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一章

秘密

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 ナーミアが言われた通りに小屋から出るのを確認すると、ファニーマンは鋭い猛禽類のような目で、私を睨んだ。

「……俺に話ってのは、何ですか」
「まず前置きさせてもらわねばならぬ事実がある。私は、自らの行う記憶の投射作業を、万全にする為に、無断で来訪者の記憶を覗いている。貴様が吸血鬼であることも、わかっておる」

 ……成る程。
 通りで俺が、ナーミアから魔法の知識を得たのだとわかったわけだ。
 何してんだコイツ、と思わないでもないが、理由も伴っているので深く追求することはしない。

「それで、貴様の記憶を覗かせて貰ったのだが……私が危惧しているのは貴様の数少ない記憶の、最も始めの方にいる老人。ヤツの事だ」

 数少ない記憶?
 いや、それよりも老人といえば……あの、吸血鬼の老人のことか。

「危惧、だと? 彼は危険な存在なのか?」
「……二百年程前の話になる。私とヤツは、邂逅した。吸血鬼ということは瞬時に知れたのでな、最強の魔法使いとして自負のあった私は奴に攻撃を仕掛けた。だが……この私ですら手も足も出させて貰えぬ、災害のような脅威だった。ゴミを見るような目で私を見ていたから、奴は忘れているかもしれんな。私は決して忘れぬ」

 目を閉じ、昔を思い返すように浸り語るファニーマンの口調には、確かな屈辱の色が滲んでいた。

「ヤツが何者なのか、私には判らん。真に貴様を想う、同胞に優しい吸血鬼なのかもしれん。ただヤツの力は、恐らく同じ吸血鬼から見ても脅威である。それに……此れは勘で悪いが、何かヤツには恐ろしく、深く黒いものを感じたのだ。其れが何なのか判らぬうちは、軽々と心を許すべきではない、と……それだけは、伝えたかったのだ」

 ……ああ、そうか。
 何だ、変態だとばかり思っていたけれど、この人いい人だ。

「現に貴様はヤツに命を救われている。この様な胡散臭いジジイの言うことなど、信用ならんかもしれんが、何かあってからでは遅いので、な」
「いや、信用する。確かにちょっと気を許し過ぎたかもしれない。警戒して困る事はないからな。反省して肝に命じておくよ」

 多分、俺が余りに聞き分けが良かったからだろう。目を見開き、驚いた様に顔を上げるファニーマン。
 俺としては、まぁ信じて当然みたいなことなんだが、彼にとっては不可解なのかもしれない。

「え、えらくあっさりと受け入れるのだな。仮にも命の恩人を貶され、不快ではないのか?」
「いや、俺が彼に受けた恩をさ、知っててわざわざ言ってくれたわけだろ? だったらあんまり疑いたくねえし、それに──ナーミアがさ、あんたのこといい人だって言ってたんだ。知ってるだろ? あんたを信じる、ナーミアを俺は信じてやりたいんだ。だからかな」

 途中で気恥ずかしくなって、顔を赤らめながらも言い切ると、面食らった様子だったファニーマンが不意に吹き出し、ふはははと高笑いし始めた。

「成る程、成る程な! 貴様の旅に幸あれ、と願っておこう!! そして、願わくはまたこの地で相見えよう!」
「ったく、急に元気になりやがって……じゃあな、ファニーマンさん。あんたも達者で暮らせよ」

 踵を返して視線をきり、ドアへと向かう。
 くそ、恥ずかしい。
 慣れないことやるもんじゃないな、なんてちょっと後悔しながら、俺はドアを開け、外へと出る。
 後ろから刺さる視線が、最後まで喧しかった。
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