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23、予想外の登場

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 捕まった彼女は逃げる為か暴れようとしたようだが、男二人係りではどうにも逃げられなかったようだ。当たり前だが見送る事もしなかったけど、彼女の「離しなさい!」や「私は愛されてるの!」等と叫ぶ気持ち悪い声だけは閉じた扉の外から聞こえてきた。

「…やっと、終わった、か」

 彼女に会うに当たって色々覚悟はしていたつもりが、あんな会話になるとは思っていなかった。あのような異常な思考の持ち主だと気付いていなかったのが敗因か。いや、ここまで酷いと感じていなかっただけで、その片鱗は知っていたのだから想定以上のヤバさだっただけか。
 ふぅ、と息を零し、部屋に残っていた女性従者にお茶を頼もうと声を掛ける直前、部屋の扉がノックされた。ライだろうと当たりをつけ、入室の許可を出す。
 すると入ってきたのはライだけでなく、ライよりも長身で年配の男性も一緒だった。ライの父親、アンドレア侯爵である。予想外の登場に驚きながらも、この別荘はまだ侯爵家の所有だから居ても可笑しくないかと思い直し、立ち上がって一礼をする。

「やぁ、先日のパーティー以来だね」

「はい、アンドレア侯爵。本日もお会い出来るとは光栄です」

「そう言ってもらえると嬉しいものだ。あぁ、疲れただろう、すぐに片づけさせよう」

 アンドレア侯爵の指示で、別荘の使用人やアンドレア侯爵家の従者達が現れ、彼らによって先程まで使っていた家具は全部運び出されて行き、てきぱきと新たな机と椅子等が運び込まれ配置されていく。何故家具を交換するのだろう? と思っていたが、

「父さん。アレが使ったヤツはどうするんだ?」

「捨てるとも。からね」

「あぁ、拭いても何か使いたくないしな。賛成する」

「この部屋だけでなく、通った廊下の窓も開けて空気もしっかり入れ替させよう」

「ついでに廊下の絨毯も入れ替えといてくれ」

「お前がココを正式に引き継いだ時に軽く改装する予定だから、その時にやればいいだろう」

「なるほど、そうする」

 すぐに終わるから、と部屋の隅で始まった立ち話で運ばれて行った家具の謎は解けた。と言うか、アンドレア侯爵も隣室で僕と彼女のあの会話を聞いていたのだろうな。その気持ち、すごくよく分かる。

「いやはや、あれほど強烈な無能ゴミが存在するとはね。この歳になって私も大変驚かされたよ」

「おいおい父さん」

 え、まさかのゴミ呼び。彼女に対して怒っているとは聞いていたが、流石にライも呆れて、アンドレア侯爵に注意を――

「ゴミの中にも再利用出来る物があるって聞いたから、アレをゴミと一緒にするのは勿体無いだろ」

 しなかった。むしろ、ライの彼女に向ける敵意が悪化していた。

「ふむ、確かに。それでは、気味の悪い毒虫か」

「それだと、一生懸命生きている虫に失礼だろ」

「なら、何の価値もないクズ以下」

「…それならいいか」

 二人の間で更にポンポン話が交わされる…お互いに真顔で。僕から見てこの二人は親子としても仲がいいのに、何故か真顔で対話するんだよな。不思議な親子だなといつも思う。
 そんな親子の会話の間に、たまに意見を求められるので無難に返していると美しく整えられた部屋が出来上がり、設置された新たな椅子に座るよう促された。席の位置取りは僕の前にアンドレア侯爵が座り、僕の隣にライが座る形となった。座って確信したが、先程まであった家具より断然質がいい。もしかしたらこの部屋にあったあの家具達は、始めから捨てる予定の物を用意していたのかもしれない。

「さて、気分直しのついでに、私の結論を伝えておこうかな」

 速やかに用意された良い茶葉を使ったとすぐ分かるお茶を飲み、一息ついたらアンドレア侯爵が話を切り出した。
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