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21◆役に立ちたかっただけなのに

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昨夜はエスターもマリウスも来なかった。

代わりにアイレンとヒスイが交代で僕の側で僕の見守りをしていた。

もしかしたら見守りじゃなくて見張りかもしれないけど、わからないからどちらでもいい。

お風呂代わりに身体を布で拭く時、自分でさせてもらえないのはなんでなんだろう?

エスターもマリウスも自分でさせてくれないから、意識してしまって恥ずかしいんだけれど……。



二人がもっと遅い時間になったら来るかもと僕は眠らずに待っていた。

眠らない僕に、アイレンは歌を歌って寝かせようとして、ヒスイは絵本の読み聞かせをしていたよ。

思ったんだけど、アイレンって歌が大好きなのかな?

絵本は文字を学習するのにいいよね。

たぶんだけど、ヒスイには弟か妹がいるような気がする。

だって絵本の読み聞かせ方が上手だから。



眠らないまま朝を迎えた。

そして、朝食の時にエスターとマリウスがやってきた。

目の下に隈があるから、徹夜で仕事してたのかな。

『おはようヒジリ!昨夜は寂しくなかったか?急な仕事で来れなくてすまなかった』

『おはようヒジリ!昨夜は僕もエスターも来ない上に、いきなり知らない人がお世話しにきて驚いたよね。大人の事情だけどごめんね』

「おはよう、エスター、マリウス」

まだ言葉がわからないから、二人が伝えたいことがわからない。

けれど、絵本でゆっくりでもちゃんと言葉を覚えるから、言葉を覚えたらいっぱい話がしたいな。

そんなことを思いながら、二人に朝食を食べさせられるのだった。



二人は今日も忙しいのか、朝食が終わると部屋から出ていった。

僕も二人の役に立ちたいな……。

昨日は鍵がかかっていたけれど、今ならまだ開いてるかな?

そう思って、扉に手を伸ばす。

「!」

開いている……。

開いた扉から部屋の外に出て、僕にできる二人の役に立つことを探してみる。

掃除でもなんでもいい……何か、何かしたい。

役に立たないといけない。

価値のない僕だから、役に立つことでしか愛してることを伝えられないんだ。

たとえ片思いでも、二人に愛されることがなくても……。



そして、曲がり角で騎士の格好の人に会った。

見つめ合うこと数秒、その人は目を見開いて叫んだ。

『ヒジリ君が脱走してるーーっ!?』

「!?」

僕は、わけもわからないまま逃げ出す。

騎士は追いかけてきたが、意外にも僕の逃げ足は速かった。

『待って待って!エスター隊長に俺が怒られるから逃げないで!!』

何か言っているが、追いかけっこは終わらない。

その内追いかける人が増えていくが、僕は捕まらなかった。

……僕がこんなに速く走れるって、初めて知ったよ。

走って走って走って、疲れても走って。

走っている意味がわからないまま疲れてきた時、二人の人物が前方にサッと現れて捕まった。

……エスターとマリウスだった。

『ヒジリ、勝手に部屋から出ていけない子だな。でも、寂しかったから私達を求めて部屋から出たんだな』

『ふふ、ヒジリったら悪戯っ子さんだね。皆で追いかけっこは楽しかったかな?』

エスターは困ったような笑顔で、マリウスは楽しそうに笑っている。

僕を追いかけていた人達は、安堵の表情を浮かべて解散していった。

……結局、僕はどうして追いかけられていたんだろう?
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