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捻じ曲げられた歴史
第十九話 審判
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トリアは魔法を発動させた。私はどんな魔法が来るのかと身構えるが、何も起こらない。――どういうことだ?
「あら、上手くいかなかったみたい」
「――上手くいかないなんてことがあるの?」
「他の魔法にはないのかもしれないけど、少なくとも私のには不確定要素があるの」
トリアは一度体を落ち着かせて再度集中し始める。私はなにか攻撃を撃とうと思ったが、悪人なのか善人なのかも分からないような人に無闇に魔法を撃つのは危険だろう。
「そうねぇ……もう一度撃ってみましょうか。『審判』!」
――やはり何も起こらない。実は『審判』などという魔法は存在しない――なんてオチじゃないだろうか?
「うーん……私が再立さんの悪事を把握出来ていないのが原因かしらね……ねぇ、再立さん。なにか最近やった悪いことを教えて」
「わ、悪いこと……?そうだなぁ……改物を殺しちゃったこと……とか?」
「それは別に悪いことじゃない……とは思うけど、まあ殺生してますものね。一回やっておきますか。『審判』!」
トリアが叫ぶと、何だか体の動きが一気に封じられてしまったように動かなくなった……!?これが『審判』の効果!?
「あー、えっと、審議!民原再立の改物討伐について!判決!びしょ濡れの刑!」
トリアの放った一言がそのまま具現化したように、上からタライ一杯分くらいの水がザバーンと降ってきた!私は動けずにそのままびしょ濡れになってしまう。すると、濡れると同時にようやく私の体が動くようになる。
「さ、寒っ……」
「どう?すごいとは思わない?」
「すごいとは思うけど……なにこれ?これが『審判』の力なの?」
「ええ、そうよ。『審判』の効果は、対象の悪事を私が裁くこと。どんな刑を与えるかは私が決めれるの」
なんだそりゃ!そんなことしたらなんだってやりたい放題じゃないか!そこら辺の人に重刑を与え続ければ理想の世界すらも作れてしまいそうな魔法だ!
「まあ、ここまで聞いたら最強じゃん、って思うわよね?でも、この魔法には短所が二つもあるの。一つ目は、対象の罪を私が認識しなければ発動しないということ。さっきのように、対象者の罪を認識して初めて魔法が撃てるの。だから、見ず知らずの人には使えない」
私はその一言を聞いて閃く。罪を認識する事が発動条件なら、先程のトリアの攻撃は対象になるうるんじゃないか――?私は仕返しとして、大して説明も聞かぬまま反撃に移ってしまう。
「よし、『リピート』!『審判』!」
いきなりトリアの体がピタッと止まる。よし!上手く行った!でも、判決ってどんなことを言えば良いんだろうか……別に死んで欲しい訳じゃないから、死刑はダメだ。平和な刑がいいなー……
「審議!トリアの私への無闇な攻撃未遂について!判決!私の仲間になる刑!」
再立は叫んだが、すぐにはなにも起こらない。まあ、仲間になるという曖昧な刑だし、見た目に変化がないのはなんらおかしくはない。
そして、トリアの体は何も無かったかのように動き始める。
「仲間になった!?」
私はルンルンで聞いてみた。しかし、トリアはため息をつきながら首を横に振った。
「残念だけど、これが二つ目の弱点。罰則はその過ちに対してあまりにも見合っていないと上手くいかないの。例えば、万引きした人に死刑を言い渡したら見合ってないでしょ、だから発動は無しです、みたいな」
なるほど、仲間にさせるというのは罰則として見合ってないということか。しかし、私は既に『審判』を使ってしまった。この知識はまたトリアが魔法を使うまでは使えない。
「はぁー。それにしても本当に便利ね、その『リピート』ってやつ。でも、私の切り札はこれだけじゃないのよ?」
トリアはそう言って懐から木槌のようなものを取り出した。
「――え?それが……切り札?」
「まあ、驚くのも無理はないわ。普通こんなもので戦ったりしないものね。でも、軽くて扱いやすいのよ?剣みたいに自分を傷つけることも無いし」
なるほど、そう言われると理にかなっている気もするな。
私が関心していると、トリアがそんな暇はないと言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる。一気に私との距離を詰め、右手に持った木槌を上から振り下ろす。私は咄嗟に右へ動き、何とかその攻撃をかわす。
「へぇ、結構身軽なのね」
「体がちっこいおかげでね!」
自分で言ってて悲しくなるが、小回りが効く体格というのは間違いない。これが私の強み……だと思うようにしよう。
「じゃあ、これはどうかしら!?」
トリアは右手に持った木槌を左に持ち替え、今度は薙ぎ払うように攻撃してくる。まずい……!これはちょっと避けれないかも――!
「『防壁』!」
私の目の前に薄黄色で半透明な六角形の板が現れる。それがトリアの攻撃を弾き、私はなんとか事なきを得た。
「ふふっ、良いの?貴重な防御技だったんじゃない?」
「そんなことも言ってられないよ!出し渋って死ぬよりはマシだもん!」
「というか、反撃しなくて大丈夫?やられっぱなしじゃないの」
そ、そうか!反撃しないと!あれだけ強い魔法を持つ相手なわけだから、ある程度の攻撃は致し方ない――よね?
「『リピート』!『火球』!」
私の右手付近から灼熱の炎が現れ、それが瞬く間に球状になってトリアへと飛んでいく。
「いいわね!そういうの欲しかった!」
トリアはそう言うと、かなりのスピードで飛んでくる火の球を木槌で打ち返す。しかも、投手である私にそのまま返すように!
「う、うわぁ!えっと、『放水』!」
私は咄嗟に『放水』を放ち、火球を分解させた。火球に当たらなかった水で私の周りの地面がびしょ濡れになる。
「まだまだ行くよ!」
トリアはもう一度木槌を取り出し、全力で襲ってくる。私は自分の脳内にある引き出しを必死に探し、防御方法を思考する。
「タエの盾を『リピート』!」
私の右手に盾が現れ、下から突き上げるようなトリアの攻撃をほぼ自動で防ぐ。そして、次の横からの攻撃も防ぐが、その瞬間盾は光となって消えてしまう。
「――嘘!?終わり!?」
もう少し耐えてくれるかと思ったが、『リピート』は思ったより継続時間が短かった。私は次の策をなんとかひねり出して攻撃する。
「ごめん、ちょっと熱いかも!『炎上』!」
トリアの服が燃え始める。しかし、彼女は冷静に服を脱ぎ捨てた……!?ま、マジ!?仮にも外なんだけど!
サラシのような下着だけになった彼女は「はぁ」とため息をつきながら木槌を握り直した。
「これで帰らなきゃなのかなー?」
「と、というか!なんでわざわざ襲うのさ!別に仲間に入れたいなら言葉で説得すれば良いじゃん!」
「それをしたいのはやまやまよ。でも、あなたが私たちの拠点に来てくれる気がしないし、それをしてしまったら色々と面倒なことになる気がするのよね。あなたが暴走してしまうかもしれないし」
「そ、そんなわけないじゃん!説得されるだけで暴れ出すだなんて……私はそこまで野蛮じゃない!」
「――少しは察しなさいよ。あなたの正義感を見てて思うけど、私たちが掴んでいる情報を与えてしまったら、あなたは元凶でもなんでもない人すら殺してしまいかねない。あなたの魔法を考えても……ね」
「どういうこと?」
「そうね、ちょっとだけ教えるわ」
私は下着だけの女からなにかを教わろうとしている。そう考えるとおかしな状況だが、そんなことを言ってられない程の緊張感が走る。
「あなたの魔法について、ちょっとだけ話すことにするわ。あなたの『リピート』は、『無限反復』という上位魔法を使いやすくするために考案されたの。でも、この魔法を使える人が極端に少ないとは思わない?」
「そ、そうなのかな?」
「まあ、あなたはそこまでの経験がないらしいから知らなくても仕方ないでしょうけど、実際そうなのよ。『リピート』を使える人はほぼ居ない。なぜだと思う?」
「わ、分からないや。覚えるのが難しい……とか?」
「いえ、覚えるの自体はそこまで大変じゃないわ。というか、それは覚えているあなたが一番よく分かってるんじゃないかしら?」
――実はこの体が勝手に覚えていただけ……だなんて言っても仕方ないよね。でも、勝手に覚えていたってことは、意識がなくても習得できるほど簡単な魔法ってこと……ではないよね。
「まあ、端的に言えば危険だからよ」
「どんな魔法や武器でも一回繰り返せるから……だよね?」
「ええ、そうね。でも、それだけならもっと覚える人が居てもおかしくないでしょ?こんななんでも出来る魔法、誰だって喉から手が出るほど欲しいわ。でも、覚えている人はほとんど居ない……つまり、危険な要素はもうひとつあるの」
私は、この先言われる言葉が異常なまでに恐ろしく感じられた。
「あら、上手くいかなかったみたい」
「――上手くいかないなんてことがあるの?」
「他の魔法にはないのかもしれないけど、少なくとも私のには不確定要素があるの」
トリアは一度体を落ち着かせて再度集中し始める。私はなにか攻撃を撃とうと思ったが、悪人なのか善人なのかも分からないような人に無闇に魔法を撃つのは危険だろう。
「そうねぇ……もう一度撃ってみましょうか。『審判』!」
――やはり何も起こらない。実は『審判』などという魔法は存在しない――なんてオチじゃないだろうか?
「うーん……私が再立さんの悪事を把握出来ていないのが原因かしらね……ねぇ、再立さん。なにか最近やった悪いことを教えて」
「わ、悪いこと……?そうだなぁ……改物を殺しちゃったこと……とか?」
「それは別に悪いことじゃない……とは思うけど、まあ殺生してますものね。一回やっておきますか。『審判』!」
トリアが叫ぶと、何だか体の動きが一気に封じられてしまったように動かなくなった……!?これが『審判』の効果!?
「あー、えっと、審議!民原再立の改物討伐について!判決!びしょ濡れの刑!」
トリアの放った一言がそのまま具現化したように、上からタライ一杯分くらいの水がザバーンと降ってきた!私は動けずにそのままびしょ濡れになってしまう。すると、濡れると同時にようやく私の体が動くようになる。
「さ、寒っ……」
「どう?すごいとは思わない?」
「すごいとは思うけど……なにこれ?これが『審判』の力なの?」
「ええ、そうよ。『審判』の効果は、対象の悪事を私が裁くこと。どんな刑を与えるかは私が決めれるの」
なんだそりゃ!そんなことしたらなんだってやりたい放題じゃないか!そこら辺の人に重刑を与え続ければ理想の世界すらも作れてしまいそうな魔法だ!
「まあ、ここまで聞いたら最強じゃん、って思うわよね?でも、この魔法には短所が二つもあるの。一つ目は、対象の罪を私が認識しなければ発動しないということ。さっきのように、対象者の罪を認識して初めて魔法が撃てるの。だから、見ず知らずの人には使えない」
私はその一言を聞いて閃く。罪を認識する事が発動条件なら、先程のトリアの攻撃は対象になるうるんじゃないか――?私は仕返しとして、大して説明も聞かぬまま反撃に移ってしまう。
「よし、『リピート』!『審判』!」
いきなりトリアの体がピタッと止まる。よし!上手く行った!でも、判決ってどんなことを言えば良いんだろうか……別に死んで欲しい訳じゃないから、死刑はダメだ。平和な刑がいいなー……
「審議!トリアの私への無闇な攻撃未遂について!判決!私の仲間になる刑!」
再立は叫んだが、すぐにはなにも起こらない。まあ、仲間になるという曖昧な刑だし、見た目に変化がないのはなんらおかしくはない。
そして、トリアの体は何も無かったかのように動き始める。
「仲間になった!?」
私はルンルンで聞いてみた。しかし、トリアはため息をつきながら首を横に振った。
「残念だけど、これが二つ目の弱点。罰則はその過ちに対してあまりにも見合っていないと上手くいかないの。例えば、万引きした人に死刑を言い渡したら見合ってないでしょ、だから発動は無しです、みたいな」
なるほど、仲間にさせるというのは罰則として見合ってないということか。しかし、私は既に『審判』を使ってしまった。この知識はまたトリアが魔法を使うまでは使えない。
「はぁー。それにしても本当に便利ね、その『リピート』ってやつ。でも、私の切り札はこれだけじゃないのよ?」
トリアはそう言って懐から木槌のようなものを取り出した。
「――え?それが……切り札?」
「まあ、驚くのも無理はないわ。普通こんなもので戦ったりしないものね。でも、軽くて扱いやすいのよ?剣みたいに自分を傷つけることも無いし」
なるほど、そう言われると理にかなっている気もするな。
私が関心していると、トリアがそんな暇はないと言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる。一気に私との距離を詰め、右手に持った木槌を上から振り下ろす。私は咄嗟に右へ動き、何とかその攻撃をかわす。
「へぇ、結構身軽なのね」
「体がちっこいおかげでね!」
自分で言ってて悲しくなるが、小回りが効く体格というのは間違いない。これが私の強み……だと思うようにしよう。
「じゃあ、これはどうかしら!?」
トリアは右手に持った木槌を左に持ち替え、今度は薙ぎ払うように攻撃してくる。まずい……!これはちょっと避けれないかも――!
「『防壁』!」
私の目の前に薄黄色で半透明な六角形の板が現れる。それがトリアの攻撃を弾き、私はなんとか事なきを得た。
「ふふっ、良いの?貴重な防御技だったんじゃない?」
「そんなことも言ってられないよ!出し渋って死ぬよりはマシだもん!」
「というか、反撃しなくて大丈夫?やられっぱなしじゃないの」
そ、そうか!反撃しないと!あれだけ強い魔法を持つ相手なわけだから、ある程度の攻撃は致し方ない――よね?
「『リピート』!『火球』!」
私の右手付近から灼熱の炎が現れ、それが瞬く間に球状になってトリアへと飛んでいく。
「いいわね!そういうの欲しかった!」
トリアはそう言うと、かなりのスピードで飛んでくる火の球を木槌で打ち返す。しかも、投手である私にそのまま返すように!
「う、うわぁ!えっと、『放水』!」
私は咄嗟に『放水』を放ち、火球を分解させた。火球に当たらなかった水で私の周りの地面がびしょ濡れになる。
「まだまだ行くよ!」
トリアはもう一度木槌を取り出し、全力で襲ってくる。私は自分の脳内にある引き出しを必死に探し、防御方法を思考する。
「タエの盾を『リピート』!」
私の右手に盾が現れ、下から突き上げるようなトリアの攻撃をほぼ自動で防ぐ。そして、次の横からの攻撃も防ぐが、その瞬間盾は光となって消えてしまう。
「――嘘!?終わり!?」
もう少し耐えてくれるかと思ったが、『リピート』は思ったより継続時間が短かった。私は次の策をなんとかひねり出して攻撃する。
「ごめん、ちょっと熱いかも!『炎上』!」
トリアの服が燃え始める。しかし、彼女は冷静に服を脱ぎ捨てた……!?ま、マジ!?仮にも外なんだけど!
サラシのような下着だけになった彼女は「はぁ」とため息をつきながら木槌を握り直した。
「これで帰らなきゃなのかなー?」
「と、というか!なんでわざわざ襲うのさ!別に仲間に入れたいなら言葉で説得すれば良いじゃん!」
「それをしたいのはやまやまよ。でも、あなたが私たちの拠点に来てくれる気がしないし、それをしてしまったら色々と面倒なことになる気がするのよね。あなたが暴走してしまうかもしれないし」
「そ、そんなわけないじゃん!説得されるだけで暴れ出すだなんて……私はそこまで野蛮じゃない!」
「――少しは察しなさいよ。あなたの正義感を見てて思うけど、私たちが掴んでいる情報を与えてしまったら、あなたは元凶でもなんでもない人すら殺してしまいかねない。あなたの魔法を考えても……ね」
「どういうこと?」
「そうね、ちょっとだけ教えるわ」
私は下着だけの女からなにかを教わろうとしている。そう考えるとおかしな状況だが、そんなことを言ってられない程の緊張感が走る。
「あなたの魔法について、ちょっとだけ話すことにするわ。あなたの『リピート』は、『無限反復』という上位魔法を使いやすくするために考案されたの。でも、この魔法を使える人が極端に少ないとは思わない?」
「そ、そうなのかな?」
「まあ、あなたはそこまでの経験がないらしいから知らなくても仕方ないでしょうけど、実際そうなのよ。『リピート』を使える人はほぼ居ない。なぜだと思う?」
「わ、分からないや。覚えるのが難しい……とか?」
「いえ、覚えるの自体はそこまで大変じゃないわ。というか、それは覚えているあなたが一番よく分かってるんじゃないかしら?」
――実はこの体が勝手に覚えていただけ……だなんて言っても仕方ないよね。でも、勝手に覚えていたってことは、意識がなくても習得できるほど簡単な魔法ってこと……ではないよね。
「まあ、端的に言えば危険だからよ」
「どんな魔法や武器でも一回繰り返せるから……だよね?」
「ええ、そうね。でも、それだけならもっと覚える人が居てもおかしくないでしょ?こんななんでも出来る魔法、誰だって喉から手が出るほど欲しいわ。でも、覚えている人はほとんど居ない……つまり、危険な要素はもうひとつあるの」
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