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「フィリアちゃんって言うのか、俺は旋風リーダーネストだ、よろしく」
「私カーミラ、まだ二十八よ」
「よろしくお願いします!」

 旋風の二人は私と握手を交わし、「またな」と言って去っていった。
 カーミラさんは何で最後年齢を強調したのだろう?

「じゃフィリア、登録しに行くぞ」
「わかりました!」

 受付までバルトに連れられていき渡された用紙を記入、

「それじゃこの魔晶石に手を当てて集中して」
「はい」

 目の前に置かれた紫と青の輝きが綺麗な石に手を当てる。
 これでその人の魔力や伸び代が測定されてスタートランクが決まる。
 どきどき。
 魔晶石に意識を集中していくと、魔晶石の方から何かが流れ込んできて体の中を駆け巡っていく。
 やだこれでS級とかSS級とかだったらどうしよう、困るなぁ、どうしようなぁ。
 困るとか言っておきながら顔はニヤついているのだろう、と自己判断。
 そして出た判定結果はっ!

「A級ね。おめでとう、凄いわね! 法力の数値だけが飛び出てる。ちょっとバランス悪いわね、体力や力を育てた方がいいわ」
「わかりました!」
「A級か、さすがだなフィリア」
「はい! ありがとうございます! 体力と力は筋トレですか?」
「そうだな、後は走り込みとかだが……正直ビショップに力はいらないと思うけどな」
「という事は体力ですか……有酸素運動ですね!」
「無理するなよ? 致命傷の奴を完全回復させちまうような実力持ってんだ。それだけでもSを狙える」
「いやー正直な話昇級にはあまりそこまで興味がないので……」
「そうなのか? 勿体ないな、けどまぁ、そういう生き方もありだな」
「おす」

 登録と測定を終え、もらったライセンスカードをまじまじと見る。
【フィリア・サザーランド。ビショップ。ランク:A】
 
「んふふふ」

 ライセンスカードを見ながらニヤニヤが止まらない。
 新しい人生、ビバニューライフ、さようなら私、こんにちは私!
 と、一人脳内でフィーバータイムな私にふと暗い影がかかる。
 はて? ここは室内、どうした事かと目を上に上げる。

「やぁこんにちは」
「話しかけないで」

 ひっ、と体が硬直する。
 目の前には膨れたお腹、贅肉の乗ったタプタプの頬、ニキビ面ではないけどちょっと汗臭い人が立っていた。
 違う。
 私はそんなつもりじゃないの。
 話しかけてくれた男の人は確かに太っているけど、ヌフフ皇太子ではない。
 
「え……?」

 男の人が困惑した顔で私を見ている。
 頑張れ私、新しい私。

「あ、ごめんなさい! こんにちは! 何でしょうか!」
「あ、うん。これキミのだよね? 落としたよ」
「私のハンカチ……すみません、本当にありがとうございます……」
「それじゃあね」

 男はちょっと困った顔で手を振りながら去っていった。
 最悪だ。
 私が落としたハンカチを拾って教えてくれただけなのに、失礼甚だしい。
 ここに来て最悪な事態が私の中に起きているのが判明した。
 私がワナワナと震えていると、またしても別の人間が声をかけてきた。
 甘ったるい、男に媚びるような、ネネコに通じる喋り方で。

「おねぇさん見ない顔だぁ―、新入りさんかなぁ?」
「うるさ、関係ないでしょ」
「ええ!? 辛辣ぅ!」
「っだあああ! 違うんです違うんです! 新入りです!」
「緊張してるんだねぇ、リラックスリラックスぅ」

 まただ、またやってしまった。
 違う違う違う違うんですぅ!
 
「お、おいどうしたフィリア。顔色悪いぞ……? 大丈夫か」
「だ、大丈夫です、ちょっと立ちくらみが」

 そこまでは頑張って言えた。
 私の中に起きている非常事態、それは半年ほど続けていた仮面の私。
 あの宮殿の中の塩対応の私が定着してしまっているということ。
 でも他の人には普通に対応出来る。
 でもでも、皇太子のような体型の人とネネコのような媚び媚びぶりっ子のようなタイプにだけ、反射的に、無意識的に、能動的に塩対応の私が顔を出してしまう。
 由々しき事態だ。
 私は皇太子とネネコが嫌いなだけで、冒険者の皆様とは仲良く睦まじく明るく楽しく元気よくやって行きたいのだ。
「あいつ特定の人にだけ感じ悪いよね」
 とか後ろ指さされるなんて嫌だ!
 嫌いな人は嫌いだけど嫌いじゃない人にまで冷たくするような無礼な女じゃない。

「ふぅ……」

 心配するバルトから目を逸らし、小さく息を吐く。
 私は決めた。
 未だ根付く仮面の私を打ち砕くと。
 覚悟しなさい、私の明るい未来設計にあなたはいらない。
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