「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
上 下
25 / 57
第二章「別宮編」

伝説と混沌と

しおりを挟む
「あははっ!!も~あんた最高!!」

配属初日。
俺は何故か、副隊長の部屋で晩酌に付き合っている。

「配属初日で!いくつ伝説を創る気よ!!おかし~!!」

「全部事故です…。」

「尋問部屋に入れることを、地獄送りにするって言うんだけどさ~!あんた、天国に連れてったんだよ!!」

副隊長はゲラゲラ笑って、応接セットのテーブルを叩いている。

「しかもあの後、目を覚ました奴、めちゃくちゃ素直に話すようになったって言うじゃん!?あんた本当に何したのよ!サーク!!」

完全に酒の肴にされてる……。
俺は泣きたい気分で酒を舐めた。

「も~!こんなに伝説造られたらさ!毎日書き残さないと、わかんなくなるじゃん!!」

「やめて下さいよ!!黒歴史です!!」

「まず、魔術を2つ同時に使うでしょ?殿下の命を救うでしょ?平民から騎士になるでしょ?杖を使わずに魔術を使うでしょ?絶対に口を割らなかった男を快楽で喋らせるでしょ?」

「うわあぁっ!!やめて下さい!!」

「次は何をしてくれるのかな~!楽しみだな~!!」


飲んだからなのかそうでないのか、副隊長は嬉々としている。
俺の話を魚にゲラケラ笑い転げて楽しそうだ。
もう、いっそ死にたい。

「て言うか、あの後、サークがいじめられてると思って、殿下が飛んできたんだって!?」

「そうなんですよ!死ぬほどびっくりしました!殿下ってそういう人なんですか!?」

「バカね~愛に決まってるでしょ~!?」

「愛って……俺、殿下と別に何もないですよ?会ったのだって、数えるほどだし。」

「ん~そこは温度差よね~。」

副隊長は、つまみをがじがじと噛んだ。
こういう飾らない感じで接してくる女性が貴族の中にもいるんだなぁと思う。
多分、副隊長が特別なんだろうけれど、俺的には話しやすいし気遣わなくていいし、楽だった。

「そう言えば、副隊長。」

「なあに?」

「実は尋問部屋に殿下が来たとき、もう1人一緒にいたんですよ。」

「え~どんな人~?」

「黒い人です。」


その瞬間、副隊長が固まった。
黒い人で通じるという事は、あれはここの人か王子の関係者なんだなと思った。


「黒い、人……?」

「あ、イメージです、イメージ。黒い軍服で、髪も黒くて、何て言うんだろ?醸し出すオーラみたいなのも真っ黒で。」

「………殿下を、リオって呼ぶ?」

「そうです!何で知ってるんですか!?」


なんだ、副隊長の知ってる人かと安心する俺。
しかしそこまで聞いて、副隊長は頭を抱えてため息をついた。

……え?何??
やっぱり、ヤバい人!?

事情がわからず狼狽える俺を一瞥し、副隊長はまたため息をつく。

「……サーク、死んだら骨は拾ってあげるわ。」

「ちょっと怖いこと言わないでくださいよ?!どういう事ですか!?」

「あ~あ~、こんなにたくさん伝説を作ったのに!惜しい人を亡くしたわ!!」

「勝手に殺さないで下さい!!」

縁起でもない事を言われ、俺は目を白黒させるしかない。
副隊長にここまで言わせるなんて、いったい何者なんだ!?


「……それ、ギルよ。」


一体何かと説明を求める俺の視線に、副隊長がため息混じりに答えてくれる。
だが面倒になったと言わんばかりに、乱暴に長い髪をかきあげた。

「ギルとは……どちら様でしょうか??」

「ギルバート・ドレ・グラント、うちの隊長。」

今度は俺が固まる番だった。

は??
え??

何だって??
あの人が隊長!?

しかも殿下を愛称で呼ぶって事は……。


「殿下とは幼馴染みで、ず~っと片思いしてる、生粋のストーカーよ!!」


あ、死んだ。
確かにこれは死んだ。

俺は白目になって、舐めていた酒を口の端から垂れ流した。
そんな俺を憐れむように副隊長は見つめる。

「ただでさえサーク、殿下があんたの事「私の騎士、私の騎士」って言うもんだから、アイツの中の印象最悪なのに!!よりによって、尋問部屋事件の時にあいつ、殿下と一緒にいたの!?うわ~、そりゃ最悪だわ!あ~ごめん、サーク。あんたの事は気に入ってるけど、守ってやれる自信はないわ~。」

副隊長が頭を抱えて首を振っている。

ナニソレ……聞いてないんですけど……??

ヤバい。
やばすぎる。

俺の魂は体から半分抜け始めていた。

「あいつ初恋が長すぎて、拗らせてんのよ。王族である殿下相手じゃ告白できないから、せめて側にいれるよう隊長にまで登り詰めてさ~。騎士として絶対の強さを持つために死ぬほど努力しててさ~。なのに物凄いタイミングで自分がいない時に暗殺事件が起きて、その上それをどこの誰とも知らない男が命がけで守って、殿下の心を掴んだとしたらさ~。」

「……質問です、副隊長~。」

「何でしょう。」

「その、どこの馬の骨ともわからない、殿下の命を守った男と言うのは~、私の事でしょうか~?」

「うん。」

副隊長が、きっぱりと言った。
完全な処刑宣告だ。

「嫌だ~!!まだ死にたくない~!!て言うか、俺!!この前死にかけたばかり~!!」

「可哀想ね、サーク。まさかこんな事になるなんて。」

「助けて下さいよ!副隊長!!」

「ごめん、通常のギルにも勝てないのに、鬼神モードのギルとやり合う気にはなれないわ。」

「鬼神モードって何ですか!?怖いよ!!」

「鬼神モードは、殿下に関わった戦闘の時に出てくる悪魔よ。」

「殺される~!!」

「サーク、あなたの残した伝説は忘れないわ。」

「嫌だ~!!俺を平和な外壁警備に還して下さい~!!」

配属初日。
俺は混沌とする世界で、死刑宣告を受けたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...