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憂うつな世紀のはじまり

墓暴き青年 三

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 真夜中の地下会談には続きがあった。
「しかし、この計画になにも知らない若造を加えると言うのか」
 皮肉屋のガナムが、面倒くさそうにこぼした。
「わしらは、みんな老いておる、ガナム、貴様も、そこの下手な靴職人や政治屋野郎もみんな。皇帝が眠る廟に忍び込み…もとい赴き、儀を行う手はずを整えるためには体力の有り余った若造の力が要る」 
「棺桶に眠る皇帝を然るべき場所にお連れしなければならないが、あの場所は現政府が文化遺産として管理していて見張りもいるだろう。たしかに動ける者が必要だ」
 ボドワンにつづけて元市議会議員で政府の内部事情に通じるムサワージが説明した。 
「おれは若いぞ。おれじゃ頼りないって言うのか?」ククパスが凄むが、良家に育ち、心以外は甘やかされてきた彼は、太ったその体型からしても体力仕事には不向きそうだった。
 ボドワンが内ポケットの懐中時計を取り出す。時間を気にしているようだ。
 少し予定の時刻に遅れてアンセルムが相棒のカンタンを伴い、地下会談に合流した。
 そして、今はカタコンブ・ド・イノサン(イノサンの地下墓地)と称される皇帝一家の廟にて計画が実行されることが、正式に決定された。
 この時点で若い二人は王政復古主義者の計画の詳細を聞かされてはいないし、彼らの正体もよく分かっていない。かつての皇帝の廟にてなんらかの極秘任務をこなすのだろうと思っていた。

 アンセルムとカンタンが怪しげな地下計画に合流した夜から数えること二日後、ウーゾイル共和軍内にて、一名の下士官がある嫌疑をかけられ尋問されると言う事件が起こった。
 下士官ユーカリを尋問したのは、彼の直属の上司に当たるオクタヴィアン大佐であった。
 大佐は、常に愛国心に燃え、ウーゾイルの象徴である薔薇の花の紋章が入った"薔薇の剣"を特例で携帯している。彼は愛国者としての威厳を込めた激烈な口調で、彼の部下を責めた。
「貴様は、この軍における、ウーゾイルを命をかけて守ると言う鉄の掟を遵守する気はあるか?聞くところによると貴様は、あろうことか、この国家体制を破壊せんとする王政復古主義者どもと交流し、演説までしたそうだな」
 ユーカリは燃え盛る愛国心の火のいきおいに押し黙った。
 オクタヴィアン大佐は過剰に愛国的であり、友には優しく、敵には厳しい。たとえ、同じ組織に属していようと、国家への忠誠心なき者は徹底的に侮蔑した。
 ユーカリは、たまたま旧友のつてで反国家的な王政復古主義者と知り合ってしまった。しかも彼らと親しくすればするほど、どこからともなく資金的な援助が舞い込むという仕掛けになってしまっていた。
 ユーカリは反体制的なグループにからめとられ、体制を護持する立場にありながら、逆の立場を応援してしまったのだった。そのことが、どこからか密告されてしまったようだ。
 オクタヴィアン大佐は彼の責任を追求するために、ある法律を持ち出した。それは共和制護持法と言う古く埃を被った法律だった。この法律は王政を打倒し、共和制を樹立した直後には、王政復古的な思想を弾圧し共和制の唯一性を確保する根拠法になり得たが、そもそも近代社会の要諦である思想信条・表現の自由に抵触しかねないため、社会が安定していくなかで、この法律が参照されることもなくなり有名無実化していたのだった。 
 愛国者であり、共和制のウーゾイルに絶対の忠誠を誓う、そのためならいかなる強権をも振りかざす、そんな硬直的な大佐の情熱は、思想弾圧をも肯定しかねない危うさを秘めていた。
 けっきょく、共和制護持法による訴追は免れたが、ユーカリは反体制的な動きに荷担し軍紀を乱したとされ解雇された。
 大佐は、この尋問を通じて、王政復古主義者たちに関する情報をも聞き出していた。曰く、近いうちに、王政時代の皇帝が埋葬されているカタコンブ・ド・イノサン(イノサンの地下墓地)にて、おおきな動きがある、と。
 この情報に基づき、かの地下墓地において、軍部による警戒体制が敷かれた。
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