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「いらっしゃいませー!」

 ベルの音が店内に響き渡ると、給仕をしていたウェイトレスが明るい笑顔で私を窓際の二人がけの席まで案内してくれた。
 テーブルに置かれたメニューを手に取って一通り目を通していると、ウェイトレスがガラスで出来たコップを置いた。
 コップには澄んだ水が注がれていて、小さくカットされたモリルの実が入っている。
 モリルの実のキュッとした酸味は口の中を爽やかにしてくれますわね。
 ウェイトレスを呼び寄せ、紅茶と茶菓子を頼んでから店内をぐるりと見回した。
 掃除が行き届いたアンティーク調のインテリア、小鳥をモチーフにした小物、小さな馬車の玩具などが分散して置かれている。
 花瓶に活けられている花々も色とりどりの種類があって、品物を待っている間も目で楽しむことが出来てとてもいい。

「お待たせ致しました! 本日のお紅茶はセイラン茶葉を使用しております」

「ありがとう」

 紅茶の注がれたカップが置かれると、ソーサーとティーカップが擦れ合うカチャリという音が鳴った。
 ティーカップには小さな花柄が描かれていて、花柄を繋ぐように金色の蔓が伸びている。
 セイラン茶葉はロイヤリエほどではないにしろ、香りが高い茶葉で有名だ。
 カップを傾けて紅茶の香りを嗅ぐと、白い花のような香りとほんのりとだが酸味のある香りが胸いっぱいに広がる。
 紅茶の香りを楽しんだら、次は焼き菓子。
 焼き菓子の乗っている食器の縁には小鳥が遊んでいる様子が描かれていて、女心をくすぐるとても可愛らしい絵柄だった。
 そんな可愛らしい食器にはフィナンシェとカヌレが二つづつ乗っており、ただよう甘い香りに胸が踊ってしまいますわ。
 まずはフィナンシェを手に取り一口齧るとふんわりとしたドゥミセックな食感が歯を覆い、バターとナッツのハーモニーが口の中で手を取り合って踊っている。
 
「んふぅ……」

 フィナンシェの甘美な味わいを堪能してから紅茶を含み、口の中をリセットして次のカヌレに手を伸ばす。
 固めの表面に歯を立てるとカリッとした軽やかな歯ざわりがしたと思えば、しっとりとした中身にたどり着いてラム酒の濃密な味わいが広がる。
 二つの焼き菓子とお紅茶を堪能した私はふぅ、と軽い吐息を吐いて窓の外を眺める。
 急ぎ足でどこかへ向かう人や、子供の手を引いてゆっくりと散歩をする母親など様々な住民が道を行き交っている。
 
「のどかね……」

 のんびりとした昼下がりだけれど、もしこれで私の助言がフィエルテに届かなければ彼は命を落としていた。
 そうなればこの国は悲しみに暮れることになったのだろう。
 
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