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本編

勝負の行方

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『さて!!ではここからいよいよ!!総合順位の発表です!!』

『毎年の事ですが、三年の順位は総合順位とも近いので!全体の順位発表の後、行いたいと思います!!』

どこからともなく拍手が起こる。
放送がバレンタイン合戦の全てが集約されている、全体総合順位の発表に移ったからだ。

いよいよだ。
俺達の高校三年間最後の3学期の全てがここにある。

「頼む~!!」

誰かがスピーカーに祈るように手を合わせた。
その絞り出すような声。
皆がやはり緊張した面持ちで黙り込んでいる。

なんだかんだ言ったって、3年最後のバレンタイン合戦。

どこかでクラス名であり俺の名前が呼ばれる事を期待しているのだ。
机にへばりついたまま、顔だけ上げてスピーカーを見上げる俺の側にライルが来て、ぽんっと肩を叩いた。
それに力なく笑い返す。

「そんな気負うなって、サーク。俺達はやるだけやった。俺はお前を優勝させるつもりでやりきった。あとは野となれ花となれ。お前が気にする事じゃない。」

「まぁ、そうだけどさぁ~。」

「少なくとも、実行委員会が数を確認しないとならなかったところまで来たんだよ、俺達は。」

「うん……。」

「それに、順位がどうであれ、俺達はすでにバレンタイン合戦に一矢報いた。」

「え?!」

「『平凡姫』。サークと俺達はバレンタイン合戦の長い歴史の中にその名を残した。」

「平凡姫」が??
俺はぽかんとライルを見上げる。

いや、確かに「姫」の中で、特殊中の特殊だったよ?俺は??
普通は可愛いか美人な奴が「姫」になるのにさ、可愛くも美人でもない「平凡」な俺だもんよ??
だからあまりに変だから「平凡姫」なんてありえない通り名をつけられたんだしさ??
不思議そうにする俺の肩を、ライルは強く握る。

「通り名が定着するのは簡単な事じゃない。通り名のない姫だってたくさんいる。むしろ通り名がない姫の方が普通だ。でも、サークは通り名を持った。しかもサークは3学期だけの「姫」。一年から注目されていた「姫」ならまだしも、たった数ヶ月、いきなり出てきた「姫」に通り名が定着するなんて稀だ。おまけにめちゃくちゃ美人な訳でもずば抜けて可愛い訳でもなく、どこをとっても平凡な「姫」だぞ?放送でも言ってたよな?お前が出てきた時は三年C組は勝負を捨てたんだと思ったって。」

「まぁ言われたな?」

「でも結果はどうだ?サークは『平凡姫』の異名を残した。一年から「姫」をしている訳でもなく、ずば抜けて可愛い訳でも美人でもない上、「レジェンド姫」と呼ばれるバレンタイン合戦の歴史の中でも飛び抜けた美人揃いの「姫」がいる中、たった数ヶ月「姫」をやって『平凡姫』の異名を残したんだ。美人でも可愛い訳でもなく、部活や趣味で突出した才能がある訳でもない「平凡」なサークが、「平凡である事」を武器にここまで戦い、『平凡姫』の異名を残したんだよ。バレンタイン合戦の歴史史上、これほどすごい姫はいない。勝負を捨ててると思われていた俺達は、バレンタイン合戦に一矢報いたんだよ。」

そう言われ、俺は体を起こしてライルを見つめた。
クラスメイト達もライルを見つめ、そして納得したように笑った。

「だな!俺らはやってやった!!」

「一矢報いた!!」

「試合に負けても勝負には勝ったってとこだよな?!」

「おい!まだ負けてねぇっての!!」

固くなっていた雰囲気が和らぎ、いつもの馬鹿みたいな雰囲気に戻った。
そんな皆を見ていたら、俺もどうでも良くなって笑ってしまった。

『第五位!!』

そこに順位を告げる声がスピーカーから響く。
俺達は皆、覚悟を決めてスピーカーを見上げた。

『三年D組!!ヤンキー姫こと!ガスパー姫!!』

おお!という声とえぇ?!という声が混ざる。
俺もどちらかというとえぇ?!の方だった。

「え??何で??本命一位じゃん??」

「……でも、総合金額には入ってなかったな……??」

不思議がる俺達の謎を解くように放送が続く。

『本命数一位だったヤンキー姫ですが……。』

『実は貢物の殆どが本命だったという、ある意味伝説的な結果になりました!!』

『やはりちょっと怖いイメージが払拭しきれなかったようで、気軽に貢物をできなかったというのがこの結果のようです。』

『いやでも、むしろ、ほぼ本命で五位って方が凄いかと……。』

『だってヤンキー姫……本当は可愛いんだよ!!美人だし!可愛いんだよ!!……何で!!何で三年間!ガスパーの魅力に気づかなかった!俺!!』

『あはは!まぁ、最後に知れたんだから良いじゃねぇか!相棒!!』

そうか……本命は凄かったが、普通の貢物が少なかったのか……。
納得したが、逆にそれは凄いなとビビる俺達。
妙な騒ぎになっている雰囲気の、D組側の壁を見つめた。

「……まぁ、何にしろ……五位に入ったしな……。」

「うん……よかったな、D組……。」

その先を誰も言わない。
俺は心臓が痛くなってきた。
ランキングに入るなら五位しかなかった。
ここに入らなかったという事は、やはり六位か七位なのだろう。

『続きまして!!総合ランキング!第四位!!』

『二年C組!!リグ姫!!流石に強い!!懐き姫!堂々!二年からランキングに殴り込んできました!!』

『流石ですね!!』

『いや!俺はリグちゃんは三位以内に来ると思ってたんだよ!!本心では四位でびっくりしてる……。』

『う~ん。リグ姫は前半は凄かったんですよ!ただ後半の伸びがあまりなかったんですよね~。それで後半に人気が急上昇した姫の追い上げに追いつけなかった部分があったというか……。』

『まぁ……後半追い上げ組は凄かったもんなぁ~。』

『こんな予想打にしない、訳のわからない展開になったのって、バレンタイン合戦始まって以来じゃないかと思いますよ~。』

『そりゃシルクちゃんもリタイアするし……番狂わせどころの騒ぎじゃなかったもんなぁ~、のっけから……。』

やはりシルクリタイアの影響は大きいようだ。
ある意味大混乱に陥らせたイヴァンは、残りの一年間、ずっと色々言われるんだろうなぁと苦笑いしてしまった。

『では気を取り直しまして!』

『堂々!第三位は!!』

ここでまたドラムロールが入る。
流石に三位からの順位になると、学校全体の雰囲気が変わる。
特に三年は緊張感が漂っている。

『第三位!!三年E組!!ライオネル殿下!!』

『セレブ組三年!リオ姫ことライオネル殿下が三位入賞です!!』

途端、わっと声が上がった。
三年だけじゃない。
一、二年からも悲鳴のような歓喜の声が上がる。

「……リオ、頑張ったんだな。」

俺もちょっと嬉しくて拍手を贈る。
セレブ組は学年を通じて、「セレブ組」という別枠みたいなところがあって、三年でもあまり三位以内に入賞する事がないのだ。
セレブの連中は、下々の者が近づくなみたいなところがあるし、俺達の方も何となく近づきにくいなという雰囲気があるからだ。

でも、リオはそんな中で三位入賞を果たした。
それだけリオがセレブの連中だけでなく、皆に愛されていたという事だ。

『いや~、ライオネル殿下。後半の追い上げがなかなか凄かったんですよ!』

『そうそう。特に平凡姫のもぐもぐタイム以降、お笑い好きという話が伝わった事で親近感を持った隠れファンが、貢物ボックスに殺到しまして。』

『そうそう。後半、五位のガスパー姫は本命数が激増したのに対し、リオ姫は普通の貢物が激増したんですよ!!』

『セレブ姫に変なもの渡したらマズイよなと躊躇していた隠れファンたちが、親しみを感じられた事で安心して貢物を渡したりボックスに入れる事ができた為、総数が爆上がりしました!!』

『駄菓子などもライオネル殿下は喜んで下さった模様。』

『周りのセレブたちは止めようとしたりする一面もあったようですが、リオ姫は「それ!サークがもらってるお菓子だよね?!」と仰られ、わざわざ席を立って直接受け取って下さる一面もあったようです。』

『こんなところにも平凡姫の影響が……。恐るべし、平凡姫。』

『いやだって、リオ姫様。サーク姫に食べさせたロシアンルーレットマカロン、本命だったらしいよ??』

『ウッソ?!本命?!本命なのにロシアンルーレットなの?!怖っ!!』

『はんなりしてらっしゃるけど……本命にはちょっとSっ気あるのかもなぁ……。』

『……ちょっと……ちょっとだけなら、リオ姫様なら俺、イジメられてもいいかも……。』

『バーカ、天下のライオネル殿下が、お前なんか虐めて下さるか!思い上がんじゃねぇぞ?!』

話が変な方向に行き、どっと笑いが起こった。
まぁ……Sっ気はわからないけど……。
リオは悪気なく素でアレをやらかすから、もしも付き合うなら覚悟がないと無理だとは思う。
ちなみに俺にはその覚悟はない。
アレは……あの記憶は、早く消し去りたい……。
俺は思わずブルっと体を震わせた。


『それでは!!それではいよいよ!!一位二位の発表です!!』


そして鳴り響くドラムロール。
一位はもうわかりきっている。

ウィルだ。

シルクがリタイアしたならウィルしかいない。

あれ?
でもそうすると二位って誰だ??

リオもガスパーもリグももう発表されたぞ??
テンションが高かったから気づかなかった。

不思議そうにする俺の肩にライルが手を置いた。
見上げると、フフンと自信有りげに笑っている。

……いや、まさか、ね??

俺は微妙な顔で笑い返す。
何となくギルを見ると、いつもの無表情だった。
変わんねぇなぁ、コイツ。

長々続くドラムロール。
俺はスピーカーを見上げる。



『今年度!バレンタイン合戦!優勝は……っ!!』

『同点!!なんと同点で!三年B組ウイリアム姫!!』

『そしてなんと!!三年C組!!サーク姫!!同点一位で優勝です!!』

『繰り返します!!ウィル姫とサーク姫が同点優勝です!!』



一瞬の間。

その後、わっと声が上がる。
しかし俺は驚きすぎて固まっていた。

喜びのあまり飛びついてきたクラスメイトが俺の肩を揺さぶる。
でも現実味がない。


え??

え?!

何だって?!


俺とウィルが同点?!
同点優勝?!



「……嘘だろぉ~っ?!」



何それ?!
あり得ないだろ?!

呆ける俺にライルが笑う。


「言っただろ?お前を優勝させるって。」

「……いや、でも?!」


そう言われてもよくわからない。
クラスメイトがあんなに恐れていたギルを押し退け集まってきて俺を取り囲む。
少しだけ現実味が戻り、やっと周囲の音が聞こえるようになる。

「よくやった!サーク!!」

「おっしゃぁ~っ!!」

「サーク!!スゲェー!!優勝だ!!」

「同点だってよ!あのウィルと同点優勝だぞ!!」

「アホみたいにうまい棒ばっかだったけど!!貢物の数には変わらないもんな!!」

「よくやった!!サーク!!」

胴上げでも始めるんじゃないかと言う勢いでもみくちゃにされる。
それでも俺は実感が沸かない。


『あははははは!!スゲェーよ!!平凡姫!!』

『うん。これは歴史に残るよ~。』

『ちなみに平凡姫、うまい棒ばっかだから。うまい棒、お菓子問屋かよって数、貰ってるから!!』

『なのでぱっと見と言うか……金額的に考えても、どう考えてもウィル姫が優勝って言いたいんだけどさ~!!バレンタイン合戦って、総合数を競ってるからさぁ~!!数だけ見ると同点なんだよ!!』

『あはははははっ!!も~!!まじウケる!!平凡姫、まじウケる!!サイコー!!平凡姫!!』

『いや~。数の確認もして、実行委員会でも協議したんですけど~。貰った貢物の総合数で優勝を決めるって事なので、ウィル姫とサーク姫が同点優勝となりました~!!』

『も~!!サークちゃん!!最高!!大好き!!どんだけバレンタイン合戦の歴史を塗り替えんだよ!!面白すぎる!!』


放送室ではゲラゲラ笑われている。
他のクラスなんかでもあちこちから笑い声が聞こえる。

まぁ……そうだよなぁ……。
数が同点だったとしても、それがちゃんとした姫への貢物なのと、ウケ狙いのうまい棒数が同じだって言われても、これ、同点優勝って言っていいのかって思うよな……。

でも内情がわかって俺も納得した。
確かに総合数では同点だったかもしれない。
でも内容から考えたら、ウィルが優勝だ。
それは放送を聞いている誰もが思っただろう。


『と、言う訳で!優勝は三年B組ウイリアム姫と三年C組サーク姫の同点優勝でした!!』

『それから六位、一年フイッツ姫、七位は二年ザック姫でした!!』

『三年ランキングは言わなくてもわかるよな?!』

『ついでに言うと、リタイアしたけど、シルクちゃん、全ランキング総ナメしてっからな!!リタイアしなかったらシルクちゃんの独り勝ちだからな!!』

『凄いよな~。結婚してもアイドルですって感じ。』

『結婚言うな!!結婚はしてねぇ!!』

『いやでももう本当!!大波乱でしたよ!!まさかシルク姫がリタイアするとは!!そして平凡姫が同点とはいえ優勝するとか思わなかった!!』

『も~!!こんな大乱闘みたいなバレンタイン合戦!!二度とないぞ?!』

『いやいや!!いつだってそこにドラマがある!!それがバレンタイン合戦!!』

『来年も頑張れよ!!一、ニ年生!!』

『お前らの健闘を祈る!!』

『ありがとよ!!皆!!ありがとよ!相棒!!』

『こちらこそだこの野郎!!』

『それでは皆様!!』

『『ご清聴!!ありがとうございました!!』』


こうして、バレンタイン合戦は終わった。

呆然とした俺はただ、ハイテンションなクラスメイトにもみくちゃにされながら、現実味を感じられない中でぼんやりとしていたのだった。
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