上 下
9 / 13

おまけ(とある十番目の王女の独り言)

しおりを挟む
 私、ドナイナッテ王国の王女、十番目の子、サラ。第三側妃が産んだ娘で、同母の兄が一人おります……いえ、もう過去の話ですわね、兄が一人おりました。

 はっきり申しまして、兄はいつかやらかすと思っておりました。

 だって、王族としての立場でありながら、あり得ない程、バカでしたから。頭のよさとかではなく、もう思い込んだら一直線のイノシシと申しましょうか。物覚えが悪い訳ではないのに、覚えたいことしか覚えない。知りたいことしか学ばない。自分勝手なバカ。

 何故か昔から王妃様を敵視しておりました。母上は騙されてるとかって。本当にあり得ない。確かに立場上、王妃様は王の血を引く私達に厳しく接することもあるでしょう。ですが、それは国を治める者として当然のことですし、元々内政に強い関心を持つ母上が、王妃様に賛同しても可笑しくないでしょうに。巻き込まれた教育係の方々が可哀想です…。しっかり、兄に教えてらしたでしょうにね。バカが聞いているフリして覚えないから。聞いているフリとその場だけでの返事は完璧だったのでしょうね。

 学校では私と出会うと5回に一回くらいは、血の繋がった兄妹だからと学校内のカフェの個室でお茶をしておりました。話の内容は大体、王妃様に気をつけろとか、婚約者の愚痴とか、サリー様とやらの惚気?とか。全部自分のことばかり。私の婚約のことも、一言おめでとう、だけでした。相手のことさえ聞いてもこず、続いた言葉が、それより婚約者がサリー様を虐めているとか何とか。王宮を出ている今の私について、興味ないんですね? ただ愚痴を言っても問題ないだろうからとその捌け口として私を使ってるだけですよね? 知ってました。

 私、そのサリー様と同室なのですが? 私が学校の寮で暮らしてる事、学校で始めて会って話した時、伝えておりましたよね? 同室者の話も、男爵家と子爵家の娘だと伝えましたよね? そりゃ、下位貴族は人数が多いですから考えにくいかもしれませんが、もしかしたらそのサリー様じゃないかとかちょっとは思わないんでしょうか? 思わないんですね? どうせサリー様であると教えても同名の別人とか思うんでしょうね。バカですね、本当に。まぁ、わざわざこちらから話したくもないので、言いませんけど。

 でもその兄が語るサリー様とやら。私の知る同室者とは似ても似つかないのは何故ですかね? とても男爵家の娘とは思えない言動をしてらっしゃるんですが。一応王女であると伝えても、何故か上から目線で話し掛けてきますし、何なら私が使っていたレターセット等を勝手に使ってたりするんですが。共同スペースに何かしら物を置くと大抵消えます。何故かサリー様の物になってます。返却もしてもらえませんので、共同スペースには一切物を置かない様にしてますし、個別の寝室には鍵を常に掛けるようにしてます。サリー様に盗まれますからね。

 物を盗まれる事をさり気なく伝えても、学校で物を盗むとは手グセの悪い生徒がいるのだな、サリー様は大丈夫だろうか、等と言ってのける兄。学校内ではなく寮の部屋ですよ、そしてそのサリー様が犯人なのですが? どうせ信じないでしょうけど、サリー様にすっかり騙されてますよね? どうしようもなく、バカですね。

 正直、あの兄より腹違いのお姉様達の方が私と仲良しです。お姉様達とは今でも手紙や贈り物も頻繁に交わしてますし、夜会で会えば時間が許す限りしゃべくり倒します。兄とは血が繋がっていても他人のような気がしていました。あんな結果になっても、自業自得、としか思えません。

 ――ただ。

 裏工作に使われた女に良い様に利用されて、全てを失うことになった、バカ。

 王位継承権が低いからと意地悪な男子共に虐められた時、身近で唯一庇ってくれた、人。

 ――私の兄でした。

 昨日、私も王位継承権を返上しました。

 今日、嫁入りの為の準備をしている時に、兄のことは忘れなさいと母上に言われました。

 でも、そんな母上の胸には小さな宝石の付いたブローチがありました。兄が母上の誕生日に贈ったブローチ。こっそり王宮を抜け出した兄が、王都で自分で選んで買ってきた物だと私は知ってます。幼い私には甘い蜜がたっぷりかかった焼き菓子を買ってきてくれましたから、良く覚えているのですよ。

 きっと、ブローチはこの日を最後に仕舞われるのでしょう。

 来週、私は結婚して伯爵夫人になります。

 大好きな甘い蜜がけの焼き菓子を食べるのも、今日で最後にします。今、太ると困りますしね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね

麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。 妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。 美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。 3話完結

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

処理中です...