上 下
32 / 44

32◆イジメと幻影

しおりを挟む
ザバッ!!

「っ!」

「あぁ、ごめんね?間違っちゃった」

汚れたバケツの水をかけられて、僕は寒さに震える。

あんなに優しかった周りの人達が、何故か急にイジメを始めた。

いつもアメをくれるシャリーさんも、ニコニコといつものようにアメをくれたと思ったら毒入りだったんだ。

食べてすぐ呼吸が苦しくなって、立ってられなくなって、なのにシャリーさんはそんな僕をニコニコしながら見下ろして……。

「あら、美味しくなかったかな?」

……シャリーさんは、こんな人だったの?

シャリーさんがこんなサイコパスだなんて僕は信じられなかったから、どうしてこんなことをされたのかわからなかった。

そして意識を失った僕は、僕の部屋のベッドで寝ていた。

アイレンとヒスイが心配してくれるけど、毒のことは言いづらくて言えなかった。

その日、エスターとマリウスに僕が倒れたことは伝えられなかった。



……そのアイレンとヒスイも、なんだか様子がおかしい。

「なんでこんな根暗を世話しないといけないんだろ。移民のくせに」

今までヒスイは、そんなこと言わなかったのに……。

「ヒジリ君の指って、細くてなんだか……折ったら楽しそうですよね。折ってみましょうか」

今までアイレンは、そんなこと言わなかったのに……。

急に、どうして?

二人の僕をみる目が、とても冷たいんだ。

僕が何かしたのかな。

無意識で失礼なことをしたり言ったりしたのかもしれない。

アイレンは、回復魔法が使えるらしくて……。

……僕は本当に指を折られてしまった。

「痛いっ!!」

「ふふ、まるで玩具みたい」

回復されて、折られたことを知るのは僕とアイレンだけ。

治ったのに、痛みは恐怖と共に記憶に残った。



イジメのことは、エスターとマリウスに言えない。

二人を信じてないわけじゃないけれど、父さんの時のことを思い出してしまって……助けを求めることができないんだ。

「助けて」の言葉が、言えないんだ。

それに、そのイジメは二人にバレないように行われていて、皆表面上は今まで通りの優しくて親切な人達。

……なんだか、父さんがたくさんいるみたいに感じた。



「うぅっ!」

夜、幻影が僕に囁く。

その幻影は、僕の姿をしていた。

『皆僕に消えてほしいんだ。優しくしたのはただの可哀想な子に対する同情。でも、それは見せかけの優しさ。皆自分をいい人にみられたいだけ。だから皆、僕に本当は優しくしたいなんて思ってなかったんだよ』

「やっぱり、僕に生きる価値はないんだ」

『そう、僕に生きる価値なんて最初からないの』

「……。わかってる。でも、僕の命はエスターとマリウスのものだから勝手に死ねない」

『あの二人だって、きっと僕を迷惑がっている。僕が死んだら絶対に喜んでくれる。二人に命を捧げているなら、二人のために死んで、二人を僕から解放してあげるべきだ』

毎夜毎夜、僕の幻影は僕の価値をわからせるように囁くんだ。

やっぱり、僕は死んだ方がいいのかな。

思い悩んで眠れなくて、目の下にはせっかくなくなっていたクマが再びできてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

処理中です...