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第二章「別宮編」
伝説と混沌と
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「あははっ!!も~あんた最高!!」
配属初日。
俺は何故か、副隊長の部屋で晩酌に付き合っている。
「配属初日で!いくつ伝説を創る気よ!!おかし~!!」
「全部事故です…。」
「尋問部屋に入れることを、地獄送りにするって言うんだけどさ~!あんた、天国に連れてったんだよ!!」
副隊長はゲラゲラ笑って、応接セットのテーブルを叩いている。
「しかもあの後、目を覚ました奴、めちゃくちゃ素直に話すようになったって言うじゃん!?あんた本当に何したのよ!サーク!!」
完全に酒の肴にされてる……。
俺は泣きたい気分で酒を舐めた。
「も~!こんなに伝説造られたらさ!毎日書き残さないと、わかんなくなるじゃん!!」
「やめて下さいよ!!黒歴史です!!」
「まず、魔術を2つ同時に使うでしょ?殿下の命を救うでしょ?平民から騎士になるでしょ?杖を使わずに魔術を使うでしょ?絶対に口を割らなかった男を快楽で喋らせるでしょ?」
「うわあぁっ!!やめて下さい!!」
「次は何をしてくれるのかな~!楽しみだな~!!」
飲んだからなのかそうでないのか、副隊長は嬉々としている。
俺の話を魚にゲラケラ笑い転げて楽しそうだ。
もう、いっそ死にたい。
「て言うか、あの後、サークがいじめられてると思って、殿下が飛んできたんだって!?」
「そうなんですよ!死ぬほどびっくりしました!殿下ってそういう人なんですか!?」
「バカね~愛に決まってるでしょ~!?」
「愛って……俺、殿下と別に何もないですよ?会ったのだって、数えるほどだし。」
「ん~そこは温度差よね~。」
副隊長は、つまみをがじがじと噛んだ。
こういう飾らない感じで接してくる女性が貴族の中にもいるんだなぁと思う。
多分、副隊長が特別なんだろうけれど、俺的には話しやすいし気遣わなくていいし、楽だった。
「そう言えば、副隊長。」
「なあに?」
「実は尋問部屋に殿下が来たとき、もう1人一緒にいたんですよ。」
「え~どんな人~?」
「黒い人です。」
その瞬間、副隊長が固まった。
黒い人で通じるという事は、あれはここの人か王子の関係者なんだなと思った。
「黒い、人……?」
「あ、イメージです、イメージ。黒い軍服で、髪も黒くて、何て言うんだろ?醸し出すオーラみたいなのも真っ黒で。」
「………殿下を、リオって呼ぶ?」
「そうです!何で知ってるんですか!?」
なんだ、副隊長の知ってる人かと安心する俺。
しかしそこまで聞いて、副隊長は頭を抱えてため息をついた。
……え?何??
やっぱり、ヤバい人!?
事情がわからず狼狽える俺を一瞥し、副隊長はまたため息をつく。
「……サーク、死んだら骨は拾ってあげるわ。」
「ちょっと怖いこと言わないでくださいよ?!どういう事ですか!?」
「あ~あ~、こんなにたくさん伝説を作ったのに!惜しい人を亡くしたわ!!」
「勝手に殺さないで下さい!!」
縁起でもない事を言われ、俺は目を白黒させるしかない。
副隊長にここまで言わせるなんて、いったい何者なんだ!?
「……それ、ギルよ。」
一体何かと説明を求める俺の視線に、副隊長がため息混じりに答えてくれる。
だが面倒になったと言わんばかりに、乱暴に長い髪をかきあげた。
「ギルとは……どちら様でしょうか??」
「ギルバート・ドレ・グラント、うちの隊長。」
今度は俺が固まる番だった。
は??
え??
何だって??
あの人が隊長!?
しかも殿下を愛称で呼ぶって事は……。
「殿下とは幼馴染みで、ず~っと片思いしてる、生粋のストーカーよ!!」
あ、死んだ。
確かにこれは死んだ。
俺は白目になって、舐めていた酒を口の端から垂れ流した。
そんな俺を憐れむように副隊長は見つめる。
「ただでさえサーク、殿下があんたの事「私の騎士、私の騎士」って言うもんだから、アイツの中の印象最悪なのに!!よりによって、尋問部屋事件の時にあいつ、殿下と一緒にいたの!?うわ~、そりゃ最悪だわ!あ~ごめん、サーク。あんたの事は気に入ってるけど、守ってやれる自信はないわ~。」
副隊長が頭を抱えて首を振っている。
ナニソレ……聞いてないんですけど……??
ヤバい。
やばすぎる。
俺の魂は体から半分抜け始めていた。
「あいつ初恋が長すぎて、拗らせてんのよ。王族である殿下相手じゃ告白できないから、せめて側にいれるよう隊長にまで登り詰めてさ~。騎士として絶対の強さを持つために死ぬほど努力しててさ~。なのに物凄いタイミングで自分がいない時に暗殺事件が起きて、その上それをどこの誰とも知らない男が命がけで守って、殿下の心を掴んだとしたらさ~。」
「……質問です、副隊長~。」
「何でしょう。」
「その、どこの馬の骨ともわからない、殿下の命を守った男と言うのは~、私の事でしょうか~?」
「うん。」
副隊長が、きっぱりと言った。
完全な処刑宣告だ。
「嫌だ~!!まだ死にたくない~!!て言うか、俺!!この前死にかけたばかり~!!」
「可哀想ね、サーク。まさかこんな事になるなんて。」
「助けて下さいよ!副隊長!!」
「ごめん、通常のギルにも勝てないのに、鬼神モードのギルとやり合う気にはなれないわ。」
「鬼神モードって何ですか!?怖いよ!!」
「鬼神モードは、殿下に関わった戦闘の時に出てくる悪魔よ。」
「殺される~!!」
「サーク、あなたの残した伝説は忘れないわ。」
「嫌だ~!!俺を平和な外壁警備に還して下さい~!!」
配属初日。
俺は混沌とする世界で、死刑宣告を受けたのだった。
配属初日。
俺は何故か、副隊長の部屋で晩酌に付き合っている。
「配属初日で!いくつ伝説を創る気よ!!おかし~!!」
「全部事故です…。」
「尋問部屋に入れることを、地獄送りにするって言うんだけどさ~!あんた、天国に連れてったんだよ!!」
副隊長はゲラゲラ笑って、応接セットのテーブルを叩いている。
「しかもあの後、目を覚ました奴、めちゃくちゃ素直に話すようになったって言うじゃん!?あんた本当に何したのよ!サーク!!」
完全に酒の肴にされてる……。
俺は泣きたい気分で酒を舐めた。
「も~!こんなに伝説造られたらさ!毎日書き残さないと、わかんなくなるじゃん!!」
「やめて下さいよ!!黒歴史です!!」
「まず、魔術を2つ同時に使うでしょ?殿下の命を救うでしょ?平民から騎士になるでしょ?杖を使わずに魔術を使うでしょ?絶対に口を割らなかった男を快楽で喋らせるでしょ?」
「うわあぁっ!!やめて下さい!!」
「次は何をしてくれるのかな~!楽しみだな~!!」
飲んだからなのかそうでないのか、副隊長は嬉々としている。
俺の話を魚にゲラケラ笑い転げて楽しそうだ。
もう、いっそ死にたい。
「て言うか、あの後、サークがいじめられてると思って、殿下が飛んできたんだって!?」
「そうなんですよ!死ぬほどびっくりしました!殿下ってそういう人なんですか!?」
「バカね~愛に決まってるでしょ~!?」
「愛って……俺、殿下と別に何もないですよ?会ったのだって、数えるほどだし。」
「ん~そこは温度差よね~。」
副隊長は、つまみをがじがじと噛んだ。
こういう飾らない感じで接してくる女性が貴族の中にもいるんだなぁと思う。
多分、副隊長が特別なんだろうけれど、俺的には話しやすいし気遣わなくていいし、楽だった。
「そう言えば、副隊長。」
「なあに?」
「実は尋問部屋に殿下が来たとき、もう1人一緒にいたんですよ。」
「え~どんな人~?」
「黒い人です。」
その瞬間、副隊長が固まった。
黒い人で通じるという事は、あれはここの人か王子の関係者なんだなと思った。
「黒い、人……?」
「あ、イメージです、イメージ。黒い軍服で、髪も黒くて、何て言うんだろ?醸し出すオーラみたいなのも真っ黒で。」
「………殿下を、リオって呼ぶ?」
「そうです!何で知ってるんですか!?」
なんだ、副隊長の知ってる人かと安心する俺。
しかしそこまで聞いて、副隊長は頭を抱えてため息をついた。
……え?何??
やっぱり、ヤバい人!?
事情がわからず狼狽える俺を一瞥し、副隊長はまたため息をつく。
「……サーク、死んだら骨は拾ってあげるわ。」
「ちょっと怖いこと言わないでくださいよ?!どういう事ですか!?」
「あ~あ~、こんなにたくさん伝説を作ったのに!惜しい人を亡くしたわ!!」
「勝手に殺さないで下さい!!」
縁起でもない事を言われ、俺は目を白黒させるしかない。
副隊長にここまで言わせるなんて、いったい何者なんだ!?
「……それ、ギルよ。」
一体何かと説明を求める俺の視線に、副隊長がため息混じりに答えてくれる。
だが面倒になったと言わんばかりに、乱暴に長い髪をかきあげた。
「ギルとは……どちら様でしょうか??」
「ギルバート・ドレ・グラント、うちの隊長。」
今度は俺が固まる番だった。
は??
え??
何だって??
あの人が隊長!?
しかも殿下を愛称で呼ぶって事は……。
「殿下とは幼馴染みで、ず~っと片思いしてる、生粋のストーカーよ!!」
あ、死んだ。
確かにこれは死んだ。
俺は白目になって、舐めていた酒を口の端から垂れ流した。
そんな俺を憐れむように副隊長は見つめる。
「ただでさえサーク、殿下があんたの事「私の騎士、私の騎士」って言うもんだから、アイツの中の印象最悪なのに!!よりによって、尋問部屋事件の時にあいつ、殿下と一緒にいたの!?うわ~、そりゃ最悪だわ!あ~ごめん、サーク。あんたの事は気に入ってるけど、守ってやれる自信はないわ~。」
副隊長が頭を抱えて首を振っている。
ナニソレ……聞いてないんですけど……??
ヤバい。
やばすぎる。
俺の魂は体から半分抜け始めていた。
「あいつ初恋が長すぎて、拗らせてんのよ。王族である殿下相手じゃ告白できないから、せめて側にいれるよう隊長にまで登り詰めてさ~。騎士として絶対の強さを持つために死ぬほど努力しててさ~。なのに物凄いタイミングで自分がいない時に暗殺事件が起きて、その上それをどこの誰とも知らない男が命がけで守って、殿下の心を掴んだとしたらさ~。」
「……質問です、副隊長~。」
「何でしょう。」
「その、どこの馬の骨ともわからない、殿下の命を守った男と言うのは~、私の事でしょうか~?」
「うん。」
副隊長が、きっぱりと言った。
完全な処刑宣告だ。
「嫌だ~!!まだ死にたくない~!!て言うか、俺!!この前死にかけたばかり~!!」
「可哀想ね、サーク。まさかこんな事になるなんて。」
「助けて下さいよ!副隊長!!」
「ごめん、通常のギルにも勝てないのに、鬼神モードのギルとやり合う気にはなれないわ。」
「鬼神モードって何ですか!?怖いよ!!」
「鬼神モードは、殿下に関わった戦闘の時に出てくる悪魔よ。」
「殺される~!!」
「サーク、あなたの残した伝説は忘れないわ。」
「嫌だ~!!俺を平和な外壁警備に還して下さい~!!」
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