上 下
1 / 5

1、相談を受けた男

しおりを挟む

 俺の名はトーマス・ドツイタロカ。王都に店を構えちゃいるが、しがない商家の息子さ。後継ぎとして商人として一人前になるべく毎日働いていると、久方ぶりに友人の屋敷に招かれた。気分転換にもなるかと、軽い気持ちで応じて指定された時間に赴くと驚く相談を受けた。

 妻にさりげなくアプローチしても応じてくれるどころか、態度が変わらない。何故だろうか、と。
 
 ――は?? 意味が分からん。

 噂で友人夫婦は仲睦まじいと聞いていた俺は、まずは経緯を話せ、話しはそれからだと説得し、共に過ごしたハイスクール時代の恥ずかしい話等で脅して事情を吐か――基、話させた。そうして経緯を聞いた俺は、コイツはアホだと心底思った。

 友人、ソレダ・メジャンは金髪碧眼の美男子(二十五歳)で、国中にその名を轟かす豪商の後継ぎ息子だ。性格にちょっとばかり難があるが女にモテまくるのは必然だろうと、同い年で男の俺でも理解する。だが、三年ほど前に没落した子爵家の娘と貴族の血欲しさに結婚したまではいいとしても、その相手とのよりにもよって初夜に『お前を愛することはない』と宣言し、そのまま清い関係でいる現状で、そんなこと言うのか? 結婚してから五年、愛する妻一筋の俺からしてみれば、コイツをぶん殴りたい衝動にかられた。

 一応ソレダの事情としては当時、恋人として付き合っていた平民の女性がいたそうだ。その女性に対しての操立ての為にしたことらしいが、そんなのソレダ側の一方的な都合でしかなく、結婚相手であるニゲヨウ子爵の娘アリーナに関係あるか? うん、ないよな。

「色々言いたい事はあるが、まず、一方的に愛さない宣言してるのに、どうして相手がお前に惚れてる前提なんだよ…」

「え、それは……私だぞ? 彼女が私に惚れていても可笑しくないだろ」

「結婚式で初めて顔合わせしたんだろ? 最初から両想いになる可能性潰しておきながら、改めてお前に惚れる可能性ってあんのか? 確かにお前は男前だ、でもな、相手にも好みってのがあるし、お前の事だから何でも恋人優先で妻に対して贈り物とかデートとか一切してなかったんだろ。そんなダメ夫からの今更のアプローチなんて、女が素直に受け入れると思ってたら大間違いだぞ。もう手遅れってやつなんじゃないか?」

 用意された紅茶に口を付ける。お、これは南のとこのだな…いい茶葉だ。

「そんなことはない! そもそも私との結婚に関しては、アリーナの…妻の実家からの申し出だったんだ。その時点で彼女は、私に惚れていたはずだ!」

「それ、ニゲヨウ子爵家からであって、本人から申し込まれた訳じゃないだろ。没落しても貴族の家なんだから、親に結婚するよう言われたら一般的な令嬢なら歯向かうなんてあり得ない。その辺り、本人に確認取ったのかよ?」

 俺が問えば、ソレダはぐぬぅと唸るような声を出し、ゆっくり首を左右に振った。

「…家の事は良くしてくれるし、私との会話だって盛り上がるんだ。だからアリーナだって、私の事を…」

「彼女の実家に融資してるんだろ? 愛がなくとも夫婦なんだから、歩み寄りぐらいはしてくれるだろ。配慮が出来る奥さんで良かったな」

 笑って言えば、ソレダはがっくり肩を落とした。

「……つまり、アリーナは、私に惚れていない、と?」

「下手したら、嫌われてても可笑しくないな」

「そんな……。どうしたら、妻は私を愛してくれるだろうか…」

 本気で落ち込んでる様子だが、都合の良い事言ってる自覚あんのかね? とは言え、俺はソレダから聞いた話を客観的に見て言っているだけであり、コイツの奥さんの心の内なんて分かる訳がない。

「何をおいてもまず謝罪だろ。いや、それも押し付けになる可能性もあるか…。なら、それより先に奥さんに自分の事をどう思っているのか、これからどうしたいかを確認するべきかもな」

 俺が助言できるのはこれぐらいで、結局のところ、二人でよく話し合うしかないのだ。夫婦の問題なのだから、これ以上俺を巻き込んでくれるなよ。

「……どうやって聞いたら…?」

「面と向かって話しにくいなら、手紙で確認したらいいだろ」

「そ、そうか、手紙か!」

 その手があったかと素直に喜ぶ姿を見れば、友人として応援してやりたい気持ちになる。…だがしかし、このソレダの様子では、奥さんに手紙を出すことさえも今までしてなかったんだろう事実が透けて見えてしまい――これ、やっぱり手遅れじゃないかなと、密かに思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様が妹を妊娠させていました

杉本凪咲
恋愛
勉強ばかりに精を出していた男爵令嬢ライラに、伯爵家からの縁談が舞い込む。縁談相手のオールドは、端正な顔立ちと優しい性格の男性で、ライラはすぐに彼のことが好きになった。しかし半年後、オールドはライラに離婚を宣言して衝撃的な言葉を放つ。「君の妹を妊娠させてしまったんだ」。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

束縛の激しい夫にずっと騙されていました。許せないので浮気現場に乗り込みます。

Hibah
恋愛
オリヴィアは、夫ゲラルトに束縛される夫婦生活を送っていた。ゲラルトが仕事に行く間、中から開けられない『妻の部屋』に閉じ込められ、ゲラルトの帰宅を待つ。愛するがゆえの行動だと思い我慢するオリヴィアだったが、ある日夫婦で招かれた昼食会で、ゲラルトのキス現場を見てしまう。しかもゲラルトのキス相手は、オリヴィアの幼馴染ハンスの妹カタリーナだった。オリヴィアは幼馴染ハンスと計画して、ゲラルトとカタリーナの決定的な浮気現場を押さえるべく、計画を練る……

(完結)浮気の証拠を見つけたので、離婚を告げてもいいですか?

アイララ
恋愛
教会の孤児院で働く夫のフラミーの為に、私は今日も夫の為に頑張っていました。 たとえ愛のない政略結婚であろうと、頑張れば夫は振り向いてくれると思ったからです。 それなのに……私は夫の部屋から浮気の証拠を見つけてしまいました。 こんなものを見つけたのなら、もう我慢の限界です。 私は浮気の証拠を突き付けて、もっと幸せな人生を歩もうと思います。

ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。 その日の夜、ビューホ様はこう言った。 「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」 家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。 結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。 お飾りの妻でいい。 私を必要としてくれるなら…。 一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変! こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。 ※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。 ※クズが多いです。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

うちの王族が詰んでると思うので、婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?」 わたしは、婚約者にそう切り出した。 「どうして、と聞いても?」 「……うちの王族って、詰んでると思うのよねぇ」 わたしは、重い口を開いた。 愛だけでは、どうにもならない問題があるの。お願いだから、わかってちょうだい。 設定はふわっと。

処理中です...