上 下
40 / 73

40 うーん

しおりを挟む
 クロードとミーニャが席についたころ、廊下では。

(馬鹿野郎! 何声出してんだ!)
(いててて! すみません親方!)
(静かにするのじゃ、お前ら殺すぞ)
((申し訳ございませんクレア様))

 誰もいない廊下にヒソヒソと謎の声が響いたと思えば、廊下の一部が揺らめくように動いた。
 そして小さく扉が開き、閉じた。
 扉を背にしているクロードとミーニャはそれに気付いた様子は無い。
 よくよく見れば金木犀の植え込みの前が微妙に揺らめいており、しかもそれが複数見受けられる。
 
「いらっしゃいませ、クロード様、ミーニャ様、本日のコースを担当させていただきます、シェフマスターブレイブでございます」
「……様?」

 いつもの様子とはまるっきり違うブレイブの態度に、クロードは目を丸くしている。
 テーブルの上には綺麗にたたまれたナプキンと銀の皿、そして何本ものスプーンとフォーク、ナイフが置かれていた。
 
「ここで特別コースをお願いすると、ブレイブ様とアストレア様から直々にご挨拶をいただけて、なおかつブレイブ様から尊敬語でのおもてなしを受けることが出来るんです。結構人気なコースなんですよ? ね? ブレイブ様?」
「いかにも。多くの紳士淑女の皆様方にご贔屓していただいております」
「そ、そうなんですか……」

 クロードからしてみれば、直属の上司から敬語で対応されている状態であり、やはり少し戸惑いがあるように見える。
 だがクロードよ、お前、今の娘の言葉で何も気付かないのか?
 気付かないならそれはそれでいいのだがな。
 まぁいい。
 私は氷のアストレア、その程度の事で動揺などしたりはせぬ。
 と言うことで先ほどからナレーションを務めさせていただいている氷のアストレアだ。
 なにぶんこういった事は初めてなのでな、少し緊張している。
 今現在、四階テラスは厳重な警備がしかれており、あり一匹とて通す事はないだろう。
 ここには四天王全員と魔王クレア様、そしてクロードと懇意にしている者達が集まっている。
 中には先日作戦を共にした三人の人間も同席している。
 とは言っても、集まっているみなはクレア様の手によりハイドの術をかけられているので、クロードもミーニャもそれに気付く事はない。
 こういった部下のプライベートを覗くような行為はあまり好きでは無いのだが、クレア様やカルディオールはこういう事が大好きだ。
 クレア様は世継ぎを作る気などさらさらないくせに、他人の色恋事になるとまるで自分のことのように喜ぶ。
 そこまではいい。
 だがその成り行きを見れるならば特等席で鑑賞したいというのだ。
 不手際があれば心の中で熱いエールを送って一人でハラハラし、なんでそんな事を言ってしまうんだ、と頭を抱える。
 クレア様がこういった覗き見のような行為を始めたのはいつのことだったか、それは定かでは無いが、魔王城でカップルが誕生しそうだという噂を聞きつけたら最後、全ての業務を放り出してしまう。
 そして二人のことの成り行きを見守るのだ。
 いつしかそれは魔王城全体の一大イベントになってしまい、現在のように四天王及びその対象者が懇意にしている者達へ、伝達される。
 もちろん秘密裏にカップルになる者も多いのだが、そういう情報はなぜかカルディオールや大して仕事のない諜報部がよく集めている。
 よくないことだとはみな自覚している。
 だがしかし……なぜかやめられないのだという。
 娯楽の少ない魔王城では、恋愛というのは一大イベント、闘技場での戦いと同じように燃え上がる。
 なにぶん人間と違い、魔族が子を為すにはそれなりの時間が必要だ。
 ゆえに、だからこそ、色恋というのは魔族にとって非常に重要な通過儀礼なのだ。
 魔王城には多種多様な種族が混在しているために、ハーフやクオーターという混血が生まれやすい。
 恋に種族など関係ないのだ。
 自分で何を言っているか分からなくなってきたが、みながここに集まっているのは決して冷やかしや興味本位というわけではない。
 みな一様に真面目なのだ。
 と、私が尺稼ぎをしている間にブレイブが一品目を持ってクロードとミーニャの前に立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

処理中です...