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捻じ曲げられた歴史
第二十五話 短気
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「なーにしてんのよ。危ないわね」
ハナとタエの後ろから、なにやらトゲのある女声が響いた。
「おぉ、なんか珍しい人のご登場だ」
ハナは姿を見ずとも声の主が誰かを把握したのか、その声にすぐ返答した
「えぇ?珍しい人って……?あっ」
タエは声の主を確認し、面食らったような表情をした。
「『あっ』ってなによ?よっぽどアタシの事が嫌いなのね」
声の主は、なんだか不機嫌そうな表情な表情をしている。タエはアワアワしながら言葉を返す。
「ナオ、そんなに不機嫌になるなよ。謝るから」
ナオと呼ばれた女は、緑がかったサイドテールをフリフリと揺らしながら顔をしかめている。
ナオは服、瞳、髪の全てが緑色。表情を除けばまさに癒しの化身って感じだ。
そんな見た目と表情が釣り合わないナオをたしなめるようにハナが話す。
「ナオちゃん、いい加減その性格を治しなよ。仮にも回復魔法使いなんだからさ」
ハナの言葉は、ナオの感情を逆撫でするようなものだった。実際、ナオは怒りを加速させるようにキレ顔を晒した。
「はぁぁ!?なによ!!文句あんの!?それに『ちゃん』付けとかナメてんの?あと『仮にも』ってどーいうこと!?アタシはアンタたちより魔法使い上手いわよ!」
ナオは怒りのままにまくし立てる。ハナはそれを興味なさげに聞いていたが、どうやらタエにはバッチリ効いていたようで、タエは感情をぐちゃぐちゃにしながらナオの話を受け止めていた。
「だいたいなんなのよ!あの盾捌きは!!あんな石、全部正面に入って捌き切れるでしょうよ!」
ナオは目を三角にしてタエに詰め寄る。しかし、自分の専門分野に口を出されたタエも黙っていない。
「そんなこと言ったって、いちいち正面に入ることが正義じゃないだろ。おれに求められてることはとにかく守りきることなんだから」
タエの言葉を受けたナオは、落ち着くどころかさらに怒りを増していった。
「だーかーら!!アタシは『今のままじゃ足りないから精進しろ』って言ってんの!!察しなさいよ!!」
「それならそうと言えよ!!というかそっちから話をふっかけてきておいてそんな言い草はないだろ!?」
このままではラチが明かない。ハナはいつまでも睨み合いを続ける二人を宥めるように話す。
「はいはい。どっちにしろしょーもない喧嘩しか出来ないんだからもう終わり」
「……ハナ、アンタもどーせしょーもないことしか出来ないじゃないの。銃使いって言ってるけど、結局のところ実力が伴わない詭弁でしょ?」
どうやらナオはとにかく二人を敵に回したくてしょうがないようだ。しかし、ハナはナオの発言にも冷静に反論する。
「いや、私はちゃんと銃使いとして成果を残してるよ。改物討伐の実績もあるし。それで、ナオちゃんはどうなのかな?」
「アタシだって本気を出せば改物討伐くらいできるわよ!」
「回復魔法使いなのに?」
「えと、それは……うーん」
回復魔法というのは、その名の通り受けた損傷を回復させる魔法である。すなわち、損傷を与える攻撃魔法とは対象的なものだ。
それなのにナオは「討伐くらいできる」と本物の詭弁を吐いたわけだ。
「じゃあ、討伐とは言わないまでも、現場で役に立てるの?」
「そ、それはできるわよ!」
「本当に?」
「本当に!!」
ナオの謎癇癪も少し落ち着きを見せ、それを確認したハナはひとつだけ頷いた。
「よし、なら討伐の仕事に着いていきなよ。タエたちの」
タエはうんうんと同意を見せる姿勢だったが、急にとんでもないことを言われて驚嘆する。
「ええー!?なんで!?この流れならハナの部隊に入ると思うじゃん!?」
「いやいや、私たちは武器使いを求めてるからね。ただの魔法使いなナオちゃんはいらないよ」
ハナはハッキリと『ナオ不要論』を唱えた。もちろん、ナオは怒りの姿勢を見せる。
「い、いらない!?そんなこと言わなくたっていいじゃない!!」
「いや、ナオちゃんにはこんくらいハッキリ言った方がいいよ」
ハナのその言葉にタエは違和感を覚えた。
「――それって逆じゃない?ナオみたいなのはおだてる方がいいような気がするけど」
通常、短気な人に対しては当たり障りなく、その人にとってプラスになる方向で話していくのが最適なはずだ。その中で逆に「ハッキリ言う方がいい」などということがあるのだろうか?
「うん、自分の利益を最優先に考えるなら、間違いなくおだてる方がお得だよ。でも、それじゃいつまで経っても短気は改善しない。だって、自分の短気が『悪いこと』だって自覚しようとしないからね。自分が正義だと信じきっちゃっているし」
「は、はぁー!?」
ナオはやはり怒った。タエはイマイチどういうことなのか理解できなかったが、何となくハナの言うことが正しいように感じた。
「ま、そういうわけで私たちは引き取らないけど、ナオを使えるように成長させてみるのも楽しいと思うよ」
「「楽しくないっ!!」」
ハナの言葉にタエとナオが叫んだ。そんな二人を見たハナは、何事もなかったかのようにすまし顔で銃を持ち上げた。
◆ ◆ ◆
「食べすぎた……」
私は嘆いた。やけ食いだったとはいえ、無計画に色々なものを頼みすぎたように感じる。
「再立さん、もうダメなんですか?ウズはまだ行けますよ?」
「えぇ……うそー?」
子供の食欲というものは底が知れない。私はこれ以上食べたら戻してしまいそうだよ……
「というか、今何時よ?」
「そうですね……だいたい日暮れまであと三時間というところでしょうか」
「そっか……じゃあ十五時くらいなのか。もう限界だし、そろそろ帰るかな……?というか喉が渇いたな……」
ここまで結構味の濃いものを食べてきたが、水分補給はほとんどしてこなかった。意識した途端にどんどん渇いていっているような……気がする。
「ウズの出番ですね?『放水』……!といきたいところですが、ウズは今猛烈に綺麗な川水が飲みたいのです!」
「え、えぇ?そんなこと言わずに放水してよ」
「いえ、今日はとことんワガママを言います!小川がこの先にありますから急ぎますよ!」
「うーん……はーい……」
ウズは露店の間を元気に走り出した。私はタプタプな胃を揺らしながらなんとかウズに着いていく。
◇ ◇ ◇
しばらく走ると、本当に小さな川がかなり弱い勢いで流れている。へぇ、なんかこういうのかわいくて良いな。
私は両手で少量の水を掬い、透き通ったそれをゆっくりと飲む。
「はぁ!美味しい!」
思わず声が出た。喉が渇いていた、というのもあるが、何よりほどよく冷たいのだ。水が温まりにくいというのは本当なんだな。
私はその場ですくっと立ち上がり、大きく伸びをしてみた。すると、ウズがいたずらっぽく笑い、突如私に問題を出し始める。
「ふっふっふ……お楽しみの所申し訳ないのですが……ウズたちがここに来た理由、なんだと思いますか?」
「――え?小川の水を飲むためじゃないの?」
「ぶっぶー!違います!正解は、ウズの魔法を見せるためです!『細波』!」
ウズがいきなり魔法を唱えると、川の流れに逆らうような波が発生した。すると、波と流れがぶつかり合い、弾き出された水が外へと溢れ出した……!?
「え、えぇ!?冷たっ!?」
私が冷感を感じたのもつかの間、すぐに水は地面へと染み込んでいった……
「ちょっとウズ!!ダメでしょこんなことしたら!!」
私は強めの声色でウズを叱った。ウズはそんな私を見て困惑した。
「あ、え、ええっと……ごめんなさい……」
「――あ、いやえっと……謝って欲しかったわけじゃなくてさ……!なんというかその……ほら……!」
言葉が見つからない。私って本当に怒るの苦手だよなぁ……ミスをした新入社員も叱れなかったし……
私はまずは何か変えようと思い、とりあえず声を上げつつウズに近づいてみた。
「よし、元気出していこう!!あっ」
わたしが空元気を見せたその時、地面が濡れていたからかツルッと滑ってしまった。
ズドーン、とまでは行かないにしても、そんな感じの効果音と共に私の体は地面へとまっしぐら。私は尻もちをついてしまった。
「いったぁ……い」
「だ、大丈夫ですか再立さん!?」
はぁ……仮にも幸福魔法を受けてるのにな……やっぱりあんな魔法嘘だったのかな……
私は自分の不幸を嘆いた。
ハナとタエの後ろから、なにやらトゲのある女声が響いた。
「おぉ、なんか珍しい人のご登場だ」
ハナは姿を見ずとも声の主が誰かを把握したのか、その声にすぐ返答した
「えぇ?珍しい人って……?あっ」
タエは声の主を確認し、面食らったような表情をした。
「『あっ』ってなによ?よっぽどアタシの事が嫌いなのね」
声の主は、なんだか不機嫌そうな表情な表情をしている。タエはアワアワしながら言葉を返す。
「ナオ、そんなに不機嫌になるなよ。謝るから」
ナオと呼ばれた女は、緑がかったサイドテールをフリフリと揺らしながら顔をしかめている。
ナオは服、瞳、髪の全てが緑色。表情を除けばまさに癒しの化身って感じだ。
そんな見た目と表情が釣り合わないナオをたしなめるようにハナが話す。
「ナオちゃん、いい加減その性格を治しなよ。仮にも回復魔法使いなんだからさ」
ハナの言葉は、ナオの感情を逆撫でするようなものだった。実際、ナオは怒りを加速させるようにキレ顔を晒した。
「はぁぁ!?なによ!!文句あんの!?それに『ちゃん』付けとかナメてんの?あと『仮にも』ってどーいうこと!?アタシはアンタたちより魔法使い上手いわよ!」
ナオは怒りのままにまくし立てる。ハナはそれを興味なさげに聞いていたが、どうやらタエにはバッチリ効いていたようで、タエは感情をぐちゃぐちゃにしながらナオの話を受け止めていた。
「だいたいなんなのよ!あの盾捌きは!!あんな石、全部正面に入って捌き切れるでしょうよ!」
ナオは目を三角にしてタエに詰め寄る。しかし、自分の専門分野に口を出されたタエも黙っていない。
「そんなこと言ったって、いちいち正面に入ることが正義じゃないだろ。おれに求められてることはとにかく守りきることなんだから」
タエの言葉を受けたナオは、落ち着くどころかさらに怒りを増していった。
「だーかーら!!アタシは『今のままじゃ足りないから精進しろ』って言ってんの!!察しなさいよ!!」
「それならそうと言えよ!!というかそっちから話をふっかけてきておいてそんな言い草はないだろ!?」
このままではラチが明かない。ハナはいつまでも睨み合いを続ける二人を宥めるように話す。
「はいはい。どっちにしろしょーもない喧嘩しか出来ないんだからもう終わり」
「……ハナ、アンタもどーせしょーもないことしか出来ないじゃないの。銃使いって言ってるけど、結局のところ実力が伴わない詭弁でしょ?」
どうやらナオはとにかく二人を敵に回したくてしょうがないようだ。しかし、ハナはナオの発言にも冷静に反論する。
「いや、私はちゃんと銃使いとして成果を残してるよ。改物討伐の実績もあるし。それで、ナオちゃんはどうなのかな?」
「アタシだって本気を出せば改物討伐くらいできるわよ!」
「回復魔法使いなのに?」
「えと、それは……うーん」
回復魔法というのは、その名の通り受けた損傷を回復させる魔法である。すなわち、損傷を与える攻撃魔法とは対象的なものだ。
それなのにナオは「討伐くらいできる」と本物の詭弁を吐いたわけだ。
「じゃあ、討伐とは言わないまでも、現場で役に立てるの?」
「そ、それはできるわよ!」
「本当に?」
「本当に!!」
ナオの謎癇癪も少し落ち着きを見せ、それを確認したハナはひとつだけ頷いた。
「よし、なら討伐の仕事に着いていきなよ。タエたちの」
タエはうんうんと同意を見せる姿勢だったが、急にとんでもないことを言われて驚嘆する。
「ええー!?なんで!?この流れならハナの部隊に入ると思うじゃん!?」
「いやいや、私たちは武器使いを求めてるからね。ただの魔法使いなナオちゃんはいらないよ」
ハナはハッキリと『ナオ不要論』を唱えた。もちろん、ナオは怒りの姿勢を見せる。
「い、いらない!?そんなこと言わなくたっていいじゃない!!」
「いや、ナオちゃんにはこんくらいハッキリ言った方がいいよ」
ハナのその言葉にタエは違和感を覚えた。
「――それって逆じゃない?ナオみたいなのはおだてる方がいいような気がするけど」
通常、短気な人に対しては当たり障りなく、その人にとってプラスになる方向で話していくのが最適なはずだ。その中で逆に「ハッキリ言う方がいい」などということがあるのだろうか?
「うん、自分の利益を最優先に考えるなら、間違いなくおだてる方がお得だよ。でも、それじゃいつまで経っても短気は改善しない。だって、自分の短気が『悪いこと』だって自覚しようとしないからね。自分が正義だと信じきっちゃっているし」
「は、はぁー!?」
ナオはやはり怒った。タエはイマイチどういうことなのか理解できなかったが、何となくハナの言うことが正しいように感じた。
「ま、そういうわけで私たちは引き取らないけど、ナオを使えるように成長させてみるのも楽しいと思うよ」
「「楽しくないっ!!」」
ハナの言葉にタエとナオが叫んだ。そんな二人を見たハナは、何事もなかったかのようにすまし顔で銃を持ち上げた。
◆ ◆ ◆
「食べすぎた……」
私は嘆いた。やけ食いだったとはいえ、無計画に色々なものを頼みすぎたように感じる。
「再立さん、もうダメなんですか?ウズはまだ行けますよ?」
「えぇ……うそー?」
子供の食欲というものは底が知れない。私はこれ以上食べたら戻してしまいそうだよ……
「というか、今何時よ?」
「そうですね……だいたい日暮れまであと三時間というところでしょうか」
「そっか……じゃあ十五時くらいなのか。もう限界だし、そろそろ帰るかな……?というか喉が渇いたな……」
ここまで結構味の濃いものを食べてきたが、水分補給はほとんどしてこなかった。意識した途端にどんどん渇いていっているような……気がする。
「ウズの出番ですね?『放水』……!といきたいところですが、ウズは今猛烈に綺麗な川水が飲みたいのです!」
「え、えぇ?そんなこと言わずに放水してよ」
「いえ、今日はとことんワガママを言います!小川がこの先にありますから急ぎますよ!」
「うーん……はーい……」
ウズは露店の間を元気に走り出した。私はタプタプな胃を揺らしながらなんとかウズに着いていく。
◇ ◇ ◇
しばらく走ると、本当に小さな川がかなり弱い勢いで流れている。へぇ、なんかこういうのかわいくて良いな。
私は両手で少量の水を掬い、透き通ったそれをゆっくりと飲む。
「はぁ!美味しい!」
思わず声が出た。喉が渇いていた、というのもあるが、何よりほどよく冷たいのだ。水が温まりにくいというのは本当なんだな。
私はその場ですくっと立ち上がり、大きく伸びをしてみた。すると、ウズがいたずらっぽく笑い、突如私に問題を出し始める。
「ふっふっふ……お楽しみの所申し訳ないのですが……ウズたちがここに来た理由、なんだと思いますか?」
「――え?小川の水を飲むためじゃないの?」
「ぶっぶー!違います!正解は、ウズの魔法を見せるためです!『細波』!」
ウズがいきなり魔法を唱えると、川の流れに逆らうような波が発生した。すると、波と流れがぶつかり合い、弾き出された水が外へと溢れ出した……!?
「え、えぇ!?冷たっ!?」
私が冷感を感じたのもつかの間、すぐに水は地面へと染み込んでいった……
「ちょっとウズ!!ダメでしょこんなことしたら!!」
私は強めの声色でウズを叱った。ウズはそんな私を見て困惑した。
「あ、え、ええっと……ごめんなさい……」
「――あ、いやえっと……謝って欲しかったわけじゃなくてさ……!なんというかその……ほら……!」
言葉が見つからない。私って本当に怒るの苦手だよなぁ……ミスをした新入社員も叱れなかったし……
私はまずは何か変えようと思い、とりあえず声を上げつつウズに近づいてみた。
「よし、元気出していこう!!あっ」
わたしが空元気を見せたその時、地面が濡れていたからかツルッと滑ってしまった。
ズドーン、とまでは行かないにしても、そんな感じの効果音と共に私の体は地面へとまっしぐら。私は尻もちをついてしまった。
「いったぁ……い」
「だ、大丈夫ですか再立さん!?」
はぁ……仮にも幸福魔法を受けてるのにな……やっぱりあんな魔法嘘だったのかな……
私は自分の不幸を嘆いた。
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