姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

想いの結晶

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『まぁ、当然の結果といえば当然の結果だったんですけど~。』

『そりゃな、セレブ組は資金源が違うもんよ~。』

放送は以前続いている。
何の話かというと、予想総合金額順位発表だ。
一、二年のランキング発表の後、予想総合金額ランキングが発表されたのだ。
当たり前と言えば当たり前なのだが、総合金額ランキングはセレブ組が殆どだ。
正直、何で総合金額のランキングなんかあるのかなって感じなのだが、セレブ組が殆どという事から何となく誰も何も言わずにいる。
まぁ、アレだ。
俗に言う「忖度」って事だろう。

一位、リオ。
二位が二年のセレブ組の姫、デニー姫。
三位がウィルだった。

「……ウィル、入ったな。」

「うん。」

「セレブ組に食い込んだって事はさ……。」

「おい……っ!」

ちょっと皆が気まずそうにする。
俺の事を見るような見ないような……。

皆がどういう意味で俺に変な気を使っているのかはわからなかった。
でもそれに「気にしてませんよ?」って顔をするので俺は精一杯。

ウィルが優勝だろう事はわかってるんだ。
でも総合金額ランキングに入ったって事は、それだけ本命が多かったって事だ。
それを思うと胸が痛い。

俺は、ウィルにどう答えたらいいんだろう?

ウィルが好きだ。
でも、俺は躊躇している。
自分に自信がない。

こんなにもたくさんの人に愛されるウィル。
その隣に立つ自信がない。

「……イヴァンてすげぇな……。」

アイツはバレンタイン合戦始まって以来の究極の姫と呼ばれたシルクに告白した。
その隣に立つって決めたんだ。
その覚悟があったんだ。

俺は……どうしていいのかわからない。
ウィルが好きだって言ってくれているのに戸惑っている。
俺だってウィルが好きだ。
嘘じゃない。
でも……。
俺なんかが……って気持ちを捨てきれない。

それに怖い。

だいぶ復活はしているが、たまに自分がいきなり崩れる。
学校ではどうにか表面上は繕うが、説明できない感情に振り回され不安定になる。

それにまだ薬も飲んでる。
基本は漢方薬だけだが、頓服の薬も通院に行く頃には無くなっている。
テンションの高かったドイル先生フィーバーも落ち着いてきた今、最近の俺の様子からカウンセラーさんは頓服をやめて弱い薬を常時飲むようにした方がいいかもしれないと言った。
でもそれをすると戻れなくなりそうで怖い。
不安が顔に出たのだろう。
カウンセラーさんは笑って、次回までの様子で決めようねと言ってくれた。

どことなく不安定な俺。
それを隠している俺。

カウンセラーさんはあんな事があったんだから不安定になるのは当たり前だし、こういうものは執拗い風邪みたいなもので、良くなってまた下がってみたいな上下を繰り返して徐々に良くなるものだから、焦らずに行こうと言ってくれた。
最初は俺のどこを見ているのかわからなくて少し警戒していたけれど、今は一番、俺の本当の部分を知っている人だと思う。

大丈夫。
薬の力は借りているけれど、俺は普通に生活できている。

そう思うけれど、それはまがい物なんじゃないかと思える時がある。
薬によって作り出されているだけで、俺は本当は狂っているんじゃないかって。
狂っているのを薬で補正して正常値にしているだけで、飲むのをやめたらおかしくなってしまうんじゃないかって。

そして……。
そんな俺をウィルがどう思うだろうと不安になる。

ウィルは弱い俺を馬鹿になんてしない。
わかってる。
でも、弱い俺をウィルに見られたくない。

勝手な意地だ。
ウィルにはかっこいい俺だけを見ていて欲しいって。
まぁ、俺は別にカッコイイ訳じゃないけど、だからこそ、せめてかっこ悪いところは見られたくないんだ。
弱ってる駄目な俺を見て欲しくない。

ウィルが好きだ。
だから……。


「……サーク、大丈夫か?」

「うわっ?!びっくりした!!」


いきなり声をかけられ、俺は飛び上がるほど驚いた。
いつの間にか、俺のストーカーファースト騎士が側に来ていた。

何なんだ?!コイツは?!
音もなく近づくなっての!!

音もなく現れたストーカーもとい俺のファースト騎士は、いつの間にか制服に着替えてそこに突っ立っていた。

「……っていうか?!何で当然のようにうちのクラスにいる?!」

「……騎士は姫のクラスにいてもいいんじゃないのか?シルクの騎士は殆どA組にいるぞ??」

「いや……まぁ……。」

驚きすぎで引いている俺。
そんな俺を無表情に見下ろすギル。

コト……と何かが机に置かれる。


「ナニコレ??」

「……渡しそびれた。」

「……………………。今更?!」


そこには本命シールのついた、小さな箱があった。
何と言っていいのかわからなくて、俺はギルを見上げる。
周りもツッコむにツッコめずに微妙な顔でこちらを見守っている。

「……すまん。金額がオーバーした。」

「それじゃ正式なカウントにはならねぇな。」

「だから全て終わって落ちついてから渡そうと思って取りに行ったら……シルクに自分にはないのかとゴネられてな……。」

「まぁ……普通は自分とこの姫にも用意するよな……。騎士として他のクラスに行くなら尚更、詫びというか穴埋めとして普通はそれなりのモン置いていくし。クラスメイトから貰う貢物もランキングにも関わるし。……とはいえ、うちのクラスはほぼ全員、うまい棒だったけど。」

軽くジト目でクラスメイトを見る。
なのに立番で貰ったうまい棒、食い尽くしやがって……。
食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ。

「いやだって、貢物であんなにうまい棒が来るとか思わなかったしさ~。」

「そうそう。仮にも姫への貢物なんだから、もう少し色がつくと思ったんだよ~。」

「まぁ……そこは俺も予想外というか……もらえて嬉しいし反面、俺って何だと思われてんのかなぁって思ったけどさぁ~。」

実行委員会が持っていった貢物を思い出し、ちょっと凹む。
でもレジェンド姫たちと俺の差だと思えば当たり前だとも言えるんだけどさ。

そう、普通は騎士として自分のクラス以外の姫の所に行く場合、埋め合わせとしてクラスの皆が食べれそうな菓子なんかを置いてバレンタイン合戦に臨む。
誰が決めた訳でもないけれど、やっぱり自分のクラス以外でバレンタイン合戦を戦うのだから、角が立たないようそれなりの物をクラスの姫に置いていくものだ。

だがこの世間知らずな新米ファースト騎士は、どうもシルクに何も渡さずに俺の騎士としてこっちにいたらしい。
そりゃ確かにシルクは貢物の一つや二つでどうこうなる姫じゃないけどさ。
俺に10点減点だってされてんだから、せめてカ○ディとかでチョコの詰め合わせか何か買って置いていく配慮はあってもと思う。

うちのクラスで誰かの騎士をしている奴も、ちゃんと俺への(というかクラスへの)菓子を置いて行った。
ただ、それも「うまい棒詰め合わせセット」だったりと、完全に笑いに走られていたけれど……。

……んん??

何??やっぱ俺ってお笑い芸人的な担当?!
リオにもロシアンルーレットやらされるし……。

「……何だよ~、結局、俺はイロモノなんだよ~。姫になる時、お笑い路線は目指さなくっていいって言われたのに~。」

「まぁ……サークは三枚目キャラで売ってたんだし、しかたなくないか??」

「それだけ身近だったって事だよ!!」

皆からよくわからない慰めを受ける。
まぁ、気軽にポチッといいねをするみたいに、気軽にポイッとうまい棒を皆がくれたんだと思えば有り難いしわからなくもない。
それにアホみたいな数のうまい棒だけど、そのお陰で何かに引っかかって数の確認作業を実行委員会がしているんだから、やはりくれた人には感謝しかない。

そう思いながら、ギルの置いてくれた箱を触る。
何か小さい割に随分立派な箱っぽいな??

「……オーバーって、どれくらいオーバーしたんだよ??」

「消費税を考えなかった。」

「初歩的ミスだな。」

貢物上限金額は税込み1000円までだ。
俺の前に相変わらず無表情で突っ立っているファースト騎士。
というか、もうバレンタイン合戦終わったんだから騎士してなくてもいいのにな??
クラスの連中なんて、終わった瞬間から俺に興味無しだし。

「……開けていい??」

「あぁ……。」

俺はその、小さすぎて本命シールが目立つ箱の包みを開いた。



「……えっ?!」



俺は中身を見て固まった。
そして顔がかぁっと熱くなるのを感じた。

それは鉱物標本だった。

綺麗な石が小さなプラスチックケースの中の綿の上に、恭しく乗っかっている。


「……化石の方が好きなのだと思ったが……それは値段的に無理があったんでな……。まぁ、どうせオーバーするなら、そちらにすれば良かったのかもしれないが……。」


ギルは明後日の方を見ながらボソッとそう言った。
俺は口元を押さえてそれを見つめる。

物凄く恥ずかしかった。
だって、これを選んで俺にプレゼントするって事は、俺の事を、俺の性格を、よく理解しているからだ。
俺がどんなものが好きで、どんなものを喜ぶか、食べ物以外の事をよくわかった上で考えて選ばなければ「鉱物標本」なんてマニアックな答えには行き着かない。

「……ふ~ん?良かったな?サーク?」

他の皆が、オーバーしてあえてそれ?!という顔をする中、ライルだけが物知り顔でそう言った。
皆と違い、ライルはわかるのだろう。
これを贈られて俺がどんな心境になったのか。
俺は恥ずかしくて机に突っ伏した。

「……すまん、気に入らなかったか……。」

「逆、逆。嬉しいんだけど、どうしていいのかわかんないんだよ、サークは。」

俺の態度にどことなく沈んだ声を出したギルを、ライルが明るくフォローする。
いや……悔しいがその通りだ。

見た瞬間、あっ!と思った。
普通に喜んでしまった。
嬉しかった。

でもそれがこの状況で、ギルからの貢物(予算オーバーの為カウントにはならない)だと思ったら、もう、物凄く恥ずかしくなってしまったのだ。

半信半疑のギルは、笑うライルと突っ伏したままの俺を見比べ、やはり無表情に突っ立っている。


『そして本命総数!第一位は……っ!!』


放送は本命数のクライマックスに入っていた。
無駄に演出でドラムロールが入る。
ジャーン!というシンバルの後、放送部員は声高らかに叫んだ。


『三年D組!!ヤンキー姫こと!ガスパー姫っ!!』


えぇ~っ?!という声があちこちから響いた。
しかし隣のクラスは盛り上がっている様子。
俺達はD組のと壁の方をチラ見し、拍手を贈った。
多分、ガスパーは真っ赤になって悪態をつくか机に突っ伏しているだろう。
そう思ったら、ちょっとニヤッとしてしまった。

『本命総数!!第一位はヤンキー姫!!』

『まさか!まさかのガスパー姫!!』

『いや~、元々、前からずっと人気はあったんですよ~。でもヤンキー姫じゃん??本命とか持っていったらヤバイかもって躊躇していた人が多かったんですよ!!』

『しかし今年は三年生!!今回渡さないと!もう渡す機会なんてない!!』

『それで殴られる覚悟で本命を届けに行った生徒が多かったんですよね~!!』

『というか、バレンタイン合戦実行委員会室になっていた生徒会準備室前の貢物ボックス。ガスパー姫だけやたら本命ばかりが入れられていましたからね~。』

『本来は渡しに行くほどじゃないけどって姫への貢物を入れるのが通例の実行委員会室前貢物ボックス!直接私に行く事を躊躇った本命ファン達もこっそりそこを利用したようで!!』

『クラス前の貢物ボックスにも本命、結構入ってましたからねぇ~。』

『また、平凡姫との絡みで意外と親しみやすい事や可愛さが露呈してしまい!そのキャップにキュンとさせられた生徒は数しれず!!飛び込みの本命も多かったんですよ!!』

『そういやお前、渡したの??』

『……クラス前の貢物ボックスに。』

『本命??』

『あたぼうよ!!本当は直接渡したかったけど~。元々、ヤンキー姫、直では受け取らないシステムじゃん?!放送準備で時間もなかったしさ~。ちらっと教室覗いて拝んできた!!お前は?!』

『渡して来たぜ?!失恋確定のシルクちゃんに!!』

『よく頑張った!相棒!!』

『ありがとよ!相棒!!』

そんなやり取りに何故か拍手が起こる。
本当、仲いいな、こいつら。
なんだか微笑ましくて俺もちょっと顔を上げて笑ってしまった。
目の前の無表情ファースト騎士も、どことなく微笑んでスピーカーを見上げて手を叩いている。

「…………………………。」

俺は……どうしたらいいんだろう?

ギルは何も言わない。
俺は机に体を預けたまま、貰った鉱物標本を見つめる。

本命。

ガスパーもリオも本命をくれた。
それは単なる「姫への貢物」なのかもしれない。

誰も何も言わない。
姫への貢物なんだからそういうものだろう。
本命推しの「姫」っていう。

でも……。

くれたシュチュエーション。
くれた背景。
そういうものまで考えてしまう。

……そういう意味だったら、俺はどうしたらいいんだろう?

ちらっと見上げると、ギルとバチッと目が合った。
速攻で反らせて、突っ伏した。

「……………………。」

ガスパーやリオの事はちょっとわからない。

でもギルは……。

ウィルの事だって……。


俺はどうしたらいいんだろう?


バレンタイン合戦の放送が続く中、俺は一人、頭をぐるぐるさせていた。
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