死にたがりの僕は言葉のわからない異世界で愛されてる

4◆少年の声(エスター視点

目覚めない少年は、シュヴァルツ辺境伯の厚意で客室で寝かせることになった。

マリウスが側でついているのだが、少年が目覚めたとマリウスから知らせがきて食事を用意して私は部屋に行った。

少年は、黒いボサボサの長髪と死んだ魚のような黒い目をしていて、少し寝たぐらいではとれない目の下の隈に、とても痩せた身体をしている。

衣類は清潔なゆったりとしている寝衣に変えた。

こんなに痩せているのだから、まともに食事を与えられていなかったのだろう。

たぶんお腹を空かせているだろうから、少年にはお腹いっぱい食べてほしいものだ。

私達は少年の身体を起こし、持ってきた少年の食事を目の前に置いた。

……しかし、何故か少年が食べようとしない。

「どうした？遠慮なんかしなくていいんだぞ」

『……』

まさか、食べ方がわからないのだろうか……。

……少年は酷い扱いを受けていたのだから、犬のような食べ方を強制されていたのかもしれない。

それを想像したら反吐が出そうだった。

「食べ方がわからないのかもしれない」

「食べ方……」

「食べさせてやったら食べ方がわかるだろうか？」

私は、とりあえずスープをスプーンで掬い少年の口元に持っていった。

「ほら、あーんだ」

「……口開かないね」

私と少年の様子をみているマリウスも心配そうに呟く。

少年は、これでは食べ方がまだわからないのかもしれない。

なので、私はそのスプーンのスープを自分の口元に持っていきパクリと食べた。

これで食べ方はわかっただろうと思い、少年に再びスプーンでスープを食べさせようとする。

……しかし、何故か少年は食べない。

「……何故食べないのかな」

「……実は腹が空いてなかったのだろうか」

「その可能性は考えてなかったね」

私達は困ってしまう。

仕方ないので、少し時間をおいてからまた食事を持ってくることになった。



「君、自己紹介をしようか。私はエスターだ」

「僕はマリウスだよ。君の名前は言えるかな？」

『……』

名前を聞き出せないかと自己紹介をするが、少年はずっと何も言わない。

なんなら、頷くことも首を振ることもしない。

まるで意志のない人形のようだ。

……何故だろう？

まさか、喋れないのだろうか……？

そこで、マリウスがはっとした。

「まさか……言葉がわからないんじゃ……？」

「可能性はあるな」

どこかこの国とは違う言語の国から攫われ、不正な奴隷になっていたのかもしれない。

ならばと私は私を指差し、少年にゆっくりと私の名前を言ってみた。

「エ、ス、ター」

『……』

「エ、ス、ター」

『……？』

「エ、ス、ター」

『……え、しゅ、たぁー？』

「「！！」」

喋った！少年が喋ったーー！

少年は喋れないわけではなかったのだな。

私は少年が喋れたことに、マリウスと共に安堵するのだった。