上 下
2 / 12
本編

ゴーストレーダー

しおりを挟む
次の日、登校すると学校では七不思議の幽霊の話がまことしやかに囁かれていた。
家に帰る頃にはすっかり忘れていた俺は、キネセンの後ろに見た男子生徒を思い返す。
いや、見間違いだろう。
そんな事より、傘だ、傘。
俺はホームルームと1時限目の短い間に、下駄箱に行った。
傘立てをざっと見渡し、自分の傘を探す。
ちらほら遅刻の生徒もいたが、気にしなかった。
いくつか見ていたら見つかったので、それを持って教室に向かう。
見つかって良かった。
無くすと母親がうるさいからな。
なくしたんじゃなくて、盗られたと言ってもそれは変わらない。
それなら盗まれるくらいならロッカーに入れておきたい。

「柘植?何で傘を教室に持ってくんだ?」

いきなり声を掛けられ、振り向く。
キネセンが登校口当番だったようで、不思議そうに見ている。

「昨日、盗まれたんだよ。」

「だからって濡れた傘を持っていかれてもな~。」

確かに傘は朝も使われたのか濡れていた。
だが傘立てに戻す気はない。
キネセンは面倒そうに顔をしかめ、ポケットから何かを取り出して小声で言った。

「使え。後、次はないぞ?ロッカーにしまえよ?」

渡されたのは、店なんかにある長いビニールだった。
それとなく渡して、キネセンは素知らぬ顔で職員室の方に歩いていく。

「!?」

何の気なしにぼんやり見ていたら、一瞬、キネセンの横に昨日見た男子生徒が見えた気がした。
二度見すると、それはもういなくて、見間違いだったのかと思える。

いやでも俺は見たと確信した。
同じ生徒だった。絶対。
え?何あれ??
やっぱ噂の七不思議の幽霊なのか??
キネセンは全く気づいてないようだった。
え?何??キネセンとりつかれてんの??
ヤバくね??
ちょっと他人事のように思う。
だが、ヤバいと思いながらも俺はあまり危機感は感じなかった。

そいつは、とりつく、と言うには優しい顔をしていた。
俺に何だかんだで親切にしたキネセンを、にこにこと見つめていたように思える。
え?なら守護霊か何か??
いや、それも違うだろう。
俺は別に霊感とかないし、今までの数ヶ月、キネセンの側にあの生徒を見たことはない。
いきなり見え始めたのだ。
傘をロッカーにしまい、席につく。
前の席の田所が振り返った。

「柘植ちんどこ行ってたん?便所?」

「おう。」

「幽霊見た!?」

「は?」

「何かさ~、昨日から目撃者出てるんだよ~、七不思議の梅雨の幽霊~。」

「お前、見たのか?」

「うんや?ただ、見たって話だと、何か優しそうに笑った普通の生徒っぽく見えるらしいよ?あれ、あんな奴いたかな~て思ってると、ふっと消えるんだって!!凄くない!?」

あ、うん。
俺も見たわ、多分。
その話から、キネセンの側で見た男子生徒が、例の幽霊なのだと確信する。
言うと面倒になりそうだったので、俺は黙っていることにした。
でも何でキネセンにくっついてるんだろう?
生きてた時の知り合いなのか??
よくわからない。
でももし、生きてた時の知り合いで、側にいるのにキネセンが気づいていないのなら、少し可哀想な気がした。
優しそうに笑っていた。
それが例の幽霊に対する、俺の最初の感想だった。








放課後、スマホ片手にうろつく生徒が数人いた。
その中に田所も混ざっていたので、何をしているか聞いてみたら、幽霊探知機のアプリで例の幽霊を探しているそうだ。
皆、暇だな。
と言うか、こう言うことには積極的だよな。
見つけたらラインする、と言って田所達は散っていった。
俺は気にはなったが、闇雲に探す必要はないとわかっていたので、黙っていた。

幽霊探知機か……。
俺はアプリを検索して、良さそうなのをひとつダウンロードした。
そしてそれを持って、科学準備室に向かった。





「今日はどうした?」

科学準備室のドアをノックすると、かったるそうなキネセンがそう言った。
俺は顔色を変えずに聞いた。

「昨日、誰と話していたんですか?」

「は??」

「俺がノート持ってきた時、誰と話していたんですか?」

「だから電話だって。」

「誰と?」

「お前は俺の彼女か……?何でそこまで言わないといけないんだ??プライベートだ。」

「先生、うちの学校七不思議があるの知ってる??」

「どこの学校にもあるだろ?それがどうした?」

「梅雨になると出てくる男子生徒の幽霊の事は??」

「いや、知らんけど?……あっ!!それでか!!何か生徒が校舎内を何人もうろうろしてるのはっ!!」

「うん。そうだよ。」

「……で?お前は何の用なんだ??お前も幽霊探してるのか??」

「うん。ここにいると思って。」

「は??」

「先生、気づいてる??梅雨の幽霊、キネセンにくっついて歩いてるよ??」

「は…??何だそれは??お前、大丈夫か?柘植??」

「平気。でも俺、もう2回見たよ?先生の側で?」

「見間違いだろ??」

「キネセンにくっついてるんだよ。多分、気づいて欲しいんだろ?にこにこ見てたよ、キネセンの事。」

「あのな~。」

「だってほら、反応あるし。」

俺はそう言って、アプリを見せた。
キネセンは怪訝そうな顔でそれを覗き込んだ。

「お前……こんなオモチャに騙されるなよ……。」

キネセンは呆れたようにそう言った。
なので、俺も同じ調子で言ってやった。

「まぁ、俺も別にこれは信じてませんけど。でも…………先生の肩越しからスマホ覗き込んでるのは誰ですか?」

まるでおんぶされているように、キネセンの後ろから興味津々と言った感じで顔を出している男子生徒を俺は見ていた。
うん。
こんな簡単に出てくるとか、チョロすぎだろ?
何日かはかかると思ってたのに、即終了だよ。
キネセンははっとして顔を横に向ける。
男子生徒はあわあわした顔をして消えていった。

「……ね?いたでしょ?」

「柘植…お前……。とりあえず、科学室のドアを開けるから、ちょっと入れ……。」

キネセンははぁとため息をつき、頭を押さえながらそう言った。
やはり、科学準備室には入れないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

もういいや

senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...