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第五章 最後の決戦

第270話 ロックvs皇帝

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「【全能の権化】!」

全てのステータス値が30分間2倍となるユニークスキル。

ミラの【大魔術士】によるバフ効果と合わせて、ロックのステータスは2.5倍に。


「よし!」

剣を強く握り、力を集中するロック。

そして、【神速】で皇帝の死角へと移動する。


「な!?」

素早さが上がると、相対的に相手の動きも捉えられるようになる。

圧倒的な素早さを持つ皇帝が認識できない速さで移動したことで、完全に虚をつくことができた。

【神速】発動前に準備をしていた[武技]を皇帝に叩き込むロック。


「うゴォっ…!!」

【全能の権化】により大きく跳ね上がった攻撃力。

その上でユニークスキル【剣神】の[武技]を放てば、もはや先ほどまでとは別物。

流石に一撃で倒すほどの威力はないが、皇帝の2/3ほどのHPを削った。


追撃するロックだが、[武技]を放つほどの時間的余裕はない。

通常の剣戟を放つ。


「くっ…!」

それを間一髪避ける皇帝。

【全能の権化】を使っても、まだステータス値は皇帝の方が高いようだ。

皇帝はすかさず反撃を繰り出した。


「な…にっ!?」

その攻撃はロックにダメージを与えることはなかった。

【守護神の加護】の防御力は体力や魔力値に依存する。

つまり、ミラが使っていた時よりもはるかに強靭な加護となっているのだ。

【魔神化】した魔王の魔法ですら、今のロックには届かない。

ただ、彼らはロックたちの弱点を熟知している。


皇帝は標的をティナやミラたちに変える。

彼らの持っていたスキルをロックに渡したことを察したのだ。

仲間のことが自分よりも大切。

それがロックたちの弱点だと、皇帝は分かっていた。

【守護神の加護】がなければ、ロック以外の冒険者は敵ではない。

人質にとれば相手は何もできないし、殺せば動揺させることができる。

幸い弱点は何人もいる。

1人2人殺してから人質を取った方が効果的だろう。

もう魔族にするなんて言っている場合じゃない。

ただ、相手は【神速】を使ってくる。

それだけは気をつけなくてはならない。

気をつけていれば攻撃を防ぐことができる。

皇帝はそう考えてティナたちに襲いかかろうとした。


しかし、今のロックを振り切ることはできなかった。

ロックの分裂体が今までの倍近くに増える。

【全能の権化】を使ったことで魔力も上がり、50体近くの分裂体を生み出せるようになった。

皇帝の周りを分裂体で埋め尽くすロック。

その中にいる本体に攻撃を貰えば、ただでは済まない。


「あなたたちの考えそうなことなんて、分かってますよ。
 あなたの…負けです。」




一方、他の魔族と冒険者の戦いも、冒険者側優勢のまま進んでいた。

スキル入れ替えや涅槃珠でパワーアップしたS級冒険者とロックの分裂体の力は大きく、相手を圧倒していた。

回復役が機能していれば、よほど力の差がある攻撃でない限り、死者はなかなか出ない。

【神の恩寵】の使い手がいる冒険者側は、回復役が十分に活躍できていた。

逆に魔族側はロックに【神の恩寵】を奪われたり、優先的に倒されたりして、すでにMPが枯渇している。

未だ押し寄せるモンスターたちの中に回復魔法の使い手がいるためなんとか保っているが、【神の恩寵】を使えるモンスターはいない。

魔族はMPを必要とするスキルが使えず、モンスターを盾にしながらなんとか生き延びているような状況だ。


そんな中、魔王の側にいたイライサが、混戦の中倒れた。

それをきっかけに、1人、また1人とS級魔族が倒れていく。

それに伴い、モンスターが減っていく。

勝負の大勢が決しようとしていた。



「…皇帝。
 あなたはなにがしたかったんですか?」

観念した様子の皇帝に、ロックが語りかける。

「…過去形か…。
 まだ諦めたわけではないんだけどな…。
 …と言っても、この状況では…絶望的か…。

 いいだろう。
 聞きたいなら…聞かせてやる。
 
 その前に、モンスターをどうにかしよう。
 もうこれ以上戦ってもしょうがあるまい。」

「…やけに素直ですね…。
 怪しい動きをすれば、容赦はしませんよ。
 こちらには【神の恩寵】があるので、ステータスUPのスキルもまだ使えますから。」

「なんとなく察しがついているだろう?
 俺は別にこの世を力で征服したいわけじゃないんだ。
 そのつもりならとっくにやっている。
 …今回の作戦も、できれば避けたかったんだ。」

その言葉は皇帝の本心に聞こえた。

実際、魔王や魔族の力に加え、世界一の大国バルキアの権力があれば、皇帝がこの世を支配することは難しくなかったはずだ。

「…無駄な戦いはこちらも望むことではありません。」

皇帝が魔王の方へと歩き出す。

ロックは警戒を緩めず、いつでも皇帝に攻撃できる位置をキープしながら、その動向を注視する。

魔王の側に立つ皇帝。

魔族も魔王の周りに集まった。

「…魔王よ、モンスターを退かせろ。」

「な!?
 そ、それは…!」

「…もう、どうしようもないんだ…。」

「…ぐ…!
 ……お前ら。」

魔王が魔族たちに目配せすると、モンスターたちが生息域に戻り始めた。


モンスターが引き上げたことで、歓声をあげる冒険者たち。

残っている魔族たちを見て、戦闘を継続しようとする冒険者がいたが、ロックが事情を話し、S級冒険者たちが場を収めてくれた。

A級以下の冒険者たちには、怪我人の手当て、他の2ヶ所の砦の戦況確認、万が一に備えての警戒体制を整えることなどを頼んだ。

そして、皇帝、魔王、魔族とロックたちS級冒険者だけが残った。


「話を聞く前に、念の為残ったスキルを奪わせてもらいます。
 いいですね?」

ロックが皇帝に確認する。

「…ああ。
 だが、俺と魔王のユニークスキルを奪うかどうかは、話を聞いてから判断してもらえないか。
 俺のやりたいことを理解できなかったら、その時は奪って構わない。」

皇帝と魔王はユニークスキルしか残っていないので、倒すか同意を得なければ奪うことができない。

本当に観念したなら同意を得られると思ったが、皇帝は条件を出してきた。

「ロック、危険じゃねえか?」

「そうね。
 その2人のスキルが残っていれば、こちらにとっての脅威は消えない。」

「でも、魔王のスキルを同意を得て奪うことができれば…魔族を人間に戻せるかどうかをリスクなしに試すことができる。
 倒してから奪うのは…一か八かになっちゃうから…。」

「…ではこれでいいだろう。」

皇帝が自分の指を切り落とし、ミラへと投げた。


「うぎゃっ!!
 な、なんなの!?」

「お前は【大魔術士】で[呪い]の状態異常を使えるのだろう?
 それで俺の自由を奪えばいい。
 力の差があっても、それだけの媒体なら可能だろう。
 …魔王は髪の毛で勘弁してやってくれ。」

痛みに顔をしかめながら話す皇帝。

「…分かった。」

ロックはみんなに目で確認し、肯定する。

魔王が髪の一部を差し出す。

「話に支障が出ないよう、動きの制限は弱めにしてもらえると助かる。」

「うええぇぇ…。
 嫌だよぉ…。」

恐る恐る指と髪を持ちながら、[呪い]をかけるミラ。

「…うっ…。」

無事2人に[呪い]がかかったようだ。

ロックは魔族たちのスキルを奪った。


「では、話そう。」
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