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不安をごまかす日々

自分の幸せ、みんなの幸せ

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 ケメコはカップ麺を食べて帰った。これはなんの意味のない、なんのドラマ性もない、ミステリ小説の伏線にもならない、小説で言えば作家の文字数稼ぎのようなものだ。
 あえて意味があるように解釈するなら、そもそも人生はそんなものと言うことだろうか?
 この社会には、そんな人生の無為性、無意味性を否定したがる者がいる。
 もっと成功しろとか、もっと魂を磨けだとか。
 そんなのははっきり言って余計なお世話である。
 しかしそうは受け止めない、彼らの煽りを間に受ける者が必ずいるのも世の摂理だ。

 職場の休憩室で、アユは雑誌の星占いのコーナーを見ていた。
「わー、今日の運勢、わたしの乙女座が一位じゃん、さ、がんばろー」
 その日のアユの一日はいつもと同じだった。なにがどう一位なのか。アユはまったく気にしなかった。
 ルカの蠍座はその占いでは最下位だったが、キヨミヤの公式メルマガで配信されるキヨミヤ星占いでは一位だった。
 その日のルカの一日もいつもと同じだったが、なにがどう一位なのかはルカも気にしなかった。
 こういうのは心のカンフル剤なのだ。
 仕事が終わり、帰りがけにアユはルカに声をかけた。
 バーで軽く飲むことになった。
 ルカは思う。おそらくアユには競争意欲がない。少なくとも自分にはそういう感情を向けてこない。
 アユも心の清流を泳ぐ気持ちのいい人なのだ。 
 こういう人が親友たりえるのだとルカは気づかない。
 キヨミヤのスピリチュアリズムに「親友」とか「他者」と言う概念はない。
 当てずっぽうに書いているのでは?と思わせるほどに「あなたから幸せになれ」とあおってくるのがキヨミヤ本の特徴である。
 バーにて、ルカはキヨミヤが本で勧めるとおりのギムレットを注文する。
 ギムレットは健康志向のカクテルと言われているが、ルカははっきり言ってギムレットの鋭い味は好きでなかった。疲れて舌が鈍ってる今となってはたいした問題ではなかった。
 アユはハネムーンと言うカクテルを注文した。アユは結婚願望が強すぎるのだ。
 アユは願掛けでもするように甘いそのカクテルを飲み干した。
「ルカー。合コンでもしようよー」 
「……アユが誘ってくれるならいいよ」
「ルカさ。最近元気なくない?男日照り?男でも補充すれば?」
「人間は補充するものではないと思う」
「ハハハ、男性補完計画?とりまチャラい男と遊んでしっかりした男と結婚したいなー。幸せになりたいよぅ」
 幸せというキーワードにルカは思わず反応してしまう。自分の意思と関係なくあの本のフレーズが口をつく。
「まずは、あなたから幸せになる」
「ん?なにそれ?どっかで聞いたことあるー。でもそうだよね。自分がハッピーじゃないとみんなもハッピーじゃないよね」
「みんな?」
 ここにルカとアユの違いがあった。
「ルカ!みんなってみんなじゃん!みんなでハッピー。いいじゃん」
「い、いやあ。幸せって他人には解らない個人的なものじゃないの?私はそれを追求してこだわってるつもりだけど……」
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