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第3章 「初依頼。そして──」

第四話 「…………ニャ」

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 脇をもって持ち上げると、その猫はぐったりと動かなくなった。
 全身が雪のような白色で、野良とは思えないほど毛並みはサラサラだ。

 しかし、どう見ても普通の猫である。

「……あの、猫さん?」

 ニイィ、小さくと返事が返って……いや、返ってきたのか、これは?
 ただの鳴き声の様な気もするのだが、生憎猫語は話せないし、そもそもそんなものはなかった。

「…………魚、一緒に持っていきます?」

 ニャッ! と力強い鳴き声。声色は何となく上機嫌だ。
 これ絶対理解してるわ。僕は確信した。
 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなこんなで、すっかり大人しくなった猫を片手にぶら下げ、もう片方の手におおぶりの魚(猫が盗んだ店に戻ってお金は払った)を持ちながら道を戻り、ギルドに帰ってきた。
 先程は手で押して開いたドアを、手が塞がっているので体で押しあける。
 そして、僕がギルドに一歩足を踏み入れる。と、同時。

「ああーーーーーーッ!!!!」

 此方を見ていた受付嬢が叫び。

「…………ニャ」

 白猫が僕の手から逃げた。
 そして、猫は綺麗に床に着地すると、みるみるうちにそのシルエットを変化させる。

 四足歩行歩行の小動物はあっという間にその体積を増加させる。
 前足は手に。後ろ足は足へと変わる。
 全身から毛が失われていき、やがて薄橙色の綺麗な肌が全身を覆った。

 数秒後。そこに立っていたのは長身の女の子。
 年の頃は二十歳程度。僕よりは大人っぽく見える。
 髪の毛は猫の時の毛と同じ雪のような白色で、目が猫のように翠に輝いている。
 猫耳と尻尾がそのまま残っており、その異物感が一層彼女の美しさかんせいどを際立たせる。

 大きな胸がまろび出し、色々と見えてはいけないものが全面的に見えてしまっている。
 ──即ち、全裸であった。

「わあああぁぁぁぁ!!?」

 慌てて目を逸らし、直視を回避する。
 周りの冒険者達が歓声を上げ、指笛を吹いて囃し立てる。
 ……どうしてこうなった。

「…………ふぅ」

 目の前の女の子はとても落ち着いた様子で、息を一つ吐いた。
 なんだろう、羞恥心がない類の方なのだろうか。此方としてはとても困るのだが。
 目のやり場に困るどころか見ていい場所が皆無である。

「メメルさん!! 皆んなの前で猫化を解くのはやめてくださいって言ったじゃないですか言ってるじゃないですかもー!!!」

 受付嬢が慌てた様子で毛布を被せに来る。
 先程上げていた叫び声の理由がわかった。
 受付嬢はこの惨事が予測できていたのだろう。叫ぶ前に言ってくれ、頼むから。

「……めどい…………」

 元猫の女の子はこてんと首をもたげ、だらしなく全身を脱力させる。
 なんだこれ。

「あぁぁぁ……もう、みなさん見ちゃいけません!! 解散!! かーいーさーんー!!」

 受付嬢が両腕を大きくブンブンと振って全員に訴えると、集まっていた群集はさっさと元いた場所に帰っていった。
 どうやら騒ぎたかっただけらしい。

「………………さかな」

 じー、と僕の方を……正確に言うと、僕が片手に持った魚を凝視している。
 毛布を被っているので先程までほど露出してはいないが、全域はカバーできておらず未だに際どい。中途半端に隠れているせいでむしろ危ない。

「あ、えっと……どう、ぞ?」

 手渡すと、猫の女の子はそのままそれを受付嬢に渡して、

「…………やいて」

 一言、そう言った。
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