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第3章 「初依頼。そして──」
第九話 「強襲」
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松明が投げられたことで、部屋が明るく照らされるだけではなくなんと両手もフリーになっていた。
片手で戦うことを想定していた僕からすれば、嬉しい誤算だ。
鞘から二本の剣を引き抜き、未だ混乱から立ち直れていないゴブリン達にめがけて突撃する。
右腕を振るう。
一閃。
薄い刀身が滑らかに動き、想像した体の動きを忠実にトレースする。
ゴブリンの喉は抵抗もなく鋭く切り裂かれ、勢いよく青色の血が噴き出した。
…………嫌な手ごたえだ。
だが、剣の切れ味のよさからか思ったよりはマシだった。
命を奪うことは、出来るならしたくはない。
しかし、こいつらが生きていて誰かが困るのなら。
誰かが倒さないといけないのなら、その誰かは自分であってもいいはずだ。
ゴブリンは村を襲うし、非力な村人を殺す。
女の人は犯すし、子供は玩具のように弄んでから奴隷にすることだってある。
僕には、それを断つ責任があるのだから。
剣を一度振って血を払い、目が見えない故に闇雲に振るわれる凶刃の間を縫うように動き、二体、三体と切り裂いていく。
身体が軽い。鎧がいいものだからか。それとも、気持ちが吹っ切れたからか。
……そういえば、メメルさんはどうしているのだろう。
暇を見てちらりと彼女の方を伺う。
そこには三体ほどのゴブリンに囲まれながらも、ひらりひらりと見事に無駄のない動きで四方八方から迫る凶刃を避けるメメルさんがいた。
手に持った布は畳まれたままで、本当に避けているだけなのだが。
よく見ると、もう片方の手に小さな短剣が握られている。
が、それを振るう様子は一向にない。
どうしよう、彼女の真意が本当に分からない。
いや、気にしている場合じゃないか。取り敢えず避けるのは達者らしいから、あちらはあちらに任せて問題ないのだろう。
「………………たすけて」
全然問題なくなかった。思いのほか切羽詰まっていた。
自分の目の前に居るゴブリンを強く蹴り飛ばす。
ゴブリンは後ろに数メートル吹っ飛んだところで壁にぶつかり、動かなくなった。
それを確認してから、一目散にメメルさんを囲むゴブリンを順に倒していく。
頸を裂き、健を斬り、腹を両断する。
皮が厚く、肉も厚いゴブリンを、それこそ野菜でも斬るかのように滑らかに。
勿論、技量の問題ではない。剣のすごさだ。
「大丈夫ですか!?」
「ん…………へいき」
ぐっと親指を立てるメメルさん。
よかった…………。
僕は内心胸をなでおろした。メメルさんは軽装だから、一撃でも貰ってしまうと本当にシャレにならない。
見ると、もう部屋にいるゴブリンは残り一体だ。
ようやく視力が回復してきたのか、周りの惨状をみて激高したように顔を赤く染め上げている。
「…………悪いとは思ってますよ」
けれど、弱肉強食こそが自然の、唯一にして絶対のルールだ。
ゴブリンは、ただの村人よりは強いのだろう。
だから蹂躙し、犯し、食らい尽くしても許されると思ったのだろう。
けれど、僕よりは弱かった。それだけの話なのだ。
全力で走ってくるゴブリンの足を払う。
制御不能になった体と頭の接続部に剣を突きさし、それで部屋は静寂に回帰した。
「…………お疲れさま、でした」
「ん…………おつ、かれ」
返り血を拭い、剣に付着した血を払って鞘に納める。
あまり、いい気分ではないが…………それでも、将来このゴブリン達に襲われたかもしれなかった人々は、救えた。
うん、今は……それだけで、十分だ。
「奥にも、部屋があるんですよね。行きましょうか」
「…………ん」
こくりと頷き、いつも通りにメメルさんが先行する形で部屋を出た。
ふと、メメルさんの長くて綺麗な白い髪に、青い血が付いているのに気が付いた。
……もったいないな、と、思った。
片手で戦うことを想定していた僕からすれば、嬉しい誤算だ。
鞘から二本の剣を引き抜き、未だ混乱から立ち直れていないゴブリン達にめがけて突撃する。
右腕を振るう。
一閃。
薄い刀身が滑らかに動き、想像した体の動きを忠実にトレースする。
ゴブリンの喉は抵抗もなく鋭く切り裂かれ、勢いよく青色の血が噴き出した。
…………嫌な手ごたえだ。
だが、剣の切れ味のよさからか思ったよりはマシだった。
命を奪うことは、出来るならしたくはない。
しかし、こいつらが生きていて誰かが困るのなら。
誰かが倒さないといけないのなら、その誰かは自分であってもいいはずだ。
ゴブリンは村を襲うし、非力な村人を殺す。
女の人は犯すし、子供は玩具のように弄んでから奴隷にすることだってある。
僕には、それを断つ責任があるのだから。
剣を一度振って血を払い、目が見えない故に闇雲に振るわれる凶刃の間を縫うように動き、二体、三体と切り裂いていく。
身体が軽い。鎧がいいものだからか。それとも、気持ちが吹っ切れたからか。
……そういえば、メメルさんはどうしているのだろう。
暇を見てちらりと彼女の方を伺う。
そこには三体ほどのゴブリンに囲まれながらも、ひらりひらりと見事に無駄のない動きで四方八方から迫る凶刃を避けるメメルさんがいた。
手に持った布は畳まれたままで、本当に避けているだけなのだが。
よく見ると、もう片方の手に小さな短剣が握られている。
が、それを振るう様子は一向にない。
どうしよう、彼女の真意が本当に分からない。
いや、気にしている場合じゃないか。取り敢えず避けるのは達者らしいから、あちらはあちらに任せて問題ないのだろう。
「………………たすけて」
全然問題なくなかった。思いのほか切羽詰まっていた。
自分の目の前に居るゴブリンを強く蹴り飛ばす。
ゴブリンは後ろに数メートル吹っ飛んだところで壁にぶつかり、動かなくなった。
それを確認してから、一目散にメメルさんを囲むゴブリンを順に倒していく。
頸を裂き、健を斬り、腹を両断する。
皮が厚く、肉も厚いゴブリンを、それこそ野菜でも斬るかのように滑らかに。
勿論、技量の問題ではない。剣のすごさだ。
「大丈夫ですか!?」
「ん…………へいき」
ぐっと親指を立てるメメルさん。
よかった…………。
僕は内心胸をなでおろした。メメルさんは軽装だから、一撃でも貰ってしまうと本当にシャレにならない。
見ると、もう部屋にいるゴブリンは残り一体だ。
ようやく視力が回復してきたのか、周りの惨状をみて激高したように顔を赤く染め上げている。
「…………悪いとは思ってますよ」
けれど、弱肉強食こそが自然の、唯一にして絶対のルールだ。
ゴブリンは、ただの村人よりは強いのだろう。
だから蹂躙し、犯し、食らい尽くしても許されると思ったのだろう。
けれど、僕よりは弱かった。それだけの話なのだ。
全力で走ってくるゴブリンの足を払う。
制御不能になった体と頭の接続部に剣を突きさし、それで部屋は静寂に回帰した。
「…………お疲れさま、でした」
「ん…………おつ、かれ」
返り血を拭い、剣に付着した血を払って鞘に納める。
あまり、いい気分ではないが…………それでも、将来このゴブリン達に襲われたかもしれなかった人々は、救えた。
うん、今は……それだけで、十分だ。
「奥にも、部屋があるんですよね。行きましょうか」
「…………ん」
こくりと頷き、いつも通りにメメルさんが先行する形で部屋を出た。
ふと、メメルさんの長くて綺麗な白い髪に、青い血が付いているのに気が付いた。
……もったいないな、と、思った。
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