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第一章「外壁警備編」

三人で肩を並べて

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あの後、俺はリグと会わなかった。

昼飯をもそもそ食べ待っていたけれど二人は戻ってこなかった。
午後の就業開始の鐘が鳴り、仕方なく一人で修復作業に戻る。
途中で気になったのでテントに戻ると、班長だけが戻っていた。
リグの事を聞くと、仕事ができる状態じゃなかったから帰したと言った。
3人で後で食べようと思っていたベリーパイが丸々残っていた。

「班長。」

「なんだ?」

「これ、帰りにリグに届けていい?」

「……いや、俺が届ける。お前は今は会うな。そっとしといてやれ。」

何で?と聞こうかと思ったが、やめた。
あの後リグと話したのは班長だし、何か考えがあるんだろう。

「明日はここによらずに別宮に行く。就業時間にうちに来い。」

「わかりました。」

「……遅刻するなよ。」

書類から目を離さず、班長は淡々とそう言った。
班長の立場を考えれば俺から何か言うのは気が引けた。

俺は水を飲んで作業に戻った。





別宮で通されたのは、会議場だった。

またあの謁見室だったらどうしようかと思っていたので、少し気が楽になる。
揃ってる面子も必要最低限と言った感じだった。
促されて、末席に班長と座る。
王子含めて6人ほどの面子が座る場所から、物凄く離れていた。
何だか裁判でも受けるみたいだ。

「聞いていると思うが、魔術兵ハクマ・サークの実力を鑑みて、この度、所属を変更したいと考えている。」

「聞いております。」

班長が答えた。
俺は何か聞かれるまで喋るべきではないだろう。

「その事で、殿下からお言葉があります。こころして聞くように。」

進行役を勤めているらしい側近がそう言うと、王子が口を開いた。

「2度も足を運ばせて済まない。私はあの日の戦いぶりをこの目で見て、その実力をもっと国のために使わせてもらいたいと思った。だから、回復薬も使用させてもらいました。どうでしょう?ハクマ・サーク、あなたの力を私とこの国に貸してはもらえませんか?」

なるほど、そう言う建前になった訳か。
この前の事から、俺に回復薬を使ったことが問題になったのか。
王子が勝手に使ったとはいえ、一介の兵士への褒賞とするには高すぎたのだろう。
そうなれば、当然それを使った理由が必要になってくる。
実力があるからとして昇級させれば理由の穴埋めにもなるし、王子としても俺に褒美を与える事になるからうってつけだって訳だ。

勝手な話だ。

にこにこと笑う王子に、俺は内心、呆れていた。
自分のしていることが正しいと疑いもしてないんだろうな。
これでみんな、ハッピーだねって。

リグの泣きそうな怒り顔が頭に浮かぶ。

あいつ、意外に泣き虫だよな。
知らなかったよ。

進行役が、不自然に咳払いをした。
何か答えろと言うことらしい。
俺はちらりと班長を見た。
班長は小さく頷いた。

「発言させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「許可します。」

俺は立ち上がり、一礼した。

「殿下のお心遣いに感謝申し上げます。私のようなものの力を必要として下さり、恭悦です。私はこの国の兵です。殿下と国のために未熟ながら全身全霊、お力になる覚悟でございます。しかしながら、私の実力そして身分ではそれも限られて来るでしょう。」

俺は少し言葉を切った。
間をおく事で言葉を強調させるためだ。
そして小さく深呼吸をする。

「私は、外壁を守る仕事は価値あるものだと信じています。確かに一番、王都の外側にあるでしょう。ですが、だからこそ守る価値があるのです。何があろうと外壁を守る事ができれば、王都を、人々を、王を守ることができます。」

だから異動する気なんかない。
あんなにまったりしていて、サボってもげんこつで済むような職場、離れるなんて嫌に決まってる。
研究だって外壁警備だから時間がとれるんだ。
誰でも彼でも出世したい訳じゃないんだよ。

「はじめにも申しました通り、私はこの国の兵です。殿下と国のために、私の全ての力でお仕えしたいと考え、ご判断をお任せしたいと思います。」

言いたいことは言い切った。
後はどうすることも出来ない。
一介の兵士にできる抵抗なんてこの程度だ。
俺は一礼して、席に戻った。
班長が小さく笑って、俺の膝をぽんぽんと叩いた。
前を向いたまま、音を出さずに班長は言った。

(ありがとな)

俺も小さく頷く。
俺の班長が、ザクス班長で良かった。
何でもげんこつで解決しようとするけど、班長が班長で良かった。

なぁ、リグ。

お前の言う通りだよ。
5区外壁警備魔術班が、俺たちの3人で良かった。

俺は心から、そう思っていた。
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