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14 初日

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「クロード! 二番、八番上がり! これでラストだ!」
「はい!」

 配属先が決定した翌日から戦争のランチ、ディナータイムが終わりを告げた。
 相変わらず目まぐるしいけど、働いてるって感じがする。
 テーブル番号やらなんやら、基礎的な事は全て覚えたので後は効率性や他のスタッフとの連携などを研究していくだけだ。

「おつかれさんー、先上がるよ」
「あ、スルスさんお疲れ様っす」

 黒狼族のスルス、その種族名の通り真っ黒な体毛を纏った大型の獣人。
 俺の先輩だ。
 獰猛そうな顔だが堀は深く、獣人の美的センスで言えばイケメンらしい。
 スルスを目当てに食事をしにくる女性兵士や王城スタッフも多い。
 ガラ声でガサツそうだが手先は器用で、テーブルのナプキンなんかもササッと綺麗に折ってしまう。
 昔はガラス職人を目指していたらしいのだが、センスと才能が無いと親方に言われ、泣く泣く転職したのだとか。
 その話を聞いた時、見た目は本当に狂暴そうなのになぁ、と思ったのは内緒だ。
 テーブルを拭きあげて明日のランチのテーブルセットを組む。
 そして一通り締め作業を終え、未だにキッチンで仕込みやら何やらをしているブレイブとアストレアに挨拶をして退勤。
 その途端どっと疲れが押しよせ、座り込みたくなるがそのまま部屋へと戻る。
 
「クレア様から……? ああ、きっと例の件だな」

 昨日のうちに宝珠の件を書面に上げ、今日出勤前に提出しておいたのだ。
 それが今日帰ってくるとは……実に仕事が早い。
 書面を開くとそこには宝珠使用許可の印がデカデカと押されていた。
 
「よし、早速やっちゃうか」

 善は急げ、許可が下りたのなら早急に済ませてしまおう。
 疲れてはいるけど、これを明日にした所で疲れている状態には変わりない。
 後手に回るより今頑張ってサクッと終わらせてしまったうがいいに決まっている。
 クローゼットにしまってあるカバンから宝珠を取り出し、テーブルの上に置く。
 術式はこの宝珠に編み込まれているので、俺がやることは範囲指定とスイッチを入れる為の魔力を流し込むだけだ。
 範囲は宝珠を起点として……そうだな、半径五キロ程度でいいだろう。
 仮に外に出たとしても宝珠の効果範囲内に帰ってくれば平気だし。

「宝珠よ……!」

 かつて先々代が起動させた宝珠を俺が止め、俺が再び起動させる。
 まさかまた使う事になるとは思ってなかったけどな。
 これが召喚士のサガってやつかな。
 ここから俺のサガのサーガが始まる。
 うん、我ながらサムいギャグだ。
 そんな事を考えていると宝珠が徐々に光を帯び始めていく。
 ゴリゴリと魔力が吸われていくがそこまで苦ではないな。
 脳内に宝珠の効果範囲が浮かび上がり、それが徐々に広がっていく。
 魔王城周辺の地脈を読み取って魔力回路を構築していき、効果範囲内にいる生命体から大地を通して少しずつ魔力を分けてもらう。
 成人男性の頭部ほどしかないこの宝珠にはかなり高度な術式が編み込まれている。
 俺のじいちゃんが作ったそうだけど、今俺がこれを作れるかと聞かれたら胸を張ってNOと言えるだろう。
 すごいなぁじいちゃん。
 あった事ないけど、会う時はあの世かな。
 あ、でも俺王国捨ててるし地獄行きかな?
 なんでもいいけどね。
 死後の世界なんて存在しないだろうし、信じてもいないし。
 宝珠が自動運転に切り替わったのを確認し、注いでいる魔力を止める、
 これで俺が宝珠を止めるまで術式は動き続ける。
 
「ふぅ、風呂入って寝よ」

 今日は疲れたな。
 明日も疲れるんだろうな。
 しっかり寝て明日に備えよう。
 魔王城に来てからと言うもの、三食しっかり食べれて睡眠は八時間、お肌や髪のツヤも出てきて目の下のクマも消えつつある。
 やっと人間らしい生活が出来てきたけど、それが人族の敵とされる魔族の、魔王城で出来るようになるとは思っても無かったけどな。

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