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3◆差し出された食事

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次に目が覚めると、そこは知らない部屋だった。

ホテルの部屋みたいなところで、僕が寝ているベッドは大きくてとてもふかふかとしている。

『おや、目を覚ましたの?』

誰かがベッドの隣で椅子に座っていたみたいで、その人は僕に穏やかな微笑みで話しかけてきたけれど……。

言葉が……わからない……。

これが言語の壁というやつなんだね。

相手の容姿は、赤色の垂れ目で淡いピンク色の長い髪を後ろで緩く三つ編みにして肩にかけている。

そして、騎士服っぽい服装の中性的な癒やし系美青年だ。

アニメとかに出てきそうな見た目だな。

……やはりこの状況は、異世界転移なんだろうか。

『君、具合はどうかな?どこか痛かったり、苦しかったりしない?』

「……」

僕、さっきから何を言われてるんだろう……。

……とりあえず、身体を起こそうか。

しかし、何故か慌てた彼に止められてしまった。

『ダメだよ!君はまだ安静にしていないと!』

どうして止められたんだろう……?

僕にはそれがわからなかった。



僕は自分では気づいてないけれど、人の優しさとか愛とか、そういうものがわからなくなっていた。

だから、彼が僕を心配してくれているだなんて少しもわからなかったんだ。

生きることが罪で、暴力暴言は受けて当たり前の罰で……。

……もう、僕は壊れているんだろう。



部屋に、別の男の人がやってきた。

『マリウスから君が目を覚ましたと知らせを聞いたから、食事を持ってきたぞ』

その手には温かな食事を持っている。

それは、具沢山のスープにパンが二個とミルクだと思う。美味しそう……。

『君、食べられそうか?無理なら残してもいいから、少しでも食べてくれ』

やはり何を言われているのかわからない。

長い銀色の髪をポニーテールにしている紫色のツリ目のクール系美青年で、細マッチョでピンク髪の人と同じ服装だ。

僕は身体を起こされると、背中側にクッションを入れられて目の前に食事を差し出される。

しかし、それが僕のための食事だと僕は思っていない。



僕は食事をまともに食べていなかったから、僕の身体は同年代よりかなり小さいんだ。

小学生にみえるぐらい小さい……。

僕は必要最低限の食事しか許されてなかったけれど、それもよく父さんの暴力で吐いてしまってあんまり栄養にならなかったこともある。

だから身長が育たなかったんだろうな。

父さんは僕が食べる姿をみると苛つくと言うから、僕は怯えながら隠れて食べるしかなかった。

そのうち、僕が食べるという行為は悪いことだと僕は思うようになったんだ。

何かを食べる度に罪悪感を感じてしまう。

……空腹というものは、もう何年も前から感じなくなっているよ。

なので僕は食事をみても、美味しそうとは思うのに食べたいとは思わないんだ。

そんな僕だから、差し出された食事の理由がただただわからなかった。
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