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本編
初恋バトンリレー
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………………。
何だろう?
毎度の事なんだけれども、ここだけ背景が花でてんこ盛りになる…。
俺だけじゃなくて、周囲全体が何とも言えない顔でそれを見つめている。
「ウィル~♡会いたかったよ~♡」
「ふふっ、久しぶり、シルク。スカート可愛いね?よく似合ってる。本当に女の子がいるみたいで、いつからうち共学になったんだっけって思っちゃったよ。」
そう、ウィルとシルクの旧2年D組姫&姫騎士コンビだ。
A組とB組の「姫」で、席が並んだもんだからシルクが椅子を寄せてウィルにぴったりくっついている。
何かもう…こうなると目のやり場に困る……。
ここだけ本当、何か女子校だから!
何なの?!この二人?!
ウィルもシルクも一人でも十分目を引く美人なのに!
二人合わさると魔の化学変化が起きて、2倍じゃなくて10倍キラキラが飛ぶから!!
「百合だ…。」
「女神だ…。」
ぼそぼそっと後ろの各クラスの代表メンバー(基本クラスの「騎士」)が呟いている。
いや、百合っぽいけど百合じゃないから!!
うち、男子校だから!!
ウィルもシルクも男だから!!
でも本当、この二人は存在の相性がめちゃくちゃ良いのか、並ばれるともう……。
かたや華やかで明るい「小悪魔女子系」のシルクと、かたや落ち着きのある大和撫子「男装の麗人系」ウィル。
ええと…○塚ですか??
○塚ですよね?!
いや、二人とも男なんだけどさ……。
こんな感じなもんだから、去年はこの二人の一大ムーブメントがうちの高校に吹き荒れた。
普通にファンがうちわとか持って校門に並んでて、完全にアイドル扱いだったからなぁ~。
シルクはノリが良いからファンサとかするもんだから、本当に盛り上がって……。
それを「姫騎士」としてウィルが凛とたしなめたり、行き過ぎたファンをやんわりと微笑を浮かべて無言で制したりするもんだから、ウィルファンが急増して……。
うちわもはじめは単に「こっち見て!」とかだったのに、だんだん「シルク姫!笑って!」とか「ウィル様!こっち見て!」とか、相手を指定するモノに変わって……。
「姫騎士」があそこまで注目されるなんて今までになかった事だから、実行委員会本部も新たに決まりとか作ってわちゃわちゃしてたっけ。
文化祭ではユニット売りみたいな感じで二人でダンスとかしてさぁ……。
これまたシルクがめちゃくちゃ上手いのなんの…。
控えめに踊ってるウィルもその控えめさがまたいつもの感じでいい味出してて……。
サポートでたまにリフトとか支えに入るから、それがまた「姫騎士」っぽいって言うか……。
本当、二人のせいで招いた芸人さんが霞んじゃったぐらいだし…。
スカウトっぽい事もされたらしい…。
(二人とも「興味ない」と一喝したようだけど。)
あれは本当、凄かった……。
ここまで行っちゃうと、俺の淡い何かなんて本当霞んじゃうんだよなぁ…。
その伝説の「姫」と「姫騎士」コンビがここに揃ったもんだから、何かもう、空気感がおかしい……。
話し合いを始めようと黒板前に立った実行委員会メンバーも、雰囲気に飲まれて二人を見つめている。
「……て言うか、シルク?スカートの下は何履いてるんだ??」
そしてここで無自覚に男前なウィル。
特に気にするでもなく、シルクのスカートをベロっとめくった。
その瞬間、声にならない悲鳴が飛び交った。
いやいやいやいやいや!!
ウィル?!ウィルさん?!
確かにね?!シルクは男だよ?!
単に女装しているだけで、男子校だし男同士のノリでめくるもんだよ?!
でもね?!
二人の容姿を考えて?!
ただでさえ、皆、二人の事は百合だの女神だの○塚だのアイドルだの、同じ男子校の生徒だと認識できなくなってるからね?!
なのにベロっとめくったら駄目だろうが!!
「いやん♡ウィルのエッチ~♡」
「エッチってこの短パン、体操着だよね??」
「うふふ♡ドキドキした??」
「いや、体操着だし。」
「ウィル、つれない~。でもそう言う冷静なとこも好き~♡」
「よくわからないけど、俺もシルクの事、好きだよ??」
「きゃ~♡両思い~♡」
「……とりあえず、その辺で止まってくれ、二人とも…。皆の心臓がもたないから……。」
俺はあまりの状況に仕方なく割って入った。
立ち上がって、二人の世界になっている場所に無理やり割り込む。
ウィルとシルクが俺を見上げた。
俺が割って入った事で、ほうっと安堵のため息があちこちで漏れる。
まぁ、あの状況に声をかけられる奴なんてあんまいないからなぁ…。
シルクはわざとやってるけど、ウィルは天然と言うか男らしいというか、自分達がどれほどキラキラしているかわかっておらず、男同士なんだからこれぐらい普通だと、まさか変な意味に取られるとは思ってないから本当、放っておくと無限ループの悪循環になってしまうから、早めに止めないと大惨事になってしまうのだ。
「サーク?どうしたんだ??」
「うふふ♡ヤキモチ?!」
「いや……ヤキモチって言うか…シルク。いくらウィルに会えて嬉しいからって、騒ぎ過ぎ。静かにしてろよ。帰るの遅くなるぞ?!」
美人二人に見上げられ、なんとなく焦った俺はつっけんどんとそう言った。
けれど俺がそう言うと、シルクはまたぷうっと口を尖らせる。
なんかシルクって、皆にはにこにこしてんのに、俺にはいつもむくれるよな?!
「何で俺が全部悪いんだよ!」
「いや、別にシルクが全部悪いなんて言ってないじゃんか?!」
「でもウィルには怒んないじゃん!」
「怒ってないだろ?!そろそろ静かにしてろって言っただけじゃんか?!」
「む~!サークのバカ!!」
シルクはそう言ってツンっと拗ねると、ウィルにひっついてそっぽを向いた。
も~、何でシルクはいつもこうなんだよ~。
俺、そんなに悪い事した?!
そんな俺をウィルが苦笑して見上げた。
「今のはサークが悪い。」
「え?!……あ、うん…。」
たしなめるようにそう言われ、俺はタジタジになる。
ウィルに言われちゃうと、自分でもよくわからないけど凄く悪い事をした気分になってしまう。
「ごめんな、シルク。言い方が悪かった。」
「知らない。」
「ごめんて。」
「知らない。」
「シルク?一応、サークも謝ってるし、ね?」
「ウィルに言われたからじゃん。」
「そんなにむくれないの。可愛い顔が台無しだよ?」
「……俺、可愛い??」
「うん。一番かわいい。」
「えへへ~、ウィル、大好き~♡」
「ん。いい子いい子。」
ぐずっていたシルクを上手くなだめて落ち着かせる。
そんなウィルの慈愛深さみたいなのに何となくそわそわしてしまう。
ウィルは男前なんだけど、たまに物凄く母性的な感じがして場を上手く鎮めてくれたりするのだ。
だからウィルの事を「聖母」とか言う奴もいる。
聖母は流石にどうなんだとも思うが、この穏やかだけど愛情深く諭してくれる感じは、何となく尊いって感じてしまうのはわかる気がする。
そんな事を思いながら立ち尽くす俺に、ウィルがにこっと笑った。
途端、俺はまた歩き方を忘れる。
だからどう動けば良いのかわからなくて、その場に固まり続けるのだ。
「……あ~、3年C組の姫、話を始めたいんで、座ってくれないか?」
そこに実行委員会のメンバーが声を掛けてきた。
それで俺は我にかえり慌てて席についた。
隣のガスパーが呆れたようにため息まじりに俺を見る。
その向こうに座っているリオはくすくす笑っていた。
え??今のって、俺が悪いの?!
何となく納得がいかない。
けれど、レジェンド「姫」達を注意するより、平平凡凡な俺が悪い事にして文句を言うのが場を上手くまとめる術なのはよくわかる。
つまり、俺の立ち位置なんてそんなもんなのだ。
それが世の常、世の道理。
俺は諦めて、はぁと小さくため息をついたのだった。
立番の説明が終わると、皆、ぞろぞろと帰っていく。
「じゃ、またね?ウィル?」
「うん。明後日の立番でね。」
シルクはひっついていたウィルのほっぺにチュッとすると、足早にその場を後にした。
背後でサークが呼んでいたが無視する。
クラスの皆も、騎士の人達も、皆、置いてけぼりにしてさっさか歩いて屋上に続く階段の奥に隠れた。
「……サークのバカ。」
そこで一人、膝を抱える。
いつも明るいシルクにだって、明るく笑っていられない時がある。
そういう時は、イメージを壊さないように一人、隠れて気が済むまでいじけるのだ。
「……サーク、やっぱり今もウィルの事……。」
そう呟いて頭を振った。
本人だって言ってた。
出会った当初はそういう気持ちがあったかもしれないけれど、これだけ人気者になってしまったウィルはとてもとても遠い存在で、冗談でもそんな風には思えないと。
その顔は嘘を言っていなかった。
実際、そんな素振りもないのだ。
でもたまに、ごくたまに、サークの昔抱いた淡い気持ちは顔を出す。
その度にサークは自分に戸惑ってアワアワしだす。
その想いを抱いた時と同様、自分の気持ちが理解できないのだ。
「だからチャンスはあると思ったんだけどなぁ~。」
ウィルの気持ちも知ってる。
ずっと一途にサークを想ってる。
でもサークが鈍感だから、自分の気持ちに無頓着でアワアワしてしまうから、目立った行動は起こさず黙って彼を見守っているのだ。
ウィルの事も好きだ。
それにも嘘はない。
でも、シルクだってサークが好きなのだ。
出会ったのは高校の部活でだ。
顧問である先生に憧れてサークは空手部に入ってきた。
可愛い自分になんて見向きもしなかった。
あ、うん、可愛いね?ってぐらいだった。
変な奴。
誰にでもネコっかわいがりされるシルクには、自分の可愛さに無反応なサークが変人に見えた。
(それ以外にも変人要素があった訳だが。)
その頃、シルクは少し悩んでいた。
高校に入ったというのに、思う様に体が大きくならなかった。
がっしりした筋肉も付かず、鍛えれば鍛えるだけ締まっていく。
だからぱっと見は線が細く、とても武道家には見えなかったのだ。
そのせいで「アイツは可愛さだけでスポーツ推薦をもらったんだ」とか、「媚どころか体でも売って推薦もらったんだろ?」とか、影で言われている事を知っていた。
ある時、いつも通り道場に向かっていたら、そんな事を堂々と話している連中に出食わした。
その多くが部活の先輩達だった。
シルクは頭にきた。
でも、そこに出て行って文句を言う事ができなかった。
何故か体が固まって、動けなかったのだ。
面白がって「姫」になったりしたのも良くなかった。
連中は「姫」としても人気が高いシルクが気に入らなかったのだ。
悔しかった。
こんなにも腹立たしく思っているのに、自分を小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべた連中に、何もできずに固まっている事しかできなかったのだ。
「……だったら、勝てばいいじゃないですか?」
そこにひょこっと出てきたのがサークだった。
サークは無感情にそう言いながら通り過ぎようとした。
だが、当然絡まれる訳で。
「何なんですか?!俺みたいな始めたばかりの弱い奴には堂々とけんか売ってきて?!シルクみたいな強い奴には影でごちゃごちゃ言ってて?!武道の心得がなってないですよ?!あんな細っこくて女みたいな奴より自分の方が強いって言うなら、堂々と勝負して負かせばいいじゃないですか?!生意気だって言うなら、先輩として武道家として筋を通せばいいじゃないですか?!」
絡まれて小突き回されながらも、サークはきっぱりとそう言った。
そのうち騒ぎを聞きつけた他の先輩方や他の一年なんかが出てきて事なきを得たけれど、そうじゃなかったらボコボコにされてたんじゃないかと思う。
何故ならシルクはそれでも動けなかったからだ。
変な奴…でも、イイ奴。
サークの言葉に、シルクはぼろぼろ涙を溢した。
そのまま動けなくて一人で泣いていた。
「……うわっ?!え?!シルク?!」
そこに、一応保健室に行ってこいと言われたサークが通りかかった。
ぶつかりそうになり、目をまん丸くして驚いていた。
でも、何となく状況は察したのだろう。
無言のままシルクの手を掴むと人気のない場所に連れていき、タオルを濡らしてきて渡してくれた。
シルクはそれで目元を拭いて冷した。
一緒に保健室に行くかと聞かれたが首を振った。
サークはそれで1度、居なくなった。
保健室に行ったんだと思っていたら、ジュースを買ってきてくれて渡された。
何故か炭酸ヨーグルト飲料だった。
なんでこれと聞いたら、スポーツドリンクは売り切れてたからと言われた。
それでお茶とかではなく炭酸ヨーグルト飲料なのが妙におかしくて笑ってしまった。
笑ったシルクを見て、サークは安心したようにため息をついた。
「お前にはさ、お前の武器があるじゃん。」
「……武器??」
「そ。その武器で勝てばいい。ルール違反して勝とうとする奴なんか、お前の武器で叩きのめしてやれよ。ルールに則って、二度と無駄口叩けないほどこてんぱんにさ。」
シルクはサークの言いたい事がわかった。
だから黙って頷いた。
その頭を、ぽんぽんと撫でると、サークは保健室に行ってしまった。
変な奴…でも……。
サークはシルクの可愛さなんか気に求めなかった。
でも、シルクの強さは真っ直ぐに認めてくれた。
そして信じてくれた。
その武器でルールに則り、シルクは必ず勝てると。
目元をまた、タオルで拭いた。
口に含んだ炭酸ヨーグルト飲料は甘酸っぱかった。
「……ひゃっ!!」
蹲ってそんな事を思い出していると、ほっぺたに冷っとするものが当てられた。
びっくりするとそれはあの日と同じ炭酸ヨーグルト飲料で……。
バっと顔を上げる。
けれど、それを渡してくれた相手はその人ではなかった。
「……………………。」
「あれ?!これ、よく飲んでるから好きなのかと思ってたんですけど、外しました?!」
落胆が顔に出たのだろう。
渡してきた相手は焦ってそう言い訳をした。
シルクはツンっと拗ねたまま、その炭酸ヨーグルト飲料を相手の手から奪い取った。
「別にこれが嫌いなんて言ってない。」
「え?!じゃあ、何がまずかったですか?!」
「お前だよ!バカ!」
「ええぇぇぇぇぇ?!」
「大体、部活はどうした?!練習サボる奴は嫌いだ!!」
「サボってないですよ!!道着着てるでしょ?!休憩に入って飲み物買おうと思って出てきたら、シルクさんがここに行くのが見えて……。」
確かにサボってはいなそうなのはわかっていた。
道着は整えられてはいたが、練習で着崩れた跡は目に見えて残っていた。
むくれてジュースを一口飲んだ。
あの日と同じ、甘酸っぱくて、シュワシュワと泡が弾けて口の中で消えていく。
……バカ。
サークもイヴァンも、どっちもバカ!!
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!
ムス~っとイヴァンを睨みつける。
追いかけても振り向いてくれない想い。
半ばそれを諦めてる。
それはシルクもイヴァンも同じだ。
だからこそ、根性見せてよ!!
追いかけても無駄じゃないって俺に示してよ!!
シルクはまた一口、炭酸ヨーグルト飲料を飲んだ。
それを困った様に笑ってイヴァンが見つめている。
「……僕で良ければ話を聞こうかと思ったんですけど、サボると嫌われちゃいそうなんで、そろそろ戻りますね?」
「…………俺も行く。」
「へ?!」
「ムシャクシャするから、ちょっと稽古つけてあげる。イヴァン。」
「ムシャクシャするからですか?!」
「今日のイヴァンの夕食は畳~。たっぷり味あわせてあげるね~。」
「勘弁してくださいよ?!」
「遠慮しない!!ほら!行くよ!!」
「ちょ?!本気ですか?!」
シルクはまごつくイヴァンの腕を掴んで道場に向かう。
そのアワアワする様子がなんか可愛くて、シルクは無意識のうちに笑っていた。
何だろう?
毎度の事なんだけれども、ここだけ背景が花でてんこ盛りになる…。
俺だけじゃなくて、周囲全体が何とも言えない顔でそれを見つめている。
「ウィル~♡会いたかったよ~♡」
「ふふっ、久しぶり、シルク。スカート可愛いね?よく似合ってる。本当に女の子がいるみたいで、いつからうち共学になったんだっけって思っちゃったよ。」
そう、ウィルとシルクの旧2年D組姫&姫騎士コンビだ。
A組とB組の「姫」で、席が並んだもんだからシルクが椅子を寄せてウィルにぴったりくっついている。
何かもう…こうなると目のやり場に困る……。
ここだけ本当、何か女子校だから!
何なの?!この二人?!
ウィルもシルクも一人でも十分目を引く美人なのに!
二人合わさると魔の化学変化が起きて、2倍じゃなくて10倍キラキラが飛ぶから!!
「百合だ…。」
「女神だ…。」
ぼそぼそっと後ろの各クラスの代表メンバー(基本クラスの「騎士」)が呟いている。
いや、百合っぽいけど百合じゃないから!!
うち、男子校だから!!
ウィルもシルクも男だから!!
でも本当、この二人は存在の相性がめちゃくちゃ良いのか、並ばれるともう……。
かたや華やかで明るい「小悪魔女子系」のシルクと、かたや落ち着きのある大和撫子「男装の麗人系」ウィル。
ええと…○塚ですか??
○塚ですよね?!
いや、二人とも男なんだけどさ……。
こんな感じなもんだから、去年はこの二人の一大ムーブメントがうちの高校に吹き荒れた。
普通にファンがうちわとか持って校門に並んでて、完全にアイドル扱いだったからなぁ~。
シルクはノリが良いからファンサとかするもんだから、本当に盛り上がって……。
それを「姫騎士」としてウィルが凛とたしなめたり、行き過ぎたファンをやんわりと微笑を浮かべて無言で制したりするもんだから、ウィルファンが急増して……。
うちわもはじめは単に「こっち見て!」とかだったのに、だんだん「シルク姫!笑って!」とか「ウィル様!こっち見て!」とか、相手を指定するモノに変わって……。
「姫騎士」があそこまで注目されるなんて今までになかった事だから、実行委員会本部も新たに決まりとか作ってわちゃわちゃしてたっけ。
文化祭ではユニット売りみたいな感じで二人でダンスとかしてさぁ……。
これまたシルクがめちゃくちゃ上手いのなんの…。
控えめに踊ってるウィルもその控えめさがまたいつもの感じでいい味出してて……。
サポートでたまにリフトとか支えに入るから、それがまた「姫騎士」っぽいって言うか……。
本当、二人のせいで招いた芸人さんが霞んじゃったぐらいだし…。
スカウトっぽい事もされたらしい…。
(二人とも「興味ない」と一喝したようだけど。)
あれは本当、凄かった……。
ここまで行っちゃうと、俺の淡い何かなんて本当霞んじゃうんだよなぁ…。
その伝説の「姫」と「姫騎士」コンビがここに揃ったもんだから、何かもう、空気感がおかしい……。
話し合いを始めようと黒板前に立った実行委員会メンバーも、雰囲気に飲まれて二人を見つめている。
「……て言うか、シルク?スカートの下は何履いてるんだ??」
そしてここで無自覚に男前なウィル。
特に気にするでもなく、シルクのスカートをベロっとめくった。
その瞬間、声にならない悲鳴が飛び交った。
いやいやいやいやいや!!
ウィル?!ウィルさん?!
確かにね?!シルクは男だよ?!
単に女装しているだけで、男子校だし男同士のノリでめくるもんだよ?!
でもね?!
二人の容姿を考えて?!
ただでさえ、皆、二人の事は百合だの女神だの○塚だのアイドルだの、同じ男子校の生徒だと認識できなくなってるからね?!
なのにベロっとめくったら駄目だろうが!!
「いやん♡ウィルのエッチ~♡」
「エッチってこの短パン、体操着だよね??」
「うふふ♡ドキドキした??」
「いや、体操着だし。」
「ウィル、つれない~。でもそう言う冷静なとこも好き~♡」
「よくわからないけど、俺もシルクの事、好きだよ??」
「きゃ~♡両思い~♡」
「……とりあえず、その辺で止まってくれ、二人とも…。皆の心臓がもたないから……。」
俺はあまりの状況に仕方なく割って入った。
立ち上がって、二人の世界になっている場所に無理やり割り込む。
ウィルとシルクが俺を見上げた。
俺が割って入った事で、ほうっと安堵のため息があちこちで漏れる。
まぁ、あの状況に声をかけられる奴なんてあんまいないからなぁ…。
シルクはわざとやってるけど、ウィルは天然と言うか男らしいというか、自分達がどれほどキラキラしているかわかっておらず、男同士なんだからこれぐらい普通だと、まさか変な意味に取られるとは思ってないから本当、放っておくと無限ループの悪循環になってしまうから、早めに止めないと大惨事になってしまうのだ。
「サーク?どうしたんだ??」
「うふふ♡ヤキモチ?!」
「いや……ヤキモチって言うか…シルク。いくらウィルに会えて嬉しいからって、騒ぎ過ぎ。静かにしてろよ。帰るの遅くなるぞ?!」
美人二人に見上げられ、なんとなく焦った俺はつっけんどんとそう言った。
けれど俺がそう言うと、シルクはまたぷうっと口を尖らせる。
なんかシルクって、皆にはにこにこしてんのに、俺にはいつもむくれるよな?!
「何で俺が全部悪いんだよ!」
「いや、別にシルクが全部悪いなんて言ってないじゃんか?!」
「でもウィルには怒んないじゃん!」
「怒ってないだろ?!そろそろ静かにしてろって言っただけじゃんか?!」
「む~!サークのバカ!!」
シルクはそう言ってツンっと拗ねると、ウィルにひっついてそっぽを向いた。
も~、何でシルクはいつもこうなんだよ~。
俺、そんなに悪い事した?!
そんな俺をウィルが苦笑して見上げた。
「今のはサークが悪い。」
「え?!……あ、うん…。」
たしなめるようにそう言われ、俺はタジタジになる。
ウィルに言われちゃうと、自分でもよくわからないけど凄く悪い事をした気分になってしまう。
「ごめんな、シルク。言い方が悪かった。」
「知らない。」
「ごめんて。」
「知らない。」
「シルク?一応、サークも謝ってるし、ね?」
「ウィルに言われたからじゃん。」
「そんなにむくれないの。可愛い顔が台無しだよ?」
「……俺、可愛い??」
「うん。一番かわいい。」
「えへへ~、ウィル、大好き~♡」
「ん。いい子いい子。」
ぐずっていたシルクを上手くなだめて落ち着かせる。
そんなウィルの慈愛深さみたいなのに何となくそわそわしてしまう。
ウィルは男前なんだけど、たまに物凄く母性的な感じがして場を上手く鎮めてくれたりするのだ。
だからウィルの事を「聖母」とか言う奴もいる。
聖母は流石にどうなんだとも思うが、この穏やかだけど愛情深く諭してくれる感じは、何となく尊いって感じてしまうのはわかる気がする。
そんな事を思いながら立ち尽くす俺に、ウィルがにこっと笑った。
途端、俺はまた歩き方を忘れる。
だからどう動けば良いのかわからなくて、その場に固まり続けるのだ。
「……あ~、3年C組の姫、話を始めたいんで、座ってくれないか?」
そこに実行委員会のメンバーが声を掛けてきた。
それで俺は我にかえり慌てて席についた。
隣のガスパーが呆れたようにため息まじりに俺を見る。
その向こうに座っているリオはくすくす笑っていた。
え??今のって、俺が悪いの?!
何となく納得がいかない。
けれど、レジェンド「姫」達を注意するより、平平凡凡な俺が悪い事にして文句を言うのが場を上手くまとめる術なのはよくわかる。
つまり、俺の立ち位置なんてそんなもんなのだ。
それが世の常、世の道理。
俺は諦めて、はぁと小さくため息をついたのだった。
立番の説明が終わると、皆、ぞろぞろと帰っていく。
「じゃ、またね?ウィル?」
「うん。明後日の立番でね。」
シルクはひっついていたウィルのほっぺにチュッとすると、足早にその場を後にした。
背後でサークが呼んでいたが無視する。
クラスの皆も、騎士の人達も、皆、置いてけぼりにしてさっさか歩いて屋上に続く階段の奥に隠れた。
「……サークのバカ。」
そこで一人、膝を抱える。
いつも明るいシルクにだって、明るく笑っていられない時がある。
そういう時は、イメージを壊さないように一人、隠れて気が済むまでいじけるのだ。
「……サーク、やっぱり今もウィルの事……。」
そう呟いて頭を振った。
本人だって言ってた。
出会った当初はそういう気持ちがあったかもしれないけれど、これだけ人気者になってしまったウィルはとてもとても遠い存在で、冗談でもそんな風には思えないと。
その顔は嘘を言っていなかった。
実際、そんな素振りもないのだ。
でもたまに、ごくたまに、サークの昔抱いた淡い気持ちは顔を出す。
その度にサークは自分に戸惑ってアワアワしだす。
その想いを抱いた時と同様、自分の気持ちが理解できないのだ。
「だからチャンスはあると思ったんだけどなぁ~。」
ウィルの気持ちも知ってる。
ずっと一途にサークを想ってる。
でもサークが鈍感だから、自分の気持ちに無頓着でアワアワしてしまうから、目立った行動は起こさず黙って彼を見守っているのだ。
ウィルの事も好きだ。
それにも嘘はない。
でも、シルクだってサークが好きなのだ。
出会ったのは高校の部活でだ。
顧問である先生に憧れてサークは空手部に入ってきた。
可愛い自分になんて見向きもしなかった。
あ、うん、可愛いね?ってぐらいだった。
変な奴。
誰にでもネコっかわいがりされるシルクには、自分の可愛さに無反応なサークが変人に見えた。
(それ以外にも変人要素があった訳だが。)
その頃、シルクは少し悩んでいた。
高校に入ったというのに、思う様に体が大きくならなかった。
がっしりした筋肉も付かず、鍛えれば鍛えるだけ締まっていく。
だからぱっと見は線が細く、とても武道家には見えなかったのだ。
そのせいで「アイツは可愛さだけでスポーツ推薦をもらったんだ」とか、「媚どころか体でも売って推薦もらったんだろ?」とか、影で言われている事を知っていた。
ある時、いつも通り道場に向かっていたら、そんな事を堂々と話している連中に出食わした。
その多くが部活の先輩達だった。
シルクは頭にきた。
でも、そこに出て行って文句を言う事ができなかった。
何故か体が固まって、動けなかったのだ。
面白がって「姫」になったりしたのも良くなかった。
連中は「姫」としても人気が高いシルクが気に入らなかったのだ。
悔しかった。
こんなにも腹立たしく思っているのに、自分を小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべた連中に、何もできずに固まっている事しかできなかったのだ。
「……だったら、勝てばいいじゃないですか?」
そこにひょこっと出てきたのがサークだった。
サークは無感情にそう言いながら通り過ぎようとした。
だが、当然絡まれる訳で。
「何なんですか?!俺みたいな始めたばかりの弱い奴には堂々とけんか売ってきて?!シルクみたいな強い奴には影でごちゃごちゃ言ってて?!武道の心得がなってないですよ?!あんな細っこくて女みたいな奴より自分の方が強いって言うなら、堂々と勝負して負かせばいいじゃないですか?!生意気だって言うなら、先輩として武道家として筋を通せばいいじゃないですか?!」
絡まれて小突き回されながらも、サークはきっぱりとそう言った。
そのうち騒ぎを聞きつけた他の先輩方や他の一年なんかが出てきて事なきを得たけれど、そうじゃなかったらボコボコにされてたんじゃないかと思う。
何故ならシルクはそれでも動けなかったからだ。
変な奴…でも、イイ奴。
サークの言葉に、シルクはぼろぼろ涙を溢した。
そのまま動けなくて一人で泣いていた。
「……うわっ?!え?!シルク?!」
そこに、一応保健室に行ってこいと言われたサークが通りかかった。
ぶつかりそうになり、目をまん丸くして驚いていた。
でも、何となく状況は察したのだろう。
無言のままシルクの手を掴むと人気のない場所に連れていき、タオルを濡らしてきて渡してくれた。
シルクはそれで目元を拭いて冷した。
一緒に保健室に行くかと聞かれたが首を振った。
サークはそれで1度、居なくなった。
保健室に行ったんだと思っていたら、ジュースを買ってきてくれて渡された。
何故か炭酸ヨーグルト飲料だった。
なんでこれと聞いたら、スポーツドリンクは売り切れてたからと言われた。
それでお茶とかではなく炭酸ヨーグルト飲料なのが妙におかしくて笑ってしまった。
笑ったシルクを見て、サークは安心したようにため息をついた。
「お前にはさ、お前の武器があるじゃん。」
「……武器??」
「そ。その武器で勝てばいい。ルール違反して勝とうとする奴なんか、お前の武器で叩きのめしてやれよ。ルールに則って、二度と無駄口叩けないほどこてんぱんにさ。」
シルクはサークの言いたい事がわかった。
だから黙って頷いた。
その頭を、ぽんぽんと撫でると、サークは保健室に行ってしまった。
変な奴…でも……。
サークはシルクの可愛さなんか気に求めなかった。
でも、シルクの強さは真っ直ぐに認めてくれた。
そして信じてくれた。
その武器でルールに則り、シルクは必ず勝てると。
目元をまた、タオルで拭いた。
口に含んだ炭酸ヨーグルト飲料は甘酸っぱかった。
「……ひゃっ!!」
蹲ってそんな事を思い出していると、ほっぺたに冷っとするものが当てられた。
びっくりするとそれはあの日と同じ炭酸ヨーグルト飲料で……。
バっと顔を上げる。
けれど、それを渡してくれた相手はその人ではなかった。
「……………………。」
「あれ?!これ、よく飲んでるから好きなのかと思ってたんですけど、外しました?!」
落胆が顔に出たのだろう。
渡してきた相手は焦ってそう言い訳をした。
シルクはツンっと拗ねたまま、その炭酸ヨーグルト飲料を相手の手から奪い取った。
「別にこれが嫌いなんて言ってない。」
「え?!じゃあ、何がまずかったですか?!」
「お前だよ!バカ!」
「ええぇぇぇぇぇ?!」
「大体、部活はどうした?!練習サボる奴は嫌いだ!!」
「サボってないですよ!!道着着てるでしょ?!休憩に入って飲み物買おうと思って出てきたら、シルクさんがここに行くのが見えて……。」
確かにサボってはいなそうなのはわかっていた。
道着は整えられてはいたが、練習で着崩れた跡は目に見えて残っていた。
むくれてジュースを一口飲んだ。
あの日と同じ、甘酸っぱくて、シュワシュワと泡が弾けて口の中で消えていく。
……バカ。
サークもイヴァンも、どっちもバカ!!
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!
ムス~っとイヴァンを睨みつける。
追いかけても振り向いてくれない想い。
半ばそれを諦めてる。
それはシルクもイヴァンも同じだ。
だからこそ、根性見せてよ!!
追いかけても無駄じゃないって俺に示してよ!!
シルクはまた一口、炭酸ヨーグルト飲料を飲んだ。
それを困った様に笑ってイヴァンが見つめている。
「……僕で良ければ話を聞こうかと思ったんですけど、サボると嫌われちゃいそうなんで、そろそろ戻りますね?」
「…………俺も行く。」
「へ?!」
「ムシャクシャするから、ちょっと稽古つけてあげる。イヴァン。」
「ムシャクシャするからですか?!」
「今日のイヴァンの夕食は畳~。たっぷり味あわせてあげるね~。」
「勘弁してくださいよ?!」
「遠慮しない!!ほら!行くよ!!」
「ちょ?!本気ですか?!」
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