23 / 28
一章
槍
しおりを挟む
踏み出すと、ぐしゃりと柔らかい湿った土の感触。
ブラッド・バットの反応地点まではもう少しあるだろうか。事前の索敵には引っかかることがなかったので当然だが、動くものは何もない。ひどく静かだ。
本当にいるのか? 若干半信半疑になってきた。能力も、実戦投入するのは初めてだし、もしかすると虫の一匹でも感知してしまったのかもしれない。
しかし、それにしても動物がいない。冬前とはいえ、森だというのならもう少し、それこそ小鳥くらいはどこにでもいていいと思うのだけれど。
……?
疑問を胸に歩いていると、ふと、ガサガサと草が掻き分けられるような音。よくよく眼を凝らせば、進行方向前方の草叢が揺れている。風か、と思ったが、風は吹いているには吹いているが、揺れ具合と比べれば些細なものだ。
反応の地点まではまだかなりある。ならば、一体何が……
刹那。
俺が何を感知するよりも早く。他の全ての現象を置き去りにした一陣の風が起きた。
視界がぐるぐると横に回る。
浮遊感。混乱する暇もなく、身体が痛みを訴える。
俺は、真上に鉛直に、吹き飛ばされていた。
「がッ……ぁ!」
地面に強かに打ち付けられ、鈍い痛みと共に肺の中の息を全て吐き出す。
文字通り血を吐きながら立ち上がるが、目視できる範囲には何もない。ただの森だ。
だが、俺は確信する。吸血鬼の視覚、反射神経すら凌駕する速度の何かが俺を襲っているのだと。
鈍い痛みは瞬時に鳴りを潜めた。吸血鬼の再生能力の所為だろう。
もっと簡単にやれるもんだと思っていたが、どうやら冒険者というのはそう簡単でもないらしい。
「ったく、速いってのは厄介だなぁ……」
チッ、と舌打ちをしたと同時、真横の草叢が揺れた。
ひょい、と身を屈めてそれを躱す。頭上を通り過ぎるナニカ。残滓のように残った風が髪を揺らす。
「成る程……確かにわかってて避けられなきゃ、最強とは言わねえよなぁ……」
視線を感じる力。五感。身体能力。反射神経。
視線が読めれば敵の居場所がわかり、それは不意打ちで無くなるだろう。
五感が冴えれば、僅かな変化にも気づきタイミングがはかれる。
身体能力と反射神経は言わずもがな。
最強と呼ばれる生物、吸血鬼。
油断さえしてなければ、中身が俺のような一般人でも避けるくらいは容易のようだ。
「流石に何がいるのかは見えなかったが……っと」
再び迫るそれを、舞うように軽やかに……とはお世辞にも言えなかったが、掠ることすらせずにかわしていく。
突撃で小柄とはいえ、人間大の大きさの俺を吹き飛ばすだけあって体躯はでかい。にも関わらず、吸血鬼の視覚ですら捉えきれない速度。人間が勝てる相手なのか、これ。
「ま、生憎俺は……吸血鬼なんでな」
もう再生している親指の腹を、再び牙で噛み切ってみせる。ブツリ、と皮が裂け、血が噴き出す。
剣は当てられる気がしないし、魔法という手は怖いので使いたくない。となれば血しかないだろう。
四方八方、森に姿を潜ませながら出鱈目なタイミングと速度で襲いかかるナニカ。
だが、初撃以降一向に当たらないことに腹を立てたのだろうか。或いは、俺を殺す為凡ゆるパターンを模索していたのか。
常に俺を横切るように、森を走り抜けていたそれが、跳ねた。要するに、飛びかかってきた。全体重をかけ。一度地面に対して垂直に跳ね、木を蹴って加速しながら。
「……って、来ると思ったんだよなぁ。軽率だぜ、それ」
敵は速い。
攻撃は恐らく避けられるだろう。
ヤツが地面に足をつけている間は、カウンターで迎え撃つ攻撃すら避けられないとは言い切れない。
よって、地面から脚を離して貰った。
しびれを切らすか、体力に限界がくるかすれば、まだ試していないパターンを選んでくるだろうと予測した。
流石吸血鬼。土壇場の発想も、冷静な思考力も一級品だ。
血が形を持つ。
それは、槍だ。
全てを穿ち抉る、極太の戦槍──!!
「ズィーク・ジャベリン!!」
飛び込んできたそれを頭から串刺しにし、血の槍は、更に血を滴らせた。
ブラッド・バットの反応地点まではもう少しあるだろうか。事前の索敵には引っかかることがなかったので当然だが、動くものは何もない。ひどく静かだ。
本当にいるのか? 若干半信半疑になってきた。能力も、実戦投入するのは初めてだし、もしかすると虫の一匹でも感知してしまったのかもしれない。
しかし、それにしても動物がいない。冬前とはいえ、森だというのならもう少し、それこそ小鳥くらいはどこにでもいていいと思うのだけれど。
……?
疑問を胸に歩いていると、ふと、ガサガサと草が掻き分けられるような音。よくよく眼を凝らせば、進行方向前方の草叢が揺れている。風か、と思ったが、風は吹いているには吹いているが、揺れ具合と比べれば些細なものだ。
反応の地点まではまだかなりある。ならば、一体何が……
刹那。
俺が何を感知するよりも早く。他の全ての現象を置き去りにした一陣の風が起きた。
視界がぐるぐると横に回る。
浮遊感。混乱する暇もなく、身体が痛みを訴える。
俺は、真上に鉛直に、吹き飛ばされていた。
「がッ……ぁ!」
地面に強かに打ち付けられ、鈍い痛みと共に肺の中の息を全て吐き出す。
文字通り血を吐きながら立ち上がるが、目視できる範囲には何もない。ただの森だ。
だが、俺は確信する。吸血鬼の視覚、反射神経すら凌駕する速度の何かが俺を襲っているのだと。
鈍い痛みは瞬時に鳴りを潜めた。吸血鬼の再生能力の所為だろう。
もっと簡単にやれるもんだと思っていたが、どうやら冒険者というのはそう簡単でもないらしい。
「ったく、速いってのは厄介だなぁ……」
チッ、と舌打ちをしたと同時、真横の草叢が揺れた。
ひょい、と身を屈めてそれを躱す。頭上を通り過ぎるナニカ。残滓のように残った風が髪を揺らす。
「成る程……確かにわかってて避けられなきゃ、最強とは言わねえよなぁ……」
視線を感じる力。五感。身体能力。反射神経。
視線が読めれば敵の居場所がわかり、それは不意打ちで無くなるだろう。
五感が冴えれば、僅かな変化にも気づきタイミングがはかれる。
身体能力と反射神経は言わずもがな。
最強と呼ばれる生物、吸血鬼。
油断さえしてなければ、中身が俺のような一般人でも避けるくらいは容易のようだ。
「流石に何がいるのかは見えなかったが……っと」
再び迫るそれを、舞うように軽やかに……とはお世辞にも言えなかったが、掠ることすらせずにかわしていく。
突撃で小柄とはいえ、人間大の大きさの俺を吹き飛ばすだけあって体躯はでかい。にも関わらず、吸血鬼の視覚ですら捉えきれない速度。人間が勝てる相手なのか、これ。
「ま、生憎俺は……吸血鬼なんでな」
もう再生している親指の腹を、再び牙で噛み切ってみせる。ブツリ、と皮が裂け、血が噴き出す。
剣は当てられる気がしないし、魔法という手は怖いので使いたくない。となれば血しかないだろう。
四方八方、森に姿を潜ませながら出鱈目なタイミングと速度で襲いかかるナニカ。
だが、初撃以降一向に当たらないことに腹を立てたのだろうか。或いは、俺を殺す為凡ゆるパターンを模索していたのか。
常に俺を横切るように、森を走り抜けていたそれが、跳ねた。要するに、飛びかかってきた。全体重をかけ。一度地面に対して垂直に跳ね、木を蹴って加速しながら。
「……って、来ると思ったんだよなぁ。軽率だぜ、それ」
敵は速い。
攻撃は恐らく避けられるだろう。
ヤツが地面に足をつけている間は、カウンターで迎え撃つ攻撃すら避けられないとは言い切れない。
よって、地面から脚を離して貰った。
しびれを切らすか、体力に限界がくるかすれば、まだ試していないパターンを選んでくるだろうと予測した。
流石吸血鬼。土壇場の発想も、冷静な思考力も一級品だ。
血が形を持つ。
それは、槍だ。
全てを穿ち抉る、極太の戦槍──!!
「ズィーク・ジャベリン!!」
飛び込んできたそれを頭から串刺しにし、血の槍は、更に血を滴らせた。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる