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16、彼女の話 その2
しおりを挟む「あ~あ、お祖父様とお祖母様なら必ず何とかしてくれるのに。私、手紙を送ったのよ? なのに手紙の返事さえないの。会いにだって来てくれないのよ、この私がこんなに困ってるのに! こういう時に何もしてくれないなんて、酷いと思わない? それに――」
「それより、さっきまで謝罪について話をしていたはずだが、謝罪の話はどうなったんだ?」
「もうそんな事どうでもいいでしょう。私には他にも困っている事があるのよ」
続く言葉を遮って尋ねると、ルルの中では謝罪の話はどうでも良くなったらしい。非の無い理由で一方的に謝罪を求められた僕の方としてはどうでも良くないのだが。しかし、無理に話をした所で彼女が謝罪するとは思えないし、他の誰かが悪いと言うだけで堂々巡りになりそうだ。おまけに先程から話題はほぼ彼女の愚痴のようなモノばかり、このままだとそれだけで時間が終わって終いそうだった。
「もういい分かった、謝罪の件は互いに忘れよう。ところで、君からの話が愚痴だけならもうこれで終わりでいいかな? 僕は君の愚痴を聞くためにここに居る訳じゃないのでね」
そもそもこの面会を希望していたのは、ルルの方。流石に彼女の目的は僕に愚痴を聞かせる相手役を求めた訳じゃないはず。時間も無駄にしたくないので要件があるなら早く聞いて済ませてしまいたい、早く本題に入ればいい。そう思ったから嫌味交じりで伝えたのに、
「あら、私に会いたかったでしょう? なら私の話を聞くのは当たり前じゃない」
彼女が当然の事だと言わんばかりに言い切った言葉に唖然とする。
嫌味が通じてない上に、どこからその自信が来るんだろう。いやこれまで婚約者だった僕の態度がそう思わせるものだったのだろうか…?
愛しているという態度は見せてたとは思う。婚約していたのだから隠す事じゃないし。でも、何でもかんでも甘やかし許すような態度はして来なかったはずだ。反面教師となれる方々が近くにいたからな。それでもライからは彼女に甘いとは言われていたが、もし本気でそんな誤った態度を僕がしていたなら、ライだけでなく両親や他の友人達からもっと厳しく僕が注意を受けていただろう。将来妻となるかもしれない女性より、バーナー伯爵家の次期当主となる僕の方こそ、断然厳しく見極められ見定められる立場なのだから。
コホン、と咳の音がした。彼女は不愉快そうに後ろを見たが、僕の従者がその場で軽く頭を下げて終わる。…あぁ、僕の為か。うん、気を取り直せたよ、ありがとう。視線で感謝を伝え、改めてルルと対話しようと試みる。
「…キャメル伯爵からは、会いたいと望んだのは君の方だと聞いているのだけど、それは間違いなのかな?」
「ええ、間違ってるわね。貴方が私と会いたいと望んでると思って、わざわざこの私がお父様にお願いして時間を作ってあげたのよ? だから感謝してね」
「……」
また言い切られた。え、間違っているのか? 何が? どこが?? と言うか、僕は会いたいとは思ってなかったんだが? 婚約中は思っていたけど、破棄後の今はそんな気持ちさっぱり無いんだが?? 時間を作ったも何も君は謹慎中で予定は一切無かっただろう? 僕は会いたいなんて思ってもないのに、勝手に会いたいと思っていると思われて、勝手に会いたいと騒がれて? んん? それのどこを、一体何を、感謝しなければならないんだ??
一瞬で湧いてきた疑問が脳裏にぶわりと浮かんだが、それを口にする気力がすでに僕には無かった。僕の従者達も、更には隣室のライ達も、皆が困惑しているような微妙な表情をしているのが雰囲気で伝わってきた。うん、その気持ちが良く分かる。きっと僕も同じ表情を晒してしまっている事だろう。
どうしよう。ルルの思考回路が、本気で理解出来ない。…理解したくもないけれど。
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