上 下
85 / 92
第五章 「火の国、動乱」

第六話 「拮抗」

しおりを挟む
 ガルムエントの上空を、影が覆う。日の光が遮られたことで気温は瞬間的にグンと下がり、町中から困惑と混乱の悲鳴が劈く。
 すべてを覆う闇。それが【神装ニアズマ漆黒冥闇アビスフィオレ】の真相にして深層。一切合切を飲み込み、捉えて離さないブラックホールの如き深淵だ。
 対して、僕の【神装ニアズマ極聖神殿テクマカリチュア】は光。【神装ニアズマ漆黒冥闇アビスフィオレ】の闇をすら照らして見せる、神の威光を顕現したかのような暖かな光だ。
 その性質は、【神装ニアズマ漆黒冥闇アビスフィオレ】が総てを穿ち喰いちぎる剣であり、【神装ニアズマ極聖神殿テクマカリチュア】が何をも貫くことを許さぬ不動の盾である。

「…………死ね」

 天高く掲げられ、今なお際限のない闇を放ち続けている【神装ニアズマ漆黒冥闇アビスフィオレ】が一息に振り降ろされる。
 その軌跡には一切のものが残らない。たった少しの光すら。あって当然の空気すらも。一切が飲み込まれ、その存在を抹消する。

「くっ……防げ! 【神装ニアズマ極聖神殿テクマカリチュア】ァァ──!!!」

 指輪から放たれる光が、僕の前に盾のように展開され、振り下ろされる闇と拮抗する。
 総てを貫く剣と何をも通さぬ盾。
 照らす光と、引きずり込む闇。
 その二つがぶつかったなら、どうなるか。

「ォォォォォオオオオオオ!!!!」
「ハァァァァァァァ──ッ!!!!」

 轟く、相対する二人の叫び。
 拮抗する、と思われた。
 だが。
 膝をついたのはエイリアスぼくだった。

「ぐっ……ぅぅおおおおおお!!」

 裂帛の気合いとともに、光を支える。
 だが、一度押された距離を押し返すことだけはどうしてもできない。
 当然だ。剣と盾が互角というなら、何処で差がつくか。
 それは、互いの膂力だ。そしてその面に関して、僕に勝利できる可能性は微塵もない。

 だが、そんなことは僕にだって判っていること!
 僕は既に発動済みの【鋼鉄斬糸デルミット・ガタンダ】を【磁力世界シャトレ・アウス】で自在に操作する組み合わせで、剣を支えていられる間に人知れず団長を締めあげにかかる。
 これは以前に団長に勝った時に使った手。もちろん同じ手が何度も通じるなどと思いあがってもない。
 だから僕は十重二十重と団長に勝つためのルートを刹那の間に思考し、それを水面下でいくつもいくつも実行。
 このうちのどれかに引っ掛けられれば僕の勝ち、このまま力で押しきれば団長の勝ち、という単純な構図へと落とし込む。

 糸、躱される。
 小刀、器用に受け止められる。
 針。魔法。閃光。音爆弾。
 使い捨てのマジックアイテムも惜しげなく次々と投入し、一筋の勝利を貪欲に求め突き進む。

 団長が僕を睨んでくるのが、激しい闇と光に遮られて見えないのにも関わらず肌で感じ取れた。
 ズン、と盾にかかる衝撃が段違いに増し、徐々に敗北へと押し切られていく。
 僕は頬に伝う冷や汗を感じながら俯いて盾を支え──!!

 刹那。衝撃の一切が掻き消えた。
 僕はその事実に驚き、理由を求めて視線を上げる。
 理由は、実に簡単なものだった。

「喰い千切れ! 【ドウジマ】ァァァ!!!!」

 見知った一人の男が、叫びながら黒い刀身の刀を手に拮抗の間に飛び込んできたからだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...