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第一章 拒絶と旅立ち

第10話 モンスターからの甘い誘惑

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格上のモンスターを倒せば、たくさんの経験値が手に入る。

しかし、無力化した相手を攻撃するだけでは、戦闘の勘や身体の使い方がわからないままレベルだけが上がってしまう。

道中、たまたま遭遇した場合を除き、ロックとティナだけで戦う予定だ。


「レベルが離れてたら、あんなに攻撃が効かないんですね…。」

「そうだな。
 だから自分の実力に合わないエリアに踏み込むと、すぐに死んでしまう。
 無理せずに進むんだぞ。」

「スキルの使い所も難しいわね。」


ティナのアクティブスキル、【全能力50%UP】は強力なスキルだ。



スキルでUPするステータスの基準値は、こうなっている。


--------------------------

 HP Lv×100
 それ以外 Lv×10

--------------------------


これを基本に、パワータイプ・魔法タイプなど偏りがあったりする。


例えばLv10で【全能力50%UP】を使うと、


--------------------------

 HP:1000 → 1500
 それ以外:100 → 150

--------------------------


つまり、Lv15相当のステータスになる。

Lv40なら

--------------------------

 HP:4000 → 6000
 それ以外:400 → 600

--------------------------


なんとLv60相当に。


高レベルになるほど真価を発揮するスキルである。


その反面、低レベルでは★4である恩恵を受けにくい。

持続時間が25分間で、MPを3分の1も使ってしまうので、ティナのいうように使い所が難しい。




こういったステータスやスキルに関する知識は、近年急速に明らかになってきた。

15年ほど前に現れた魔王に対抗するため、ロックたちのいるバルキア帝国がギルドを作ったのだ。


帝国の手腕は大したもので、数年で世界中の国に支部を作り、体制を整えた。

必要な資金の援助や、設立に必要な人員、知識も惜しみなく提供された。

その後、ギルドの権力を独占することなく、中立な機関として独立させた。


この偉業を成し遂げた帝国の現皇帝は稀代の賢帝として名を馳せている。




「ティナのスキルは、何かあった時のために温存しておいた方が良さそうだね。」

「そうね。
 さっき奪ったスキルはどんなスキルだったの?」

「みてみるね。」



++++++++++++

【チャンバラ(パッシブ) ★】・・たまにキレのある一撃を繰り出す。

++++++++++++



「あ~、さっき何回か強い攻撃ができたけど、あれかな?
 悪くはないけど…、もう少しいいスキルが欲しいな。」


ロックのスキルも高レベルで活躍するものが多い。


高レベルほど強力なスキルを持っているので、奪ったときに相手の戦力ダウン、こちらの戦力アップになる。


【成長促進】もレベルが上がっていくごとに成長の差が現れてくる。


今、モンスターと有利に戦えるスキルが欲しいところだ。

この村近辺でレベル上げをする理由でもある。


「目的地までに、何匹かはLv20前後のモンスターがいるだろう。
 運よく単独でいたら、さっきのように対処しよう。」

「ありがとうございます!」

「【隠密】で近づいて奪えないの?」

「Lv差が10以上あると、見つかっちゃうみたいなんだ…。」

「あ…、そうなのね。」

「2~3匹なら、1匹だけ残すことはできると思うぜ。
 他のやつは瞬殺しないと危ないから、奪うことはできねえが。」

「本当ですか?
 危なくない相手だったらお願いしたいです!」

「おう!
 じゃあ進もうか!」





「お、いたぞ。」

歩き始めてすぐ、カイルがモンスターを発見した。

この周辺を熟知し、高レベルなカイルのおかげでモンスターに先手を打つことができる。


「リザードマン3匹か~。
 スキル奪うにはいいと思うんだが、仲間が増えたら厄介だな。」


リザードマンは群れで生息するモンスター。

トカゲ男に似ているが、より人間に近い見た目で装備がしっかりしている。

自分の得意な武器を持っているので、欲しいスキルが手に入りやすそうだ。


しかし、今の状況では危険なので、気付かれないように迂回することに。



川沿いを離れて森を移動する3人。

大きな池が見えてきた。


「あそこ、なにかいるな。
 カエルのモンスターだな。
 
 うーん。どいつだろ。」

「何種類かいるんですか?」

「ああ。
 将軍だと、ちと厄介だが、なんとかなるだろう。
 池は水中にもモンスターいるから、あんまり近づくんじゃねえぞ?」

「はい。」
「わかったわ。」


近づいていくと、中型犬サイズのカエルはなんだかクネクネしている。


「げ!
 こいつか~…。
 気色悪いんだよな。」

「なんてモンスターなの?」


ロックやティナはLv20以降、Eランク相当のモンスターにはあまり詳しくない。


「フリカエルだ。
 Lvはだいたい20ちょっとぐらいかな。

 こちらから攻撃しない限りあんまり動かないモンスターだから、スキル奪ってみたらどうだ?」

「やってみます。」


スキルスナッチの有効範囲である20mまで近づく。


背中を向けてクネクネしてたフリカエルの動きが止まった。

警戒していると、フリカエルが振り返った。

チラチラと見られている感じがする。


「なんだか不快な感じがしますね…。
 なにかのスキル攻撃でしょうか?」

「うーん。
 確かにイライラしたりするんだよな。
 このまま無視してたら、急に怒って攻撃してきたりする。
 レベルは高いから、くどいようだが油断だけはすんなよ。」

「私は特になんともないけど…。」

「とにかく、やってみます。


 <スキルスナッチ>!」


『【誘惑】スキルを奪いました。どのスキルと入れ替えますか?』


「え…?」

「どうした?
 なんてスキルだったんだ?」

「【誘惑】スキルですって…。」

「なに!?
 あ、あれは誘惑してたのか…。
 だから無視したらキレてたのか…?」


『【誘惑】スキルを奪いました。どのスキルと入れ替えますか?』


(意味がわからないけど、ボ~っとしてる場合じゃないな。)

「【民間療法】で!」


『【民間療法】スキルは完全に消滅しますが、よろしいですか?』


「うん!」


『【民間療法】スキルと【誘惑】スキルを入れ替えました。』


フリカエルは違和感を感じたのか、何度も振り返ってる。

そして、ワナワナと震えたかと思うと、急に襲いかかってきた!

「今まで見た事ないくらいキレてるな!
 2人とも離れてろ!」

「はいっ!」


こんなカエル攻撃でも、レベル差が20弱もあれば間違いなく即死。

近づいていたので、急いで避難した。


ゴツい見た目でも、カイルは魔法職。

流石に1撃で仕留めることはできないようだ。

しかし、2発目の攻撃で余裕を持って倒した。


「ふ~。

 まさか、あいつのクネクネ振り向き、俺を誘惑してたとは…。
 てことは、フラれたと思ってキレてたのか!
 
 ロック、ちょっと誘惑スキルの説明見てみろよ。」

「なんか見たくないですけどね。」



++++++++++++

【誘惑 ★★】・・甘い誘いで対象の心を魅了する。恋をしたみたいに周りが見えなくなる。相手の好みでない場合、かかる確率がとても低い。

++++++++++++



「…甘い、…誘い…。」


「フリカエルが誘惑に成功することは…、ないでしょうね…。
 
 でもこのスキル、魅了状態にするんですね。
 けっこう怖いな。」

「そうだロック、試しにティナに使ってみろよ。
 お前のこと好みかどうかわかるんじゃねえか?」


悪そうな顔のカイル、楽しそうだ…。


「仲間に状態異常かけるスキルなんて使いませんよ!」

「あら、ちょっと興味あったのに。」

「ティナもノってこなくていいから!」


(…ティナに誘惑されたら一瞬で状態異常になりそうだ…。
 
 誘惑…、されてみたい…。
 甘いやつ…。

 ああ、ミラ。なんかごめん…。)



「ガハハハ…」




ザバッ…!



大口を開けて笑うカイルの背後から、

獰猛な歯の生えた大きな口が襲いかかった。
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