイシャの動向を気にしたりと、今まですっかり忘れてしまっていたのだ。
「まさか、まだ決めていないの!?」
「パーティまであと半月とちょっとですわよ!?早く探さないと!」
「一人でなんて肩身が狭いわ!」
アマーリエの慌てぶりを見て察した友人達も慌て出す。
一人で出席する人も稀に居るが、それはパートナーを務める筈だった人が突然の体調不調などで欠席したとかなどの、やむにやまれぬ理由の時だけである。
こういったパーティではパートナー必須な為、パートナー不在の出席など好奇の目で見て下さいと言っているようなものだ。
だからこそ婚約者の居ない生徒は早いうちからパートナー探しを始めるのだ。年齢が釣り合う兄弟や親戚に頼むという手もあるが、生憎居ない場合は学校内からパートナーを見つけるしかない。
「どうしよう!今から探して間に合うかしら!?」
「とにかく掲示板を見ましょう!パートナーの募集の張り紙を見たことがあるわ!」
今は魔法の訓練をしている場合じゃないと、彼女達は慌ただしく学校掲示板のある所まで急ぐ。
そこでは奇妙なことに、掲示板を見ている人の数がいつもよりも多かった。何があるんだろうと背伸びして見てみると、まだパートナーが決まっていない人向けに合同の雑談会を開催する旨の張り紙がしてあった。
「やったぁ!俺、初対面の人に話しかけるの苦手だからどうしようか困ってたんだよ!」
「よかったな!これでパートナー見つかると良いな!」
「助かるわぁ!婚約者が落馬で脚を骨折してたから……」
「どうなることかと思ったけどこれで一安心ね!」
そんな催しがあるのかと興味深げに眺める者、助かったと安堵の表情を浮かべる者と反応は様々だ。
アマーリエもホッとしながら直ぐに日付を確認する。開催日は四日後、期間は三日間のようだ。
「丁度良いのがあるじゃない!絶対参加すべきよ!」
マーガレットが興奮気味にアマーリエの肩を揺らす。こんな機会逃してしまえばチャンスはもう与えられないかもしれない。
掲示板の側の机には参加用紙の束が置かれているのだが、生徒達が次々と手に取っている。アマーリエも紙が無くなる前にと列に並んだ。
参加用紙には下部に名前や学年を書く欄があり、切り取り線から上には雑談会の形式が記載されていた。
参加者全員と一対一で話す形式で、各会話時間は十分ほどだそうだ。これなら誰に話しかければ良いか困るなんてこともないだろう。
一日限りのパートナーとはいえ、相性は大事だ。気の合う人と組めたかどうかでパーティの楽しさは断然違う。
特に生理的に無理な人と組んでしまった場合は、ダンスの時間などは地獄だ。
相手と少しでも話す時間が取れるなら大丈夫そうだと、参加用紙を無くさないよう鞄に大事に入れる。
決まったら紹介してねと興味津々にしている友人達に勿論と答えると、ふとこんな疑問が頭に浮かんだ。
(そういえばヘスター様はパートナーはどうしているんだろう……?)
時折彼女の教室を覗いても一人で居ることが多いので、何となく気にはなる。
彼女なら例えパーティで一人だったとしても、寧ろ堂々としていそうだ。そんな光景が容易に思い浮かぶ。
「パートナー?決まってるけど?」
あっさりと放たれた言葉にアマーリエはあんぐりと口を開ける。
「えっ!?いつの間に!?婚約者ですか!?それともここの生徒ですか!?」
ここの生徒ならいつ決まったのか気になるし、婚約者が居るとしたらどんな人なのか気になり過ぎる。
だってあのリンブルク家の、ちょっと変わった雰囲気のヘスターの婚約者だ。そんなの気にするなと言う方が無理である。
つい興奮してグイグイと詰めるアマーリエに、ヘスターは少々引き気味になる。
「十日くらい前に同じクラスの生徒にパートナーになってくれってお願いされて、私も相手は居なかったからOKしただけだけど……」
アマーリエは「わぁ!」と目をキラキラさせる。ヘスターは何でもないように話すが、これってつまり彼女のことが気になっている人が居るということだ。
でないとわざわざパートナーに誘う理由にならない。その先輩はこれを機に、ヘスターと距離を縮めようとしているかもしれないのだ。
確かにヘスターは本来の姿の方が可愛いが、変装時の姿だって悪くはない。
それに雰囲気だって変わってはいるけど嫌な方ではなく……。そう、堂々としているとか安心感があるとか、大人っぽい感じなのだ。
その先輩もヘスターのそういう雰囲気に惹かれたのかもしれない。
突然の恋の予感にアマーリエの妄想は止まらない。彼女も年頃の少女らしく、色恋の話は胸が熱くなるのだ。
「アンタはどうなの?もし決まってなかったら親戚を紹介してあげるけど?」
「あ、実は私、パートナー決めの雑談会に参加するんです」
妄想から引き戻されて正気に返ったアマーリエが趣旨を説明すると、ヘスターは「そういえば去年もそんなのがあった気がする」と呟く。毎年行っていることのようだ。
「まぁ、もし見つからなかったら親戚に来させるから肩の力を抜いて行ってきなさいな」
ヘスターの言葉は演技でもないが、代替が確保できていると知ったら気持ちは軽い。
それに親戚もどんな人なのか気持ちが揺らぐが、いやいやまずは生徒の中から見つけないと、と気合入れた。
参加用紙も提出し、いよいよ迎えた当日。雑談会が行われる部屋は、学年や性別問わず沢山の生徒で賑わっていた。これだけの人数なら三日開催も納得だ。
会場内には個別に椅子とテーブルがずらりと並べてられていて壮観だ。各席の間に設置されている仕切りのお陰で簡易的な個室のようになっている。
係員からプロフィールカードが配られ、記入できる場所を教えられる。
ここに名前と学年、趣味などの簡単な情報を記入し、雑談の際の話のタネにするのである。
そしてカードを持って会場が指定した席に着き、十分間話をして鐘が鳴ったら男子生徒が一つ隣の席にずれる。それを一周するまで繰り返すのだ。
当然時間もかかるので初日と二日目はこの形式で、三日目に気になっている人と個別に話して、最終的に一人に決めるらしい。
席に座ると最初の相手はソバカスがチャーミングな癖毛の生徒だった。
係員からの「時間が限られているので、沢山話すと良い」のアドバイス通りに、積極的に話しかけていく。
それでまた話をしたいなと思えたら、席替えしている合間に生徒の名前とクラスを手早くメモしていく。
効率的だけどその分忙しなくて大変だ。
また別の生徒が座った気配を感じ、挨拶をしようと顔を上げた。
(えっ……!)
アマーリエは声が出そうなのを寸前で呑み込んだ自分を褒めてやりたかった。
次に話す相手として目の前に座ったのは、なんとテンセイシャと共に問題児になっているアランだったからである。
友人達と魔法の訓練をしていたアマーリエは、休憩中のマーガレットの言葉に疑問符を浮かべた。
「私は、ここのOBでもあるお兄様がパートナーしてくれるって」
「私は親戚に頼みましたの。当日紹介しますわね」
クラリスとキャサリンも何を言っているのか分からず、この会話について行けないのは自分だけのようだ。
「ね、ねぇ……。パートナーって何のこと?」
不安になって恐る恐る聞いてみると、みんなが大きく目を開いて「えっ!?」という顔でアマーリエを見る。それにますます不安が増した。
「何言ってるのよ?ダンスパーティーのパートナーを誰に頼むかに決まってるでしょ?」
「……?……!ぁあーっ!そうだった!」
思い出したアマーリエは淑女の心得も忘れて叫ぶ。
この時期は学校の行事でダンスパーティがあるのだが、貴族の集まる学校らしくパートナーが必要なのである。
アマーリエには婚約者も居ないし、弟も遠い領地に居る。
なのでいずれパートナーを探さなければならなかったのだが、魔法の訓練に、勉強に、部活に、更にはテンセイシャの動向を気にしたりと、今まですっかり忘れてしまっていたのだ。
「まさか、まだ決めていないの!?」
「パーティまであと半月とちょっとですわよ!?早く探さないと!」
「一人でなんて肩身が狭いわ!」
アマーリエの慌てぶりを見て察した友人達も慌て出す。
一人で出席する人も稀に居るが、それはパートナーを務める筈だった人が突然の体調不調などで欠席したとかなどの、やむにやまれぬ理由の時だけである。
こういったパーティではパートナー必須な為、パートナー不在の出席など好奇の目で見て下さいと言っているようなものだ。
だからこそ婚約者の居ない生徒は早いうちからパートナー探しを始めるのだ。年齢が釣り合う兄弟や親戚に頼むという手もあるが、生憎居ない場合は学校内からパートナーを見つけるしかない。
「どうしよう!今から探して間に合うかしら!?」
「とにかく掲示板を見ましょう!パートナーの募集の張り紙を見たことがあるわ!」
今は魔法の訓練をしている場合じゃないと、彼女達は慌ただしく学校掲示板のある所まで急ぐ。
そこでは奇妙なことに、掲示板を見ている人の数がいつもよりも多かった。何があるんだろうと背伸びして見てみると、まだパートナーが決まっていない人向けに合同の雑談会を開催する旨の張り紙がしてあった。
「やったぁ!俺、初対面の人に話しかけるの苦手だからどうしようか困ってたんだよ!」
「よかったな!これでパートナー見つかると良いな!」
「助かるわぁ!婚約者が落馬で脚を骨折してたから……」
「どうなることかと思ったけどこれで一安心ね!」
そんな催しがあるのかと興味深げに眺める者、助かったと安堵の表情を浮かべる者と反応は様々だ。
アマーリエもホッとしながら直ぐに日付を確認する。開催日は四日後、期間は三日間のようだ。
「丁度良いのがあるじゃない!絶対参加すべきよ!」
マーガレットが興奮気味にアマーリエの肩を揺らす。こんな機会逃してしまえばチャンスはもう与えられないかもしれない。
掲示板の側の机には参加用紙の束が置かれているのだが、生徒達が次々と手に取っている。アマーリエも紙が無くなる前にと列に並んだ。
参加用紙には下部に名前や学年を書く欄があり、切り取り線から上には雑談会の形式が記載されていた。
参加者全員と一対一で話す形式で、各会話時間は十分ほどだそうだ。これなら誰に話しかければ良いか困るなんてこともないだろう。
一日限りのパートナーとはいえ、相性は大事だ。気の合う人と組めたかどうかでパーティの楽しさは断然違う。
特に生理的に無理な人と組んでしまった場合は、ダンスの時間などは地獄だ。
相手と少しでも話す時間が取れるなら大丈夫そうだと、参加用紙を無くさないよう鞄に大事に入れる。
決まったら紹介してねと興味津々にしている友人達に勿論と答えると、ふとこんな疑問が頭に浮かんだ。
(そういえばヘスター様はパートナーはどうしているんだろう……?)
時折彼女の教室を覗いても一人で居ることが多いので、何となく気にはなる。
彼女なら例えパーティで一人だったとしても、寧ろ堂々としていそうだ。そんな光景が容易に思い浮かぶ。
「パートナー?決まってるけど?」
あっさりと放たれた言葉にアマーリエはあんぐりと口を開ける。
「えっ!?いつの間に!?婚約者ですか!?それともここの生徒ですか!?」
ここの生徒ならいつ決まったのか気になるし、婚約者が居るとしたらどんな人なのか気になり過ぎる。
だってあのリンブルク家の、ちょっと変わった雰囲気のヘスターの婚約者だ。そんなの気にするなと言う方が無理である。
つい興奮してグイグイと詰めるアマーリエに、ヘスターは少々引き気味になる。
「十日くらい前に同じクラスの生徒にパートナーになってくれってお願いされて、私も相手は居なかったからOKしただけだけど……」
アマーリエは「わぁ!」と目をキラキラさせる。ヘスターは何でもないように話すが、これってつまり彼女のことが気になっている人が居るということだ。
でないとわざわざパートナーに誘う理由にならない。その先輩はこれを機に、ヘスターと距離を縮めようとしているかもしれないのだ。
確かにヘスターは本来の姿の方が可愛いが、変装時の姿だって悪くはない。
それに雰囲気だって変わってはいるけど嫌な方ではなく……。そう、堂々としているとか安心感があるとか、大人っぽい感じなのだ。
その先輩もヘスターのそういう雰囲気に惹かれたのかもしれない。
突然の恋の予感にアマーリエの妄想は止まらない。彼女も年頃の少女らしく、色恋の話は胸が熱くなるのだ。
「アンタはどうなの?もし決まってなかったら親戚を紹介してあげるけど?」
「あ、実は私、パートナー決めの雑談会に参加するんです」
妄想から引き戻されて正気に返ったアマーリエが趣旨を説明すると、ヘスターは「そういえば去年もそんなのがあった気がする」と呟く。毎年行っていることのようだ。
「まぁ、もし見つからなかったら親戚に来させるから肩の力を抜いて行ってきなさいな」
ヘスターの言葉は演技でもないが、代替が確保できていると知ったら気持ちは軽い。
それに親戚もどんな人なのか気持ちが揺らぐが、いやいやまずは生徒の中から見つけないと、と気合入れた。
参加用紙も提出し、いよいよ迎えた当日。雑談会が行われる部屋は、学年や性別問わず沢山の生徒で賑わっていた。これだけの人数なら三日開催も納得だ。
会場内には個別に椅子とテーブルがずらりと並べてられていて壮観だ。各席の間に設置されている仕切りのお陰で簡易的な個室のようになっている。
係員からプロフィールカードが配られ、記入できる場所を教えられる。
ここに名前と学年、趣味などの簡単な情報を記入し、雑談の際の話のタネにするのである。
そしてカードを持って会場が指定した席に着き、十分間話をして鐘が鳴ったら男子生徒が一つ隣の席にずれる。それを一周するまで繰り返すのだ。
当然時間もかかるので初日と二日目はこの形式で、三日目に気になっている人と個別に話して、最終的に一人に決めるらしい。
席に座ると最初の相手はソバカスがチャーミングな癖毛の生徒だった。
係員からの「時間が限られているので、沢山話すと良い」のアドバイス通りに、積極的に話しかけていく。
それでまた話をしたいなと思えたら、席替えしている合間に生徒の名前とクラスを手早くメモしていく。
効率的だけどその分忙しなくて大変だ。
また別の生徒が座った気配を感じ、挨拶をしようと顔を上げた。
(えっ……!)
アマーリエは声が出そうなのを寸前で呑み込んだ自分を褒めてやりたかった。
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