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7、母の言葉

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「そもそもお前は、王太子としての執務もそれ以外でも、全て側近に任せているそうね」

 母が、私を見て告げる。

「現状でさえ、傀儡同然ではないかしら? 側近が判断し、側近が全て用意しなければ何一つ成せないなんて、傀儡としてしか価値がないむのうと判断されても当然の事でしょう?」

 なんてひどい言葉なのだろうか。目の前の人は、本当に私の母なのだろうか。不敬を働く連中に同意するなんて! 私は王太子なのに! ひどすぎる、母にとって私は唯一の可愛い息子だろうに…。側近を使って何が悪いのか、上の立場の者は下の立場の者を使って働くものだ。それは、王妃である母だって同じはずなのに、どうして私だけが責められないといけないのだろう。

「お前が何もせず、何も出来ないなら、誰が王太子としての執務をすると思っているの? 代行できる者は誰か、知っているかしら?」

 内心で母に対して文句を言っていると、急に尋ねられた。はて、私の執務を代行出来る者…? 王太子は私なのだから、私以外にと考えれば、国王である父か、王妃である母しかいないような…。

「…知っていて当然の知識ですが、敢えて教えましょう。『王太子妃』です。お前の妻となった者に、お前がなすべき執務等が振り分けられる事になるのです。だからこそ、王太子妃となる者への教育はより範囲が多く厳しくなるしかない……ソロシアン侯爵令嬢にはお前の婚約が決まった当時から、私が受けた王妃教育より一段と厳しい教育を受けてもらっておりました。王となるはずの、お前を支える為に何年も。そのソロシアン侯爵令嬢の努力が報われない結果になるとは私は思っても居ませんでした。メルシアがお前の妻となれば――今更の話ですわね」

 ここであの元婚約者の話が出るなんて、あぁ、母も分かっていないのか。愛する人と共に生きる幸福は、何モノにも勝るのに。

「母上、愛は素晴らしいモノですよ、私は愛するモナと結婚出来て最高に幸せです。政略結婚なんて最低の――」

「お前は、陛下と母である私の結婚を非難すると言うのかしら?」

 母の冷たい声に、背筋がゾッとした。…しまった、つい口が滑ってしまった。

「そ、そういう訳では」

「言い訳は結構。…もう一つ、公共の場以外では、貴族達は王子としかお前を呼びません。次期国王陛下となる者を指す『王太子』として、認めていないからです」

「え?」

「そして、お前を認めていないから、『王太子妃』であるモナの事も認めておらず、侮られているのですよ。あの子が認められる為には、もっと王妃教育で結果を出し、確固たる功績を残さねばなりません。つまり、お前の妻となったモナは王妃となる為の教育と、王太子としての執務と王太子妃としての務め、更に貴族達に認められるほどの功績を残さねばならないのです」

 意味が分からない。私は王太子であって、モナは私の妻だから、王太子妃であることは間違いないのに、認めれられていないとは?? 

「そんな大切で貴重なモナの時間を、お前に使わせる必要がどこにありますか?」

 ん? あ、これはもしかして。

「お前が無能と呼ばれたくないのなら、傀儡となりたくないのなら、モナと共に学ぶと良いでしょう。それが、モナの為に貴方が出来る、愛の証になるでしょう」

 それきり、母は黙った。私は言いたい事はあったが、これ以上母の機嫌を悪くしても嫌なので何も言わない事にした。



 しばらくして隣の部屋に誰も居なくなった頃、私と母はその部屋を後にした。長い廊下を歩きながら、ため息をつく。

「まったく、わたしはもう子供じゃないのにな」

 母の言葉でピンと来たのだ。ふふふ、この一連の事は、私に勉強させるために、手の込んだ仕込みだったのだろう。幼い頃からそうだった、勉強を嫌う私に母は、あの手この手で色々と勉強に興味を持たせようとして来た事を思い出す。

 母が貴族達まで使って私に発破をかけようとするくらいなのだから、頑張っているモナの出来が悪いのかもしれない。子爵家出身であるから、仕方がない部分もあるだろうが……このままモナに会えないのは私としても不服しかない。勉強は嫌いだが、もう一度、モナの所へ行ってみるか。

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