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第一章「外壁警備編」
追うもの追われるもの
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言いたいことを言い切って、向こうの答えを待った。
王子がゆっくりと口を開く。
流石にあの返答では、異動を喜んでいる訳では無いことは感じたらしい。
その顔は、困ったような寂しさを含んでいた。
「そうか…。私は、あなたにロイヤルシールドに入って欲しかったのですが…。」
その瞬間、王子以外の人間が全員凍りついた。
いやいやいや。
待ってくれ、いくらなんでも待ってくれ。
ロイヤルシールドってあんた、王族を直で守る魔術師でしょう!?
そんなものに、外壁警備で魔術兵やってたヤツが、異動で入れるわけないでしょう!?
この王子、大丈夫!?
大丈夫じゃないよね!?
ヤバいよね!?
なに考えてるんだ、バカ王子~!!
「いけません!殿下!!」
「そうです!言語道断です!そのような事は不可能です!!」
「ロイヤルシールドは、家柄も実力も、国内きっての限られた者しかなれません!!」
「そうです!一介の兵士がロイヤルシールドになるなどあり得ません!!」
側近たちが口々に叫ぶ。
硬直したまま、完全に酸っぱいものが込み上げてきた俺の膝を、班長がとんとんとなだめるように叩いた。
タスケテクダサイ、ハンチョー
え?あの人、俺の話聞いてた?
身分の話したよね?
どうせそこをうだうだ言われるから、先にこっちから、身分を問われるようなところは無理だよって?
「わかっていますよ?」
王子は側近達を手で制し、ゆっくりと言った。
俺に視線を向け、にっこりと微笑む。
「私は、この度の功績を称え、ハクマ・サークに騎士の称号を与えるつもりです。」
ズガンと再び、会議場に衝撃が走った。
あまりの事に、全員、言葉がでない。
え?何?
いっそ、殺してもらえませんか?
あまりの事に、意識が飛びそうだ。
いや、既に飛んでいる。
さっきまで、俺を気遣ってくれていた班長も、完全に固まっている。
当たり前だ。
誰がそこまで話が大きくなると予想した?
異動と言っても、町警備、最高でも城外警備が限界だ。
まさかそれを飛び越えさせる為に、騎士の称号を用意してるなんて、誰が想像できた!?
「…ングッ。」
小さくえずいた俺は、咄嗟に手で口を塞いだ。
ハッとした班長が、ハンカチを取り出し、テーブルの下から渡してくれた。
出来るだけ平静を保ちながら、上がってきたものを飲み込む。
「い、いやしかし、騎士にしたからと言ってロイヤルシールドにすることは…。」
「そもそも騎士にすると言っても、それなりの準備が必要ですし…。」
側近たちも歯切れが悪い。
騎士は貴族ではなく、ただの称号だ。
王やそれに準ずるものが、与えると言ったら、兵士にだって与えられる。
貴族生まれの者は生まれつき騎士の称号を持っている為、騎士が皆、貴族だと思われているが、そうじゃない。
数は少ないが功績によってその称号を得た騎士も存在する。
とはいえ、貴族ではない騎士は、領土でも与えられない限りは兵士とさほど変わらない。
ただ、騎士ではあるので、実績と王命があれば中枢の仕事も任される事になる。
「その、ハクマ・サークの身元ですが…。」
「ハクマ家は、他国と言えどれっきとした地方貴族だと聞いています。我が国の国民となる際、両者合意の元、平民としての登録となりました。」
「しかし、資料によれば、養子との事ですし…。」
班長が視線だけで俺を見たのがわかる。
俺は動かなかった。
「彼が養子として迎えられたのは、神童とうたわれ、教会育ちで保証もあったためです。そもそも騎士は、身分に関係なく与えられる称号であると思っていましたが?違いますか?」
どうやら俺は、王子を甘く見ていたらしい。
よくもまあ、この短い間に調べあげてくれたもんだ。
他国の移民で、この国には平民として入ったからそこまで詳しく調べる事なんて出来ないと思っていた。
「ですが、実力を示すものが…。」
「彼は民間魔術学校とはいえ、主席で卒業しています。兵士入団の試験も、他の魔術学校高成績者と実力を競っていたとあります。平民であることと本人の希望で、外壁警備魔術兵となっていましたが、先日の戦闘の際、彼が2つの魔術を同時に操り、使用していたことを多くの者が目撃しています。」
俺は目を瞑った。
班長が驚いたようにこちらに顔を向けたのがわかった。
やっぱり、やらなきゃ良かったな。
完敗だよ、王子。
ここから反撃できる要素が見つからない。
敗因は、あんたを甘く見ていた俺自身だろうな。
煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。
側近たちが顔を見合わせるが、向こうも抵抗できるカードがないのだろう。
そもそも、王族から騎士の称号とか持ち出してこられたら、止める手段はない。
俺は目を開いた。
にこやかに俺を見つめる王子を、ただ見返す。
第三王子。
ライオネル・ミスル・サバール・クインサー。
世間知らずのお花畑だと思っていたけれど、どうやらそれなりの棘は持っているようだ。
王子がゆっくりと口を開く。
流石にあの返答では、異動を喜んでいる訳では無いことは感じたらしい。
その顔は、困ったような寂しさを含んでいた。
「そうか…。私は、あなたにロイヤルシールドに入って欲しかったのですが…。」
その瞬間、王子以外の人間が全員凍りついた。
いやいやいや。
待ってくれ、いくらなんでも待ってくれ。
ロイヤルシールドってあんた、王族を直で守る魔術師でしょう!?
そんなものに、外壁警備で魔術兵やってたヤツが、異動で入れるわけないでしょう!?
この王子、大丈夫!?
大丈夫じゃないよね!?
ヤバいよね!?
なに考えてるんだ、バカ王子~!!
「いけません!殿下!!」
「そうです!言語道断です!そのような事は不可能です!!」
「ロイヤルシールドは、家柄も実力も、国内きっての限られた者しかなれません!!」
「そうです!一介の兵士がロイヤルシールドになるなどあり得ません!!」
側近たちが口々に叫ぶ。
硬直したまま、完全に酸っぱいものが込み上げてきた俺の膝を、班長がとんとんとなだめるように叩いた。
タスケテクダサイ、ハンチョー
え?あの人、俺の話聞いてた?
身分の話したよね?
どうせそこをうだうだ言われるから、先にこっちから、身分を問われるようなところは無理だよって?
「わかっていますよ?」
王子は側近達を手で制し、ゆっくりと言った。
俺に視線を向け、にっこりと微笑む。
「私は、この度の功績を称え、ハクマ・サークに騎士の称号を与えるつもりです。」
ズガンと再び、会議場に衝撃が走った。
あまりの事に、全員、言葉がでない。
え?何?
いっそ、殺してもらえませんか?
あまりの事に、意識が飛びそうだ。
いや、既に飛んでいる。
さっきまで、俺を気遣ってくれていた班長も、完全に固まっている。
当たり前だ。
誰がそこまで話が大きくなると予想した?
異動と言っても、町警備、最高でも城外警備が限界だ。
まさかそれを飛び越えさせる為に、騎士の称号を用意してるなんて、誰が想像できた!?
「…ングッ。」
小さくえずいた俺は、咄嗟に手で口を塞いだ。
ハッとした班長が、ハンカチを取り出し、テーブルの下から渡してくれた。
出来るだけ平静を保ちながら、上がってきたものを飲み込む。
「い、いやしかし、騎士にしたからと言ってロイヤルシールドにすることは…。」
「そもそも騎士にすると言っても、それなりの準備が必要ですし…。」
側近たちも歯切れが悪い。
騎士は貴族ではなく、ただの称号だ。
王やそれに準ずるものが、与えると言ったら、兵士にだって与えられる。
貴族生まれの者は生まれつき騎士の称号を持っている為、騎士が皆、貴族だと思われているが、そうじゃない。
数は少ないが功績によってその称号を得た騎士も存在する。
とはいえ、貴族ではない騎士は、領土でも与えられない限りは兵士とさほど変わらない。
ただ、騎士ではあるので、実績と王命があれば中枢の仕事も任される事になる。
「その、ハクマ・サークの身元ですが…。」
「ハクマ家は、他国と言えどれっきとした地方貴族だと聞いています。我が国の国民となる際、両者合意の元、平民としての登録となりました。」
「しかし、資料によれば、養子との事ですし…。」
班長が視線だけで俺を見たのがわかる。
俺は動かなかった。
「彼が養子として迎えられたのは、神童とうたわれ、教会育ちで保証もあったためです。そもそも騎士は、身分に関係なく与えられる称号であると思っていましたが?違いますか?」
どうやら俺は、王子を甘く見ていたらしい。
よくもまあ、この短い間に調べあげてくれたもんだ。
他国の移民で、この国には平民として入ったからそこまで詳しく調べる事なんて出来ないと思っていた。
「ですが、実力を示すものが…。」
「彼は民間魔術学校とはいえ、主席で卒業しています。兵士入団の試験も、他の魔術学校高成績者と実力を競っていたとあります。平民であることと本人の希望で、外壁警備魔術兵となっていましたが、先日の戦闘の際、彼が2つの魔術を同時に操り、使用していたことを多くの者が目撃しています。」
俺は目を瞑った。
班長が驚いたようにこちらに顔を向けたのがわかった。
やっぱり、やらなきゃ良かったな。
完敗だよ、王子。
ここから反撃できる要素が見つからない。
敗因は、あんたを甘く見ていた俺自身だろうな。
煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。
側近たちが顔を見合わせるが、向こうも抵抗できるカードがないのだろう。
そもそも、王族から騎士の称号とか持ち出してこられたら、止める手段はない。
俺は目を開いた。
にこやかに俺を見つめる王子を、ただ見返す。
第三王子。
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