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第一章【予知者】覚醒

第1話 成り上がり

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「逃げ…て…。」

「生きるん…だ…ぞ…。」


両親と僕の3人で住んでいた、家とも呼べないお粗末な住処が、火に包まれた。

寝ていた僕らが気付いた時には、もう周りは火の海。

殴る蹴るの暴行を受けて痛む体で、両親は僕だけはなんとか助けようと、家にあった水をボロボロの布に含ませ、僕をくるんだ。

家の周りには大量の油が撒かれており、逃がさないとばかりに火が燃え盛っている。

喉まで焼き付くような熱さの火の中に飛び込んだが、僕を抱えた父が足元の油によってバランスを崩した。

それを支えようとして母が倒れてしまった。

「イー…リス…!」

「逃げ…て…。」

妻であるイーリスを助けたいが、そうすれば全員死ぬことがわかっている父。

母は最期まで僕と父のことを案じてくれた。

火の海をなんとか抜けた後、父は僕を地面に置き、すぐに離れた。

「生きるん…だ…ぞ…。」

自分の体が火に燃やされながらも、僕の未来を繋いでくれた。

そんな優しい両親が力尽きていくのを、僕はただ涙を流して見ていることしかできなかった。


「父…さん…、母さ…ん……。」




◆  ◇   ◆




父ロニーと母イーリス、そしてニクラスはミオスドニツ王国の外れにある、貧しい小さな村でつつましく暮らしていた。

裕福ではなかったけど、ニクラスはその生活に満足していた。

そばにはいつも優しい父さんと母さんがいたから。

一つだけ不満があるとしたら、武器屋や道具屋がないこと。

ニクラスはアイテムが大好きで、物心つく前からアイテムを渡しておけば1日中それをいじくり回して遊んでいた。

しかし、小さな小さな村だったので、新しいアイテムを手に入れることはほとんどできなかった。

それでも、父さん母さんと一緒にいられることの方が幸せだった。


ニクラスが10才になった時、転機が訪れた。

この世界では10才になると、まれに【ジョブ】に覚醒する者がいる。

覚醒したものは、例外なく強力な力を得ることができるため、お偉いさんから登用されたり、冒険者として大金を稼ぐことができる。

誰にどんなジョブが覚醒するかはわからない。

ジョブには

・下級職
・中級職
・上級職
・特級職

といった階級があり、下級職でも人外の強さを手に入れることができる。

上級職ともなれば国にとって重要な人材となるため、覚醒がわかったらどんな生まれだろうとすぐに国からの迎えが来る。

特級職はその名の通り特別で、勇者・賢者・聖女のそれぞれ1人ずつ、最大で世界に3人しか存在しない。

そう思われていた。


『ジョブが覚醒しました。
 あなたのジョブは、特級職【予知者】です。』


ニクラスが10才になった瞬間、頭の中でそう声が響いた。

ニクラスが両親にそのことを告げると、ロニーとイーリスは驚きのあまり息が止まって危うく昇天するところだった。

ジョブが覚醒したものはジョブごとの特性を得て、ステータスが数値化されるようになる。

そして、モンスターを倒して経験値を得ると、レベルが上がるようになるのだ。

ニクラスのステータスは



************

名前:ニクラス
Lv:1
HP:50
MP:5
体力:5
力:5
素早さ:5
器用さ:5
魔力:5

************



一般的な大人のステータスが



************

HP:100
MP:10
体力:10
力:10
素早さ:10
器用さ:10
魔力:10

************
である。

ジョブが覚醒する10才の子どもとしては、やや弱め。

しかし、レベルが1つ上がるだけで、ジョブのない人間【ノービス】の限界をあっさり超える。

さらに、レベルが上がった時の上昇値は下級職から特級職になるにつれ大きくなる。


【予知者】という今まで聞いたことのない特級職に、ニクラスの両親は期待を通り越して、どうなってしまうんだろうという不安で昇天しかけたのだ。

ニクラスのジョブ覚醒に、村は大騒ぎ。


「村から英雄が生まれたぞ~!!」

「ロニーのとこの倅だ~!
 特級だってよ~!!」

「こりゃ国王陛下から迎えが来るな!!」



そして、数日後国王の迎えがやってきた。


「すげ~馬車だな…。」

「しかもどれだけの人数できたんだ…。」


村人たちの想像を超えるお迎えがやってきた。

ロニーとイーリスはあいた口が塞がらない。


豪華絢爛の馬車に、100人はいるであろう騎士団。

村の広場に馬車が止まる。


降りてきたのは…、なんと国王その人。


「「こ、国王陛下!?」」

思わず声を上げてしまったロニーとイーリスは口を手で塞ぎ、すぐにひざまずく。

村人たちも一斉にひざまずいた。

ニクラスはいまいち状況が飲み込めなかったが、周りに倣って同じ格好をしておいた。


「新たな特級職に目覚めたというのは、そなたか?」

国王がニクラスへ話しかける。

「は、はい。」

ニクラスは下を向いたまま返事をした。

「ふむ。」

国王がそう呟くと、初老の男性が、髭を触りながら前に出てきた。

そして、水晶玉をニクラスに差し出した。

「これを触ってみなさい。」

「はい。」

ニクラスは言われた通りに水晶玉に触れた。


『特級職【予知者】』


水晶玉に文字が浮かび上がった。

「お、おお…。」

「大臣、どうであった?」

「はっ。
 確かに、新しい特級職、【予知者】に覚醒しております。」

「ま、まことか…!」

水晶玉を国王に見せる大臣。

「なんと…。
 こんなことが…。
 
 …父親はロニーといったな。」

「は、はい!」

「この【予知者】の覚醒は世界中に影響を与える事になるじゃろう。
 お主ら一家を特別待遇で迎える。
 異存はないな?」

「も、もちろんでございます!
 ありがとうございます!」

「それから、この村にも報奨を与える。
 働き盛りが抜けては困ることもあるだろうからな。
 大臣、よきに計らえ。」

「かしこまりました。」


それから、ニクラスたち3人はそのまま王宮へと向かった。

あまりに早い展開に戸惑いを隠せなかったが、王宮に持っていくようなものもなく、農地や家の問題などは報奨をあげる代わりに残った村人で対処するように大臣が話をつけていた。

そして、王宮での生活が始まった。
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