上 下
13 / 44

13◆伝わる心配

しおりを挟む
フォークをみて、首に刺したら死ぬかなと思って刺したけど死ななかった。

首には包帯が巻かれて、マリウスに涙目で何かを言われたよ。

なんとなく怒ってるみたいだったけれど、その後抱き締められたんだ。

『もうこんな危ないことしないでね。お願いだよ』

エスターも僕の手を握り、何かを言っていた。

手の甲にキスをして、驚く僕に辛そうな眼差しを向ける。

二人の熱は、言葉がわからないままの僕に何かを訴えていた。



そして、僕は思い出す。

昔、母さんがいて、父さんが僕にまだ優しかった頃の話だ。

僕が怪我をしたり病気をしたら、両親はとても心配してくれたな。

もう今では、それは僕がみた夢なんじゃないかって思ってるけど……。

今のエスターとマリウスは、僕を心配してくれたあの頃の両親のようだ。

そう思って、やっと僕はエスターとマリウスが僕を心配しているんだと気づく。

気づいてしまうと、なんだか泣きたくなって涙が溢れる。

「ごめんなさい……っ」

急に僕が泣き出したから、エスターとマリウスがあたふたしているけれど涙が止まらない。



長く人の優しさと無縁の生活をして、心配というものも僕には無縁になっていた。

僕は、自分が悪いんだと思うようにはしていた。

けれど……心の奥底では、助けを求めていたんだ。

だけどその気持ちをみないように、必死に自分が悪いんだと言い聞かせた。

誰かに心配してほしかった。

助けてもらえなくてもいいから、少しでいいから心配してほしかった。

だけど、誰も彼もが僕に関わることを嫌がった。

だから……僕は人の優しさとか愛とか、暖かい感情を忘れていった。



ずっとずっと、求めていた優しさ。

心配されているとわかった僕は、今まで堪えていたものが全部涙になって出てきてしまった。

エスターとマリウスが、僕の顔にキスしたり、頭や背中や腕を撫でたり、二人で抱きしめたりして、僕を慰めようとあれこれしている。

次第に、僕は泣き疲れて眠ってしまった。

眠っている間も暖かいぬくもりに包まれていて、僕はその日とても幸せな夢をみた気がする。

目が覚めると、ベッドで二人に抱き締められた状態で寝ていてびっくりしたよ。

でも、なんだかとても嬉しくて……。

「ふふっ」

つい、笑みが溢れた。

あぁ、笑ったのなんていつぶりかわからない。

こんな幸せな朝なら、二度寝してみるのもいいかもしれない。

そう思って、僕はそっと瞼を閉じるのだった。



そして、今日を境に父さんの幻影は現れなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

異世界でチートをお願いしたら、代わりにショタ化しました!?

ミクリ21
BL
39歳の冴えないおっちゃんである相馬は、ある日上司に無理矢理苦手な酒を飲まされアル中で天に召されてしまった。 哀れに思った神様が、何か願いはあるかと聞くから「異世界でチートがほしい」と言った。 すると、神様は一つの条件付きで願いを叶えてくれた。 その条件とは………相馬のショタ化であった!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

処理中です...