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32◆イジメと幻影
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ザバッ!!
「っ!」
「あぁ、ごめんね?間違っちゃった」
汚れたバケツの水をかけられて、僕は寒さに震える。
あんなに優しかった周りの人達が、何故か急にイジメを始めた。
いつもアメをくれるシャリーさんも、ニコニコといつものようにアメをくれたと思ったら毒入りだったんだ。
食べてすぐ呼吸が苦しくなって、立ってられなくなって、なのにシャリーさんはそんな僕をニコニコしながら見下ろして……。
「あら、美味しくなかったかな?」
……シャリーさんは、こんな人だったの?
シャリーさんがこんなサイコパスだなんて僕は信じられなかったから、どうしてこんなことをされたのかわからなかった。
そして意識を失った僕は、僕の部屋のベッドで寝ていた。
アイレンとヒスイが心配してくれるけど、毒のことは言いづらくて言えなかった。
その日、エスターとマリウスに僕が倒れたことは伝えられなかった。
……そのアイレンとヒスイも、なんだか様子がおかしい。
「なんでこんな根暗を世話しないといけないんだろ。移民のくせに」
今までヒスイは、そんなこと言わなかったのに……。
「ヒジリ君の指って、細くてなんだか……折ったら楽しそうですよね。折ってみましょうか」
今までアイレンは、そんなこと言わなかったのに……。
急に、どうして?
二人の僕をみる目が、とても冷たいんだ。
僕が何かしたのかな。
無意識で失礼なことをしたり言ったりしたのかもしれない。
アイレンは、回復魔法が使えるらしくて……。
……僕は本当に指を折られてしまった。
「痛いっ!!」
「ふふ、まるで玩具みたい」
回復されて、折られたことを知るのは僕とアイレンだけ。
治ったのに、痛みは恐怖と共に記憶に残った。
イジメのことは、エスターとマリウスに言えない。
二人を信じてないわけじゃないけれど、父さんの時のことを思い出してしまって……助けを求めることができないんだ。
「助けて」の言葉が、言えないんだ。
それに、そのイジメは二人にバレないように行われていて、皆表面上は今まで通りの優しくて親切な人達。
……なんだか、父さんがたくさんいるみたいに感じた。
「うぅっ!」
夜、幻影が僕に囁く。
その幻影は、僕の姿をしていた。
『皆僕に消えてほしいんだ。優しくしたのはただの可哀想な子に対する同情。でも、それは見せかけの優しさ。皆自分をいい人にみられたいだけ。だから皆、僕に本当は優しくしたいなんて思ってなかったんだよ』
「やっぱり、僕に生きる価値はないんだ」
『そう、僕に生きる価値なんて最初からないの』
「……。わかってる。でも、僕の命はエスターとマリウスのものだから勝手に死ねない」
『あの二人だって、きっと僕を迷惑がっている。僕が死んだら絶対に喜んでくれる。二人に命を捧げているなら、二人のために死んで、二人を僕から解放してあげるべきだ』
毎夜毎夜、僕の幻影は僕の価値をわからせるように囁くんだ。
やっぱり、僕は死んだ方がいいのかな。
思い悩んで眠れなくて、目の下にはせっかくなくなっていたクマが再びできてしまった。
「っ!」
「あぁ、ごめんね?間違っちゃった」
汚れたバケツの水をかけられて、僕は寒さに震える。
あんなに優しかった周りの人達が、何故か急にイジメを始めた。
いつもアメをくれるシャリーさんも、ニコニコといつものようにアメをくれたと思ったら毒入りだったんだ。
食べてすぐ呼吸が苦しくなって、立ってられなくなって、なのにシャリーさんはそんな僕をニコニコしながら見下ろして……。
「あら、美味しくなかったかな?」
……シャリーさんは、こんな人だったの?
シャリーさんがこんなサイコパスだなんて僕は信じられなかったから、どうしてこんなことをされたのかわからなかった。
そして意識を失った僕は、僕の部屋のベッドで寝ていた。
アイレンとヒスイが心配してくれるけど、毒のことは言いづらくて言えなかった。
その日、エスターとマリウスに僕が倒れたことは伝えられなかった。
……そのアイレンとヒスイも、なんだか様子がおかしい。
「なんでこんな根暗を世話しないといけないんだろ。移民のくせに」
今までヒスイは、そんなこと言わなかったのに……。
「ヒジリ君の指って、細くてなんだか……折ったら楽しそうですよね。折ってみましょうか」
今までアイレンは、そんなこと言わなかったのに……。
急に、どうして?
二人の僕をみる目が、とても冷たいんだ。
僕が何かしたのかな。
無意識で失礼なことをしたり言ったりしたのかもしれない。
アイレンは、回復魔法が使えるらしくて……。
……僕は本当に指を折られてしまった。
「痛いっ!!」
「ふふ、まるで玩具みたい」
回復されて、折られたことを知るのは僕とアイレンだけ。
治ったのに、痛みは恐怖と共に記憶に残った。
イジメのことは、エスターとマリウスに言えない。
二人を信じてないわけじゃないけれど、父さんの時のことを思い出してしまって……助けを求めることができないんだ。
「助けて」の言葉が、言えないんだ。
それに、そのイジメは二人にバレないように行われていて、皆表面上は今まで通りの優しくて親切な人達。
……なんだか、父さんがたくさんいるみたいに感じた。
「うぅっ!」
夜、幻影が僕に囁く。
その幻影は、僕の姿をしていた。
『皆僕に消えてほしいんだ。優しくしたのはただの可哀想な子に対する同情。でも、それは見せかけの優しさ。皆自分をいい人にみられたいだけ。だから皆、僕に本当は優しくしたいなんて思ってなかったんだよ』
「やっぱり、僕に生きる価値はないんだ」
『そう、僕に生きる価値なんて最初からないの』
「……。わかってる。でも、僕の命はエスターとマリウスのものだから勝手に死ねない」
『あの二人だって、きっと僕を迷惑がっている。僕が死んだら絶対に喜んでくれる。二人に命を捧げているなら、二人のために死んで、二人を僕から解放してあげるべきだ』
毎夜毎夜、僕の幻影は僕の価値をわからせるように囁くんだ。
やっぱり、僕は死んだ方がいいのかな。
思い悩んで眠れなくて、目の下にはせっかくなくなっていたクマが再びできてしまった。
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