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本編
奇妙の連鎖
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これは本当にいったいどうなっているんだ……。
サークは自分の置かれている状況が理解できなかった。
「姫」になってからおかしな事が続いているとはいえ、ここまで来ると理解不能だった。
「はい♡サーク、あ~んして♡」
「いや……自分で食えるから……。」
目の前でシルクが卵焼きを箸で摘んでニコニコしている。
「何でだよ~!!俺!今朝、5時に起きて作ってきたのに~!!」
「それはありがたいよ?!本当にありがとう?!でもな?!それと「あ~ん」は違うだろ?!」
「何で~!!頑張ったんだから!あ~んさせてよ!!」
ジタジタと足をバタつかせる。
その拍子にスカートが捲れ上がるもんだから、俺は慌てた。
「わかった!わかったからスカートで足をバタバタさせんな!!」
皆、もう、シルクのスカートの下が体操着の短パンだとわかっているのに、見えそうになると色めき立つのは悲しき男子校の性というものなのか……。
俺は渋々、口を開けた。
そこにシルクが朝、5時に起きて作ってくれた弁当の卵焼きが放り込まれる。
「うふふっ♡美味しい?!」
俺は口をもごもごさせながら何度も頷く。
正直、ちょっと俺には甘すぎだなぁと思ったが、これはこれで悪くない。
第一、人に作ってもらったものに文句をつける何て失礼な事、余程の事がない限りするべきじゃない。
「あ!そこ!!写真及び動画の撮影は禁止っつってんだろ!!出禁にすんぞ?!」
「すみませ~ん!!あまりに可愛くてつい……。」
「はい、データは消してください~。」
聞こえる声に、俺はがっくりと項垂れた。
その頭をシルクがよしよしと撫でてくる。
「……何で……こんな事に……。」
「あはは!姫なんだから仕方ないじゃん!!」
「お前……全然、平気だな……。」
「慣れだよ、慣れ。」
「俺は絶対、こんなの慣れられない……。」
離れた場所に並べられた椅子にずらりと座るギャラリー。
それを誘導・監視するクラスのメンバー。
前後の入り口には、ギルとエドがそれぞれ立って、許可なく教室内を覗こうとしたり入ろうとする奴を無言で威圧している。
「凄いなぁ~サーク。さすがは俺の見込んだ「姫」。これでバレンタイン合戦も安心して迎えられるなぁ~。」
ライルが上機嫌でそう言った。
にこにこ笑っている俺の「姫騎士」をムスッとしたまま睨みつけてやった。
まず、どう言う状況下というのを説明しなければならない。
ギルとエドが俺の騎士見習いになってくっつくようになってから、何故か休み時間になると各クラスのレジェンド姫達がこぞって俺のところに来るようになった。
ただ、彼らは「姫」中の姫、レジェンドクラスの「姫」なのだ。
そんなレジェンド姫達が一つのクラスに集まったら、本当、大騒ぎになる。
俺のクラスは常に人だかりができて大変な事になった。
それはまずいと思ったようで、レジェンド姫達の間で話し合って俺のところに来る当番を決めたらしい。
「はい!サーク!笑って!!」
「いや、あんま笑える状況じゃないんだけど……。」
「あ、シルク。俺が撮ってあげる。」
「ありがと♡」
「おい、俺の話も聞け……。」
スマホを向けられ顔を顰める俺を無視して、ライルはシルクのスマホを受け取った。
案の定、俺にピタッと引っ付いたシルクとのツーショットを連写で撮られた。
「何故、連写……。」
「え~??一番可愛いのを選ぶためだよ~??」
そんな数秒間で何か変わるものなのだろうか……俺には理解的ない……。
シルクはライルからスマホを返されると、撮った写真を選び始めた。
俺はその隙に弁当を自分で食べ勧めた。
……………………。
このタンドリーチキンみたいなの、旨いな。
後で作り方、教えて貰おう。
シルクは撮った写真を選び終えたのか、満足そうに送信する。
どうもレジェンド姫達のグループラインがあって、何かそこにお互い情報を上げているらしい。
何で姫達が俺の情報を共有してるのかは謎なのだが……。
ただ当番で来ると、結構な頻度で各姫に写真を撮られて上げられている。
写真を送り終えたシルクは、タンドリーチキンみたいなのを食ってる俺を満面の笑みで見つめてきた。
「あ!それどう?!」
「めちゃくちゃ旨い。」
「でしょ?!昨日から漬け込んどいた自信作なんだ~!!」
「わざわざありがとな。マジで凄い旨い……。どうやって作るんだ?!」
「えへへ~。普通のタンドリーチキンと同じだよ?でもスパイスの割合はうちん家に伝わる秘伝だから教えられない~。」
「店でも出せそうな旨さなんだけど?!」
「うん、売ってるよ?」
「え?!マジ?!」
「うん。怪我で武道が続けられなくなったおじちゃんとおばちゃんが食堂やってて、そこで出してる~。」
詳しくは知らないが、シルクの家系は代々ある古武術を継承しているらしく、その道では有名らしい。
俺の憧れドイル先生とも遠縁の親族に当たるようで、ドイル先生を見てその古武術を研究したいと申し出た学園経営陣に対し、先生が自分は協力できないからと話し合った結果、若手のシルクがその候補者として選ばれてうちの学園に推薦で入ってきたらしい。
研究に協力するか否かはシルク本人の希望が優先されるらしいが、学内受験をして進学するという事は、シルクはその事に協力的なのだと思う。
「へ~、その店、行ってみたいな~。」
「え~?!食べたいなら、俺がいつでも作ってあげるのに~!!」
そんな他愛もない会話をしながら食事をする俺達を、ギャラリーが興奮気味に眺めている。
めちゃくちゃ気になる……。
そう、ギャラリー。
レジェンド姫達が当番で俺の所に来るもんだから、当然、その姫推しの連中がくっついてくる。
そしてそれを利用しないライルではない。
他の休み時間はともかく昼休みは時間も長いし来る人数も多いので、俺の売り込みを兼ねて積極的に見学者の受け入れをしていて、俺とレジェンド姫の席を奥の窓側に作り廊下側に見学席を設けている。
席だけじゃ足りなくて、立ち見もいるのだから本当、レジェンド姫達の人気は凄いと思う。
「お前らって……マジ、人気だよなぁ~。」
シルクの作ってくれた弁当を食べ終え、俺は色々通り越して感心したようにそう言った。
それに対してシルクはチラッとギャラリーに目を向けた後、大げさにため息をついた。
「あれが全部、俺や他の姫の追っかけだと思ってるの??」
「違うのか??」
「よく見なよ。誰が来るかに関わらず、毎回の様に来ている人もいるでしょ??」
「写真・報道部の奴だろ??」
写真・報道部と言うのは、写真部と新聞部とジャーナリズム研究会がまとまった部活で、学校内の出来事を写真に取り、インスタやホームページや紙媒体の情報誌を出したりする部活の事だ。
バレンタイン合戦前は学園祭前後並に活動が活発になり、こうして話題のある所には必ずいるのだ。
「まぁ……報道部の人達もいるんだけどさぁ~。」
ファンサを欠かさないシルクは、見学席のファンに笑顔で手を降って応えると、俺の方を向き直って小さくため息をついた。
「サークって本当、自分の事に無頓着だよねぇ~。」
「は?!何言ってるんだ?!」
「だから俺達、心配してるんだよ~。」
「…………は?」
「まぁ、それがサークの良さでもあるからさぁ~、良いって言えばいいんだけど……。俺達だって、ずっと誰かが一緒にいてあげられる訳じゃないしさぁ~。」
「何、言ってるんだ??シルク??」
「別に~??」
シルクはそう言って、一瞬だけエドを見た。
その目は試合をする時みたいに鋭くて、俺はちょっと焦った。
「……もうエドの事は気にするなよ、シルク。許す許さないはシルクの気持ちが決める事だから俺はとやかく言わないけど……。」
「俺の事じゃない。俺の事なら何も気にしてない。俺はアイツより強いもん。」
「まぁ……そうだけど??」
確かにエドよりシルクの方が強い。
それがあるからか、あんな事があってもシルクはエドを必要以上に気にかけたりはしてこなかった。
だったら今更何だって言うんだろう??
俺は良くわからず言葉を濁した。
「……あ!!ふふっ。」
「え?今度は何だよ??」
「リオがね~、明日はスペシャルランチを用意してくれるって~。いいなぁ~セレブ姫のスペシャルランチ~。」
唐突にそう言われ、俺は固まった。
え??リオがスペシャルとか言うランチって、何かヤバすぎないか??
庶民が口にしていいものじゃない気がするんだけど?!
「いや!大丈夫だから!!自分で弁当、持つもてくるから!!」
「え~?!サーク、リオの好意を無視するの~?!信じらんない~!!ひどい男~!!」
「いや!好意はありがたいよ?!今日のシルクの弁当も旨かったし!!」
「……え、あ……ありがと……サーク……。そう言ってもらえると……俺、凄く嬉しい……。」
「あ、うん……。」
急にしおらしくもじもじ言われ、俺も動揺してしまう。
そして昼休みも終わってしまい、俺はまた断り損ねてしまった。
そう、昼休みにレジェンド姫達が来るようになって、もう一つ変わったのが俺の食事だ。
ウィルがサンドイッチとクッキーを作ってきてくれたのがきっかけで、皆がこぞって昼飯を持ってきてくれるようになった。
本人の手作りの事もあれば、なかなか買えない限定メニューの駅弁だったり、思考を凝らして皆が俺に昼飯を食わせてくれる。
今や学内で知らぬものはいない生きた都市伝説……。
「平凡姫はレジェンド姫達からこぞって手作り弁当や豪華ランチを食べさせてもらっている」と俺は騒がれまくっている……。
もう、ギルにデザートを奢らせていたと騒がれていた頃が懐かしい……。
何だってこんな事になっているんだか……。
ちなみに俺にはとうとう「平凡姫」と言う異名がついた。
なんて事ないその辺にゴロゴロいそうな平凡な姫って事なんだろう。
ただ不思議と悪口とか揶揄する意味合いはなくて、「平凡で親しみやすく、どこにでもいそうなのになんだかんだやっぱり姫」と言える人物を指すらしい。
どこにもいそうなのになんだかんだやっぱり姫ってどういう意味なのかよくわからん。
それでもどんな形であれ「姫」として俺は認められ、最近、立番をしていると「お!平凡姫じゃん!!頑張れ!!」と声をかけてもらったり、飴なんかのお菓子をもらったりするようになった。
今までの格式高い「姫」と比べ、平凡だけに親近感を持たれているようで気軽に声をかけられ、応援してもらっている。
すっかりライルの思惑通り、本腰入れたイチ推しの「姫」ではなく、2番手3番手推しの「姫」のとして、かなり好印象を与えているようだ。
本気の貢物ではなく、おまけの貢物を集めるには十分な立ち位置につけたと言える。
やっぱり、マジモンのアイドルに対抗するには、お笑い枠を押さえるのが手っ取り早いんだろいなぁと感心している今日この頃。
そんな風に理解していた俺はとても呑気に構えていて、自分を見つめる視線の中に「本気推し」どころか狂気に近い真剣な眼差しがある可能性を全く考えていなかった。
だってそうだろ??
2番手3番手推し狙いの「平凡姫」に、マジになるキチガイがいるとか普通は思わないもんだ。
何か変だなぁと思うところはあれども、周囲の心配をよそに、俺はとても呑気に「姫」として過ごしていたのだった。
サークは自分の置かれている状況が理解できなかった。
「姫」になってからおかしな事が続いているとはいえ、ここまで来ると理解不能だった。
「はい♡サーク、あ~んして♡」
「いや……自分で食えるから……。」
目の前でシルクが卵焼きを箸で摘んでニコニコしている。
「何でだよ~!!俺!今朝、5時に起きて作ってきたのに~!!」
「それはありがたいよ?!本当にありがとう?!でもな?!それと「あ~ん」は違うだろ?!」
「何で~!!頑張ったんだから!あ~んさせてよ!!」
ジタジタと足をバタつかせる。
その拍子にスカートが捲れ上がるもんだから、俺は慌てた。
「わかった!わかったからスカートで足をバタバタさせんな!!」
皆、もう、シルクのスカートの下が体操着の短パンだとわかっているのに、見えそうになると色めき立つのは悲しき男子校の性というものなのか……。
俺は渋々、口を開けた。
そこにシルクが朝、5時に起きて作ってくれた弁当の卵焼きが放り込まれる。
「うふふっ♡美味しい?!」
俺は口をもごもごさせながら何度も頷く。
正直、ちょっと俺には甘すぎだなぁと思ったが、これはこれで悪くない。
第一、人に作ってもらったものに文句をつける何て失礼な事、余程の事がない限りするべきじゃない。
「あ!そこ!!写真及び動画の撮影は禁止っつってんだろ!!出禁にすんぞ?!」
「すみませ~ん!!あまりに可愛くてつい……。」
「はい、データは消してください~。」
聞こえる声に、俺はがっくりと項垂れた。
その頭をシルクがよしよしと撫でてくる。
「……何で……こんな事に……。」
「あはは!姫なんだから仕方ないじゃん!!」
「お前……全然、平気だな……。」
「慣れだよ、慣れ。」
「俺は絶対、こんなの慣れられない……。」
離れた場所に並べられた椅子にずらりと座るギャラリー。
それを誘導・監視するクラスのメンバー。
前後の入り口には、ギルとエドがそれぞれ立って、許可なく教室内を覗こうとしたり入ろうとする奴を無言で威圧している。
「凄いなぁ~サーク。さすがは俺の見込んだ「姫」。これでバレンタイン合戦も安心して迎えられるなぁ~。」
ライルが上機嫌でそう言った。
にこにこ笑っている俺の「姫騎士」をムスッとしたまま睨みつけてやった。
まず、どう言う状況下というのを説明しなければならない。
ギルとエドが俺の騎士見習いになってくっつくようになってから、何故か休み時間になると各クラスのレジェンド姫達がこぞって俺のところに来るようになった。
ただ、彼らは「姫」中の姫、レジェンドクラスの「姫」なのだ。
そんなレジェンド姫達が一つのクラスに集まったら、本当、大騒ぎになる。
俺のクラスは常に人だかりができて大変な事になった。
それはまずいと思ったようで、レジェンド姫達の間で話し合って俺のところに来る当番を決めたらしい。
「はい!サーク!笑って!!」
「いや、あんま笑える状況じゃないんだけど……。」
「あ、シルク。俺が撮ってあげる。」
「ありがと♡」
「おい、俺の話も聞け……。」
スマホを向けられ顔を顰める俺を無視して、ライルはシルクのスマホを受け取った。
案の定、俺にピタッと引っ付いたシルクとのツーショットを連写で撮られた。
「何故、連写……。」
「え~??一番可愛いのを選ぶためだよ~??」
そんな数秒間で何か変わるものなのだろうか……俺には理解的ない……。
シルクはライルからスマホを返されると、撮った写真を選び始めた。
俺はその隙に弁当を自分で食べ勧めた。
……………………。
このタンドリーチキンみたいなの、旨いな。
後で作り方、教えて貰おう。
シルクは撮った写真を選び終えたのか、満足そうに送信する。
どうもレジェンド姫達のグループラインがあって、何かそこにお互い情報を上げているらしい。
何で姫達が俺の情報を共有してるのかは謎なのだが……。
ただ当番で来ると、結構な頻度で各姫に写真を撮られて上げられている。
写真を送り終えたシルクは、タンドリーチキンみたいなのを食ってる俺を満面の笑みで見つめてきた。
「あ!それどう?!」
「めちゃくちゃ旨い。」
「でしょ?!昨日から漬け込んどいた自信作なんだ~!!」
「わざわざありがとな。マジで凄い旨い……。どうやって作るんだ?!」
「えへへ~。普通のタンドリーチキンと同じだよ?でもスパイスの割合はうちん家に伝わる秘伝だから教えられない~。」
「店でも出せそうな旨さなんだけど?!」
「うん、売ってるよ?」
「え?!マジ?!」
「うん。怪我で武道が続けられなくなったおじちゃんとおばちゃんが食堂やってて、そこで出してる~。」
詳しくは知らないが、シルクの家系は代々ある古武術を継承しているらしく、その道では有名らしい。
俺の憧れドイル先生とも遠縁の親族に当たるようで、ドイル先生を見てその古武術を研究したいと申し出た学園経営陣に対し、先生が自分は協力できないからと話し合った結果、若手のシルクがその候補者として選ばれてうちの学園に推薦で入ってきたらしい。
研究に協力するか否かはシルク本人の希望が優先されるらしいが、学内受験をして進学するという事は、シルクはその事に協力的なのだと思う。
「へ~、その店、行ってみたいな~。」
「え~?!食べたいなら、俺がいつでも作ってあげるのに~!!」
そんな他愛もない会話をしながら食事をする俺達を、ギャラリーが興奮気味に眺めている。
めちゃくちゃ気になる……。
そう、ギャラリー。
レジェンド姫達が当番で俺の所に来るもんだから、当然、その姫推しの連中がくっついてくる。
そしてそれを利用しないライルではない。
他の休み時間はともかく昼休みは時間も長いし来る人数も多いので、俺の売り込みを兼ねて積極的に見学者の受け入れをしていて、俺とレジェンド姫の席を奥の窓側に作り廊下側に見学席を設けている。
席だけじゃ足りなくて、立ち見もいるのだから本当、レジェンド姫達の人気は凄いと思う。
「お前らって……マジ、人気だよなぁ~。」
シルクの作ってくれた弁当を食べ終え、俺は色々通り越して感心したようにそう言った。
それに対してシルクはチラッとギャラリーに目を向けた後、大げさにため息をついた。
「あれが全部、俺や他の姫の追っかけだと思ってるの??」
「違うのか??」
「よく見なよ。誰が来るかに関わらず、毎回の様に来ている人もいるでしょ??」
「写真・報道部の奴だろ??」
写真・報道部と言うのは、写真部と新聞部とジャーナリズム研究会がまとまった部活で、学校内の出来事を写真に取り、インスタやホームページや紙媒体の情報誌を出したりする部活の事だ。
バレンタイン合戦前は学園祭前後並に活動が活発になり、こうして話題のある所には必ずいるのだ。
「まぁ……報道部の人達もいるんだけどさぁ~。」
ファンサを欠かさないシルクは、見学席のファンに笑顔で手を降って応えると、俺の方を向き直って小さくため息をついた。
「サークって本当、自分の事に無頓着だよねぇ~。」
「は?!何言ってるんだ?!」
「だから俺達、心配してるんだよ~。」
「…………は?」
「まぁ、それがサークの良さでもあるからさぁ~、良いって言えばいいんだけど……。俺達だって、ずっと誰かが一緒にいてあげられる訳じゃないしさぁ~。」
「何、言ってるんだ??シルク??」
「別に~??」
シルクはそう言って、一瞬だけエドを見た。
その目は試合をする時みたいに鋭くて、俺はちょっと焦った。
「……もうエドの事は気にするなよ、シルク。許す許さないはシルクの気持ちが決める事だから俺はとやかく言わないけど……。」
「俺の事じゃない。俺の事なら何も気にしてない。俺はアイツより強いもん。」
「まぁ……そうだけど??」
確かにエドよりシルクの方が強い。
それがあるからか、あんな事があってもシルクはエドを必要以上に気にかけたりはしてこなかった。
だったら今更何だって言うんだろう??
俺は良くわからず言葉を濁した。
「……あ!!ふふっ。」
「え?今度は何だよ??」
「リオがね~、明日はスペシャルランチを用意してくれるって~。いいなぁ~セレブ姫のスペシャルランチ~。」
唐突にそう言われ、俺は固まった。
え??リオがスペシャルとか言うランチって、何かヤバすぎないか??
庶民が口にしていいものじゃない気がするんだけど?!
「いや!大丈夫だから!!自分で弁当、持つもてくるから!!」
「え~?!サーク、リオの好意を無視するの~?!信じらんない~!!ひどい男~!!」
「いや!好意はありがたいよ?!今日のシルクの弁当も旨かったし!!」
「……え、あ……ありがと……サーク……。そう言ってもらえると……俺、凄く嬉しい……。」
「あ、うん……。」
急にしおらしくもじもじ言われ、俺も動揺してしまう。
そして昼休みも終わってしまい、俺はまた断り損ねてしまった。
そう、昼休みにレジェンド姫達が来るようになって、もう一つ変わったのが俺の食事だ。
ウィルがサンドイッチとクッキーを作ってきてくれたのがきっかけで、皆がこぞって昼飯を持ってきてくれるようになった。
本人の手作りの事もあれば、なかなか買えない限定メニューの駅弁だったり、思考を凝らして皆が俺に昼飯を食わせてくれる。
今や学内で知らぬものはいない生きた都市伝説……。
「平凡姫はレジェンド姫達からこぞって手作り弁当や豪華ランチを食べさせてもらっている」と俺は騒がれまくっている……。
もう、ギルにデザートを奢らせていたと騒がれていた頃が懐かしい……。
何だってこんな事になっているんだか……。
ちなみに俺にはとうとう「平凡姫」と言う異名がついた。
なんて事ないその辺にゴロゴロいそうな平凡な姫って事なんだろう。
ただ不思議と悪口とか揶揄する意味合いはなくて、「平凡で親しみやすく、どこにでもいそうなのになんだかんだやっぱり姫」と言える人物を指すらしい。
どこにもいそうなのになんだかんだやっぱり姫ってどういう意味なのかよくわからん。
それでもどんな形であれ「姫」として俺は認められ、最近、立番をしていると「お!平凡姫じゃん!!頑張れ!!」と声をかけてもらったり、飴なんかのお菓子をもらったりするようになった。
今までの格式高い「姫」と比べ、平凡だけに親近感を持たれているようで気軽に声をかけられ、応援してもらっている。
すっかりライルの思惑通り、本腰入れたイチ推しの「姫」ではなく、2番手3番手推しの「姫」のとして、かなり好印象を与えているようだ。
本気の貢物ではなく、おまけの貢物を集めるには十分な立ち位置につけたと言える。
やっぱり、マジモンのアイドルに対抗するには、お笑い枠を押さえるのが手っ取り早いんだろいなぁと感心している今日この頃。
そんな風に理解していた俺はとても呑気に構えていて、自分を見つめる視線の中に「本気推し」どころか狂気に近い真剣な眼差しがある可能性を全く考えていなかった。
だってそうだろ??
2番手3番手推し狙いの「平凡姫」に、マジになるキチガイがいるとか普通は思わないもんだ。
何か変だなぁと思うところはあれども、周囲の心配をよそに、俺はとても呑気に「姫」として過ごしていたのだった。
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