上 下
19 / 73

19 へリボーン作戦

しおりを挟む
 俺が魔界の真実というか、魔界の本質に衝撃を受けていると、司令室の扉がノックされた。

「入れ」
「失礼いたします! 昨日昼頃、ウェンズデー丘陵にて戦闘が勃発したとの報が入りました」
「ほう!」

 兵士の報告を受けて席から立ち上がったクレイモアの瞳は、それはもうキラキラと輝いていた。
 陽の光を浴びた朝露のようにキラキラだ。

「どことどこだ?」
「は! 銀楼狐族と虎蜘蛛族と思われます」
「そうか。どっちが勝つと思う?」
「そうですね、記録から行けば銀楼狐族かとは思いますが……」
「戦力差は?」
「やはり銀楼狐族が優勢です」
「わかった。ではトール大隊に招集をかけろ。行くぞ」
「は!」

 行くぞ、ってまさか。
 
「介入するっていうんですか?」
「そうだ。義勇軍としてな」
「どうし……いや、もう何も言いません」
「はっはっは! わかってきたじゃないか! クロードも行くぞ!」
「えぇ!? 俺もですか!?」
「当たり前だ。お前は今司令官戦闘補佐だぞ?」
「そうですけど」
「ならば私と共に来るのが仕事だ」
「わかりましたよぉ!」

 クレイモアは新いおもちゃを見つけた子供のような笑顔を見せ、颯爽と司令室を出ていく。
 俺も慌ててその後をついていく。
 
「あぁ、そうだ」

 とクレイモアは何かを思い出したように振り向き、

「エイブラムスは出せるか?」
「出せますが……死者が出ますよ」
「そうよなぁ。ならこう、殺傷能力の低い異世界のモンスターは出せないか?」
「……気に入ったんですね?」
「あぁ! 気に入った! あの無骨なフォルム、鋼鉄のように頑強な皮膚! そしてなにより中に入れるというのが素晴らしい!」

 どうやらクレイモアはメカ好きになってくれたみたいだな。
 それなら。

「わかりました。なら輸送は俺のモンスターに任せてください」
「ほお! 輸送とな! 何だ!? 異世界の馬車馬か!?」
「ちょっと違いますけど……馬車よりもたくさん運べるはずですよ」
「おお! それは大いに期待出来るな! では行こう!」
「了解です」

 ウェンズデー丘陵がどのあたりかは分からないけど、輸送するならあれしかないだろうな。

 〇

「各員! ウェンズデーの地にて既に祭りが始まっている! これより我らは義勇兵として参戦! 銀楼狐を震え上がらせてやれ!」
「「「おおお!」」」

 集まった大隊六百人はやる気満々であり、みな手にそれぞれの獲物を持ってはしゃいでいる。
 俺はそんな彼らを見ながら頭の中で召喚するモンスターを選択。

「これよりクロードが異世界のモンスターを召喚する! 我らはそれに乗り込み、現地へと急行する!」

 クレイモアの言葉を聞き、皆の前で一気に召喚を行う。
 空間が歪み、鋼鉄のモンスターがその場にゆっくりと、空を駆ける輸送ヘリ、CHー47 チヌークの堂々たる姿を現した。

「「「なんだこいつ……!」」」
「ほおお! かっこいい! すごい!」

 兵士達はチヌークの姿を怪訝な顔で見ているが、クレイモアはもう興奮しっぱなしだ。
 CHー47 チヌーク。
 全長約三十メートルの巨体が計十二機並び、俺の号令を待っている。

「こいつはチヌークと言います! これから皆さんにはこの中に入ってもらいます! 食べられたりはしないので安心してください! 五十人ずつお願いします!」
「各員聞いたな! 有無を言わさず中に入れ! ぐずぐずするな!」
「「「は!」」」

 チヌークが出現した時こそ怪訝な顔をしていた隊員達だが、乗り込む時は皆興味津々な顔になっていた。
 クレイモアは相変わらずはしゃいでチヌークの顔を撫でながら「お主は馬車馬なのか?」などと話しかけている。
 どう見ても馬では無いのだけどまぁいいか。
 隊員達が全て乗り込んだのを確認し、俺とクレイモアも乗り込む。
 やはりコックピットには誰もいない。
 誰もいないからコックピットにも隊員が座ってあちこちぺたぺたと触っていた。
 
「で、クロード、これはどう動くのだ?」
「今から分かりますよ」
「よしきた!」
「方向が分からないので案内をお願いしたいのですが」
「かまわんよ。ほれ、これが地図だ」
「ありがとうございます」
「とりあえず西南の方に向かってくれればいい」
「分かりました! 行くぞチヌーク!」
『キョオオォォ』

 機械なのに謎の鳴き声を発するのは他と共通だが、チヌークはローターをゆっくりと回し始め、やがてその巨体を浮かび上がらせていく。

「おお! こいつは飛ぶのか! 不思議な飛び方をするな!」

 ウェンズデー丘陵に向けて飛翔を開始したチヌークの窓に張り付き、クレイモアが言う。

「必要であれば斥候用のモンスターを飛ばしますが」
「いらんいらん。さほど大きな戦いではない」
「そうなんですか?」
「うむ。銀楼狐が約一万、虎蜘蛛が約五千といったところだな」
「虎蜘蛛族はそんなに少ない種族なのですか?」
「ウェンズデー丘陵辺りに住んでいるのはもう少し多いが、虎蜘蛛は基本的に魔界全体に散らばっているからな」
「なるほど。ジプシー的な」
「そのようなものだ」

 クレイモアはそこで会話を終わらせ、ため息を吐きながら眼下に流れる景色を堪能し始めた。
 そして飛行する事約二十分ほど。
 前方にウェンズデー丘陵が見えてきた。

「ほー早いなぁ! もうついたのか! 各員気を引き締めろ!」
「「「は!」」」

 着陸態勢に入った所で他のチヌークに爆発が起きた。
 どうやらチヌークを見つけたどちらかの軍勢が魔法を放ってきたようだ。
 爆発が起きたチヌークは少しよろけたものの、大した被害も無く着陸し、隊員を吐き出していく。

「各小隊は陣形を組みつつ散開! 各個突撃せよ!」

 サーベルを振り、クレイモアの号令が飛ぶと隊員達は見事な動きでバラバラと散らばっていく。
 ウェンズデー丘陵には魔法の雨が降り、至る所の大地が爆発している。
 魔法を飛ばしているのはどうやら銀楼狐族のようだ。
 虎蜘蛛族も魔法を放ってはいるけど、銀楼狐ほどではない。

「クロード、お主も参戦するか?」
「だ、大丈夫です!」
「遠慮するでない。派手に殺さなければいい」
「それは、御命令ですか?」
「いいや、任意だ。どうする?」
「……わかりました。やります」
「ほっほう! そうでなければな! で! 何を出すのだ? エイブラムスか?」
「エイブラムス大好きですね……さて、どうしましょうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元婚約者様へ、求刑させていただきます!!~転生したら即婚約破棄されたので、王子殿下に弟子入りして法の下で裁くことにしました~

雨愁軒経
ファンタジー
デスマーチから解放されてフラフラの帰り道で事故に遭い、気が付けば令嬢エクレシアに転生していた。 状況も飲み込めぬまま、婚約者を名乗る貴族クロードから婚約破棄を告げられる。 「知りもしない男からの婚約破棄とか腹立つんですけど!? 別にイケメンでもなかったし!」 ムカッ腹の立ったエクレシアは、どうにかクロードをやり込めないものかと動き出すことに。 しかし状況は散々で、地の利にも疎い人間ひとりでは光明など見えてくるはずもなく……。 そんな折、エクレシアは酒場で出会ったカトゥスと意気投合することに。 翌朝、二日酔のエクレシアが目を覚ましたのは――豪華な客間!? カトゥスってこの国の第三王子様だったの!? ひょんなことから、エクレシアは邸宅に住まわせてもらうことに。 しかし居候では申し訳ないと仕事を求めるエクレシアに、カトゥスの返答は…… 「君を粗雑に扱った男を、法の下で裁いてやりたくはないか?」 かくしてエクレシアは、法律家として裁判をすることになるだった――!? ペンは剣よりも強し!!愛は金よりも固し!? 現代日本で鍛えられたタフな法律家令嬢と、弁は立つくせに愛を語るのは不器用な変わり者王子殿下のタッグが世にはびこる悪を斬る、異世界リーガル・ラブロマンス!!

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...