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捻じ曲げられた歴史
第十話 依頼
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「やったねモエ!まさか倒せるなんて!」
「再立さんのおかげですよ」
「ウズもありがとうね!あそこで水貰えなかったらやられてたかも!」
「え、えへへ、そうですか?」
ウズは嬉しそうに顔を赤らめる。しかし、それと同時に右腕からポタリと血が流れたのを見て、いたたまれない気持ちになる。
「――ウズ、怪我大丈夫?」
「はい。大丈夫です!」
「大丈夫じゃありませんよ!ちょっと待ってくださいね。再立さん、話札貸してください」
「あ、うん。これね、はい」
モエは話札を受け取ると、爪で番号を書きはじめた。これでも繋がるのだろうか。モエがやっているということは繋がるのだろう。便利なものだ。
「どうも、ヒナカモエです。はいはい、死体の処理と……医療班の方と、円匙をいくつか……はい、お願いします」
モエは改物討伐機構の人と話しているようだ。話が終わると、モエは話札をビリッと破り捨てた。
「モエ、えんし?ってなに?」
「円匙というのは土を掘る道具です。取っ手が付いていて、金属の板みたいなのでこうザクザクと……」
ああ、シャベルってことか。外来語がないから逆に分かりづらいな。ていうか、あの穴は私が掘っちゃったものだよな……人にやらせるのはなんだか申し訳ないな……
◇ ◇ ◇
しばらくすると、昨日も見た黒いソリみたいなやつが飛んできた。まるでブラックサンタだ。
そこから男性が四名ほど出てきて、死体を回収し始める。その中の二人がモエとウズの方に近づいてくる。
「御苦労さまです。報酬は後ほどお渡しします」
「ありがとうございます。どちらに伺えば良いですかね」
「先日と同じトゴーさんのお店にお願いします」
モエと改物討伐機構の人が話す。モエと話している人とは別の人がウズの腕を消毒して包帯を巻き始めた。
「ほーら、もう大丈夫。よく頑張ったね」
「あ、ありがとうございます……」
ウズは少しモジモジしている。どうやら少し人見知りしているようだ。
ウズの包帯を巻いた男性は、キズの様子を確認したあと私とモエの方へ向かって歩き、なにやら申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。
「すみません、お二方。お疲れの所申し訳ないのですが、討伐の依頼をしてもよろしいですか?」
「依頼、ですか?」
「ええ。ここから北西の方向に採石場があるのですが、そこに改物が現れまして……」
「対応できる人は?」
「あいにくいらっしゃらないんですよ……もちろん、我々もサポートにつかせていただきます」
「再立さん、どうしましょう?」
「え?やればいいんじゃないの?こういうのは度胸と経験っしょ!」
私は、薔薇の改物を討伐したことで完全に調子に乗っていた。なんでも倒せる気がしたし、どんなことが起ころうが完璧に対処しきれるような気がしていたのだ。
しかし、決して忘れてはいけないことがある。私の魔法、『リピート』は他人ありきの魔法。しかも、今の私の使える魔法は……『炎上』と『火球』、『発破』、そして『放水』。すなわち、今の私にはウズやモエが使える魔法しか持っておらず、単純に言えば「お荷物」なのだ。私はその事実をある程度認識していながらも、「まあなんとかなるでしょ」というふうに楽観していた。
「採石場にはいつ向かえば良いですか?今日のうちに行けば問題ないですかね?」
モエが確認のために訊いた。
「日が沈むまでに来ていただければ、いつでも大丈夫です。採石場行きの託使を派遣しておきますから、準備が出来次第お乗り下さい」
討伐機構の二人はそう言って改物の遺体回収に向かった。それにしても、改物討伐も人手が足りないんだなぁ。こういう仕事の押し付けみたいなのは会社員の頃を思い出すから嫌だ。でも、結局首を縦に振ってしまうのは、その頃のなんでもやるべきという教育の賜物だろうか?
「じゃあ、私たちは腹ごしらえをしましょうか。腹が減っては戦ができぬとも言いますし」
モエはカバンみたいな袋の中から大きな風呂敷のようなものを取り出し、そこに竹皮を置いた。レジャーシートのような使い方だ。
それと同時に討伐機構の人達の遺体回収作業が終わり、ソリに乗ってどこかへと飛んで行った。今度はそのソリとすれ違うように託使が飛んできて、先程のソリがいた場所に停まった。
モエはその様子をチラッと確認し、竹皮を開ける。
――そこには、完全に潰れきったおにぎりが三つ入っていた。まあ、あそこまで激しい運動を何回もすればそりゃおにぎりも潰れる。
「でも、味に変わりはないよね!」
「そ、そうですよね……」
私はすかさずフォローをするが、モエは明らかにショックを受けている。でも、仕方の無いことだ。それに、この崩れはいわば戦いの勲章。私たちの戦いの証拠みたいなものだ。
「ウズ、先に食べちゃいますね!」
ウズは風呂敷にぴょんと座りながら海苔の巻かれた鮭おにぎりを選び、真っ先に食べる。大きな口で、すごく美味しそうな顔をしながら食べる姿はとても愛らしい。
「じゃあ……私は塩おにぎりを貰おうかな」
私は何も付いていないシンプルな塩おにぎりを選び、ウズと対比するように小さめの口でパクッと食べた。
「そうなると……私はしそおにぎりになりますね。いただきます」
モエは若干残念そうな表情をしながらも、紫色に煌めくしそおにぎりを食べ始める。私はそんなモエに食べかけの塩おにぎりを差し出す。
「一口たべる?」
「えっ、でも……再立さんの分が減っちゃうじゃないですか」
「なら、モエのおにぎり一口ちょうだいよ」
「~!わ、わかりました」
モエは塩おにぎりを小さな口でパクッと食べ、逆に私へしそおにぎりを差し出した。私はそれに応えるようにちょっとだけかじる。うん、酸味がよく効いていておいしい。昔食べたおばあちゃんのおにぎりを思い出す。
モエは少し顔を赤らめながらおにぎりを飲み込んだ。
「あ!おふたりともずるいです!ウズにもちょっとください!」
「あ、ウズ『一口だけ~』って言ってガッツリ持っていっちゃうタイプでしょ」
「ち、ちがいますよ!そこまで食い意地はってないです!」
「そう?じゃあ……はい」
ウズは目の前に出された塩おにぎりに大きくかぶりつこうとしたが、流石に気が引けたのか残っている量の四分の一ほどを食べた。
「じゃあ、私も……どうぞ、ウズちゃん」
モエもウズにおにぎりを与える。今度は四分の一どころか三分の一ほど食べてしまった。
「う、うわぁ!良く食べますね……」
モエはもう一度ショックを受ける。ウズは食べすぎた、と若干罪悪感を持った表情をしたが、まるで「知らないもんねー」と言わんばかりに目を逸らす。仕方ないので私は塩おにぎりを半分に分け、モエに与えた。
「えっ、ダメですよ再立さん!これは再立さんが食べてくださいよ」
「いやいや、モエ頑張ってたもん。これはモエが食べるべき」
モエが食べるのを戸惑っていると、それに付け入るかのようにウズが大きめの声を上げる。
「あ!モエさんずるいです!」
「ウズはもう沢山食べたでしょ。自分ので我慢しなさい」
全く。ウズの食欲は底なしなのか?まあ、我慢が苦手な子供だし、ある程度は叱ってあげないと。
私は半分に分かれた塩おにぎりの最後の一粒を口の中に入れ、大きく伸びをした。いやぁ、美味しかった。
真上にはあまりにも青い大空が広がっている。今日は快晴。陽の光が間もなく南中を迎える。眩しい太陽をいっぱいに浴びて、私はその場にスっと立ち上がった。
「はむっ……ご馳走様でした。ウズちゃん、そろそろ行きますよ」
モエが食べ終わる頃、ウズは手に少し残った塩気をペロペロ舐めていた。
「こら、ウズ。下品だし汚いからやめな」
「あ、ごめんなさい……どうしても最後までたんのうしたくて」
「堪能って。すごい食欲だなぁ」
ウズが謝罪しながら立ち上がると同時に、モエが広げた風呂敷を丁寧にたたみ始めた。
「ほら、ウズ。モエが畳んでいる間に手を洗いなさい。せっかく水魔法使いなんだから」
「わ、わかりました。『放水』!」
ウズは風呂敷が濡れないようにモエから離れて水を出し始める。やはりこの光景はどうも違和感がある。何も無いところに蛇口があるかのように水が出る様子は何回見ても不思議さを強く残している。
ウズの水が止まると同時に、モエが風呂敷をたたみきり、私たちに合図をだす。
「再立さん、ウズちゃん。そろそろ出発しますよ」
「はーい」
モエが託使に向かって歩きはじめる。私達もそれに着いていく。
それにしても、採石場の改物ってどんなやつなんだろうか?石……石ころ……うーん、採石場から連想できる生き物は正直思いつかない。石をひっくり返した時に出てきがちなダンゴムシとか?だとしたらすごく気持ち悪いな。
私たちは託使の扉をキーッと開き、それぞれ搭乗していく。扉が閉まるのを認識すると、機体はゆっくりと飛び始め、北西へと舵を切った。
「再立さんのおかげですよ」
「ウズもありがとうね!あそこで水貰えなかったらやられてたかも!」
「え、えへへ、そうですか?」
ウズは嬉しそうに顔を赤らめる。しかし、それと同時に右腕からポタリと血が流れたのを見て、いたたまれない気持ちになる。
「――ウズ、怪我大丈夫?」
「はい。大丈夫です!」
「大丈夫じゃありませんよ!ちょっと待ってくださいね。再立さん、話札貸してください」
「あ、うん。これね、はい」
モエは話札を受け取ると、爪で番号を書きはじめた。これでも繋がるのだろうか。モエがやっているということは繋がるのだろう。便利なものだ。
「どうも、ヒナカモエです。はいはい、死体の処理と……医療班の方と、円匙をいくつか……はい、お願いします」
モエは改物討伐機構の人と話しているようだ。話が終わると、モエは話札をビリッと破り捨てた。
「モエ、えんし?ってなに?」
「円匙というのは土を掘る道具です。取っ手が付いていて、金属の板みたいなのでこうザクザクと……」
ああ、シャベルってことか。外来語がないから逆に分かりづらいな。ていうか、あの穴は私が掘っちゃったものだよな……人にやらせるのはなんだか申し訳ないな……
◇ ◇ ◇
しばらくすると、昨日も見た黒いソリみたいなやつが飛んできた。まるでブラックサンタだ。
そこから男性が四名ほど出てきて、死体を回収し始める。その中の二人がモエとウズの方に近づいてくる。
「御苦労さまです。報酬は後ほどお渡しします」
「ありがとうございます。どちらに伺えば良いですかね」
「先日と同じトゴーさんのお店にお願いします」
モエと改物討伐機構の人が話す。モエと話している人とは別の人がウズの腕を消毒して包帯を巻き始めた。
「ほーら、もう大丈夫。よく頑張ったね」
「あ、ありがとうございます……」
ウズは少しモジモジしている。どうやら少し人見知りしているようだ。
ウズの包帯を巻いた男性は、キズの様子を確認したあと私とモエの方へ向かって歩き、なにやら申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。
「すみません、お二方。お疲れの所申し訳ないのですが、討伐の依頼をしてもよろしいですか?」
「依頼、ですか?」
「ええ。ここから北西の方向に採石場があるのですが、そこに改物が現れまして……」
「対応できる人は?」
「あいにくいらっしゃらないんですよ……もちろん、我々もサポートにつかせていただきます」
「再立さん、どうしましょう?」
「え?やればいいんじゃないの?こういうのは度胸と経験っしょ!」
私は、薔薇の改物を討伐したことで完全に調子に乗っていた。なんでも倒せる気がしたし、どんなことが起ころうが完璧に対処しきれるような気がしていたのだ。
しかし、決して忘れてはいけないことがある。私の魔法、『リピート』は他人ありきの魔法。しかも、今の私の使える魔法は……『炎上』と『火球』、『発破』、そして『放水』。すなわち、今の私にはウズやモエが使える魔法しか持っておらず、単純に言えば「お荷物」なのだ。私はその事実をある程度認識していながらも、「まあなんとかなるでしょ」というふうに楽観していた。
「採石場にはいつ向かえば良いですか?今日のうちに行けば問題ないですかね?」
モエが確認のために訊いた。
「日が沈むまでに来ていただければ、いつでも大丈夫です。採石場行きの託使を派遣しておきますから、準備が出来次第お乗り下さい」
討伐機構の二人はそう言って改物の遺体回収に向かった。それにしても、改物討伐も人手が足りないんだなぁ。こういう仕事の押し付けみたいなのは会社員の頃を思い出すから嫌だ。でも、結局首を縦に振ってしまうのは、その頃のなんでもやるべきという教育の賜物だろうか?
「じゃあ、私たちは腹ごしらえをしましょうか。腹が減っては戦ができぬとも言いますし」
モエはカバンみたいな袋の中から大きな風呂敷のようなものを取り出し、そこに竹皮を置いた。レジャーシートのような使い方だ。
それと同時に討伐機構の人達の遺体回収作業が終わり、ソリに乗ってどこかへと飛んで行った。今度はそのソリとすれ違うように託使が飛んできて、先程のソリがいた場所に停まった。
モエはその様子をチラッと確認し、竹皮を開ける。
――そこには、完全に潰れきったおにぎりが三つ入っていた。まあ、あそこまで激しい運動を何回もすればそりゃおにぎりも潰れる。
「でも、味に変わりはないよね!」
「そ、そうですよね……」
私はすかさずフォローをするが、モエは明らかにショックを受けている。でも、仕方の無いことだ。それに、この崩れはいわば戦いの勲章。私たちの戦いの証拠みたいなものだ。
「ウズ、先に食べちゃいますね!」
ウズは風呂敷にぴょんと座りながら海苔の巻かれた鮭おにぎりを選び、真っ先に食べる。大きな口で、すごく美味しそうな顔をしながら食べる姿はとても愛らしい。
「じゃあ……私は塩おにぎりを貰おうかな」
私は何も付いていないシンプルな塩おにぎりを選び、ウズと対比するように小さめの口でパクッと食べた。
「そうなると……私はしそおにぎりになりますね。いただきます」
モエは若干残念そうな表情をしながらも、紫色に煌めくしそおにぎりを食べ始める。私はそんなモエに食べかけの塩おにぎりを差し出す。
「一口たべる?」
「えっ、でも……再立さんの分が減っちゃうじゃないですか」
「なら、モエのおにぎり一口ちょうだいよ」
「~!わ、わかりました」
モエは塩おにぎりを小さな口でパクッと食べ、逆に私へしそおにぎりを差し出した。私はそれに応えるようにちょっとだけかじる。うん、酸味がよく効いていておいしい。昔食べたおばあちゃんのおにぎりを思い出す。
モエは少し顔を赤らめながらおにぎりを飲み込んだ。
「あ!おふたりともずるいです!ウズにもちょっとください!」
「あ、ウズ『一口だけ~』って言ってガッツリ持っていっちゃうタイプでしょ」
「ち、ちがいますよ!そこまで食い意地はってないです!」
「そう?じゃあ……はい」
ウズは目の前に出された塩おにぎりに大きくかぶりつこうとしたが、流石に気が引けたのか残っている量の四分の一ほどを食べた。
「じゃあ、私も……どうぞ、ウズちゃん」
モエもウズにおにぎりを与える。今度は四分の一どころか三分の一ほど食べてしまった。
「う、うわぁ!良く食べますね……」
モエはもう一度ショックを受ける。ウズは食べすぎた、と若干罪悪感を持った表情をしたが、まるで「知らないもんねー」と言わんばかりに目を逸らす。仕方ないので私は塩おにぎりを半分に分け、モエに与えた。
「えっ、ダメですよ再立さん!これは再立さんが食べてくださいよ」
「いやいや、モエ頑張ってたもん。これはモエが食べるべき」
モエが食べるのを戸惑っていると、それに付け入るかのようにウズが大きめの声を上げる。
「あ!モエさんずるいです!」
「ウズはもう沢山食べたでしょ。自分ので我慢しなさい」
全く。ウズの食欲は底なしなのか?まあ、我慢が苦手な子供だし、ある程度は叱ってあげないと。
私は半分に分かれた塩おにぎりの最後の一粒を口の中に入れ、大きく伸びをした。いやぁ、美味しかった。
真上にはあまりにも青い大空が広がっている。今日は快晴。陽の光が間もなく南中を迎える。眩しい太陽をいっぱいに浴びて、私はその場にスっと立ち上がった。
「はむっ……ご馳走様でした。ウズちゃん、そろそろ行きますよ」
モエが食べ終わる頃、ウズは手に少し残った塩気をペロペロ舐めていた。
「こら、ウズ。下品だし汚いからやめな」
「あ、ごめんなさい……どうしても最後までたんのうしたくて」
「堪能って。すごい食欲だなぁ」
ウズが謝罪しながら立ち上がると同時に、モエが広げた風呂敷を丁寧にたたみ始めた。
「ほら、ウズ。モエが畳んでいる間に手を洗いなさい。せっかく水魔法使いなんだから」
「わ、わかりました。『放水』!」
ウズは風呂敷が濡れないようにモエから離れて水を出し始める。やはりこの光景はどうも違和感がある。何も無いところに蛇口があるかのように水が出る様子は何回見ても不思議さを強く残している。
ウズの水が止まると同時に、モエが風呂敷をたたみきり、私たちに合図をだす。
「再立さん、ウズちゃん。そろそろ出発しますよ」
「はーい」
モエが託使に向かって歩きはじめる。私達もそれに着いていく。
それにしても、採石場の改物ってどんなやつなんだろうか?石……石ころ……うーん、採石場から連想できる生き物は正直思いつかない。石をひっくり返した時に出てきがちなダンゴムシとか?だとしたらすごく気持ち悪いな。
私たちは託使の扉をキーッと開き、それぞれ搭乗していく。扉が閉まるのを認識すると、機体はゆっくりと飛び始め、北西へと舵を切った。
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