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一章
食事、そして迫り来る──
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街に戻ると、日は既に落ち、空は辛うじて赤さを残している程度だった。もう数十分もすれば夜の帳が下りきるだろう、と。
門番に言って街に入れてもらう時、門番は異様な目で俺を見ていた。
ズリ、と地面と長く背中に垂れたそれが擦れる。
道行く人が俺を目を見開いて驚き、凝視したり二度見したり、酷い時は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らしていた。まあ、暗いし無理もないのだが。
冒険者の宿が見えると、その前に小さな人影が見える。夜の王と言われるだけあって、当たり前のように暗視を持つ俺は目を凝らすと、それがナーミアであることが知れた。
待っててくれたのか、と感激に心を震わせながら、小走りでナーミアの近くに行き。
「ただいま!」
上機嫌に元気よく声をかけると、振り向いたナーミアが俺の方を見て──
「わぁぁぁぁぁぁ!!!」
──悲鳴をあげた。
◇◆◇◆◇◆
少し頰を膨らせて、ナーミアが俺の隣に座っていた。
「ごめんって……だから驚かせる気は無かったんだってば」
「それはそうなんでしょうけど……うぅ……」
平謝りする俺に、ナーミアは怒りの為か恥ずかしさからか、顔を赤くしていた。
驚きのあまり腰を抜かしたナーミアを運んで宿屋に戻ったのがつい先程。少し時間が押していたのもあって、宿内にある大きめの食堂に案内されて席に着くと、すぐに次々と席に料理が運ばれてきた。
腰を抜かしたナーミアは手伝えないだろうと、ナーミアの母親は苦笑して、ナーミアは俺と一緒に食事を済ませてしまうことになったのだった。
ナイフで小さく切った鶏肉をフォークで口に運びながら、俺は未だ少し不機嫌そうなナーミアに何度目かわからない弁明をした。
「どれくらい持って帰って来ていいかわかんなかったからしょうがないんだって、許してくれよー……」
そう。
あの後、俺を襲った獣の死体を目の前に、俺は心底困り果てた。
倒した生物の一部を持って帰ればお金と引き換えて貰えるとの事だったのだが、その分量が分かりかねたのである。
万が一にでも、これでは交換に足りないなどと言われてしまえばほぼ無一文。それだけは回避しなければという危機感に苛まれた俺は、結局どうしたのかというと、死体をまるごと担いで帰ったのだ。毛皮を羽織るように。
結果、振り向いたナーミアは肉食獣特有の白く鋭い歯を剥き出しに、白目を剥いた三メートル強の獣が今にも襲ってくるような光景を眼前にし、驚きと恐怖から腰を抜かしてしまったのであった。
因みに獣は、冒険者の宿でも捕捉されたことのない、文字通り誰も見たことも聞いたこともない獣だったらしく、俺が軽く話した危険性も踏まえて、金貨十枚を報酬として貰えた。価値がわからなかったのでそれとなくナーミアに聞いてみると、この宿に二泊出来る程度らしい。宿が凄いのか金貨がショボいのか。
「……まぁ、良いんです。別に怒ってはいないんですけど、気持ちの整理がつかないといいますか……」
やはり暗くなっていて人通りは少なかったとはいえ、公衆の面前で驚かせてしまったのが良くなかったのか。反省。
ナーミアと俺がかちゃり、と食器を置く。最後に出てきた甘いデザートも含めて堪能し尽くした俺は、幸せな気分で椅子の背もたれに身体を預け、全力で脱力した。
なんだ、異世界も悪くない。むしろ生前より遥かに充実している。
見るもの全てが新鮮だし、悪い人もいるかもしれないが優しい人も沢山いる。
不自由することも案外ない。美味しい料理にも、稼いでいけばありつける事が今日わかった。
吸血鬼でなかったらこうトントン拍子にはいかなかっただろうが、現に俺は吸血鬼な訳だし、そんなことは考えない事にした。
──この時、俺はその恐ろしさにまだ気づいていなかった。
否。軽く痛感していたにも関わらず、大したことはないと失念していた。
次の瞬間、俺は思い知る事になる。
「そういえば、フィリアさん。お風呂はいつ頃お入りになりますか?」
他でもない、女の身体の恐ろしさを──!!
門番に言って街に入れてもらう時、門番は異様な目で俺を見ていた。
ズリ、と地面と長く背中に垂れたそれが擦れる。
道行く人が俺を目を見開いて驚き、凝視したり二度見したり、酷い時は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らしていた。まあ、暗いし無理もないのだが。
冒険者の宿が見えると、その前に小さな人影が見える。夜の王と言われるだけあって、当たり前のように暗視を持つ俺は目を凝らすと、それがナーミアであることが知れた。
待っててくれたのか、と感激に心を震わせながら、小走りでナーミアの近くに行き。
「ただいま!」
上機嫌に元気よく声をかけると、振り向いたナーミアが俺の方を見て──
「わぁぁぁぁぁぁ!!!」
──悲鳴をあげた。
◇◆◇◆◇◆
少し頰を膨らせて、ナーミアが俺の隣に座っていた。
「ごめんって……だから驚かせる気は無かったんだってば」
「それはそうなんでしょうけど……うぅ……」
平謝りする俺に、ナーミアは怒りの為か恥ずかしさからか、顔を赤くしていた。
驚きのあまり腰を抜かしたナーミアを運んで宿屋に戻ったのがつい先程。少し時間が押していたのもあって、宿内にある大きめの食堂に案内されて席に着くと、すぐに次々と席に料理が運ばれてきた。
腰を抜かしたナーミアは手伝えないだろうと、ナーミアの母親は苦笑して、ナーミアは俺と一緒に食事を済ませてしまうことになったのだった。
ナイフで小さく切った鶏肉をフォークで口に運びながら、俺は未だ少し不機嫌そうなナーミアに何度目かわからない弁明をした。
「どれくらい持って帰って来ていいかわかんなかったからしょうがないんだって、許してくれよー……」
そう。
あの後、俺を襲った獣の死体を目の前に、俺は心底困り果てた。
倒した生物の一部を持って帰ればお金と引き換えて貰えるとの事だったのだが、その分量が分かりかねたのである。
万が一にでも、これでは交換に足りないなどと言われてしまえばほぼ無一文。それだけは回避しなければという危機感に苛まれた俺は、結局どうしたのかというと、死体をまるごと担いで帰ったのだ。毛皮を羽織るように。
結果、振り向いたナーミアは肉食獣特有の白く鋭い歯を剥き出しに、白目を剥いた三メートル強の獣が今にも襲ってくるような光景を眼前にし、驚きと恐怖から腰を抜かしてしまったのであった。
因みに獣は、冒険者の宿でも捕捉されたことのない、文字通り誰も見たことも聞いたこともない獣だったらしく、俺が軽く話した危険性も踏まえて、金貨十枚を報酬として貰えた。価値がわからなかったのでそれとなくナーミアに聞いてみると、この宿に二泊出来る程度らしい。宿が凄いのか金貨がショボいのか。
「……まぁ、良いんです。別に怒ってはいないんですけど、気持ちの整理がつかないといいますか……」
やはり暗くなっていて人通りは少なかったとはいえ、公衆の面前で驚かせてしまったのが良くなかったのか。反省。
ナーミアと俺がかちゃり、と食器を置く。最後に出てきた甘いデザートも含めて堪能し尽くした俺は、幸せな気分で椅子の背もたれに身体を預け、全力で脱力した。
なんだ、異世界も悪くない。むしろ生前より遥かに充実している。
見るもの全てが新鮮だし、悪い人もいるかもしれないが優しい人も沢山いる。
不自由することも案外ない。美味しい料理にも、稼いでいけばありつける事が今日わかった。
吸血鬼でなかったらこうトントン拍子にはいかなかっただろうが、現に俺は吸血鬼な訳だし、そんなことは考えない事にした。
──この時、俺はその恐ろしさにまだ気づいていなかった。
否。軽く痛感していたにも関わらず、大したことはないと失念していた。
次の瞬間、俺は思い知る事になる。
「そういえば、フィリアさん。お風呂はいつ頃お入りになりますか?」
他でもない、女の身体の恐ろしさを──!!
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