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序章
転生
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自分が死んだことに気づく事なんて出来るわけもない俺は、当然これが夢の中だろうと思った。
明晰夢……意識があり、自分を認知できる夢だと。
俺は倒れていた身体を起こすと、辺りを見回した。
其処はどうやら森の奥の奥で、差す光は葉っぱの天井の隙間から来る日光くらいだった。目を凝らしても、木の奥には闇以外は見えない。初めて匂う、心地よい香りは、さながら植物の匂いか。
俺は特にあてもなく、ぼーっとする頭を引きずって歩き出した。
目線が少し低い気がしたけど、景色が見慣れないものだったから気にならなかった。
しばらく歩いてみて、頭が明瞭になったころ、ようやく自分の服装の可笑しさに気づいた。
俺は、全身にボロいローブを纏っていた。
そして察した。その下に何も着ていないことを。
「……流石に全裸ってどうよ」
ひとりごちた俺は、やはり一人で首を捻った。
すなわち──声、高くね? である。
「あ、あー、あー? あー……」
何度か声を出してみるが、やっぱり聞き慣れた声との差異が気になる。
まるで女の子のように高い声なのだ。
いや、誰かと話す事なんて五ヶ月は軽くなかったから、ちょっと自信が無いが……
「……まぁ、夢だしそんなこともあるのか……」
取り敢えず気にしない事にしつつ、歩を進める。足に草が刺さって痛いし足が冷えるが、どうしようもないので放置だ。
そのまま、徒歩で途方もなく歩いて、足の感覚が失せてきた頃、漸く木々の先に光が差した。
それが嬉しくて、なんとなく小走りになってそっちに一目散に向かう。
「っとと……!」
地面に露出した根っこで転びそうになって、でも足は止めずに。
光がだんだんと大きくなって、森の端の木を抜けた途端、視界が開けた。
そこに広がっていたのは──!
「すっ…………げぇ……!」
草原が、海原が、凍土が、砂漠が──あらゆる世界が、そこにはあった。
森は余程高いところにあったらしく、地平線水平線の彼方まで容易に見渡すことが出来る。
石や木で出来た家が集っている街には小さい人の粒が忙しなく動いている。中心部には一等大きな白亜の城が。
遠くにはファンタジー的なドラゴンが悠々と空を舞っている。
全てがリアルで、尊く美しい。
何ヶ月ぶりに直視した太陽は、一切合切を等しく照らしている。
これだ。
俺はずっと、これが見たくて……!!
目の前の景色に圧倒されているとつい足元がふらついてしまった。
慌てて足をつき直そうとするが、不思議な事に足が何もとらえず、空を切る。
それもその筈、目の前は崖だった。
「…………あぁぁぁぁ!!!」
中空に投げ出される俺。木霊する悲鳴。見えないほど遠い地面。
もう此れが夢だとは露ほども思っていない俺は、長い間涙を流しながら浮遊感に身を任せたあと、全身に衝撃を受けて意識を手放した。
明晰夢……意識があり、自分を認知できる夢だと。
俺は倒れていた身体を起こすと、辺りを見回した。
其処はどうやら森の奥の奥で、差す光は葉っぱの天井の隙間から来る日光くらいだった。目を凝らしても、木の奥には闇以外は見えない。初めて匂う、心地よい香りは、さながら植物の匂いか。
俺は特にあてもなく、ぼーっとする頭を引きずって歩き出した。
目線が少し低い気がしたけど、景色が見慣れないものだったから気にならなかった。
しばらく歩いてみて、頭が明瞭になったころ、ようやく自分の服装の可笑しさに気づいた。
俺は、全身にボロいローブを纏っていた。
そして察した。その下に何も着ていないことを。
「……流石に全裸ってどうよ」
ひとりごちた俺は、やはり一人で首を捻った。
すなわち──声、高くね? である。
「あ、あー、あー? あー……」
何度か声を出してみるが、やっぱり聞き慣れた声との差異が気になる。
まるで女の子のように高い声なのだ。
いや、誰かと話す事なんて五ヶ月は軽くなかったから、ちょっと自信が無いが……
「……まぁ、夢だしそんなこともあるのか……」
取り敢えず気にしない事にしつつ、歩を進める。足に草が刺さって痛いし足が冷えるが、どうしようもないので放置だ。
そのまま、徒歩で途方もなく歩いて、足の感覚が失せてきた頃、漸く木々の先に光が差した。
それが嬉しくて、なんとなく小走りになってそっちに一目散に向かう。
「っとと……!」
地面に露出した根っこで転びそうになって、でも足は止めずに。
光がだんだんと大きくなって、森の端の木を抜けた途端、視界が開けた。
そこに広がっていたのは──!
「すっ…………げぇ……!」
草原が、海原が、凍土が、砂漠が──あらゆる世界が、そこにはあった。
森は余程高いところにあったらしく、地平線水平線の彼方まで容易に見渡すことが出来る。
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遠くにはファンタジー的なドラゴンが悠々と空を舞っている。
全てがリアルで、尊く美しい。
何ヶ月ぶりに直視した太陽は、一切合切を等しく照らしている。
これだ。
俺はずっと、これが見たくて……!!
目の前の景色に圧倒されているとつい足元がふらついてしまった。
慌てて足をつき直そうとするが、不思議な事に足が何もとらえず、空を切る。
それもその筈、目の前は崖だった。
「…………あぁぁぁぁ!!!」
中空に投げ出される俺。木霊する悲鳴。見えないほど遠い地面。
もう此れが夢だとは露ほども思っていない俺は、長い間涙を流しながら浮遊感に身を任せたあと、全身に衝撃を受けて意識を手放した。
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