40 / 41
40 魚人?
しおりを挟む
魚と人間を足して二で割ったような奇怪な生物は、私達から五メートルほど離れたところで立ち止まり、じぃっとこちらを見続けている。
やけに長い首にはエラがあり、濁った目はどこを向いているのかも分からない。
けど見られているという事は感じられる。
「仕掛けてこないぞ……どうすんだ」
「どう、って言われても……」
バルトが大剣をしっかりと構えながら言うが、私にもどうしたらいいか分からない。
それはラペル達も同じようで、相手の出方を伺っているようだった。
私は何があってもいいように防御用の法術をすぐに発動できるようにしてある。
一触即発かと思っていた矢先、目の前のナニカ達は突然てんでバラバラに、私達とは正反対の方向に歩き出し、ゆっくりとその数を減らしていった。
最後の一体が立ち去る直前、内腿の刻印がズキリと痛み--突然頭の中に濁った声が聞こえてきた。
『ココハワレラガマチ……インスマンス……』
「え……」
まるで水中で無理矢理喋っているような、ゴボゴボという音と人語が混ざったような、そんな声が。
「インス、マンス……?」
私が呆然とする中、残りの一体も何処かへと消え失せた。
「ふう……なんだったのでしょうか、あの生物は」
「おそらくこの領域に住む者達でしょう。おおかた突然迷い込んだ我々を見物にきた、とかそんな所でしょうね。さぁ早く勇者様達を追いましょう」
「あの! 声が聞こえませんでしたか?」
「声?」
ラペル達の様子を見るに、あの声が聞こえたのは私だけのようだ。
私の頭がおかしくなって幻聴が聞こえ始めたのだろうか。
「い、いえ……何でも、ないです」
言及される事を避けて俯く私を、ラペルは不思議そうに見ていた。
そして私達はカイトが去って行ったと思われる方向に歩みを進めて行った。
しばらくすると、それまでの風景ががらりと変化していくのが分かった。
まるで、そう、例えるなら全く別の空間に来てしまったような違和感、ドアを開けたらトイレのはずが外に出てしまったような感覚、何かがぬるりと体の中を通り抜ける嫌悪感にぶるりと心を震わせた。
新たな風景は荒廃した街並みといった所か。
レンガ造りの家屋が立ち並んでいるが、そのどれもが崩れていたり、歪んでいたり、穴の空いた球状になっていたりした。
寂れた民家や全体的に錆び付いた洋館なんかはまだいい。
街中を進んでいくと巨大なナメクジのようなモンスターが大量に蠢く宿屋や、無数の虫の足が生えた人の頭が犬のように駆け回っているのを見た時は卒倒しそうになった。
ここは生身の人間がいて良い空間じゃない。
それだけは確実にわかる。
しかし一体この場所からどう抜け出せばいいというの?
入口はこの領域に足を踏み入れた瞬間消え失せたし、いけどもいけども精神を狂わせるような光景ばかりが続く。
おまけに空気もじっとりとしていて、肌にまとわりつくようで気持ちが悪い。
「皆さん、あれを」
ラペルの指差した方向にはこの場に不釣り合いなほど綺麗な屋敷があった。
そしてその屋敷は私達が踏み込んだであろうプロヴィオ屋敷に瓜二つだった。
明らかに怪しいけれど、正直これ以上この空間にいたくなかった私達は慎重にかつ早足で屋敷へと向かった。
扉を開けてみると、目の前にはやはりプロヴィオ屋敷そのままの内装だった。
「少々お待ちを……」
そう言ってラペルは地面に落ちていた小石を拾い上げ、そのまま屋敷の中に放り投げた。
小石は弧を描いて床に落ち、コロコロと転がって止まった。
「……大丈夫そうです。この中に入ったとしても別の場所に飛ばされる事はないでしょう」
小石そのままそこにあり、ずい、と足を踏み出したラペルが消えることもなかった。
一安心した私達は屋敷の中に入り、ひとまずの休息をとることにした。
この領域に入ってからどれだけの時間が経ったのかも、もはや分からない。
全ての感覚が麻痺しているような感じだ。
舌はぴりぴり、指はひりひり、喉はからから。
精神は法術により保護されているが、肉体の方はそうもいかないらしい。
ここは体の内外共にダメージを与えてくる空間ということなのだろう。
「まじで何なんだよここ……」
「私達、出られるのかしら」
「この領域を作り出しているのはネクロノミコンで間違いありません。だとすれば……」
「ネクロノミコンを探し出してどうにかするしかない、って事ですか?」
「……今の所、それしか方法が思いつかないのです……申し訳ありません」
「謝らないでください。むしろ巻き込んでしまって……」
「いいのですよ。これも聖職者たる勤め。神は見ていらっしゃる。それを信じていれば何事も強く立ち向かえますから」
あぁもう、ラペルさんあなたカッコよすぎませんか。
いやラペルだけじゃない。
その他の聖職者の方々もみな顔を見合わせて同じように頷いている。
間違いない、あなた方が勇者です。
神の祝福があらんことを。
やけに長い首にはエラがあり、濁った目はどこを向いているのかも分からない。
けど見られているという事は感じられる。
「仕掛けてこないぞ……どうすんだ」
「どう、って言われても……」
バルトが大剣をしっかりと構えながら言うが、私にもどうしたらいいか分からない。
それはラペル達も同じようで、相手の出方を伺っているようだった。
私は何があってもいいように防御用の法術をすぐに発動できるようにしてある。
一触即発かと思っていた矢先、目の前のナニカ達は突然てんでバラバラに、私達とは正反対の方向に歩き出し、ゆっくりとその数を減らしていった。
最後の一体が立ち去る直前、内腿の刻印がズキリと痛み--突然頭の中に濁った声が聞こえてきた。
『ココハワレラガマチ……インスマンス……』
「え……」
まるで水中で無理矢理喋っているような、ゴボゴボという音と人語が混ざったような、そんな声が。
「インス、マンス……?」
私が呆然とする中、残りの一体も何処かへと消え失せた。
「ふう……なんだったのでしょうか、あの生物は」
「おそらくこの領域に住む者達でしょう。おおかた突然迷い込んだ我々を見物にきた、とかそんな所でしょうね。さぁ早く勇者様達を追いましょう」
「あの! 声が聞こえませんでしたか?」
「声?」
ラペル達の様子を見るに、あの声が聞こえたのは私だけのようだ。
私の頭がおかしくなって幻聴が聞こえ始めたのだろうか。
「い、いえ……何でも、ないです」
言及される事を避けて俯く私を、ラペルは不思議そうに見ていた。
そして私達はカイトが去って行ったと思われる方向に歩みを進めて行った。
しばらくすると、それまでの風景ががらりと変化していくのが分かった。
まるで、そう、例えるなら全く別の空間に来てしまったような違和感、ドアを開けたらトイレのはずが外に出てしまったような感覚、何かがぬるりと体の中を通り抜ける嫌悪感にぶるりと心を震わせた。
新たな風景は荒廃した街並みといった所か。
レンガ造りの家屋が立ち並んでいるが、そのどれもが崩れていたり、歪んでいたり、穴の空いた球状になっていたりした。
寂れた民家や全体的に錆び付いた洋館なんかはまだいい。
街中を進んでいくと巨大なナメクジのようなモンスターが大量に蠢く宿屋や、無数の虫の足が生えた人の頭が犬のように駆け回っているのを見た時は卒倒しそうになった。
ここは生身の人間がいて良い空間じゃない。
それだけは確実にわかる。
しかし一体この場所からどう抜け出せばいいというの?
入口はこの領域に足を踏み入れた瞬間消え失せたし、いけどもいけども精神を狂わせるような光景ばかりが続く。
おまけに空気もじっとりとしていて、肌にまとわりつくようで気持ちが悪い。
「皆さん、あれを」
ラペルの指差した方向にはこの場に不釣り合いなほど綺麗な屋敷があった。
そしてその屋敷は私達が踏み込んだであろうプロヴィオ屋敷に瓜二つだった。
明らかに怪しいけれど、正直これ以上この空間にいたくなかった私達は慎重にかつ早足で屋敷へと向かった。
扉を開けてみると、目の前にはやはりプロヴィオ屋敷そのままの内装だった。
「少々お待ちを……」
そう言ってラペルは地面に落ちていた小石を拾い上げ、そのまま屋敷の中に放り投げた。
小石は弧を描いて床に落ち、コロコロと転がって止まった。
「……大丈夫そうです。この中に入ったとしても別の場所に飛ばされる事はないでしょう」
小石そのままそこにあり、ずい、と足を踏み出したラペルが消えることもなかった。
一安心した私達は屋敷の中に入り、ひとまずの休息をとることにした。
この領域に入ってからどれだけの時間が経ったのかも、もはや分からない。
全ての感覚が麻痺しているような感じだ。
舌はぴりぴり、指はひりひり、喉はからから。
精神は法術により保護されているが、肉体の方はそうもいかないらしい。
ここは体の内外共にダメージを与えてくる空間ということなのだろう。
「まじで何なんだよここ……」
「私達、出られるのかしら」
「この領域を作り出しているのはネクロノミコンで間違いありません。だとすれば……」
「ネクロノミコンを探し出してどうにかするしかない、って事ですか?」
「……今の所、それしか方法が思いつかないのです……申し訳ありません」
「謝らないでください。むしろ巻き込んでしまって……」
「いいのですよ。これも聖職者たる勤め。神は見ていらっしゃる。それを信じていれば何事も強く立ち向かえますから」
あぁもう、ラペルさんあなたカッコよすぎませんか。
いやラペルだけじゃない。
その他の聖職者の方々もみな顔を見合わせて同じように頷いている。
間違いない、あなた方が勇者です。
神の祝福があらんことを。
29
お気に入りに追加
2,461
あなたにおすすめの小説
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています
如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。
「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」
理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。
どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。
何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。
両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。
しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。
「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる