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67 撤収

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 ダレクはまるで放り投げたような言い方をするが、悪感情があるようには感じられない。
 
「ま、この術を開発しちゃったおかげでさ、私は自分の国と周りの国に追われる事になったんだけどねー。術式を奪おうとする奴が家に忍び込んできたり、術式を使って無限に復活する兵士を作ろうと術式を利用しようとした奴らが現れたりでさー。それが鬱陶しいから魔界に引っ越したんだけどね」
「は、はぁ……」

 随分と軽いノリで言ってるけど、カレンが開発した術は本当にとんでもないものだ。
 世界のありようを変えるほどの術。
 そりゃあ誰も彼もがこぞって欲しがるはずだよ。
 死んでも蘇生、しかも集団、広域範囲での蘇生術式。
 まるでRPGゲームみたいじゃないか。
 
「あ、あれ……」
「俺死んだはずじゃ……」
「生きてる……?」

 地面に転がっていた元死体さん達がきょろきょろと辺りを見回して、自分の手足を見ては首を傾げている。
 そして――。
「せ、聖女様……!」
「女神だ……」
「神の御使いだ……!」
「聖女様!」
「「聖女様だ!」」

 正規兵の皆様方は不思議そうな顔をしているだけだったが、革命軍の皆様方はそうもいかないようで。
 口々に聖女だ女神だのと叫んで抱き合って喜んで平服し始めてしまった。

「あー……めんどくさ」

 しかし奇跡を起こした当の本人はジト目になって大きくため息を吐いた。

「めんどくさいって……」
「いやまぁこうなるかなーとかはちょっち思ったけどさー。ま、慣れてるからいーけどぉー」

 そんな気だるげな言葉とは裏腹に、少し困ったような、でも嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな表情を浮かべて周囲に手を振りペコペコとお辞儀をするカレン。
 大した役者だよほんと……。
 カレンは美人だ。
 道を歩けば十人中六人は振り返るであろう美人。
 そんな美人が照れくさそうに微笑みながら愛想を振りまくのだから、そりゃあもう、その場は非常に柔らかくなった。
 戦場であるのに戦場でない、まるで地下アイドルのコンサート会場のような異様な雰囲気を醸し出していた。
 
「ダラス隊長! 対象を捕縛致しました!」
「よぅしでかした! お前ら撤収だ!」
「「「サー! イエッサー!」」」

 今回の捕縛対象であった屋敷の主らしき人物が、グースカといびきをかきながらダラスの部下に担がれて運ばれていった。
 そしてダラスとアスターを残し、正規兵の姿は屋敷の裏手からあっという間に消えていった。
 撤収の速さはさすがの正規兵といったところ。
 Tホークからの映像でも、表門の正規兵達が撤退していく様子が見られた。
 革命軍達は自分達に起こった奇跡を噛みしめて抱き合ったり、泣いて笑っているのに忙しいようで撤退していく正規兵を追う者は誰も居なかった。
 サリアの魔法で宙釣りになっている革命軍達も、目の前で繰り広げられた神の所業のような出来事に抵抗することも忘れているようだった。

「さて、クロードよ」
「はい」
「任務は終わった。話の続きを聞かせてもらおうか?」

 ふう、と一息吐いたダラスがやや呆れたような顔で言った。
 その瞳は実に穏やかで、そしてこの時、今までこうやってきちんと目を見て話し合った事があまりなかったことを思い出した。
 アスターはそんな俺とダラスのやり取りをじっと見つめているだけで、何かを言おうとはしなかった。

「わかりました。ですがここで立ち話も何なので移動しながらではいかがですか?」
「かまわん」
「ではこれに乗ってください」

 俺はそう言うと上空で待機していたカイオワをリリースし、その代わりに外装ベンチ付きのリトルバードを召喚した。
 
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