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第四章 世界中が敵

第231話 照れるアッサール

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2手に別れたロックたちは、それぞれの目的地へと向かった。

先に到着したのはバハムート討伐チーム。

ファルクたちは奥地まで行かず、島の手前にそっと着陸した。

ドラゴンは基本的に空を飛び、自分の縄張りに入ったものは執拗に追いかける習性がある。

バハムートのいる奥地までファルクに乗っていくと、相当な数のドラゴンを相手にすることになるのだ。

ミラの【気配察知】で不要な戦いを避けながら、陸路を進むことにした。

縄張りに入っても気付かれなければ追いかけられることはない。

空を飛んでいては隠れようがないが、陸路は身を隠しながら進める。


「ほ、ほんとにS級の気配しかしないね…。」

「だろ?
 S級っていってもピンキリだからな…。
 奥にいる奴らはやべえやつばっかりだと思うぞ。」

身をもってドラゴンの強さを味わっているファルク。

強くなるために訪れたこの島での思い出は、決して楽しいものではなさそうだ。

「今のうちに復習するぞ?
 ドラゴンの強さはそのステータスの高さだ。
 特殊なスキルを持っている奴はほとんどいないが、単純に強くて硬い。
 魔力も強いしスピードもある。
 穴がねえんだ。
 でもまあ、このメンバーなら真っ向から戦っても負けることはねえだろ。」

ミラが新しく得た【大魔術士】のバフは大きくステータスを向上させ、[シールド]もかなり頑強だ。

そしてティナの【神の恩寵】により、MPを回復させながら使うことができる。

【光輝の壁】がうまく機能すれば、[シールド]と合わせてかなり堅固な守りの体制を作れる。

さらに【成長促進】を使った上でレベル100になった3人のステータスは、限界値を超えているものもある。

ファルクの【全能の権化】のステータス値UP率はユニークスキルということで群を抜いているし、レベルはまだ100になっていないが、【剣神】というユニークスキルを得たデイジーの一撃はファルクすら超える威力を誇る。

確かに力勝負なら十分に戦えるだけの戦力だ。


しかし、4人は見つからないよう慎重に進んだ。

一度戦闘になってしまえば、他のドラゴンにも存在を察知される。

そうなれば縄張りに入った時点で敵と見做され、追いかけられる羽目になるのだ。

せっかく陸路を進んだのに、それでは意味がない。


無駄な戦闘を避け、奥地へ、バハムートの元へと歩みを進めた。




一方、その頃ロックたちは、ボルドーへと到着していた。

アッサールの案内で、国王のいる城を訪れる。

指名手配であるロックであるが、ボルドーの英雄アッサールと数少ないS級冒険者在籍国のエス・サンジャータからS級冒険者が同行していたため、面会が許された。


「お主がロックか。」

ロックの目線の先には、ボルドー国の国王が鎮座していた。

…小さくて、可愛らしい感じの王様だ。

その横には大臣たちやボルドーのギルドマスターも並んでいた。

「はい。
 謁見の場を設けていただき、誠にありがとうございます。」

「かしこまらなくてよいぞよ。
 アッサールから恩人と聞いておるぞい。」

「どの国も冒険者を中心に回っている。
 礼儀作法なんてあってないようなものだ。
 特にボルドーはな。
 楽にしたらいい。」

緊張が解けない様子のロックへ、王の横にいる大臣がフォローしてくれる。

「といっても、アッサールの話がなければ流石に会えなかったぞい?
 あのアッサールが熱心に人のことを話すなんて、びっくりだったぞ。」

「…国王。」

「なんじゃ?
 照れとるのか?
 なははっ!」

「アッサール殿はスキルによる事故から、人とほとんど話さなくなっていたのです。
 それがアルカトルから帰ってきて、別人のようにロック殿のことを話してくれました。」 

「…大臣。」

表情からはあんまりわからないが、どうやらアッサールは照れてるようだ。

「アッサールさん…、ありがとうございます!」

「…礼には及ばない。」

「聞けば、ロック殿のおかげでアルカトルでの犠牲が大幅に減り、アッサールの悩みだったスキルのことまで解決してくれたと。
 ロックとやら、感謝するぞい。」

「そんな、恐れ多いです…。」

「ちなみにスキルの話をしてくれたのは、指名手配された後のことです。
 それまでは黙っているという約束を守り、国王様にすら教えていなかったのですから。」

大臣がアッサールをジト目で見る。

「S級冒険者の戦力は国にとって大事な情報。
 まさか、国王様に隠し事するとは思わなかったですよ…。」

「…約束は破れん。」

「なははっ!
 これだからアッサールのことを信頼しとるんだけどもな!」

「国王様、エスのS級冒険者ハンナです。
 私もスキルで悩んでいましたが、ロックのおかげで解決しました。」

「おお、じゃあお主がエスのハンナ!
 その横のお主は?」

「サンジャータ将軍、ロヴェルです。」

ロヴェルは近年のエスとサンジャータの関係性や、ハキムの前国王への裏切り行為と独裁による国力の低下を話し、ロックのおかげで解決したことを伝えた。

「なんと、じゃあ国どころか、大陸を救ったと!」

「はい。
 彼は心から信用できる男です。」

「ふむ。
 それではロックよ、話を聞かせて欲しいぞい。」


ロックはボルドーの国王や大臣・ギルドマスターたちへ今までのことを話した。

話を聞いた国王たちは半信半疑であったが、S級冒険者たちが全員ブレスレットを壊しているのを見て、最終的に信じるに値すると判断したようだ。

ギルドが配布しているブレスレットがボスモンスターとの戦いで冒険者の力を抑制するなど、思いもよらなかっただろう。

ギルドマスターも寝耳に水で、真相究明に尽力してくれるとのことだった。

ボルドーのギルドマスターと親交が深いアッサールによると、信頼できる人物のようだ。

国王たちはロックたちが必ず目的を成し遂げると信じ、モンスターがいなくなった後のことも考えていくと約束してくれた。

魔族という明確な敵がいたことで身分に関係なく生まれた連帯感、信頼感は未来への大きな力となっていた。
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